「なぁアンナ、入ってるか?」
「うん‥‥ 入ってるよ‥‥」
「どの位入ってる?」
「奥まで、奥まで入ってるよ守長」
「元気か? 元気なのか?」
「うん、凄く元気だよ、暴れ回ってる」
「どんな感じだ?」
「メスの‥‥ メスの顔だよ!」
「お前ふざけんなよ、又メスかよ」
「私に言われても‥‥」
くっそー 連チャンでメスかよ、しかもコイツもあんだけ入れてたエサ全部喰らいやがって。
水もたっぷりと飲んでやがるな、正にたらふく飲み食いしやがっただけかよ‥‥
「アンナ、もしかして見間違いは‥‥ 無いな、色合いが地味だし、小柄だし、足も細いな‥‥ なぁアンナ、コイツもしかしてオスに見えないか?」
「・・・メスだね」
「くっそー 逃がさないといけないな、丁度飛んでる群れが幾つかあるな、仕方無い逃がすか」
捕獲器の入口を上げると、トコトコと歩き出て来た、少し離れた所でこちらに振り向き一声鳴いた、まるで『ごっそさん、美味かったわ、じゃ』と言ってる様だった。
そして飛んで行きやがった‥‥
「守長、こんな事もあるよ、渡りバトはまだまだ来るんだし、まだ見てない捕獲箱はあるんでしょ? 諦めないで」
「でもなぁアンナ、三十ちょい仕掛けて二匹、いや、二羽だけしか獲れて無いんだぞ、残りの捕獲器は後は十も無いんだ、てか昨日から獲れたの全部メスなんだが?」
「うーん‥‥ でもこんなもんだよ、まだ獲れてる方だと思うよ、ウチのも今日は一匹しか獲れてないし、昨日は二匹だったし‥‥」
「でもお前ん家のオスだったよな?」
「・・・」
「ホラ見ろ、どんだけ獲れてもメスなら意味ないんだ、メスは逃がさないといけないからな」
リョコウバト、まぁこの世界では渡りバトだが、丁度渡りの時期で少数だがこのハルータ村にも渡る途中の群れが来始めている。
少数と言っても、それはあくまで本隊と言うべき群れと比べればであって、最低でも数百程度の群れが西へ飛んで行ってる。
東から西へ、南方諸島へ向け渡りの最中だ、そしてそれらの群れの中から一部が翼を休める為などで村に降りて来る。
捕獲器でその渡りバトを獲るのだが、意外と獲れなかったりする。
そして渡りバトが南方諸島へ向け旅立つこの時期、この辺りではオスのみ獲る事が出来て、メスは逃がさないといけない。
まぁ理由は色々あるが、兎に角メスは逃がさないといけない。
渡りバトは前世で公園などに居た鳩より、大体だが一回りから二回り位大きく、結構大きく感じる。
夏場の繁殖地では色々と条件があるが、メスも獲っても良いが、渡りのこの時期では御法度だ、メスは獲れても逃がしてやらないといけない、但しメスを獲って食べても良い場合があるが男である俺は決してメスは食べる事は出来ない。
この時期食べても良いのは、妊娠中、又は出産後三ヶ月までの女のみ食べる事が許されており、男である俺はこの渡りの時期メスは決して食べる事が出来ない。
妊娠中なら寧ろ食べたら駄目なのでは? と思うが、
滋養があると信じられているのと、妊娠中、そして出産後三ヵ月までに食べると、腹の子や、生まれて来た子の代わりに悪いものをあの世に持って行ってくれると信じられており、その為それらの条件を満たす女は食べても良い。
とは言え食べても良いのは、その期間中にメス1羽のみと決められて居る。
この時期のメスは兎も角、卵を産み子育てが終わった時期のメスは食べても良いが、正直そんなに美味いとは俺は思わない。
多分だが出産や子育てでエネルギーを使ったからか、味が落ちる気がする。
逆に美味いのは、子育てが終わり渡りの寸前位は味がとても良い、だが夏場の繁殖地から取り寄せた物しか手に入らない為、バハラや帝都では恐ろしい程の値段になる。
何故その様な事になるかと言うと、単純に距離の問題もあるし、運ぶ途中もたっぷりエサをやり、運搬にも物凄く気を使っているからだ。
そして夏場の繁殖地におけるメスの売買、捕獲は許可制であり、捕獲する数も制限されて居る。
遥か昔に決められた事だが、もしかしてだが転生者が関わって居たのでは無いかと俺は思っている。
まぁそれに加えて宗教的な問題も絡んで居るので一概には言えないが、転生者が遥か昔にも居て渡りバト問題に絡んで居たと言う線もあると俺は思って居る。
「ねえねえ守長、村で獲れた人は割と居るから買いに行く?」
「うーん‥‥ 何か嫌だな‥‥ 自分で獲れたやつを食いたい」
「でも昨日も獲れたのメスだったんだよね?」
「ああ、一羽だけ獲れたがメスだったな、その前は全く獲れて無い」
「まだ渡りバトは来ると思うけど、年によっては全然来ない時もあるってひいおばあちゃんが言ってたよ?」
「ソフィアばあさんか‥‥ 確かにこの辺りは渡りのルートから基本外れているからな、このハルータから更に南が渡りの本線だ、しかし大陸中央部から北側寄りの繁殖地の大群が時折この辺りを通る事もあるしな‥‥」
「ねえ守長、それきぼーてきかんそくって言うんだよ」
「・・・」
嫌な事を言うなコイツ‥‥
確かにこの辺りは渡りの本線では無い、はぐれや、少数の群れが飛んで来るだけだ。
うん、まだ渡りの始めの時期とは言え、千を越える群れはまだ見てない、そして渡り時期が終わる迄に千を越える群れを見ないかも知れない、だが反面見る事もあるだろうし、数万、数十万の群れが通るかも知れない。
過去にはバハラを五日間に渡って飛び続けた事もあるんだ、その様な事が又あるかも知れない。
「南方諸島だけで無く、魔族の国のチェリッシュに渡る群れもあるんだ、それに渡りはまだまだ始まったばかりだ、獲れる可能性はある」
「でも安定して獲れないって守長が言ってたんだよ、獲れたら良いけど獲れなかったら今年は食べられ無いよ?」
「・・・」
くっそー アンナの奴め正論を述べやがってからに!
