変身せよ、強き自分へ 臆病者は変われるか?   作:カフェイン中毒

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リアライジング・ジャンプ

「JUMP!」

 

 ライジングホッパープログライズキーと同一のアビリティボイスでありながら、どこか違う起動音。俺が握っているのはゼロワンという存在の極致への鍵。ライジングホッパープログライズキー ゼロワンリアライズver……なっげえ。リアライジングホッパープログライズキーと呼称するけどそれでも長い。まあ御託はいい、つまりこいつがこの作戦の鍵だ、文字通り。

 

「AUTHORIZE!」

 

 ベルトの前にキーをかざすとオーソライズされてロックが解除される。同時に俺の後ろにイエローのバッタが降り立った。いつものごとく飛び跳ねるでもなく、号令を待つ犬のように頭を上下させているだろう。重低音の待機音が響く中、俺は片手で展開したキーをゼロワンドライバーに叩き込んだ。プログライズ!と音声が鳴る。

 

 「変身!」

 

 「イニシャライズ!リアライジングホッパー!A riderkick to the sky turns to take off toward a dream」

 

 ライダモデルのバッタが量子に分解されるように消え、ドライバーと反応する。いつものように鎧に変わるわけじゃなく分解された粒子が俺に纏わりついて徐々にゼロワンを形作っていく。下から上へ、俺の顔が仮面で覆われる。この形態こそがゼロワンとしての最上最高、最強の形態。ドライバーへの過負荷と引き換えに埒外の強化に成功した姿だ。文字通り、今までのゼロワンとは桁が違う。この戦艦だって真正面から潰せるほどに。

 

 「イズ、行くよ!」

 

 『はい!ハルト様!』

 

 協力プレイの相手であるイズにしっかりと合図をして俺はライジングホッパープログライズキーを取り出し、ベルトの前にかざす。その回数は、6回。そのままリアライジングホッパープログライズキーを押し込んで、必殺技の態勢に入った。

 

 「ビットライズ!バイトライズ!キロライズ!メガライズ!ギガライズ!テラライズ!」

 

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 「リアライジングテラインパクト!」

 

 気合の雄たけびを上げた俺の全身にエネルギーが迸る。ただでさえドライバーに過負荷をかけるリアライジングの状態で必殺技の強化を最高の6回重ねるという暴挙、全身から制御しきれない量のエネルギーがあふれ出す。碧と黄色のエネルギーを全身が覆う。ドライバーから火花が散る。ただ破壊するだけならここまではいらない。けど、中に人がいる以上、悠長に一つずつ4つのリパルサーエンジンを壊してられない!バランスが崩れるからだ!

 

 つまり、俺の絶対条件は、ヘリキャリアのバランスを崩すことなくリパルサーエンジンを壊すこと、その手段はほぼ同時ともいえるスピードで上から4回リパルサーエンジンをたたいて壊す!だから、強化に強化を重ねる。思考をゼアと同期する。繋がったゼアから最適のルートが流れてくる。スーパーコンピューターを凌駕するAIの思考能力を手に入れた俺が、上に飛ぶ、飛んだ衝撃波が雲を爆散させ、無事な砲塔を折り曲げた。

 

 「はあああああああああっ!!!」

 

 空中をエネルギーの爆発で空中ジャンプした俺は、右足を前に出してライダーキックの態勢で一つ目、右前のリパルサーエンジンを蹴りぬいた。余りの速度にすべての時間が遅くなってスローモーだ。爆発すら目で追えるほど遅い。その中でさえも今の俺の速度は速すぎるほど。イズとゼアの補助がなければとっくの昔に制御に失敗している。

 

 貫いた瞬間に空中を蹴り上げてまた上に戻り、今度は左後ろ、続いて左前を蹴りぬく。ビシリ、と嫌な音を立ててドライバーに亀裂が入った。イズからドライバーの損壊が30パーセントを越えたという報告。まだ持つ、最後の一発くらいは!再度空中を蹴りあがって飛び上がり最後の右後ろに向かって俺は青と黄色のエネルギーの残光を残しつつ、流星のように突っ込んだ。

 

 「はあっ……!はあ……!」

 

 視界のスローモーションが元に戻る。ドライバーの損壊でゼアとのリンクが切れかかってる。同時に上空から爆発音、コンマの差はあるもののほとんど同時に蹴りぬかれて壊されたリパルサーエンジンの爆発が多重に重なる。そしてそれと同時に他の場所に浮いてる4機のヘリキャリアがお互いにお互いを砲撃し始めた。どうやら一方に集中しすぎてもう一方の作戦の行方を確認できていなかったらしいが、無事成功しているようだ……よかった……。

 

 『ハル、気を抜くのはまだ早い、キャプテンが4号機から脱出出来てない。迎えに行ってくれ』

 

 「っ!?はい!」

 

 なんてことだ、スティーブさんがいる状態のまま撃ったのか!?なんで、じゃない。スティーブさんがそうしろって言ったのが音声ログに残ってる!水の上に爆発するように着水した俺が水の底を蹴り上げて大ジャンプし4号機のヘリキャリアへ向かうが、遠い!クソ!離れすぎた!ドライバーが壊れるまでに間に合うか!?

