異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第201話 美しさは罪③

 

魚市場にある青空市には決まり事がある。

 

色々な決まり事があるが、刃物についての扱いは特に厳しい。

何も刃物類が一切使えないと言うわけでも無い。

もしそうなれば青空市は成り立たなくなるとは言わないが、かなり買い物客は減るだろう。

 

漁師やその家族などが持って来た商品、この魚市場の青空市の場合は魚介類が主な商品だが、それらをただ並べて売っている訳では無い。

 

前世における魚屋や、スーパーの鮮魚売場の様に、ここでも魚を捌いてくれる。

その為、包丁などの刃物類は無くてはならない商売道具の一つでもある。

 

そしてその無くてはならない刃物類だが、言うまでもなく、使い方によっては人を傷付け、殺す事が可能な道具でもある。

その為扱いが厳しくなるのは当然の事である。

 

漁師達は店を開く時に、割り当てられた場所で商売を行うが、きっちりと線引きされた場所で店を開いており、その線を越え他の者が開いている所を侵してはならない。

 

これは揉め事の防止であると共に、刃物類を始めとした危険物の移動範囲を示す目安でもある。

 

小学生の様に、空中だからセーフ等とふざけた事をやったら一発アウトになるのでかなりの注意が必要でもある。

 

もし自分が割り当てられたその線、この場合における決まり事も多いが、刃物を客が通る通行路に出す事はルールとして厳しく定められており、例えそれが故意であろうと無かろうと、もし破った場合は厳罰が加えられる。

 

最も軽い場合で厳重注意の上、罰金として銀貨二枚と、一ヶ月の青空市の使用禁止となる。

そして最も重い罰則は金貨五枚の罰金と、青空市の永久使用禁止の上、当然ここには立入禁止となり、悪質であるならば衛兵にドナドナされる事となる。

 

当然やった事によって、衛兵に連れて行かれた先での罰も大きく変わる事になるが、このアホは今現在のやらかしにより、少なくともここの永久使用禁止と出入り禁止と、罰金の金貨五枚確定となっている。

 

俺の見立てではそれに加えて、裁判の上で何らかの刑罰が加えられる事も確定している。

うん、腕の良い法弁士によって刑罰の内容も変わってくるが、今の段階でもこのアホは、二度とここでアマンダにちょっかいを掛ける事は無くなった。

 

だが当然このままでは済ませない。後先考えずこんな短絡的な事をする奴は、必ずこれ以上の事をやらかす。

そうなればアマンダの身が危険に晒される可能性が残る事となる。であれば二度とシャバに出て来れなくするか、したくても出来ない様にする必要がある。

よってこのアホの心をへし折る。ついでに手と腕をへし折り、物理的にアホな事が二度と出来なくする事も必要である。

 

「アマンダ、下がってくれ。出来るだけ離れておいてくれ」

 

「守長、本当に大丈夫なの? 相手はナイフ持ってるのよ」

 

「えっ? ナイフ? あれ爪楊枝だろ? あんなチャチなナイフがあるか? あれどうみても爪楊枝だろ?」

 

「そんな訳無いじゃない。ねえ守長、お願いだから危ない事をしないで」

 

本当良いねえ、美人に心配されるってのはとても幸せな気持ちになる。

だが心配はいらない。こっちも道具を使う。

別に素手でも良いが、万が一あのナイフをアマンダに投げつけやがった時に備えて、俺も十手を出す。

 

寸鉄でも良いが、十手の方がインパクトがあるからな。見た目って大事な事だからね。おっと、その前に。

 

「アマンダ、俺は約束したよな? あのアホには、アマンダに指一本触れさせない。俺は約束は守る。そして必ずアマンダの憂いの一つを取り除く。当然俺は無傷で終わらすよ。だから安心してくれ。ホラ、アマンダ、早く下がって」

 

「・・・約束よ、ケガはしないでね。それと絶対無理はしないで」

 

「約束する。俺は無傷でアマンダの元に行く、そして店を手伝うよ」

 

「分かったわ、守長を信じるよ」

 

「おう! 名残惜しいがホラ、行って」

 

