変身せよ、強き自分へ 臆病者は変われるか? 作:カフェイン中毒
「イズ!フューリーさんは!?」
『現在車を降りて下水道に入られました。車の自爆システムを作動させるように仰せつかってます』
「逃げ切れたのか……?まあ、とにかく今は」
『はい、逃走箇所への部隊の到達を阻止することが最優先かと』
「オーケー、じゃあ……もうしばらく付き合ってくれ」
ライズホッパーを起こして跨りながらイズに状況を聞く。どうやらフューリーさんは車じゃなくて地下に潜って逃げることを選んだようだ。もともとスパイのプロフェッショナルな彼を広大な下水道で探すことは容易じゃないだろう。今から俺がやることは彼が逃げ切るまで囮になることだ。
『フューリー様よりの伝言があります。「Cに従え」「誰も信じるな」とのことです』
「また回りくどいね……」
どうやらライズホッパーを起こす必要はなかったらしい、俺のいる道路に入って来た警察車両と軍用車から降りてきた人間たちがアサルトライフルやショットガンを構えて俺に無警告で発砲してくる。カンカンカン、とむなしい音を立てて銃弾が跳ね返される。
「どけ!」
「流石にやりすぎじゃない、かっ!」
俺に銃弾が効かないことは分かり切ってたらしく、出てきたのはみんな大好きロケットランチャー、発射された弾頭を拳で迎撃する。大爆発、だけど踏ん張ってたので俺は動かない。煤けた装甲を気にせずに、俺は刺さっているプログライズキーを押し込んで、車に向かって突っ込むのだった。
「結局、Cってのは何なんだろうなあ」
『何かの頭文字と推察しますが情報が不足しております』
翌日の事、俺はフューリーさんの情報を得ることが出来ず、残された伝言も分からなくてどうにも困っていた。昨日は結局、車両を全てぶっ壊して派手に暴れるだけ暴れて空を飛んで撤退した。今俺がいるのはニュージャージー州だ。ワシントンの自分の家に戻るとどうにも足がついて面倒くさそうなので、イズにトラックを持ってきてもらうまで適当なホテルに泊まって、一夜を過ごした。
S.H.I.E.L.D.のメンバーじゃない俺がS.H.I.E.L.D.の機密にアクセスすることはできない、ハッキングすればできなくはないが腐っても国の最前線を担う組織の防御は固い、いくらゼアと言えど気づかれずに侵入するのは骨だ。気づかれていいのなら余裕らしいんだけど、つまり今俺は情報不足にあえいでいるわけだ。
「とりあえずワシントンに戻ろう。トラックはもう来てるよね?」
『はい、現在ハイウェイを通行中です』
「じゃあ来るまで寝ることにするよ。帰る前にニュージャージーでなんか観光していこうか」
『観光地の選定をしておきます。良い夢を、ハルト様』
正直昨日の戦闘の疲れが抜けてなかった俺は、ホテルのランチをかきこんだ時点でどうしようもない睡魔に襲われていた。フューリーさんが逃げ切ったことを信じるしかない以上、彼の残した伝言を俺が理解してそれに従う必要がある。観光だなんて冗談めかしているけど、休んだらすぐにワシントンに戻って情報収集しなきゃ。
「イズ、今何時?」
『午後8時と13分です。睡眠時間は7時間と43分』
「細かいところまでありがと、とりあえず帰ろうか」
ベッドの上で目覚めたのはもうすでに日が完全に沈んでしまった夜になってからだった。イズに聞くとがっつりと眠ってしまったらしいのでもうそろそろワシントンに戻らないとサムさんが心配するだろう。メールと電話で出張してくるとは連絡したけど急なのは急だったから。うーん、いい加減誤魔化すのもきつくなってきたしそろそろ話すべきかなあ。
お金を払ってチェックアウトを済ませると、ホテルの車止めにちょうど俺のトラックがイズの操作でやってくる。ある意味でVIPみたいな感じだな、と思いつつ助手席に乗り込んで出発後に運転席に移動してハンドルを握った。ここからだとウィートンの道路を通ったほうが早いかなあ。
イズのナビに従って運転すること少し、眠ったお陰かすっきりとした頭を持て余していると俺のライズフォンがけたたましい音を立てて警告音を発し始めた。ビックリとして慌てた俺にイズが警告音の内容を教えてくれる。
『ハルト様、短距離ミサイルです!発射先はキャンプ・リーハイ、現在は廃墟になっている軍事施設です』
「廃墟にミサイル……?おかしいね、近くまで行って様子を見に行こうか?何かあるかも」
『その、お勧めできません。現在空をS.H.I.E.L.D.の航空機が飛んでいます』
