異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第202話 理由

 

あの後は大変だった。

事後処理自体は全く問題無かったが、ナンシー・ボーウェルにウザ絡みされたと言うのが問題だった。

 

あの女が何故俺に執着するのか分かったが、理由としては俺のレポートや政策等の、俺が今まで官吏としてやって来た事の全てを知ってやがった。

 

簡単には言うと奴は、俺のファンだったのだ。それも大ファンと言うか、マニアと言うか。

前世で言うところの、アイドルの迷惑ファンと言うか、相手の迷惑を一切考えない過剰な愛情を注ぐ害悪ファンであった。

 

奴が俺に惹かれた切っ掛けは、大灯台の解体法方に対するレポートであり、それから奴は俺の書いたレポートやなんかを読み漁ったらしい。

 

そして奴にとり、最初に大灯台の解体法方の提言に関するレポートは衝撃を受けたらしく、それ以来俺の事を調べまくってた様だ。うん、ストーカーに恐怖するアイドルの気持ちが少し分かったわ。これからも奴には関わってはいけないと改めて思った物だ。

 

そして奴にとり、もう一人大好きな官吏がおり、下級官吏から大臣にまで出世したトーマス・カーがそうらしい。

俺が聞いた訳では無いが、奴が熱く語っていたので覚えてしまった。

息継ぎを一切せず、早口で言葉を発する奴のあの姿、そして顔は怖かった。目が軽くイッちゃってたし、狂気の様な物を感じた。

未来から来た自称ネコ型ロボットがネズミに会って、地球破壊爆弾を四次元ポケットから取り出した回があったが、それを思い出した。

一緒に事情を聞かれていたアマンダもかなり引いていたのが印象深い。

アマンダのあんな顔を見たのは初めてで、新しい発見ではあったが。

 

しかしトーマス・カーってお前……。立志伝中の奴じゃないか。

下級官吏の憧れではあるが、任官して直ぐの奴なら分かる。だが任官して十年近く経ってる奴が未だに熱く想うってどうなん? 普通、色々と現実を見て悟ると思うが、お前は純粋か。

 

とまぁ何でこんな事を考えているかと言うと、俺は今ポートマン家にお邪魔してるからだ。

招待されたのは俺とじいさんとばあちゃんの三人。

夕食に招待されその夕食の最中に、青空市での出来事が話題になったからである。

「ネイサン様。魚市場にある青空市での事。女性を守る為ではありますが、色々と噂が出ていますわ」

 

「ええ、私も多少は聞いています」

 

主にハイラー家の女性陣からだが。

何でも? 女を取り合っただとか、一人の美しい女性をめぐり決闘騒ぎだとか、想い合う二人に横恋慕し、嫉妬に狂った男の凶行だとか、他にも色々あったが、好き勝手言ってくれるもんだよ。

人の噂って世界が変わろうが、いい加減で下世話なもんだよな。

 

「なんでも傾国と言える程の美しき方に横恋慕した者が、ネイサン様とその方の想いあいに嫉妬しての凶行であるとか。その他にも色々と伺いましたが」

 

「あくまで噂ですね。私はその傾国と言われてるアマンダとは何もありません。私が助けた女性が美しいのは間違っていませんが、私とアマンダの間に想いあう様な物はありません。只単に噂が独り歩きしただけの事です」

 

珍しいな。微かにだが、本当に微かに、俺でないと分からない位に微かにマデリン嬢の方眉が動いたな。

年を取り、感情のコントロールが出来る様になったマデリン嬢が、微かにだが感情の揺れを表すとはな。

食事中に飲んだ白ワインに酔っての事では無いだろうが。

 

しかし……。

 

アマンダが美しいって言った時に揺れたか。

どうもマデリン嬢は、俺とアマンダの間の事に思う所があるみたいだな。

 

「そうですか……。ネイサン様、(わたくし)明日は学園が休みです。ネイサン様に一つお願いが御座います」

 

「と言いますと?」

 

何だろう? お強請(ねだ)りか?

どんなお願いなのかな。

 

「明日はネイサン様は特に用事もなく、何かをするつもりも無いと先程伺いました。でしたら明日、(わたくし)ネイサン様と魚市場に行きとう御座います」

 

「魚市場にですか?」

 

「ええ、魚市場です。正解に言えば魚市場にある青空市ですわ」

 

何で? 青空市? 何しに行くんだろ?

いやまぁ普通に考えれば買い物だろうけど、それならポートマン家の使用人に行かせれば良い。

 

それに魚市場の青空市に行く位なら、芝居でも見に行くか、他の場所に行くなりすると思うけど。

 

「ネイサン様、駄目でしょうか?」

 

「駄目ではありませんが、何故青空市にと思いまして」

 

「ネイサン様のお話を聞いて興味を引かれました。行ってみとう御座います」

 

興味ねえ。なーんか気のせいかそれ以外の意図を感じるんだが。

別に良いっちゃ良いんだけど。これって二人でだよな? 使用人や護衛のジョディも居るだろうが、言い方は悪いがそれらは居ない者扱いだろうし。

 

うん、ばあちゃんがニヤニヤしてるのが気になるね。私も一緒に行くとは言わないんだね。

そしてマデリン嬢の妹や弟は一緒に行きたいってのを、必死で堪えてるのは何故かな?