さて……。目の前のアホは何故なにもせず見守って居たんだろう? 途中で来るかと思ったが、ボケーっと見てるだけだったな。うん、生まれたての小鹿みたいにプルプル震えているが、ビビってるのか? だがまぁもう遅いがな。

手早く済ませてしまおうか、じゃないと衛兵が来てしまう。多分呼びに行った奴が居るはずだ。

 

「お前なに来てるんだよ! コレ(ナイフ)が見えないのか!」

 

行くに決まってるだろ。それとも何か? お前が来るのを待たないといけないのか? アホが、この場の行動と流れの決定権は俺にある。お前にはねーよ。

 

「で? お前はその爪楊枝で何をするつもりだ?」

 

「ふざけんな! 何が爪楊枝だ? このナイフが見えないのか?」

 

「爪楊枝だろうが。そんなショボいナイフがあるかよ。で? その爪楊枝で何をする? まさか俺の歯に詰まってる物を取るのか?」

 

怒ってる怒ってる。そうだ、それで良い。

怒りで我を忘れろ、そして決定的な一言を言ってくれ。そうすればコイツの運命が決まる。

これだけ証人が居るんだ、お前があのありきたりな一言を言えばそれでもう終わらせてやるよ。

 

「この……。お前は何なんだよ? お前は…… お前はアマンダの何なんだ? 舐めやがって……。何が爪楊枝だ? ぶっ殺してやる!」

 

良し! ぶっ殺すをいただきました。さて、更にダメ押しだ。

 

「何だって聞こえねーよ? プルプル震えてどうしたんだ? 便所か? 漏らす前に行ったらどうだ、ボクちゃん? で? 俺がアマンダの何なんだ、か? お前が今思ってる通りの人間だよ。残念だったなお前じゃ役不足だよ、お子様はお家に帰ってママに慰めて貰え」

 

「殺す…… 殺す…… 殺してやるよ! お前をぶっ殺してアマンダも殺す!」

 

はい、ダメ押しっと。これでこのアホは鉱山労働者に就職確定だ。後はその勤続年数がどれだけ伸びるかだな。

 

それにしてもこのバカが……。アマンダを殺す?

言うに事欠いてふざけた事を抜かしやがって、させる訳ねーだろ。お前は今の発言が、自分自身の死刑執行書にサインしたって分かっていないみたいだな。だがコイツは殺さん。死より辛い目に合わせてやるよ。

 

「おい若いの、悪い事は言わんわやめとけ」

 

ん? ハルータ村の奴か? このアホを止めるのは良いが、何故言い終わった後、意味深な目で俺を見る?

 

「そうだぞ、悪い事は言わん、大変な事になるぞ」

 

お前もか? 何故いちいち俺を見る? 言い終わったら俺を見なきゃいけない決まりでもあるのか?

 

「アンタやめときな。今ならまだ間に合うよ。やり直しは利くから、だからソレを捨てて大人しくしときなよ。じゃないとアンタえらい目に合うよ。大人しくしておいた方がアンタの為だよ。ね?」

 

おーい! 今度はチラチラと意味深な目で俺を見ながらか? てかお前らこのアホガキの心配はして、俺の心配はしないのかよ?

 

チャチとは言え、一応は武器を持った奴に、その武器を俺は向けられているんだぞ。俺の心配はしないのか?

と言うかコイツらってもしかして……。

 

「おいお前達! まさかとは思うが……、もしかしてだが……。このアホガキが吹き飛ばされて、自分達が広げている店が無茶苦茶になるのを危惧……、心配していないか? なぁ、そうだろ? 広げた店と商品の心配してるだろ? てか一応は俺の心配しろよ! 俺はこのアホに武器を向けられているんだぞ。お、お前ら……。何て冷たい奴等だ。普通こう言う時って俺の心配しないか?」

 

コイツら……。一斉に目をそらしやがったぞ。

やっぱりか? やっぱ自分の店の心配か?

