異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第128話 大灯台から見る彼方

 

俺の手に包まれた小さな手が震えて居た

 

震えるその身の瞳が見詰める先は昇降機だった

 

あっちゃー 普段に比べて風も緩やかだから、

そこまで揺れては無かったんだがなぁ‥‥

 

うん、マデリン嬢だけで無く、ポートマン家、

乳母の皆が、妹のエブリン嬢は大丈夫そうだが、

両親の顔が強張って居るのを見て、不安そうに二人と乳母を見てる。

 

まぁ確かに初めてなら怖いよな、この世界にはこんなに高い建築物は無いんだ、大灯台の見学に訪れる者の大半がポートマン家の様になる。

 

これも大灯台のあるある何だよなぁ‥‥

 

内部にも昇降機はある。

 

基本的には内部にある昇降機を使うが、

風の緩やかな日は荷物の運搬に外の昇降機も使う。

 

そして見学者用の昇降機は基本的に外を使う。

 

景色が良いからなぁ、内部の物はいまいち味気無いし、暗いから逆に怖いかも知れない。

 

「皆さん大丈夫ですか?」

 

「「「「・・・」」」」

 

大丈夫じゃ無いか‥‥

 

とは言え階段を使うとなるとなぁ‥‥

 

昇降機で一気に篝火部屋や、展望室に行く訳では無い、三回に分けて上がる訳だが‥‥

 

そんでも怖い物は怖いかな? うーん‥‥

 

「事故は四百年前に起きたのが最後ですし、それが起きたのは風がとても強い日でした、その件で得た教訓は、新たに作られた決まり事は、運用マニュアルに加えられております、それ以来一度も事故は起きていません」

 

「そ そうですな、事故等そう度々起こるものでは無い、さぁ皆行こうじゃないか」

 

ポートマンパパってば、そんな今から戦場に行くみたいな悲壮な顔しなくても‥‥

 

「マデリン嬢、さぁ行きましょう」

 

ここはスマイル、スマイル、とりあえず笑っときゃどうにかなる。

 

「はい‥‥」

 

「マデリン嬢、前にも言いましたが上は景色が素晴らしいですよ、バハラが全て見渡せます、マデリン嬢のお家も見えるのですよ」

 

「マデリンのお家がですか?」

 

「ええ、それにまだこの時期は渡りバトも篝火部屋の辺りを飛んでいる事もあります、それこそ飛んでいる渡りバトを上から見る事も出来ます、鳥よりも空に近付けますよ」

 

「鳥よりもですか? マデリンも空に?」

 

「ええ、そうですよ」

 

うん、かなり前向きになったな、まぁ子供の頃って空を飛びたいって夢なんかを見たりするからなぁ。

 

俺の話が良かったのかマデリン嬢と、何故か決意に満ちたポートマン家の皆を連れ第一昇降機に向かう、昇降機は前と後ろに出入口があり、前から入り、後ろ、大灯台に面してる部分から灯台内に出入りする。

 

それが第一、第二、第三と乗り換え、上へと行くのだが、やろうと思えば地上から篝火部屋まで乗り換え無しで昇降機で行く事も出来るらしい。

 

ただその場合、今の様に乗り換えて上に行くより時間が掛かるし、もしもの際の安全が確保出来ないらしい。

 

と言うのも昇降機は緊急ブレーキが付いており、

余りに距離が長いとその緊急ブレーキが効かない可能性が非常に高くなると言われている。

 

そう世間では言われている。

 

まぁ真の理由は不審者を篝火部屋へ上げない為に、

段階を経て上がれる様にしてあり、昇降機の乗り換えをする所には、軍人達が常に警備して居る。

 

とは言え下から上に直通にすると時間が掛かるのも事実だし、安全性が低下するのも事実だ。

 

大灯台は篝火による灯りで照らすのが本来の役割ではあるが、要塞としての機能も有しており、

軍人達は大灯台各所に常に詰めて、大灯台内を巡回もして居る。

 

うん、第一昇降機前に居る軍人や大灯台の職員達が興味深そうに見て来やがる、コイツら‥‥

 

本当、暇人かよ? てか微笑ましそうに見て来やがるのが腹立つ、悪意が無いのが逆に腹立つ。

 

こりゃ第二も、第三の所も、同じ様に見て来やがるだろうなぁ‥‥

 

つーか仕事しろや、ポートマン殿が又許可証を提示し、質問されて居る。

 

軍人達はここの警備だが、ポートマン殿を監視せず、俺を見て来やがる。

 

より正確に言うと、俺とマデリン嬢を交互に見て来やがる、マデリン嬢が危険に見えるのか?

まさかコイツらはロリコンなのか?

