変身せよ、強き自分へ 臆病者は変われるか? 作:カフェイン中毒
君だ、の一言で俺に視線が集中する。ヘリキャリアの言うなれば要となる部分を破壊することが出来る人物、トニーさんはそれに俺をあげた。できるかできないかでいえば、出来る。ライジングホッパーではなくその上の形態に変身して、リミッターなしの全力で必殺技を放てばトニーさんの言うようにヘリキャリアを真っ二つにすることはできるだろう。乗っている人員の命を全て犠牲にする、という注釈が付いてしまうが。
「ここにいる面々は分かってると思うが、ハルが持ってるスーツのパワーは現行のテクノロジーを大きく上回る。破壊力も、ニューヨークで実証済みだ。これが僕が現時点で提案できる最も効率的かつ簡単で、時間がかからない作戦だ」
「おいスタークさんよ、それは流石に……」
「理にはかなっているな。衛星へリンクするヘリキャリアはクインジェットのパイロット以外は無人だが、統括機体には人が乗る必要がある。ゼロワンがいくのが最も安全だろう」
「フューリー!」
「四の五の言ってられないのは分かるはずだ」
俺が人殺しのスイッチを入れるという前提の作戦に難色を示したのはサムさんとスティーブさん、トニーさんも提案はしてみたものの余りいい気はしてない様子だ。ナターシャさんは中立、そして完全に賛成の立場にあるのがフューリーさん、まあ予想通りというか何というか言っときますけどこれ半分貴方の組織のせいですからね?
さて、俺にできるだろうか?破壊そのものは出来ると断言できるが、その場で俺は何百もの命を自分の意思でゼロにする覚悟が持てるだろうか?土壇場で怖気づいて逃げたりしないだろうか?初めて変身して命を奪った時のように。今までは誤魔化してこれたがいつか直面することに今直面している。やれるか?殺せるか?俺に。エイリアンではなく人を殺すことが。いや、やらなければならないんだ。ヒドラの命も、そうじゃない命も奪う覚悟をする時が来た、それだけ。
「やりま「ただ、時間がかかって戦力が減って非効率的かつ難易度が上がっていいなら、もう一つ手段がある。たった今思いついた」」
「……聞かせてくれ」
俺が作戦を受け入れようと口を開くのと被せるようにトニーさんが発言した。トニーさんは頷いて改めてヘリキャリアのホログラムを表示して今度はリパルサーエンジン4つをポイントしつつ説明を始める。
「まず前提としてさっきの作戦と比べれば成功率は低いだろう。ハルの持ってるAIを統括ヘリキャリアに接続して主導権を奪う。そして水上に誘導し、キャプテン達がインサイトヘリキャリア4つの回路を入れ替えた瞬間から10秒以内、つまりインサイトヘリキャリアの制御を取り戻される前に、リパルサーエンジン4つを同時に破壊する」
「……なるほどね、リパルサーエンジンを破壊すれば電力が断たれるってわけ?」
「そうだ、いくらヘリキャリアでも同時に主電源を失えば補助電力に切り替わっても不時着が精いっぱいになる。だが、ゼロワンという大きな戦力がヘリキャリア一機にかかり切りになる。さらには、失敗すればヘリキャリア5機を生身の人間とスーツを着た一人でどうにかしなきゃならなくなるだろう。まあ、あえてメリットを上げるとすれば」
「ヘリキャリアに乗ってるヒドラの命を救える」
トニーさんの言葉を引きついだのはスティーブさんだ。彼は口元に手を当てて思案をしているようだった。トニーさんは今度こそ空っぽだ、といって椅子に深く腰掛ける。フューリーさんは無言、だがおそらく前者の作戦を推したいのだろう。さっきスティーブさんに全権をゆだねたから口出しはしないつもりらしいけど。俺も、スティーブさんに任せよう。どっちになってもやってやる、やってやるんだ。逃げないって決めたから。
「……後者だな。みんな、付き合ってくれ。ヒドラは滅ぶべきだが、人命はそれより上だ。助けられる命は助けよう。それに、乗組員の全員がヒドラだとは考えにくい。もしそうなら、僕らはとっくに殺されてる」
「いいのか?「頭を落としても二つの頭が生えてくる」……残したやつらが二つ目三つ目の頭になるかもしれんぞ」
「そしたら何度でも刈り取ってやる。罰を受けた上でまたやるなら何回でも止めるさ」
「頑固ジジイめ」
「よく言われる」
確認するようにフューリーさんはスティーブさんに皮肉を言うがそれをスティーブさんはさらりとかわした。ナターシャさんもしょうがなさそうな顔をしているが反対意見は言わず、トニーさんは肩をすくめて終わり、サムさんは元からスティーブさんの指示に従うつもりだったから特に何もない、そして俺も反対しない。