嘘でも良いから俺の心配しろよな。

 

「いやぁ……。だってなぁ」

 

「そうだよな。守長があんなもん持ってる程度の奴に負ける訳が無いしなぁ……」

 

「そうさね、守長が? 無い無い。去年の夏祭りの時の事を思えばねえ。それより自分達の店の方がよっぽど心配さね。守長、もうやるならさっさとやっとくれよ、商売上がったりだよ」

 

「守長、やるのは良いけど、周りに被害が出ない様にしてくれよ。どうせ出来るんだろ? 早く売って店を閉めたいんだ」

 

「お前らやっぱか? いや、出来るけど、出来るんだけど、嘘でも良いから俺の心配しろよ。お前らこのアホガキの心配するふりして、結局は自分達の心配か?」

 

クソ! こんな予想が当たってもちっとも嬉しくない。悪い意味で俺の事を信頼し過ぎだろ村の奴等は。

 

「いやまぁそらぁね。大体守長が負ける訳無いんだから。そんな心配しても仕方ないじゃないか。それなら自分達の心配するだろ?」

 

「だよな。守長、どうせそいつはお縄になるんだ、なら衛兵だろうが守長だろうが、お縄にしたら一緒だよ。手早く頼むよ」

 

「守長、遊んでないで手早く済ませておくれよ。ワタしゃとっとと売り捌いて家に帰りたいんだよ。今日は暖かいとは言え、冬の寒さがこの年寄りの身には堪えるんだよ。ああ、でもやり過ぎたらダメじゃよ、相手はまだ子供なんだからね」

 

「・・・」

 

もうヤダこいつら。好き勝手言いやがって。

何? そのどうせ倒すんだから、早く終わらせろってオーラは? 何? オチが分かってるから、さっさと話を終わらせろ的な扱い? ひでえ扱いだよ。何かやる気が削がれて来たぞ。

 

もう良いや、とっととこのアホの手足を砕いてしまおう。アマンダのこれからの安全確保をしてしまおうか。

 

「お前らふざけてんのか? 何なんだよ? さっきから何なんだ?」

 

俺が聞きたいわ。もう良いや、処理してしまおう。

 

「待ちたまえ。君、それを捨てなさい。私がこの場を預かろうではないか。私はハルータ村の村長でね、私が『引っ込んでろ! お前も俺を舐めてんのか!』ヒッ……」

 

このバカ、空気読めよ。しゃしゃり出て来るな。

余計な事して、あげくナイフを向けられてビビって腰抜かしただけか、そんで終わりか? 何がハルータ村の村長だよ。村の名前を出すな、村の恥になる。

 

「おいカレン! そのバカをちゃんと見とけ! いらん事させるなよ。チッ…… 面倒ばかり掛けやがって。おい、その自称村長がしゃしゃり出て来ないように皆で見とけ」

 

この出オチ野郎が。お前は自分の芸がスベり芸だって自覚しろ。スベり芸に出オチ芸の三流芸人が。マジで面倒な奴だな。

そしてハルータ村の奴等の冷たさよ。俺がケガするとか、殺されるってカケラも心配してやがらない。

 

冷たい、ああ冷たいね。人情味のカケラも無いし、何て酷い奴等だ。

アマンダだけだよ、俺の事を心配してくれてるのは。他の奴等は心配どころか、ちゃっちゃと終わらせろと来たもんだ。

 

もうあんな村に居てられるか。やはりアマンダと一緒に駆け落ちしなければならない。うん、こんな冷たい奴等の居る村に居たらダメだね。

俺、このアホガキの処理が終わったら、アマンダと駆け落ちするんだ。

 

まぁ良いや、そう言えば十手を出すのを忘れてた。

どうせ直ぐ出せるからって、今まで出さなかったが、コレ要るかな? うーん……。インパクト的に出した方が良いな、出すか。その前にと。

 

「おいそこでプルプル小鹿みたいに震えてるバカ。お前さっきから俺やアマンダを殺すとか抜かしてるが、口だけか? てか相手にされないからと言って殺すって、お前はそんなんだから相手にされて無いんだよ。お前が百万回生まれ変わっても、アマンダと添い遂げるのは無理だ。それとお前には、アマンダに指一本触れさせねーよ。さぁ、お仕置きの時間だ」

 