 

マデリン嬢を見て、「可愛らしいお嬢さんですな」

って抜かしてやがるが‥‥

 

うん、「ありがとうございます」ってちゃんとお礼を言うマデリン嬢は礼儀正しく、可愛らしい。

 

だがコイツら‥‥

 

一応気を付けよう、マデリン嬢をロリコン軍人と、

幼女趣味の職員達から守らねば。

 

本当、このロリコン共めが!

 

ジロジロ見て来ずに仕事をしろ!

 

「サリバン参事、問題ありません、昇降機の準備も整っております、どうぞお乗り下さい」

 

「分かった、ご苦労」

 

チッ‥‥

 

微笑ましそうに見て来やがってからに‥‥

 

「ネイサン様、あれに乗るのですね?」

 

「ええ、そうですよ、さぁ行きましょう」

 

とりあえずこのロリコン共には後日、篝火部屋の所から思いっきり水を掛けてやろう。

 

水なんぞ生活魔法を使えば幾らでも出せるんだ、

それらしい天気の時にでもやってやろう。

 

そうだな、曇り空の時に上から雨に見せかけて降らしてやる、うん、我ながらみみっちい仕返しではあるな‥‥

 

「ひゃっ」

 

「マデリン嬢、大丈夫ですか?」

 

「はい、揺れて少し驚いてしまいました」

 

動き出しはどうしてもちと揺れるからな。

 

昇降機の四隅は木の枠に収まっているが、完全に安定してる訳では無い。

 

寧ろ多少の遊びが無いとスムーズに昇降出来ない。

 

それに加え動き始めはどうしても一瞬ガクッとなり、揺れてしまう。

 

慣れたらどうって事無いだろうが、初めてなら驚く事だろう。

 

俺自身は数える位しか乗った事は無いが、この様なアナログな装置は動き出しは、初動はどうしてもこうなる。

 

しかし久々に乗ったな‥‥

 

前面の一部がガラスを嵌め込んであり、景色を楽しむ事が出来る様になっており、ガラスで無い部分の一部分に小窓があり、それは開ける事が出来る。

 

てかガラスの面積は結構広いが、若干濁ってるし、

気泡も結構ある。

 

帝国は技術、科学技術が他国に比べ発展して居るが、ガラスの精製技術はこの程度のレベルでしか無いんだよなぁ‥‥

 

恐ろしい事に他国のガラスに比べ、これでもまだ、

いや、出来が良いからな‥‥

 

ん?

「マデリン嬢、大丈夫ですよ、私が側に居ますからね」

 

「はい、そうですわね、ネイサン様がいらっしゃるのですもの」

 

マデリン嬢が少し震えて居た、俺の手を通しそれが伝わって来たのだ。

 

まぁ初めての事だ、怖いよな。

 

「皆さん、あちらをご覧下さい、バハラの街並みがそろそろ見えて来ます」

 

俺の言葉に皆がガラス窓を見た、後少しでこの大灯台を囲む防壁を越える高さになる。

 

ある程度の高さになると案外怖さは無くなったりする、俺に言わせれば中途半端な高さの方が逆に怖い、まぁ景色は素晴らしいからな、怖さもその素晴らしい景色で紛れるだろう。

 

「あっ! ネイサン様、街が見えて来ましたわ!」

 

おーう、マデリン嬢が興奮して居る、子供でも景色を楽しめる様にガラス窓は割と面積を取ってある。

 

だから抱き上げずともマデリン嬢の背丈でも見れる様になっている。

 

皆がガラス窓の近くに来て、手摺(てすり)に寄り掛かる様に外の景色を見出した。

 

昇降機内には手摺兼安全ガードがあり、外にも同じ様に安全ガードがある。

 

まぁとは言え寄り掛かる様な事はして居ない。

 

下で散々注意されたし、それ以前の問題として寄り掛かるのは怖いからだ。

 

しかしまぁ何だ、皆恐怖心が薄れたと言うか、恐怖心より興味が上回ったみたいだな、目を輝かせて外を見て居る。

 

これならもう大丈夫そうだ、後は乗り換えて上迄行くだけだな。

 

乗り換えて上まで順調に行けた。

 

だが乗り換えの度に又俺を皆が見て来やがる。

 

てかマデリン嬢と俺を見比べて、そんなマニュアルでもあるのか? と言う位、皆同じ反応しやがってからに‥‥

 

てかロリコンだらけかよココは?

