異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第194話 魚醤と若き二人

 

「動くな、大人しくしろ。その娘を人質に取ろう等と愚かな事は考えるな。今ならまだ間に合う、大人しく投降しろ」

 

「守長、勘弁してくれよ。なぁ、手を開け閉めするのは止めてくれ……」

 

「ん? 何だお前ブライアンか。俺はてっきりチンピラが、若い娘に絡んでんのかと思ったぞ」

 

「・・・」

 

相変わらず俺の軽口に傷付いた顔しやがって。

これじゃ俺が悪者みたいじゃないかよ。

 

「あの、ハルータ灯台の守長さんですか?」

 

「そうだ。あー…… もしかしてセレサかな?」

 

「はいそうです。初めまして。良かった。守長さんには直接会って是非お礼を言いたかったんです」

 

「礼?」

 

あれ? 俺は礼を言われる様な事したか?

まさかブライアンの奴、髪飾りを俺から貰ったとかバカ正直にセレサに言ってないだろうな?

 

まさかだが、いや、ブライアンならあり得る。

コイツそんな事を言ったら、女からしたら、自分で選べとか、人に貰った物を渡すなって思うだろ。

 

物の良し悪しはこの際置いといて、自分で選んだ物を私には渡して欲しいって思うだろうが。

それをまさかバカ正直に、セレサに俺から貰った物だとか、おバカな事を抜かしやがったんじゃないだろうな?

 

「はい、守長さんがブライアンに発破をかけてくれたから、だからあの時私に……。それに随分相談にのってくれたみたいで。本当にありがとう御座います」

 

あー、その件か。はいはい。

 

「頭を上げてくれ。あの時はブライアンがうじうじと言って、言い訳してたからちょっと気合いを入れてやっただけだ。まぁ何だ、あれは只のきっかけにすぎない。なる様になっただけの事。こうなる運命だったんだよ、おめでとう」

 

「はい! 本当に、本当にありがとうございます。私がハルータ村に行ってからもよろしくお願いします」

 

うーん、礼儀正しいな。しかも元気な奴だ。

男勝りってより気っ風の良い奴って感じだな。

何だろ? 姉御って感じの奴だ。これなら村でも上手くやって行けそうだな。

 

「ねえねえネイサン。もしかしてこの子達って、ここでプロポーズした子? ブライアンって子、この前来てたわよね?」

 

「ん? そうだよ、ブライアンはこの前来てた奴の一人だね。それとこの青空市場でそこのセレサに結婚を申し込んだのもブライアンだね。てかばあちゃん知ってるの?」

 

「勿論知ってるわよ。えー、何でこの前教えてくれなかったの? この子バハラじゃ有名よ。ここで大きな声でプロポーズしたって、少し前にバハラ中で噂になってたもの」

 

ブライアンの奴、達観した顔してるなぁ……。

諦めだとか、照れだとか、怒りすらも無い。

只ただ達観、うん、悟りを開いたかの様だ。

 

コレもう何度も言われて、何回も今と同じ様な事があったんだろうなぁ……。

 

ばあちゃんだけで無く、マリアやミザリーも何故か嬉しそうだ。まるで乙女の様に盛り上がってる。

女ってこんな話好きだもんなぁ……。まぁ何だ、こんな人が多い場所で、しかも青空市なんて主婦が多い場所であんな事したら、そら噂になるわ。多分あっという間に話が広まったんだろうな。

 

しかし対照的だ、ブライアンは達観、セレサは嬉しそうに照れてる。うん、だから俺は落ち着いてヤレって言ったのに、それなのにコイツは……。残念ながらブライアンの自業自得だ、今更もう遅いってやつだな。

 

「おいブライアン、今日アイリーンばあさんは来てるか?」

 

「いや、今日は来てないな。本当は来るつもりだったみたいだけど、何か腰が痛いからって言って。でも何でだ?」

 

「ん? ばあちゃんがな、アイリーンばあさんの作ったイカの完干しが凄く美味いって言って、それで買いに来たんだ。そうか…… 村の他の奴にも言うが、ばあちゃん達が買いに来たらアイリーンばあさんのイカの完干しをだな・・・・・・」

