異世界灯台守の日々   作:くりゅ~ぐ

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第21話 サザビー帝国海事法

 

風が吹いている

 

大分 収まってきたがまだまだ強い

 

もう暫くすれば収まるのだろうか?

 

まるで風が鳴いているかのようだ

 

もう少しで己の身が朽ちる事を嘆き鳴きそして泣いているのだろうか?

 

 

「守長どうだね? 何か見えたりは?」

 

「いや、何も見えないな相変わらずだよ」

 

アイザックのじい様がまるで期待していない声で聞いてくる。

 

じい様も分かっているんだ、それでももしかしてと思ってるんだろうな。

 

人はそれを希望と言う。

 

確かパンドラの箱から最後に出てきたのも希望だったか?

 

だがその希望こそが最も足る厄災だと言ってた奴が居たな。

 

「じい様、浜に打ち上げられる事もあるよな?」

 

「ん? あー…… だがその場合余程に運が良くないと大概なぁ・・・」

 

まぁそうだよなぁ、その場合墓に入れるだけマシか、いや待てよ、南方諸島の一部の国では遺体を海に流す、いや還す風習がある国があったな?

 

それ以外の国でもその様な風習の地域もあったはずだ。

 

身元の分かるものを身に付けていればいいが

着けて無い奴らも居るんだよなぁ。

 

これが帝国の船乗りなら左胸に名前と所属先、

国名に船の名前、商会名、宗教、その他特記事項、

それらが書かれた物を縫い付けてある、

それに加えて身元札と言われるドックタグの様なのを首から掛けてるからまだ分かりやすい。

 

だがそれは帝国の船乗りの場合だ、

なにしろ法によって定められてるからなんだ。

 

だが南方諸島ではそのような法は無い、

むしろそんなもん身に付けてたら悪いもん呼び込んじまうとか、精霊にそっぽ向かれてしまうって言ってやらない奴らが多いんだよなぁ‥‥

 

後は縁起でもないとかゲンが悪いってのも多い。

 

いざと言う時の事考えたらやるべきなんだが、

縁起担ぎとかゲン担ぎって結構大事だから分からんでもないんだ。

 

とは言え‥‥

 

この様な状況ではあったら色々便利なのにとは思ってしまう。

 

刺青でも判別可能だが、あれって知り合いじゃ無いとあんまり意味が無いんだよな。

 

腕に何らかの刺青があっても知り合いでは無い人間からしたら誰か何て分からないんだから。

 

あー 気が滅入るな‥‥

 

1人でも多く助かって欲しいと思ってたがこの状況だと1人でも助かって欲しいになってしまっているよ。

 

海は相変わらず荒れている、

だが雨風は大分収まってきたような気もする。

 

俺が居る窓は雨天幕を横にズラしているが、大分マシにはなってるのが分かる、だがまだまだだよなぁ。

 

さてと、自分にクリーンをかけて乾燥もかける、

うん、綺麗になったし完全に乾いた。

 

「なぁじい様」

 

「どうしたね守長?」

 

じい様は篝火に薪をくべながら返事をしてる、

相変わらず手際がいいな。

 

「うん、南方諸島ではその‥‥ 死者は海に還す国や地域もあるだろ? だから埋葬は出来ないし、

今まではどうしてたのかと思って」

 

「あー なぁ‥‥ アレややこしいんだ、寒い季節なら暫く安置しておけるんだけどこの季節はなぁ‥‥」

 

「決まりでは身元が分からん遺体はその国のやり方や流儀で葬儀を行って死出の旅路に送り出すだろ、でも身元が分からんが南方諸島の人間って分かる遺体は今までどうしてたんだ?」

 

じい様は不思議そうな顔をして納得したみたいに「あー」と言い何度も頷いた。

 

「守長は書面ではやった事あっても実際やるんは始めてだったかね?」

 

「そうだな、今回もし遺体が出てきたら初めての事になるな、嫌な言い方だが俺達官吏‥‥ 上の役職の官吏は現場研修の時に今回みたいな事に当たらん限りやらないな、基本的に下級官吏の仕事だ、俺達は書面上だけの事だからなぁ」

 

実際バハラに居た時も軽微な事故が何件かあってその処理をしたが書面上の事だった。

 

「守長はバハラに居た時は事故が無かったのかね?」

 

「あったよ、と言っても船同士が軽く衝突して何人かのケガ人、と言っても軽傷者が出たのが2件に、船同士が擦った擦らなかったってのが確か5件あったぐらいだな」

 

俺がバハラに居た時はそんな程度の事しか無かった、大体港の中やその周辺なら基本的にすぐに救助に行ける、今みたいな状況なら話が変わるが、俺がバハラに居た時は今の様な状況になった事は無かった。