利き腕である右手は順手で。左手は逆手で十手を持つ。これはうちの流派の卍の(かた)だ。

 

久々だな、この形でヤルのは。とは言えこの十手を使わず、足技だけでとりあえず処理する。

俺のブーツは鉄板入りだ、一味違うぞ。きっちりお仕置きしてやる。

 

「ふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがって……。殺してやる……。殺してやるよ!」

 

「もう何度も聞いたわ。もういい、お前が講釈垂れてるだけなら俺から行ってやるよ。面倒掛けやがって。おい、このバカが持ってるナイフが、何処に飛んでくか分からんから皆離れてくれ。飛んで来て刺さっても知らんぞ」

 

ハルータ村の奴等の素早い事、素早い事。

ばあさん連中ですらダッシュで離れて行ったぞ。

お前ら普段腰が痛いだの、足が痛いだの言っといて、こんな時は素早く動くよな?

 

そんなハルータ村の愉快な仲間達の動きを見て、野次馬までもが離れ始めたが結果オーライだな。集団心理なのだろうか? まぁ良いや。良しさっさとやるか。

 

「貴様らどけ! 通れないではないか! えーい、邪魔だどけ、どくんだ」

 

あっ! 時間掛けすぎた。衛兵が来ちゃったか?

てかこの声は、ナンシー・ボーウェル下級官吏(役職無し 平)じゃないか。

ヤベ。奴が衛兵を引き連れてここに来るまでにやらないと、お仕置き出来なくなってしまう。

 

「はっ? いつの間に」

 

いつの間に? 縮地を使って来たんだよ。

ナイフを持ってる右手の手首を蹴り上げて。はい、完全に手首の骨は砕きました。

ナイフはほぼ垂直上がったか。良し、お次は左手の手首をっと。はい、処理終わり。両手首はこれで使い物にならなくなったっと。

 

ついでにナイフを持ってた利き手の肘も横から蹴って、はい手の処理は終了。顎をやるのはやめとくか。喋れる状態にしておいた方が良いな。

 

「貴様ら何故こんなに固まって居る? 邪魔だ、私達を通すのだ。えーい退かぬか、私のサリバン卿が危機なのだぞ!」

 

いやいやいや。俺はお前のじゃねーよ。怖っ。

何時から俺はお前のものになった? 誤解を招く発言をするんじゃ無い! 怖っ……。

 

アンナが歳を取ったらあーなるのかな? 本当に怖いんですが。てかお前はアンナ二世か? もういらんぞ、アンナは一人で十分だよ。

 

「あっあっあ……。手が…… 手が……。手がおかしな方向に……。手が……」

 

自業自得だバカが。人を殺そうとしたんだ、むしろその程度で済んで幸運だったな。

しかしこのアホ、人質位は取るかと思ったが、結局講釈垂れてただけか。しょーもない奴だ。

まぁ……、人質を取る素振りをしたら、その瞬間に縮地を使って近づき阻止したがな。

 

「手が、手が、手が……。何で…… 何でだよ」

 

何で何でとうるさいな。お前は幼子かよ?

さて、これでこのバカは二度とアマンダに近づく事は無い。もしほっといたらこのバカは、アマンダを害してた可能性が高い。そう考えると俺が居る時にコイツが暴発して良かった。

 

前世でもストーカーが想いが裏返って、殺人事件を起こしたりしてたが、このバカガキもいずれそうなってただろうな。

たまにニュースでやってた、ストーカー殺人事件、アレをアマンダ相手に、やってたかも知れないと思うとゾッとする。本当に俺が居る時で良かった。心からそう思う。

 

これも運命か。俺がこの場に、そしてこの世界に転生したのは、運命の選択がなされこの世界に生まれ落ちたのは、アマンダを助ける為だったのかも知れない。

そう考えると転生して良かったんだろうな。

少なくともアマンダの命が助かったのだから。

 

「貴様ら退かぬか! えーい、早くしろ」

 

心配しなくてももう終わってるよ。

 

アマンダ、約束は守ったぞ。だからそんなに困った様に微笑むなよ。俺はアマンダを曇らせたりはしない。その笑顔は決して曇らせたりはしない。

 

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