異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第151話 無音のワルツ又は二人きりの輪舞

 

沈黙 静けさ 静寂 音の無い世界

 

今この場を表す言葉の候補が多過ぎて分からない

 

あるのは只、微笑みのみ。

 

俺とマデリン嬢は微笑み、ジョディは多分、何時もの様に無表情だと思われる。

 

今この場には三人が居る。

 

だが世界はジョディの存在を否定してるが如く、俺とマデリン嬢の二人きりの物であるかの様だ。

 

そんな世界に二人佇むかの様なこの空間は、他者が見ればさぞ違和感のある物となっているはずだ。

 

「待つ、ですか?」

 

「はい、ネイサン様、ネイサン様は(わたくし)を嫌ってはいらっしゃらないですわよね? なら私は待ちます、ネイサン様が何時か私を想って下さる迄、何時か振り向いて下さる迄、私を一人の女性として、共に歩む事を御許し下さる迄、永遠を分かち合う事を御許し下さる迄、私マデリン・ポートマンの全てを受け入れて下さる迄、身も心もネイサン様の物であると、私の永遠を受け入れ独占して頂く事を‥‥ 私は待ちますわ」

 

「それは又‥‥ しかしマデリン嬢、少々、いえ、かなり意地の悪い事を言いますと、私がマデリン嬢の今仰られた事を否定したとしたらどうされるので?」

 

「自害致します」

 

「・・・」

 

「舌を噛んでと言いたい所ですが、死に顔が余り宜しくありませんから‥‥ 毒酒を呷ります、私はネイサン様以外の方と結ばれる等考えた事もありませんし、考えたくもありません、失礼ながらネイサン様は私の覚悟を少々甘く見ておいでですわ」

 

「私は脅されて居るみたいな気がします、否定では無く受け入れ無いでもなのでしょうか?」

 

「あら、受け入れないと仰られるのは(わたくし)の努力が足りないだけの事ですので私が更に努力、研鑽を積みネイサン様の居らっしゃる高み迄参ります、レディとして磨きを掛けます、それにネイサン様、私は脅して等いません、只の事実を述べただけですわ、それと否定と受け入れないは又別問題です」

 

「私が受け入れる迄待つと、しかし何時までも受け入れない場合はどうされるので?」

 

この聞き方はかなり意地の悪い聞き方ではある。

 

遠回しに受け入れないと言って居るとも言えるし、何よりその可能性があると、希望を捨てろと言っている様に聞こえるだろう。

 

「あら、先程言いました様に受け入れて下さる様に努力を続け、(わたくし)自身が自分を磨き続けるだけです、只それだけの事ですわ」

 

強いな‥‥

 

そして、必ず受け入れさせると言う決意表明でもあると言う事だろう。

 

簡単には、いや、決して諦めないとの宣言‥‥

 

俺は最悪自分の秘密を、誰にも明かした事の無い、自身の最大の秘密をマデリン嬢に明かす事も含めて、検討、対処しなければならないかも知れない。

 

多分マデリン嬢は俺の根本に関わる秘密を聞けば喜ぶだろう。

 

何せ俺、ネイサン・サリバンを構成する全ての根元だ。

 

引く何て事は絶対無い。

 

寧ろ大喜び、いや、歓喜に震えるだろうし、この想いを聞いても全く気にもしない。

 

うん、意に介すると言う事は絶対無いな。

 

何故ならマデリン嬢は男の愛人賛成派だ。

 

女は貞淑(ていしゅく)であれ、だが愛人は男の甲斐性だと思ってるのだから‥‥

 

だから夜遊び同好会の奴等が愛人を作って居るのも全く気にしてないし、寧ろ甲斐性だと奴等に言ってる位だ。

 

その点も奴等がマデリン嬢を気に入っている点の一つだ。

 

おかしいのはマデリン嬢の父親は愛人を作ってないし、寧ろ妻一筋なのに何故その様にマデリン嬢が思って居る点だよ。

 

うん、ある意味男にとっては都合が良い女ではあるし、理想の妻なのだろう。

 

俺の前世の想いを聞いても、だから? としか思わないし、当たり前の事として受け入れるだろうな。

 

根本的に自分に自信があるし、その上で常に努力し、離れて行かない様に自身を高め続け、自分磨きを怠る事無く死ぬまで続け、その気持ちを忘れる等決して無い、そんな人だ。

 

とは言え‥‥

 

「マデリン嬢、申し訳ありませんが、私はお気持ちは尊重致しますし否定もしませんが、受け入れるとは言えません、私はマデリン嬢の事を妹と思っております故‥‥」

 

「ええ、それは分かっておりますわ、ですがネイサン様は(わたくし)を否定してはいらっしゃいません、今は(・・)受け入れて下されませんでも必ず、ええ、必ず受け入れて頂く様に‥‥ そして受け入れて下さるかどうかは私の責任であり、私マデリン・ポートマンの問題です、ですので私が勝手に待つだけの事ですわ、ネイサン様」

 

他人が聞けば言うだろう。

 

マデリン嬢の何が問題なのだ? と‥‥

 

寧ろマデリン嬢は理想の女性だし、この様に素晴らしい、素敵な人は居ないだろう、お前はおかしいんじゃないのか?

 

そして、何時まで過去に捕らい囚われて居るのだ。

 

いい加減忘れて前を向け、届かない彼方に想いを馳せるのもいい加減にしろ。

 

お前は追憶の中で一生を生きるのか?