 

「あー なるほどのう、なら今回が初めてか、

基本的には帝国式でやるんじゃが守長によって違う時もあったな」

 

「ん? と言うと?」

 

じい様の話では基本的には帝国式でやるが、

南方諸島の人間とおぼしき不明者は

今までの歴代守長によっては

南方諸島式でやる事もあったらしい。

 

要は気持ちを込めて死者を送り出す事が大事なんであって、やり方には拘る必要も無いとの事だ。

 

とは言え……

後で揉めたりしないのだろうか? そう思ったが

 

「まぁ本人も家族も、周りの人間も分かっとるよ、

尊厳ちゅーんかいの、気持ちさえ込めてくれれば文句は無いと思うな、船乗り何てそんなもんよ、覚悟して船に乗っとるんだから」

 

「ならややこしいってのは?」

 

じい様がため息を吐いた。

 

どうした? 何かあんのか?

 

「あー 何と言えばええのか‥‥ その‥‥」

 

ん? 何で言い淀む?

 

「じい様、何か言いづらい事でもあるのか?」

 

「うん‥‥ その気を悪くせんで欲しいんだがの

やり方にケチ‥‥

口出しされての、葬儀のやり方で意見の相違ちゅーのが起きて、遺体がそのまま安置されたままって事があったりでの、暑い時期じゃと‥‥」

 

何とな~くだけど分かった気がする。

 

「官吏同士が揉めたか、縄張り争いか?」

 

「まぁそんな所かの」

 

じい様が困った顔をしてる、何でだ?

しかしおかしいな、基本的にハルータでの事は

この地に居る官吏に任されているはずだが‥‥

 

バハラの官吏が自分の権威を見せ付ける為に

意見を押し付けた?

 

あり得るな、それでお互いの面子をかけた争いになり、遺体が安置、いや放置されて葬儀をそっちのけで主導権争いでもしたか?

遺体をほっといて葬儀も出来ず、しかも夏場で‥‥

 

「じい様もしかしてだが……………… 」

 

 

 

 

やっぱりそうか俺の想像した通りか、

そりゃじい様も困った顔するはずだよ。

 

説明しようと思ったら官吏のアホさ加減を言わなければならない、事実ではあるが反面悪口にもなるからな。

しかし‥‥ 遺体そっちのけで主導権争いって‥‥

 

あまりにもアホ過ぎるだろ、

まぁ面子ってのは大事だそれは分かるし、

官吏達は面子を事の他大事にしてる。

 

しかしなぁ、流石に遺体をほっといてそれはいかんだろ。

 

じい様達もさぞかし呆れただろうな。

 

結局当時の守長の意見が通り、帝国式で埋葬したそうだ。

現実問題として早く処理しないと疫病の原因にもなるし、何より臭い(におい)が凄かったそうだ。

 

じい様いわく、それが起きたのは50年くらい前との事だが、遺体を安置していた場所は臭いが収まったのが30年程前らしい。

 

てか20年も臭いが取れなかったのかよ?

流石にそれは大げさなんでは?

そう思ったがじい様は本当の事だと言っていた。

 

じい様が大人になる前の話だが、

『今でも良く覚えている』と凄く嫌そうに言っている。

 

大掃除の時などその部屋に入るのが嫌で嫌でしようが無かったらしい。

 

しかし、当時まだ若かったじい様が良く覚えていると言う事は、その官吏と当時の守長はどんだけ醜い争いをしたんだ?

 

まさに醜態以外の何物でも無いな。

 

しかし‥‥

 

そう言えばやけに皆が避けてる部屋があったな?

 

しかも、避けてるのは年寄り連中ばかりだった、

一部若いのも避けてたが基本的に年寄り連中は皆嫌そうな顔して避けてた。

 

若いのは年寄り連中にその話を聞いてた奴らか?

 

「じい様、何で教えてくれなかった?」

 

俺の問いにじい様はバツの悪そうな顔してやがる。

 

「いやまぁなあ、随分と昔の話だし、

今更いちいち言わんでもええかと思ってのう」

 

「いやいや、言ってくれよ」

 

「すまんすまん」

 

じい様め、笑って誤魔化そうとしやがって‥‥

 

いやまぁ別に幽霊が怖いとかじゃ無いんだ、

ただなぁ、20年も臭いが取れなかったってのが

何か嫌だな‥‥

 

話を聞き終わった俺は、その部屋にクリーンをしつこい位に掛けようと心に誓った、

じい様連中が止めようがお願いされようが絶対にやる、うん今からやろう、そうしよう、

そんで今回の遺体安置所に氷を大量に置いておこう。

 

 

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