 

今後の付き合いを考えないといけないかも知れない、本当もう‥‥

 

「ネイサン様、凄いですわ、バハラが全部見えます」

 

マデリン嬢は最初バルコニー、いや、屋根があるからベランダか、まぁいい、兎に角その柵の隙間から見て居たのだが少し見辛そうだったので、俺が台を持って来させて今はその台に上がりバハラの街並みを見て居る。

 

勿論、落ちない様に、手摺から余り身を乗り出さない様に俺が見て居るし、手を今も繋いで居る。

 

さっきからマデリン嬢は大興奮だ。

 

まぁ、ポートマン家一行は皆が興奮しながらバハラの街並みを見て居るんだがな。

 

「ネイサン様、マデリンのお家はどこでしょうか?」

 

「あー あそこの十字路が見えますか? 公園の近くなのですが、ほら、噴水のある公園です」

 

「マデリンのお家の近くの公園ですね、でも分かりませんわネイサン様‥‥」

 

「ほら、あの公園の噴水は大きいし独特の形をしている‥‥ 私の左手の先にあるのですが、見えませんか?」

 

マデリン嬢が目を凝らし見詰めて居る、正に目を皿の様にして見てるな、かなり真剣に見てる。

 

てかポートマン家の皆が見て居る。

 

「あっ! ネイサン様ありましたわ」

 

「ならその公園の左手にある十字路、そこの左側に真っ赤な色の建物があります、そこから更に左側にマデリン嬢のお家がありますよ、少し小さいですがあの辺りはまだ分かり易いですが‥‥」

 

とは言えちと分かりにくいな、俺は視力が割と良いから分かるが‥‥

 

「真っ赤な建物はマデリンのお家でも買って居るパン屋さんですね、お家で焼くパンも美味しいですがあのパン屋さんのも美味しくてマデリンは好きなのです、左側‥‥ あっ! ありましたわ、凄く小さいけどありましたわ」

 

おっ、見付けたか、乳母も見付けたみたいでポートマン夫婦に場所を教えて居るが二人共、目が余り良く無いのか苦戦して居る。

 

「ネイサン様、あれは何なのでしょうか?」

 

マデリン嬢が指差す先は‥‥

 

「あー、あれは学園ですね、バハラの学園です」

 

「学園なのですか‥‥ 凄く広いのですねー マデリンのお家が幾つ入るのでしょう‥‥」

 

まぁ学園は敷地も広いしデカイからな、帝都の学園も規模が大きい、だがバハラの学園の方が帝都の学園よりは色々と大きい。

 

うん、デカイわ、てかデカ過ぎだ、

こっから見たら場所取り過ぎな気もするな‥‥

 

「ネイサン様、あの広い所は何なんでしょう?」

 

「あれは乗馬場ですね」

 

「ネイサン様、あれは・・・・・・・・・・・・」

 

それからはマデリン嬢だけで無く、ポートマン家の皆に質問されたり、あの場所は皆があーでも無い、こーでも無いと言い話し、笑って居た。

 

本当にたのしそうだ、連れて来て良かったよ。

 

大灯台からはまるで何処までも見える気がする、

遥か彼方まで、だが俺が見たい物は見え無い、

いや、見えるはずが無い。

 

「ネイサン様、どこを見ておいでですか?」

 

「あー‥‥ そうですね‥‥ 遥か彼方です、ここからは見え無い遥か彼方ですね‥‥」

 

「帝都ですか?」

 

「んー‥‥ 違いますね‥‥ それよりも遠い所です、辿り着ける事が出来ない遥か、遥か彼方です」

 

しまったな、マデリン嬢には難しかったな、大体だ曖昧過ぎるよな、遥か彼方なんて。

 

だがそうとしか言い様が無い、まぁその彼方は、

世界を越えないと行けない所だ、もう二度と行く事も、決して辿り着く事が出来ない所、未練だな‥‥

 

未だに心から消える事も、忘れ得る事も出来ない、

遥か彼方だ‥‥

 

「ネイサン様は来年になったら帝都にお帰りになられるのですよね?」

 

「そうですね、来年は任期も明け、帝都に帰らなければなりません」

 

マデリン嬢が泣きそうになってんな、まぁかなり仲良くなったから寂しいんだろう。

 

「マデリンは、マデリンはネイサン様と離れたくありません、嫌ですわ‥‥」

 

「私もマデリン嬢と離れたくありません、しかし帝都には家族も待っております、それに陛下にも拝謁し‥‥ お会いし、バハラでの事をお話し致さないといけません、ですので来年には‥‥」

 

 

マデリン嬢は涙ぐんで居た、両親や乳母に宥められ、何とかあの日は収まった。

 

バハラから遥か彼方を、俺だけで無く、マデリン嬢も遥か彼方を見て居たのかも知れない。

 

幼い胸の中に、その想いに決意を秘めて‥‥

 

人の気持ちってのは本当、難しいよ。

 

 

まぁ良い、今日は祭りだ、今日位は全てを忘れ楽しもうじゃないか

 

 

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