 

 『おい、クソなんてことだ!ウィルソン!すぐそこから離れろ!2号機が本部に直撃する!』

 

 「サムさん!?」

 

 青と黄色の残光を残しながら俺が全力で疾走して4号機のヘリキャリアへ向かってる途中にビルに向かって墜落しようとしているヘリキャリアが見える。トニーさんの通信を聞くに本部にはジェットパックを失ったサムさんがストライクチームのリーダー格とやり合ってる最中だと。まずい、まずい!どっちを助ける?どっちも助けないと!

 

 『サムの方へいけ!僕なら大丈夫だ!脱出できる!』

 

 『スティーブ!?どうやって出る気だ!?』

 

 『いつもスカイダイビングでやってる!サムの方が危険度が高い!僕を信じろ!』

 

 「……信じますよ、スティーブさん」

 

 どうしようか俺が足を止めずに迷っているとすぐさまスティーブさんから通信が入る。脱出できるからサムさんを優先しろと。引っかかるものがないわけではなかったけど、指揮を執ってるのはスティーブさんだ。なら俺はそれに従わなければいけない。素人判断よりプロの判断の方が信用できるから。俺は速度を上げて加速し、S.H.I.E.L.D.本部のビルへ向かう。

 

 「イズ、サムさんの位置は?」

 

 『北側46階です。ですが、推奨できません。変身を維持できる可能性が低く、賛成しかねます。右足の骨折、全身への負荷を考えると行動不能に陥る可能性が高いです』

 

 「ごめん!でも俺はいかなきゃならないから!」

 

 既にベルトの過負荷は致命的なレベルに達している。やはり、リアライジングだけならともかく、テラライズまでしてさらにその状態のまま超高速移動の上に必殺技のレンチャンときたらそれは確かに異常な負荷だろう。リアライジングそれ自体がゼロワンドライバーの設計限界を超えているのでそこにさらなる負荷を倍率ドンしたらこうなるのもしょうがない。

 

 おまけに吸収しきれなかった衝撃が中身の俺を傷つけている。うまい事誤魔化せているが右足の感覚がもうない。無理しすぎた!イズの強い反対を受けるがそれでもやらなきゃいけないんだ!

 

 『統括ヘリキャリア着水成功。S.H.I.E.L.D.本部46階北側への最適ルートを表示します』

 

 「ありがと、いこう!」

 

 イズの反対を押し切ると彼女は諦めたのか46階への最短ルートを表示してくれる。俺はそれに従って最速でS.H.I.E.L.D.本部を目指す。ビルにたどり着いた俺は左足だけ使って46階までジャンプで飛び上がり強化ガラスをタックルで突き破る。すると同時にヘリキャリアがビルに接触する。ミシミシメキメキと破滅的な音が鳴る。時間がない!急げ!

 

 「ハ―――っ!?」

 

 「なん―――!?」

 

 喋る余力はない。俺は奥のヒドラの戦闘員であろう男と、その手前にいるサムさんをひっつかんでそのまま46階からできるだけ遠くにジャンプするように飛んだ。壊れかけとはいえリアライジングのジャンプ力はライジングホッパーの数倍、一瞬でS.H.I.E.L.D.本部を離れる。二人抱えて着地する余裕もパワーも余ってない。俺は自分を下にして背中から地面に落ちて叩きつけられる。抱えてる二人は意地でも怪我させないようにだ。

 

 「ぐうっ……っつ痛ぅ……!」

 

 「ハル!?おいハル!大丈夫か!?」

 

 「だ、大丈夫です。それよりも……!」

 

 二人を手放した俺、転がったサムさんがいの一番に起き上がって動けない俺を揺する。俺は何とかそれにこたえながらサムさんの後ろでゆらりと起き上がった男が拳を振りかぶるのを見て咄嗟にサムさんを投げて自分が前に出る。その瞬間、ドライバーから大きな火花が散り完全に割れてしまった。変身が解ける。空気に溶けるように消えた仮面、素顔になった俺の顔を男の拳が捉えた。重い音を立てて殴り飛ばされる、視界がぐらぐらする……!