 

じいさんよ、アンタは聞こえないフリですか。

確か明日は珍しく仕事は休みだよな? 我関せずのその態度が気になるんだが。

 

「あー、そうですね、ご両親に許可を頂ければ私は構いませんが」

 

「両親には既に許可は貰っております。ですのでネイサン様が私の幼子の様なおねだりをお許し頂ければ、であれば行きとう御座います」

 

マデリン嬢がチラッと両親の方を見ると頷いてるね。俺と目が合うと目礼して来たな。

 

手回しの良い事で。既に根回し済みか。

じいさんやばあちゃん、それに兄弟姉妹を見る限り、こりゃもう二人で行くって前以て段取りしてたんだな。

しかし青空市なぁ。別に良いんだけど。

 

「分かりました。ですが当たり前ですが、魚介類を扱ってるだけの場所ですよ。魚介類以外も多少は扱っていますが、おまけ程度で、只々生臭いだけですが。今は冬場で匂いも多少はマシですが、生臭い香りのする余り面白い所とは言い難い所ですが宜しいので?」

 

しかもハルータ村の問題児アンナや、最近色々と極まって来てる貧乳(ジル)が居る可能性のある所だぞ。ん? ちょっと待てよ。

明日はマデリン嬢は学園が休み。そしてそれは学園だけで無く、この帝国では学生はお休みの日でもある。

 

ジルは学生では無いから、常に魚市場で遭遇する危険性があるから仕方ない。だがアンナの奴も学校が休みだから居る可能性もあるぞ。

 

たまーにアンナも手伝いの為に魚市場へと強制連行される事もあるんだよなぁ。

自意識過剰でもなんでも無く、俺が来る可能性が多少なりともあるなら、奴が自ら来る可能性が跳ね上がる気がするんだけども……。

 

どうしょう。何か行きたく無くなって来たんだが。でも行くと一度言っちゃったしなぁ。

 

「香りも含めての空気感ですので。それに私もバハラ生まれのバハラ育ちです、磯の香りは慣れていますわ。それよりネイサン様、本当に明日宜しいのでしょうか?」

 

「ええ、それは構いませんがどうされました?」

 

「いえ、何やら顔色が若干優れなくなられた様な気が致しまして……」

 

はい、あの問題児二人に会っちゃわないかと考えると、気分がいまいちノリません。

しかし約束してしまったからにはちゃんと行きます。嫌だけど。

 

「大丈夫ですよ。それよりも、明日は朝から行くのですよね? 市場はかなり混みますのでお含みおき下さい」

 

「はい。ふふっ、楽しみですわ()()()。ネイサン様、昼食も青空市でとりたいのですが宜しいでしょうか?」

 

ん? 色々と? 気のせいか微妙に含みがある様な気がするんだが。

 

「青空市で昼食ですか? しかしあそこには漁師や買い物客用向けの屋台しかありませんが。しかも椅子もテーブルも無い屋台が殆どですよ」

 

「はい。少々お行儀が悪いかも知れませんが、私は青空市の屋台で食べたいです」

 

あそこの屋台はテーブルも椅子も基本的に無い店が多い。買った奴は立ち食いが基本だ。

中にはテーブルだけ置いてある店もあるが、それは屋台で買った物を置く為に置いてあり、客はそこに買った食い物を置いて立ち食いしてる。

屋台のテーブル以外にも、魚市場が用意したテーブルもあるにはあるが、数は決して多くはない。

 

この前アマンダと屋台に行った時は、アマンダが岸壁沿いで食べようと言ったが、俺は最初テーブルに買った物をのっけて食おうと思ってた。

だがそのテーブルが全て埋まっており、それにアマンダが岸壁の所で食べようと言ったので、岸壁沿いの横、やや窪みになっている所に座って食べた。

 

岸壁であるから海沿いで、風がモロに吹くからか人が少なく、魚市場側にあるあの場所は海を横手にしつつ、風がそこに吹き込まず中々快適だったな。

あそこは穴場だ。もしあれが夏なら岸壁側に座り、岸壁から足をブラブラさせながら海を見て、海風を感じながら食べるのも良いかも知れない。

 

『守長、ここ意外と暖かいね』

 

アマンダが笑いながら、そして嬉しそうにしていた顔を思い出す。

冬場でしかも海沿いなのに、何故か俺もアマンダも暖かさを感じた。

 

何故だろう? 座っていた木箱にクリーンを掛けたとは言え、お世辞にも綺麗とは言い難い木箱の椅子に、テーブルも無く、膝をテーブルにして屋台の食い物を食ってただけなのに、それなのにどんな高級店や、それこそ帝城でのパーティーで食った物より、そんな物よりもあの屋台で買った物を二人で笑いながら、あーでもない、こうでも無いと言いながら食った物は本当に美味かった。

 

あの岸壁にあった魚市場側の窪みは、冬の寒さも、海風の冷たさも感じさせず、只々暖かく只々、そして……。

 

「ネイサン様?」

 

「失礼。どうされましたか?」

 

「いえ、ネイサン様が何やら、お考え事をされていた様ですが?」

 

「申し訳ありません。明日は晴れれば良いなと思いまして。それに風が強く吹くと事だな等、その様な事を考えて居ました」

 

まさかあの日のアマンダとの事を、考えてたってバカ正直に言えんわな。

 




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