そんな事は俺も分かってるんだ、だが始まったばかりだ、まだまだチャンスはあるんだ、こんな時期に買ってたまるかよ、金の問題じゃ無いんだ、意地だよ意地、俺は自分で獲って食いたいんだ。
「何時もならもう少し群れが大きいけど、今年は群れが小さいからどうなるか分からないよ守長?」
「出だしが、出発が遅れてるだけだ、もうちょいしたらバカみたいにデカイ群れが通るはずだ、まだ始まったばかりだ」
「うーん‥‥ でもメスは食べられないよ、オスが獲れたら良いけど‥‥」
「まだ捕獲器は残ってるんだ、多分入ってる気がする、い~や、絶対入ってるね、そんな気がする」
「・・・」
くっ、アンナの奴又メスなんじゃって顔に書いてあるぞ、いやいやいや、今度はオスだ、そうに違いない、てかそのはずだ。
数万、数十万の群れが通る事もあるんだ、勿論その群れがこの村で翼を休めるかは分からない、だがまだ慌てる様な時間じゃ無いんだ。
「おっ! 見ろアンナ、捕獲器に入ってるぞ」
「ねえ守長、見た目が地味だから‥‥」
「何を言ってんだ、諦めたらそこで終わりだろうが、全体を見て判断しなきゃ分からないだろうが」
「・・・」
アンナの奴め、急に黙りやがってからに、確かに遠目からは地味な色合いだが、近付けば気のせいだと分かるはずだ。
そうだ、気のせいだ‥‥
「「・・・」」
気のせい‥‥ だ‥‥
「ふざけんなよ、又メスじゃないかよ、呪われてんのかこの灯台は? 何で三羽獲れたのに全部メス何だよ? おかしいだろ?」
「こんな事もあるよ守長、それに三匹も獲れたんだから又獲れるよ、普通はね一匹もね獲れない事が多いんだから」
「いやだから意味ねーんだよメスは、何でなんだ? てかコイツもエサ全部食いやがって、捕獲器はエサ場でも食堂でも無いんだぞ? てか全滅じゃないかよ、捕獲器はこれで全部なんだぞ‥‥」
「ねえ守長、村に買いに行こうよ」
「まだだ、まだ終わらん、もう一回捕獲器をセットし直す、もしかして夜の内に入るかも知れない、エサも少し増やす」
「・・・」
「アンナ、言いたい事があるなら言え」
「何も無いよ‥‥」
アンナの奴もう諦めたやがったな? だが俺は諦めん、まだ日は落ちて無い、それに夜の内に捕獲器に掛かる事もある、そう、あるはずだ。
渡りバト(メス)が入って居た捕獲器の入口を上げてエサを入れ直した。
それと一部の捕獲器の位置も変え、新たに仕切り直し、今度こそはオスが獲れる様に信じても居ない神に祈った。
うん、今度は獲れる気がして来た、そう、メスでは無くオスが獲れる気がする。
「あっ! 守長、あっちの壁の方の、ホラ、一番遠い所に置いたやつに入ろうとしてるよ」
「ん? おー 本当だ、てか入ったぞアンナ! 捕獲器の入口も落ちて閉まった!良し行くぞ」
「うん、良かったね守長」
「「・・・」」
ため息しか出ねーわ‥‥
「又メスだね‥‥」
「そうだな‥‥ てかコイツ罠に掛かったのに何悠々とエサ食ってやがんだ? おい出ろ、捕獲器は渡りバトの食堂じゃ無いんだ、て、おい! 何てふてぶてしいんだ、さっさと出ろ、おい!」
この渡りバトめどんだけ豪胆なんだよ?
捕獲器を揺すっても叩いても、エサ食うのを止めやがら無い、ふざけんなや。
マジでエサ場か食堂とでも思ってんのか?
舐め腐ってる、コイツがオスなら食ってるとこだぞ、てかさっさと捕獲器から出て行けよ‥‥
今年はまさかメスしか獲れない何て事は無いよな?
大丈夫だよな?