 

 「ハルっ!お前……!!」

 

 「……」

 

 頭を振って体を起こす。サムさんが怒りでこぶしを握り締めるのが見えた。だが男の視線はサムさんには向いてない。彼の目は俺を、まっすぐに俺を見ている。男はどうやら、俺を見て驚いているようだった。ゼロワンの正体が俺だっていうのが分かったからか?サムさんが拳を振るおうとズンズンこちらに向かってくると男は座り込んで両手をあげる。そして

 

 「……降伏だ。俺の負け、素直に逮捕でも何でもされてやる」

 

 「何?……どういうつもりだ」

 

 「そのままだ。お前らに正義がある様に俺にも俺の正義がある。今回だってそうだ。俺がヒドラに入ったのは世界を平和にしたかったからだ」

 

 サムさんが握った拳を振り下ろす先を見失かったかのように解いた。男は手をあげたまま自嘲気味に話し始める。

 

 「俺らが汚れることで平和を作り、次の世代に託す。そういうやつもヒドラにはいるってだけだ……託すべき次の世代に否定されたら、負けなんだよ。そういう、俺らみたいな汚いやつらは」

 

 それだけ言って、男は黙り込む。上空からヘリコプターの音がして、上を見上げるとヘリコプターが降下してくるところだった。ヘリのドアが開いて、クリントさんが飛び降りてくる。すぐさま男に弓を向けるが男に敵意がないことに気づいて弓を下ろした。そのまま手錠をもって男に近づく、男は素直に両手を出して手錠をかけられる。俺は、起き上がろうと体を起こすが、シャイニングホッパーすら使ったことない俺がいきなりリアライジングなんか使ったせいでバックファイアが起きて俺の体を散々に痛めつけてくれたおかげでうめき声しか漏れない。

 

 「おいハル、大丈夫か?」

 

 着地したヘリからトニーさんが飛び降りてきて俺の体を起こしてくれる。答える気力はあまりないが大丈夫です、とだけ答えて素直に肩を借りて立ち上がる。

 

 「ぐぅ……トニーさん、スティーブさんは……?」

 

 「喋るな。まだ見つかってない、J.A.R.V.I.Sがバイタルサインを確認してるから生きてはいる。迎えに行くぞ」

 

 立ち上がった時にバチッという破裂音がして俺の腰からドライバーがバラバラになって落ちる。トニーさんは残骸と化したドライバーの中からリアライジングホッパープログライズキーを拾い上げて俺に返してくれる。気になってはいるだろうに、何も聞かずに。クリントさんは男を連行するために残るといって、残る俺たちはヘリに乗り込む。操縦桿を握ってるのはフューリーさんだ。

 

 「手ひどくやられたようだな。麻酔だ、ないよりましだろう」

 

 「全部自業自得ですけどね。ありがとうございます」

 

 いつも通りの皮肉を言われ、投げ渡された麻酔をキャッチしたサムさんが俺に打ってくれる。右足はもともと感覚が死んでるからまあいいとしても全身に走る筋肉痛を10倍ひどくしたような鈍痛からは解放された。あー、くそ。もうちょいスマートに頑張れればなあ!後で自己反省会をしないと。そう思っていると麻酔の効果なのか意識が遠のいてきた。俺はそれに抗えず、そのまま暗闇に意識を手放すことにするのだった。

 

 

 

 「ん、あ……」

 

 「起きたか」

 

 「スティーブさん!よかった!無事だったんですね!」

 

 「君が一番重症だったんだぞ。ともかく無事目が覚めてよかった」

 

 ふっと意識が浮上した。眩しさに目を細める、消毒液の匂いがする。そう考えてると隣から声をかけられる。首だけ動かして、隣を見ると俺と同じくベッドに横たわっているのはスティーブさんだ。顔中擦り傷やら青タンやら腫れやらで結構ひどいことになってはいるが元気そうだ。そのスティーブさんに言われて自分の様子を見ると、ギプスを付けられた足が吊り下げられていた。あーやっぱだめだよねえそりゃ。

 

 「無茶しすぎました」

 

 「お互いな。トニーは「僕の知らない機能を勝手に使うのは禁止だ禁止」とぼやいてたよ……ありがとう。君が頑張ってくれたおかげで、ヒドラの野望を阻止することが出来た」

 

 「頑張ったのは、俺だけじゃなく皆そうでしょう。そうですねえ、治ったらパーティでもしませんか?祝勝会です」

 

 「そうだな、そうしよう。僕も久しぶりに……呑みたい気分だ」

 

 俺とスティーブさんはそう言ってお互い不格好な顔を歪めて笑い合うのだった。




 ラムロウ君無傷逮捕ルート解禁!リアライジングでも無茶が過ぎればまあこうなるよね敵な感じです。

 次回は祝勝会とその後のお話書きます。

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