 

文字通り生まれ変わったのだから、新たな生を受け入れてネイサン・サリバンとして生きろ。

 

そう言われるのだろうな。

 

確かにその通りだ。

 

だがだから? としか言い様が無い。

 

俺の人生は俺の物だし、俺の想いや気持ちも俺の物で、他の誰でもない、俺だけの物だ。

 

それは決して、そう、決して、誰に否定されても変わらない、只一つの大切なものだ。

 

そしてマデリン嬢の想いも、俺に対する気持ちも、その生き方も他の誰でもないマデリン嬢だけの物であって、それは俺でも否定出来ないし、してはいけないもの。

 

だからマデリン嬢の想いも意思も尊重するし、しなければならない。

 

であればこそ厄介ではあるのだがな‥‥

 

「お互いに譲れないものがある、ならお互いそれを尊重しましよう」

 

「はい、そうですわね、(わたくし)はそれで良いと思います、今は兎も角将来は分かりませんもの、ですが私のこの気持ちは変わりませんし、想いは時を重ねれば重ねる程に色濃く深く、大きくなって行くでしょう‥‥ 覚悟為さって下さいませネイサン様」

 

「ここは負けませんよと言うべきでしょうか?」

 

「まぁ、フフフ‥‥ では私も負けませんと言っておきますわネイサン様」

 

やっと空気が緩んだ気がする。

 

身体もかなり軽く感じるな。

 

ずーっとこんなんだったら良いのに、難しいかな?

 

そう言えばそろそろ時間か?

 

何やかんやで時間が経つのが早い。

 

まだ多少の時間はあるが‥‥

 

「ネイサン様如何されました?」

 

「そろそろマデリン嬢の帰宅時間だなと思いまして」

 

「そうですわね、時が過ぎるのが早く感じます、ネイサン様、一つお願いが御座いますの、宜しいでしょうか?」

 

特に何かあるとかでは無く、少しおねだりっポイ感じかな?

 

しかしなんだろう?

 

「何でしょうか?」

 

「その‥‥ 一緒に一曲踊って頂きたいのです、と言っても音楽はありませんが‥‥」

 

「私で良ければ喜んで、とは言えここでは狭すぎます、私が畑をして居る所がありまして、そこでどうでしょうか?」

 

「はい、有り難う御座います」

 

しかしあれだな、乗馬服と官吏服でダンスか‥‥

 

かなりシュールではあるな。

 

しかも音楽無しでって、端から見たら物凄い絵面と言うか違和感が半端無いんだろうな‥‥

 

~~~

 

「ネイサン様、私かなり上達致しましたのよ、学園でのダンスの授業の成績もとても良いのです」

 

「そう言えば学園ではダンスの授業もあるんでしたね? 私は学園には行かず官吏になりましたのでその辺りがいまいち分からないのです」

 

「しかしネイサン様はダンスもとてもお上手ではありませんか、私ネイサン様の様になりたいと思い、ネイサン様と踊りましても足を引っ張らない様に、皆様からお似合いだと言われる様にと思い努力して参りました」

 

「では今日は最終試験と言う事ですね?」

 

「そうなのですが、今日は只々ネイサン様と踊りとう御座います」

 

うん、確かにマデリン嬢と踊るのは久々だ。

 

てか背の高さが違い過ぎるし、技術の差があり過ぎてダンスってよりお遊戯会って感じだったからな。

 

「フフッ‥‥」

 

「どうされました?」

 

「いえ、何故だか分かりませんが、二人で踊りますのにワルツでは無くロンドと思ってしまいまして‥‥ 変ですわね、二人きりでロンドと言いますのも」

 

「なるほど、確かに二人きりなのにロンドは可笑しいですね、もしかして今から踊るのはロンドで?」

 

「いやですわネイサン様、私の下らない戯れ言です、でもネイサン様がお望みでしたらロンドを‥‥ と申しましても二人きりなのでロンドとは言えませんが」

 

マデリン嬢が楽しそうだ。

 

他人が聞いたらどうでも良い事だと言われそうだが、本人は楽しいのだから他人に何と言われようと全く気にしないだろう。

 

マデリン嬢にとっては今はこの世界に二人。

 

俺とマデリン嬢しか居ないのではないか、そう感じて居そうだ。

 

多分ジョディですら今は存在して居ないと、そう感じて居そうな気がする。

 

畑のある辺りに少しスペースがある。

 

音楽も何もない、マデリン嬢はドレスですらない。

 

室内で無く、外、それも畑がある開けた場所で今から踊る。

 

だがマデリン嬢にとってはどんなパーティーよりも、それこそ帝城よりも素敵で華やかな場所だと感じて居ると思う。

 

「ではマデリン嬢、私と踊って下さりますか?」

 

「勿論ですわネイサン様」

 

踊るには場違いな、華やかさの欠片も無い、音楽すら無い。

 

あるのは只、二人の時間と空間。

 

だが我ながら上手く踊れて居ると思うし、マデリン嬢も中々のものだ。

 

うん、確かにかなり上達したと思う。

 

踊りに全く指摘する様な粗が無い。

 

寧ろ完璧と言っても良い位だ。

 

何より踊って居て心地好さがある。

 

昔マデリン嬢に言われたな、ネイサン様と踊って居ますと、とても心地好いです。と‥‥

 

ダンス一つ見ても成長具合が良く分かる。

 

本人が言う様にかなり努力し、日々己を高めようと歩み続けたのだな‥‥

 

「ネイサン様、今この時が永遠になれば‥‥ もしそうならマデリンは幸せです、そしてこのまま永遠を過ごす事を一切後悔しないでしょう‥‥ お慕い申しております、ネイサン様‥‥」

 

無音のワルツはマデリン嬢の再び想いを伝える言葉で幕を閉じた‥‥

 

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