「猶更いかないとダメじゃないか。ハイウェイ降りたら逆反射パネルを起動して。ステルス全開で」
『了解しました』
キャンプ・リーハイは山中にある。S.H.I.E.L.D.は敵に回ったと考えていいだろう、フューリーさんを襲ったやつらの車の中にS.H.I.E.L.D.のストライクチームの車があった。バートンさんと任務をするうちに知識だけ教えてもらったキャプテン・アメリカ率いるチームだ。もしかしたらキャプテン・アメリカとも戦うことになるかもしれない……。
イズの報告でミサイルがキャンプ・リーハイに着弾したことを知らせてくれた。山中の爆炎を捉えることは難しかったが幸い過疎地域なので俺以外行く車はいない。そして、上から俺は逆反射パネルとステルス機能により見えなくなっている。電気自動車なので音も小さければ排気ガスもない。ライトも消してカメラで捉えた映像でイズが運転してくれている。
『前方にS.H.I.E.L.D.の航空機を発見、ルートを変更し一時停止します』
「じゃ、一旦俺は外に降りるよ。様子を見るだけだから待ってて」
そう言って俺は俺たちに気づかずキャンプ・リーハイに向かう航空機の姿が見えなくなってから車を降りる。車止めに姿を現した俺のトラックにもたれかかって外で何が起こってるかを観察する。何かが焦げる臭いにおいが近くにミサイルが落ちていたことを如実に表していた。
さてどうするか、キャンプ・リーハイに行くべきか、それともこのままニュースになるのを待つべきか。フューリーさんと連絡が取れれば一番いいんだけど……そう考えながらトラックにもたれかかって考えを纏めようと四苦八苦しているとがさごそと目の前の林が揺れる。誰かいたのか!?気づけなかった!咄嗟に懐に手をやってドライバーを掴む、銃を掴んだように見せつけるためと万が一のためだ。
俺が目の前の林を脂汗を流しながら警戒していると林の中から大柄な影が姿を現した、いよいよ人前で変身するか、と思ったけど見知った顔なことに気づいてしまった。林の中から現れたのは煤けた私服に身を包み、丸いシールドを手に持った男の人……キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースと彼に支えられるブラック・ウィドウ、即ちナターシャさんだったからだ。俺が懐から手を抜いたタイミングでロジャースさんが声をかけてくる。
「すまない、驚かせた」
「……どうしてこちらにいるんですか?ああ、俺はニューヨークからの帰りで、今さっき爆発音がしたから見に来ただけです」
「……少し、複雑なんだ」
「中で話を聞きます。なんだか訳ありみたいですから、乗ってください」
実際ニューヨークの帰りでニュージャージーを経由することもあったので嘘ではあるが真実でもある。だけど、無傷ではあれど汚れまくったシールドとほとんど気絶して朦朧としているナターシャさんの様子を見る限りあまりいい状況ではないようだ。後ろのドアを開けてロジャースさんたちを促すと、彼らは警戒しながらも乗ってくれた。俺は運転席に戻って静かに車を出す。
「イズ、逆反射パネル起動して。あと監視カメラ誤魔化して……周囲の無線を傍受」
『了解、逆反射パネル起動。オラクルグリッドへ侵入、無線を傍受します』
「君は一体……」
「必要なら後で話します。信用できないのでしたら貴方たちの行き先に案内して俺は去りましょう。イズ、ベッド出して」
ベッドが展開されるとロジャースさんはナターシャさんをベッドにおろして、自分もそこへ腰かけた。シールドを立て掛けて、大きく息を吸う。相当なことがあったようだ、もしかしてミサイルの爆心地にいたのだろうか。そしたらなんで生きてるとしか言いようがないが……流石は超人兵士というべきだろう。
「すまない……助かったよ。その、僕たちを助ければ君に危害が及ぶかもしれない。適当な大通りに着いたら降ろしてくれても大丈夫だ」
「本当にそれでいいんですか?トニーさんが作ったこの車なら監視カメラにも目視でもバレずに行けますけど」
『戦車砲の直撃を受けても問題なく走行が可能です』
「ああ、それでいい。君を巻き込むわけにはいかない」
山道を走りながらそう問答する。どうやら詳しいことを話してくれる気はないらしい。当たり前の話か。それならそれで俺から情報を明かすべきだろう。今さっきこの人に会ってフューリーさんの伝言の意味が分かった。「Cに従え」……C、captain、キャプテン・アメリカに従え。そういうことなのだろう。
「フューリーさんが襲われたのと関係がありますか?」