 

~~~

 

「分かった、皆にも言っとくよ。それと守長、アマンダは今日来てる。確か魚市場側で店を広げてるはずだ」

 

「えっ、アマンダ来てるのか? もしかしてマーラの家の船に便乗してか?」

 

「今日はそうだな。昨日は実家の船に乗って来てたっけか?」

 

「珍しいな……。アマンダがこの時期に二日続けてか? 丁度良かった、アマンダにも話を通しとくか。マーラも居るなら尚の事都合が良い」

 

しかし珍しいな、この時期に二日続けて来てるのも。もしかしてスルメイカが大漁だったのかな? それで作り過ぎたとかか? まぁ良いや、行ったら分かるか。

 

「所でブライアン、お前今日はマグロは無いのか?」

 

「マグロ? 今日は無いな。てかあんなのしょっちゅう獲れる訳じゃないからな」

 

チッ……。獲れや。だが無い物は仕方ないな、それにしても。

 

「ブライアン、お前の親父達は? 今日は一人で来たのか?」

 

「いや、親父達は違う所で店広げてる。その…… 俺達は結婚してからの事考えて、二人で店広げてるんだ」

 

「もしかしてお互い品を持って来てるのか? てかその壺は何だ?」

 

「あー、それはセレサの家で作った魚醤だよ」

 

「守長さん、家の自慢の魚醤ですよ」

 

ガルム村の魚醤か、結構あるな。大体だが一壺三十リットルちょい位か? 魚介類はブライアンが持ってきて、魚醤はセレサが持ってきた物かな?

 

これって結婚後の事考えてってより、ただ単に二人で居たいからやってるだけじゃないのか? まぁ良いや、魚はいまいちだな。うん、村で何時も見る様な物ばかりだ。

となるとここで買いたい物は無いな。だが何も買わなければ、冷やかしただけになってしまう。

魚醤を味見させて貰うか。そんでちょっと買ったら良いか。

 

「セレサ、魚醤をちょっと味見したいんだが、良いかな?」

 

「勿論です。良かったら買って下さいね」

 

どれどれ、どんなもんだろう? ガルム村の魚醤は今までハズレが無かったから、不味いって事は無いだろうが。

 

ん? おいおい、無茶苦茶美味いじゃないか。何て言うか味に風味と深みがあるのに、雑味が全く無いぞ。只ただ旨味が口に広がる。しかも鼻を抜ける香りが抜群じゃないかよ! これは良い、当たりも当たり大当たりだ。うん。

 

「セレサ、魚醤を壺ごとくれ。幾らだ?」

 

「えっ、壺ごとですか?」

 

「うん、壺ごと。勿論壺の代金も払う。おいブライアン、手間賃払うからお前灯台まで運んでくれ。じい様達に聞いて、そこにこの魚醤を置いといてくれ」

 

「分かった」

 

「えー! ブライアン、何でアンタ普通に受け答えしてるの? 壺ごとだよ」

 

「ん? 守長は良い物なら大体こんな感じで買うから。セレサの家の魚醤が美味かったからだろ?」

 

そうだね、確かに美味かった。不味かったら魚醤と一緒に売ってる、木製の入れ物を買ってその中に少し魚醤を入れて済ますつもりだったし。

 

「ネイサンそんなに美味しかったの? ねえ、私も味見良いかしら?」

 

「はい」

 

「あら、良い味じゃない。私も買おうかしら」

 

「セレサ、もう一壺追加な。ばあちゃん俺が買うから。おっと、ややこしい事言わないでね、こん位別に大した額じゃないんだし」

 

「もう、私が何か言う前に……」

 

「良いから良いから」

 

ふっ……、何も言わす訳が無い。こう言う時は、相手に言葉を発せさせず、ささっと済ますのがコツだ。本当に別に大した額じゃないんだ、だから全く問題ない。

 

「あの、守長さん? コレ一壺で大体ですが、銀貨十五枚か十六枚になるんですが……。小売り価格でですが。それと壺は幾らだろ? 確か父ちゃんが銀貨二枚か三枚位って言ってたと思うんですが……」

 

「なら銀貨十七枚か十九枚か? 壺代がもう少しするかも知れないな。面倒だな、一壺あたり金貨一枚払う、それで良いか?」

 

「えっ? えっ? あの…… 増えてますよ」

 

「良いよ別に。まぁ何だ、結婚祝いの一部だと思ってくれ。ホレ金貨二枚な。おいブライアン、手間賃は大銅貨二枚で良いか?」

 

「おっ、二枚もくれるのか? 十分だよ。てか何か手間賃貰うの悪いな」

 

「お前ここから村までこんな重く嵩張るのを運ぶんだぞ、何で悪いって思うんだ?」

 

「いや~ だってセレサは俺の妻になるからな。それなのに金額上乗せで買って貰った上、手間賃まで貰うのは流石に気が引けるよ」

 

「・・・」

 

コイツは惚気てんのか? だらしない顔して照れやがって……。 そんなツラして照れながら惚気んなよな、ちょっと気持ち悪いんだが。

 

俺はコイツの事知ってるから良いが、知らん奴が見たら、チンピラがニヤニヤしながら凄んでる様に見えるって、分かって無いのかな?

分からないんだろうなぁ…… だからこんなツラしてやがるんだろうしな。毎度思うが本当コイツって極悪人面してるよな。

 

まぁ良い、これで配送手続きは完了っと。ブライアンも雑には扱いはしないだろうし、割らない様に、溢さないない様にちゃんと運ぶだろ。

 

「村に送る分もそうだが、もう一壺は後で取りに来るからよけといてくれよ」

 

「はい。よいしょっと」

 

うーん、セレサの奴、軽々と動かしたな。

中身の魚醤と壺で五十キロ位はあるはずなのに、全く重さを苦にしてなかったぞ。セレサはややゴツいプロレスラー体型だが、見かけ倒しでは無いな。パワーは力だっけか? コレ並の男では勝てないんじゃないか?

 

「あの~ 守長さん。本当に良いんですか? 何か貰い過ぎな気がするんですが」

 

「良い、良い。気にすんな。だがそうだな、こっちのばあちゃんや、後ろの婦人二人が買いに来たらオマケしてやってくれ。それとこれから魚醤はセレサん家のを買うから、親父に話を通しといてくれ。と言ってもセレサはハルータ村に嫁に来るから、ブライアンに配達を頼む事になるだろうしな。今度から空になった壺ごと持ってくる事になるから、その空の壺に入れ換えてくる様に話を通してくれるか?」

 

「はい、分かりました。あの、守長さん。本当にありがとうございます、私本当に感謝してるんです。ブライアンに勇気を与えてくれて、ありがとうございます」

 

「ん、気にすんな。セレサ、ブライアンの事を頼むぞ。じゃ、又後で魚醤取りに来るから」

 

礼儀正しい奴だ。そう何度も礼を言わなくても良いのに。あっ! しまった……。

ブライアンに変態が今日来てるか聞くの忘れてた。

 

まぁ…… 大丈夫だろ。さっ、アマンダんとこに行こ。ついでにマーラのツラでも拝みに行きますか。

 

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