「よし、作戦は決まった。各自休んでくれ、作戦開始は1時間後だ」
スティーブさんのその言葉に、俺たちは頷くのだった。
「キャプテン、少しいいか?」
解散から30分後、椅子に座って休んでた俺の隣の机で携帯だのパソコンだのを分解していろいろ組みなおしていたトニーさんがUSBサイズの何かを完成させて机の上に放り、そのタイミングで戻ってきたスティーブさんに話しかけた。彼はトニーさんが自発的に自分に話しかけてきたことに少しだけ片方の眉をあげて疑問を持ったようだが今回の件に関係あることだろうと思ったのか聞く体制に入った。
「手短に頼む、戦闘服を取りに行きたいんだ」
「おお、それならちょうどいい。プレゼントがあるって言ったろ?ほら」
そう言ってトニーさんは持ってきたひときわ大きなアタッシュケースを開ける。するとそこには、かなり古びてはいるけど状態は完璧に近いであろうキャプテン・アメリカのコスチュームが入っていた。けど、なんか違うな……あ!思い出した!これ最近博物館でやってたキャプテン・アメリカの生還を祝ったイベントで展示されてた70年前当時のコスチュームにそっくりなんだ!いくつか違いはあるけど、レプリカ品の展示物と違って生地もしっかりしてるし、頑丈そうに見える。
「それは……?」
「……父が事故で死ぬ直前まで作っていたものだ」
「ハワードが!?」
「ああ、君の装備品やコスチュームを作るときの参考にしようと思って遺品からアベンジャーズタワーまで持ってきてた。父は君が生きていると信じていたんだ、僕の成績や才能ばかり気にしていた父が僕に話す数少ない例外が、君だった」
そう言ってトニーさんはコスチュームをスティーブさんに渡す、卓上に広げたそれを見たスティーブさんは、それを見て懐かしむように言葉をこぼした。
「……僕が最後にリクエストしたものが、きちんと反映されてる。ハワード、さすがだ」
「一部未完成な部分は僕が手を加えさせてもらったが、色塗りくらいだったよ。だからそれは正真正銘、父が君のためだけに作ったものだ。そしてこれも」
トニーさんはアタッシュケースの底から、革製のガンベルトと拳銃を取り出した。拳銃はコルトM1911ガバメント、まだアメリカ軍に採用され続けている傑作自動拳銃、けどどうも拳銃店で見慣れているデザインではない。グリップの青と赤の星条旗の星っぽいデザインとか特にそうだ。
「これも、父が君専用にカスタマイズを施したものだ。手の大きな君に合わせてグリップを調整し、ロングマガジンで装弾数は12発。君にドイツで初めて会った時から渡すべきかどうか悩んでた、けどやはり渡さなきゃいけないと思ったんだ。それは、僕に遺されたものじゃないからね」
「スターク……これは」
「受け取れない、なんて言うなよ?僕は僕に遺されたものをきちんと受け取ったんだ、君宛のものを届けたに過ぎない」
銃身をもってM1911をスティーブさんに差し出したトニーさん、スティーブさんはトニーさんに差し出されたそれを見て断ろうとする。けどトニーさんが機先を制して釘を刺した。トニーさんの父親のハワードさんという人物はどうやらスティーブさんの装備を開発していた戦友らしい。トニーさんは父親に対してあまりいい感情を持っているわけではなさそうだったけど、それを飲み込んで装備を持ってきたというわけか。
「それに今回の敵はヒドラ、なんだろ?父も戦っていた、ヒドラだ。最終決戦だっていうのに置いてけぼりは可哀想だと思わないか?キャプテン、父も連れて行ってやってくれ」
「わかった。恩に着るよ、スターク。ハワードも、僕の仲間だ」
「トニーでいい、父も僕もスタークだからね」
「じゃあ僕も名前で呼んでくれ」
スティーブさんはそう言ってトニーさんの手からM1911を受け取った。トニーさんは満足げにそれを見てパン、と手を叩く。それで意識を入れ替えたらしいトニーさんは俺に向き直ると同時にしっしっと手を振ってスティーブさんを追い出す
「着るのに時間かかるんだろうからさっさと着替えて来い。僕はハルと話があるから」
「……ああ、そうさせてもらう」
苦笑したスティーブさんはコスチュームをもって部屋を出ていく。トニーさんはそれを見送って作っていたUSBメモリのような機械を俺に見せる。そういえばさっきから気になってたんだけどそれなんだろう。