「っ!?なぜその名を知っている!?答えろ!」
俺のその言葉でシールドを跳ね上げて腕につけたロジャースさんが臨戦態勢に入って尋ねてくる。寝たふりをしていたらしいナターシャさんが拳銃を抜いて俺に向けていた。一歩間違えば殺されるだろうなあ、と思いつつ運転をイズに任せて俺は両手をあげる。そしてそのまま懐に手を入れ、ドライバーをロジャースさんに放り投げた。ベッドの上に落ちたドライバーを見た二人が、息をのむ。
「見覚えがあると思います。ニューヨークではお世話になりました」
「君が……君がゼロワンだったのか……!?」
「はい。フューリーさんとは去年のクリスマスに知り合いました、マイアミの埠頭の件と言えばわかってもらえると思います。それでまあ、雇われてました」
「そう、だったのか……フューリーのやつ……ナターシャ」
「知るわけないじゃない。知ってたら流石に言うわよ」
盾と銃を下ろした二人が沈黙する。俺は運転席を立って後ろに行った。イズのホログラムが運転を代行し、俺は二人の前に座る。改めて二人も居直った。
「俺はフューリーさんが連絡を断つ前に「Cに従え」「誰も信じるな」という伝言を受けてます。Cというのはきっとあなたのことです、キャプテン・アメリカ。協力させてください」
「……ワシントンの、とある場所に行ってほしい。詳しくはそこで話したい」
「サムさんの家、ですか?」
「知っているのか?」
「お隣さんなんですよ」
世間は狭いってやつだ。ロジャースさんが伝えてくれた住所はサムさんのものだった。多分俺に出会わなかったらサムさんの所にそのまま行ってたのだろう。それならそれで俺と遭遇したかもしれないけど。俺は冷蔵庫をあけて中からミネラルウォーターを取り出して二人に渡した。
「きっと何か大事なんだとは思いますけど……休めるときに休んでてください。ドライバーは渡しておくので。それがなければ俺のスーツは使えません」
「それには及ばない。君が僕を信じてくれるなら、僕も君を信じよう。聞きたいことは山ほどあるが」
藪蛇つついたか?という俺の苦々しい顔を見たナターシャさんは猫のように笑っていた。俺は諦めて質問攻めを素直に受けることにするのだった。
「サムさーん、起きてる~?ちょっと用事あるんだけど!」
「おー、ハル。お前どこまで行って……なんかあった?」
「すまないが、匿ってほしい」
「知り合いが全員殺しにくるの」
「……俺とコイツ以外はな。入ってくれ、ハル。朝飯作ってくれよ、俺はちょっと話があるから」
「うん、あと俺もサムさんに言わなきゃいけないことがあるんだ」
明け方になってワシントンの俺の家に着き、隣のサムさんの家をノックする。俺だということが分かってたからなのかサムさんがあっさり扉を開けてロジャースさんとナターシャさんを見て眉を顰めた。二人の言葉に何かを察したサムさんが二人を招き入れて、話し合いの場を設けるのと俺に話を聞かせないためにキッチンに追いやろうとする。俺も話すことあるんだけどな。
いい加減、俺も腹をくくるべきだと思った。ロジャースさんもナターシャさんも俺がサムさんに話していないということは道中で話してあるし、何も言わない。だけど俺もこのまま隠し続けるのは苦しいし嫌だ。だまして、嘘をついていたことを謝りたいんだ。たとえそれで絶縁されても、しょうがないとは思う。
3人をベッドルームまで見送って、俺はキッチンに入る。手を洗って消毒して冷蔵庫の中から食材を取り出しながら、スマートウォッチを起動する。表示されたホログラムの連絡先一覧から二つの連絡先を呼び出して、グループ通話をかける。どうやら二人とも時間があったみたいですぐに出てくれた。
『やあ、ハル。随分朝早くの連絡じゃないか。どうかしたのか?』
『ハルト、どうし……スターク?』
『バートンじゃないか、最近どうだ?』
「おはようございます、お二人とも。少しお時間いいですか?どうも、世界の危機らしくて」
俺は電話口に出てくれた、アイアンマン、トニー・スタークとホークアイ、クリント・バートンに対してそんな言葉を投げかけるのだった。
鋼鉄の男と鷹の目が参戦します。同じユニバースにいるからね、仕方ないね。やったねキャプテン!アッセンブルできるよ!当然ですが敵側にもてこ入れ入れないと面白くないのでいろいろやりますのでお楽しみに。
あれもしかしてこれヒーロー側過剰戦力……?いやそんなことはないはず、戦艦相手なら……やっぱ過剰説ある……?
では次回お会いしましょう。感想よろしくお願いします!