異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第150話 彼方の住人を見る瞳は?

 

「ネイサン様、(わたくし)昔から気になってと言いますか、分からないと言いますか‥‥」

 

マデリン嬢が又少し困った様に戸惑いながら言葉を繋ごうとして居る。

 

何なのだろうか?

 

しかし、昔から?

 

「ネイサン様と出会った当時から(わたくし)は思っておりました、そして年々、色々と物事の道理が分かる様に、歳になってから益々分からなくなりまして‥‥ ネイサン様のお心にはどなたかがずっとお住みになられていらっしゃいますね?」

 

「私の心にですか?」

 

「ええ、幼いながらも(わたくし)思っておりましたの、ネイサン様は心に想う方が、想いを寄せて()られる方が()らっしゃるのだと‥‥」

 

なるほどな、それも見抜かれて居たか‥‥

 

口に出した事等一度も無い。

 

なのにマデリン嬢には見抜かれてたと言う事は、俺は知らず知らず、自分自身では気付かぬ内にソレが出て居たんだろう。

 

目は口ほど物を言う、多分だがマデリン嬢は俺からそれ等を敏感に感じ取って居たのか。

 

「マデリン嬢は私にその様な物を感じられた、ですが分からないと言うのは何故でしょうか ?」

 

「はい‥‥ ネイサン様の御家族の方達から、手紙で、そして直接お会い致しました時に色々とお話しをし伺ったり致しました、ネイサン様は私と出会った時から、そして今も‥‥ であれば帝都にそのお方が居らっしゃるかと思いまして御家族の方に伺いました、ですが皆様が口を揃えてその様な方は居ないと‥‥ 心当たりが無いと仰られました、であればネイサン様がバハラに赴任されてらっしゃった時かと思いました、しかしその様な方は居らっしゃられません」

 

そんなに見詰められても困る。

 

残念ながらマデリン嬢に返事は出来ないし、答える事は出来ない。

 

俺の根本に関わる事であるし、それ以前の問題として誰にも言うつもりは無い。

 

「と言われましても、私はこの帝国処か、この大陸や他の大陸や島々、この地(・・・)にその様な相手は居ませんよマデリン嬢」

 

「ネイサン様、失礼ながら‥‥ (わたくし)には嘘を仰っては()られませんが、本当の事も仰っては居られ無い様に感じます、誠に失礼とは思うのですが‥‥」

 

本当に鋭い。

 

コレを見抜いたのは先帝陛下に続いて二人目だ。

 

とは言え‥‥

 

「しかしマデリン嬢、私は本当にこの地にはその様な相手は居ないのです、嘘であるとか誠であるとか以前に只の事実でしかありませんよ」

 

「では私の勘違い、そして思い込みなのでしょう、失礼致しましたネイサン様」

 

うん、マデリン嬢は無理矢理自分自身を納得させたみたいだ。

 

間違っては居ないんだ、俺が言葉遊びで煙に巻いただけの事であって、マデリン嬢が頭を下げる必要は本来なら無い。

 

「マデリン嬢、頭を上げて下さい、何も謝る必要はありません、どの様に思うかは自由です、それに私達はその様に畏まる関係ではありませんよ」

 

「分かりました、有り難う御座いますネイサン様」

 

しかし鋭いな‥‥

 

やはりマデリン嬢とは気の全く抜けない会話と触れ合いになるな。

 

ある程度は予想していたとは言え‥‥

 

本当、ヒリつくわ。

 

「ところでマデリン嬢、言いにくいのですが‥‥」

 

「何でしょうネイサン様?」

 

そんなに不安そうにされると少し言いにくいな‥‥

 

とは言え言わないとな‥‥

 

「あの‥‥ 口の端に粉が‥‥ 付いております」

 

「えっ?‥‥ ネイサン様、少々失礼を‥‥」

 

うん、口の端にマシュマロの粉が付いてるんだ。

 

口の右端にな‥‥ 軽くだ。

 

とは言え黙って居るのもなぁ‥‥

 

マデリン嬢がコンパクトで見て確認して居る。

 

あのコンパクトもかなりの高額な物だ。

 

「あっ、あの‥‥ 失礼致しました、ネイサン様、(わたくし)何とはしたない‥‥ お見苦しい姿を‥‥」

 

「いえいえ、可愛らしかったですよ」

 

うん、俺は嘘は付いて無い。

 

本当に可愛らしかったからな。

 

てかアレだな、上手い具合に空気が緩んだわ。

 

しかしマデリン嬢らしからぬ失敗だ、落ち着いて見えるがもしかしてマデリン嬢は緊張して居るのかも知れない。

 

そうだよな、しっかりして見えてもまだ十七歳なんだ、当たり前の事だ。

 

「嫌ですわ、こんな幼子の様に‥‥ 今からネイサン様と今後の事をお話し致したかったのに‥‥」

 

おいおい、いきなりブッ込んで来たな。

 

てか流れ的に聞かないといけないよな?

 

まさか計算してたとかじゃないだろうな。

 

もしかしてこりゃ一本取られたか?