「というわけでハル、即席で悪いがこれが作戦の最重要アイテムだ。壊したりしないように全力で守ってくれ」
「え?なんですか、これ」
「統括ヘリキャリアに挿して君のAIが入り込む隙間を作る万能鍵だ。僕特製のプログラムが防壁をこじ開ける、その隙にイズに命令してヘリキャリアを乗っ取れ」
「そんな大事なものを投げてよこさないでください!落としたらどうするんですか!」
「僕が作ったものが地面に落ちた程度で壊れるわけないだろう」
まるでコントのようなやり取りをしながら、俺とトニーさんは和やかに話していく。先に着替えを終えたサムさんが合流すると、トニーさんは早速サムさんのスーツのヒアリングを始める、かと思いきや空を飛ぶことについて語りだした。それにサムさんも乗っかり、ついでに俺も飛べるっちゃ飛べるので乗っかる、なんと飛行機のパイロットもできるらしいクリントさんも加わり、飛行談義に花を咲かせるのだった。
「いくぞ。さっきは飛んだあとのことを相談したが、飛ばさせないという選択肢もある。トニー、頼んだぞ」
「ああ、出来る限りやってみる。バートン、守ってくれよ」
「ノイズ一つ聞こえないようにしてやるよ」
クラシックなコスチュームに着替え、腰にガンベルトを巻いたスティーブさんが最終ブリーフィングを開始した。まず実働部隊、というかメインの戦闘は俺、スティーブさん、サムさん。S.H.I.E.L.D.を中から引っ掻き回すのがトニーさんとフューリーさん腹心のマリア・ヒルさんでクリントさんはその護衛役、怪我してるナターシャさんとフューリーさんは別動隊として正攻法で潜入するとすでに出発している。
で、俺は変身してGO!ではなくまだ生身である。なんでかといえば目立つから、蛍光イエローが超目立つから。ハイブリッドライズしようと蛍光イエローのアーマーは残るのでどうしようもない。潜入する前に気づかれると前倒しでヘリキャリア飛ぶかもしれないからアタッシュショットガン抱えて戦闘が避けられなくなったら変身するということになりました。
「ハル、緊張……はしてないみたいだな」
「サムさんこそ。俺はまあ、ほら……色々あって腹をくくる方法を学んだっていうか、さ」
アタッシュショットガンを変形させ、構えて、もう一度変形させて戻すという動作確認をしてきた俺に話しかけてきたのはごっつい飛行スーツを身に着け、赤いゴーグルをつけたサムさんだった。どうやら俺が実戦を前にして不必要に緊張してないかどうかを確認してくれたらしい。
まあ、ここ1年何度か俺も実戦を経験してるので緊張感は保ちつつも体が固まらない、動かないみたいなことはない。というかアメリカの危機は3回目だから変な意味で慣れちゃった。1回目はエイリアンで、2回目は大統領処刑未遂で、3回目が第二次大戦から続く秘密結社。そろそろバラエティーが豊富過ぎて胃もたれ起こしそう。
ああ、でも今回こそは人を殺してしまうかも、実戦のたびにそう思って幸か不幸かまだそうなってはいないけど……いつも戦いに赴くたびにそう思う、思ってしまう。けど、止まれない、止まってはならない。止まれば、この手で奪うかもしれない命よりも多くの命が失われる。ヘリキャリアが飛べば犠牲になるのは2000万人を超えるという試算がJ.A.R.V.I.Sとイズから示されているからだ。
「あんまり思いつめるなよ。お前のそれ、感覚が麻痺してる兵士のもんだぞ。いいんだよ、怖くたって。俺だって怖い」
「……そうかもね。でもサムさん、それを考えるのは後にするよ。今は、助けることだけ考える」
「アメリカを?」
「目の前にいる人を」
わかり切ってる答えをわざと尋ねるサムさんの胸をこつんと小突く、サムさんの鍛え抜かれた体はびくともしなかった、頼もしい。サムさんはお返しだとばかりに俺の胸を小突く、早く行こう。俺の中の勇気と決意が、しぼんでしまわないうちに。助けられるだけ助けるんだ。
ようやく次回から戦闘です。長かった~。トニーのプレゼントはトニーパパが作っていたスティーブの装備でした。トニーが後生大事に保管してたので古びていますが性能は博物館に展示してあったレプリカよりは高いです、当然ですね。
この作品ではこれ以降キャプテン・アメリカの装備にM1911が追加されます。強化といえば強化かもしれませんけど、こういうのもありかなと思って。
そして最後の感想、書いてて思った。これトニーか……?