 

「今後と言いますと?」

 

「はい、今後と申しましてもネイサン様が考えて居られる様な事では御座いません」

 

「申し訳ありませんマデリン嬢、仰っておらるる意味が分からないのですが?」

 

「おそらくネイサン様は、(わたくし)が今日で全てを一挙に進めると思ってらしたのではありませんか?」

 

「一応お聞きしますが、それはどの様な事で?」

 

うん、完全に時間稼ぎでしかない。

 

マデリン嬢が何を言いたいか、何を考えてるか分かる。

 

しかし脈絡無くいきなりだったな。

 

不意打ちは成功だよ、とは言えむざむざとやられるつもりは無いがな。

 

「今更言うまでも無い事ですが、(わたくし)はネイサン様をお慕い申しております」

 

「はい、私もマデリン嬢のお気持ちは当然分かっております」

 

決定的な一言だ。

 

今までここ迄ハッキリと言われた事は無い。

 

「私はネイサン様と初めて御会いしてより十数年、一日も考えない事は無く、常にネイサン様を想ってまいりました」

 

「・・・」

 

「私にとってネイサン様と交わした会話、共に過ごした時間、その全てが他に変えようが出来ない財産であり宝であります」

 

「‥‥有り難う御座います」

 

「私はネイサン様と共に歩み、お互い白い髪に、顔に年齢が刻まれる迄、いえ、例えこの身が朽ち、骨になり、その骨すらが朽ち、地と同化しても共に在りたいとそう思っております」

 

「・・・」

 

前世で聞いた様なセリフだな。

 

何かの小説か、それとも歌の一節か、同じ様な事を聞いた事が合った気がする。

 

世界が変わっても人の気持ち、想いの告げ方は良く似て居る。

 

但しそれは、いや、これは緩やかな物では無く、激しく狂おしい迄の狂気の愛でもあり。

 

静かな静かな凪すら無い、穏やかだがだからこそ、深淵すら突き抜けた狂気さも含んだ愛‥‥

 

恐らく狂気と言うのも褒め言葉にしかならない、ただただ無垢な狂気の愛だな‥‥

 

うん、言葉にすると陳腐にしかならないな。

 

言葉無き狂気の愛、只それだけだ。

 

「ネイサン様、(わたくし)はこの世に生を受けて未だ十七年‥‥ ですが短い人生の半分以上ネイサン様を想い、そして待ってきました、今更急がねばならない理由も又ありません、私待つ事が出来る様になりました、ですので今日ネイサン様にお返事を聞くつもりは御座いませんし、又、急かすつもりもありません」

 

だろうな、マデリン嬢は俺の中に誰かの幻影がある事を理解して居る。

 

そしてその相手は帝国にも、そしてこの地全てにも居ないと言うのも理解して居る。

 

相手が誰か何て分からないし、どうでも良いとさえも、そう思って居るだろう。

 

先程の問い掛けと会話で確信したはずだ。

 

ネイサン・サリバンには想い人が居る。

 

だがその相手はこの地に、この世界にすら存在しては居ない。

 

であれば自分が待つ事になんら問題は無い。

 

寧ろ落ち着いて、ゆっくり、時間を掛けて事に当たる事が出来ると‥‥

 

そう思ったはずだ。

 

何故ならこの地に居ない以上俺にはどうする事も出来ないし、何より重要なのは俺の気持ちが自分に向かずとも他の者にも向かないし、向ける事も無いと確信を得た、それが分かった訳だ。

 

もしかしてだが今日の真の目的はそれを確認、確信を得る為だったのかも知れないな‥‥

 

幼き頃からそれを感じ取って居た、そして今日はその不確かな何かを確定させる為。

 

確信を得る為の訪問、だが根本にあるのは俺に只々逢いたかったから。

 

その上で確認作業をしたって事だろう。

 

であればマデリン嬢の目的は全て達成されたと言う事かな?

 

いや、それは甘い、最後の最後まで気を抜くのは危険だ。

 

俺は何をお馬鹿な事を考えて、いや、思い込もうとして居るんだ?

 

俺はここに来て本当に(ぬる)くなったもんだ。

 

我ながら甘過ぎて反吐が出そうだよ。

 

相手が誰であれ甘く見るのは危険なんだ。

 

ましてや相手はマデリン嬢だぞ!

 

俺の心の内を見抜いたのは今までただ一人、

先帝陛下だけだったんだ。

 

この世界の家族ですら見抜けなかった、それをマデリン嬢は見抜いたんだぞ、希望的観測は捨てろ。

 

そして表情も変えるな、目に力が入りそうになる等、相手に僅かな情報も与えては駄目だ。

 

僅かな変化も見逃さず、見逃さない相手だぞ、その変化を感じ取られたら命取りになる。

 

変わらず、今まで通りに、何も無かった様に。

 

今は只、昔馴染みの懐かしい人との時間を過ごす事のみ考えれば良い。

 

穏やかに微笑むマデリン嬢に、静かなる狂気と狂信的なひたすらな愛、それが見えた様な気がした。

 

冷たきも焦がれる様な相反する情熱。

 

マデリン嬢の目の奥底からそれを感じた‥‥

 

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