変身せよ、強き自分へ 臆病者は変われるか?   作:カフェイン中毒

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ホッパー・インタールード

 昔の話を、しようと思う。昔と言っても4年前、俺が好奇心で無用に、無駄に、そして無理解のまま己が持つ力を無責任に使った時の話だ。これだけ言ってるように、当時の俺は何も知らなかった。己の持つ力の大きさというやつに。

 

 仮面ライダーと言えば前世ではよく知られた特撮作品だった。特別なベルトをつけた戦士が変身し悪をくじく、ドラマ性も高く子供から大人まで楽しめるストーリー。そしてその花と言えば戦闘にあるだろう。華麗なパンチやキックに必殺技、剣や銃を用いたエフェクトマシマシな攻撃。そのどれもが怪人を相手に放たれる。

 

 それがほんとに人に放たれればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだったのに。俺はどこかでこう思ってたんだ「ちょっと強化されるくらいだろう」なんて甘く考えてたんだ。今思い出してもどうかしてると思う。だって、8トンのパンチや40トンの威力があるキックを受けた人が無事どころか原型をとどめてられるわけないなんてちょっと考えればわかるハズなのだから。

 

 12歳の俺は遊びに行くと偽って、バッグの中に隠していたゼロワンドライバーにライジングホッパープログライズキー、そしてゼロツープログライズキーをもってちょっとした山の中に入った。危険だとしても仮面ライダーの力があればどうとでもなるなんてワクワクを隠せずに、これから俺は「特別」になれるんだと確信して。

 

 人間特別ってやつには憧れると思う。物語の主人公たちはいつだって誰だって特別だった。前世の18年の生の中で特別じゃなかった創作上の人物を俺は知らない。2度目の生を経た今、俺も特別になれるんじゃないかという妄想が実現してしまったのだ。そりゃー調子に乗ってしまうだろう。

 

 誰もいない、野生動物と虫と鳥の鳴き声が響く中、えっちらおっちらとけもの道を進んで少し広い場所に出て、俺はゼロワンドライバーを腰に巻いた。バックルを腰に当てると俺のサイズに自動でベルトが巻かれて固定されるのを見て何とも嬉しい気持ちになったんだ。そして、ゼアと俺は繋がった。

 

 ジャラジャラとバッグの中に入れていたプログライズキーの山からライジングホッパープログライズキーを探し当てる。ゼアと繋がった俺に流れてきたのは……善意、いや無垢そのものだった。それが感情だったかどうかはわからないけど、少なくとも悪意じゃないと断言できた。俺という人間を観察し、そして気遣っていた。負担にならないように、と。

 

 ラーニング自体は全く問題なく進み、俺はゼロワンのシステムを全て理解していた。メタルクラスタホッパーやシャイニングアサルトホッパー、そしてゼロツーの力でさえも使えることを理解していた。プログライズキーも全てある、この世界において強大な力を手にしたことを俺は喜んでいた。

 

 そのまま俺は変身した。ライジングホッパー、ゼロワンの基本形態。蛍光イエローのアーマーに身を包んだ俺は、試しに地面に落ちていた石を握りしめた。容易く石は手の中でリンゴのように砕け、バラバラになった。俺自身はそこまで力を込めたつもりではなかったが、ゼロワンのパワーの凄さをそれは物語っていた。

 

 大岩にパンチしたら、岩が拳の形に陥没し、殴り続ければ砕くことが出来た。キックはそこに生えていた杉の大木を一撃でへし折った。ジャンプ力は何十メートルもひとっとびで飛べた。正しく超人、スーパーマンだ。その時点で俺はただ力を振り回してただけだった。

 

 そして、夕方まで暴れまわった俺は、帰ろうとしたときにここが山の中だったことを思い出した。目の前にいたのは熊、あとで知ったが日本でいう穴持たずと呼ばれる冬眠に失敗した狂暴な奴だ。当然だが、俺は逃げた。当たり前だ、対抗できる力を纏っていたとはいえ戦う覚悟なんて持ってなかったから。幸いゼロワンの足は速い、そう判断したが逃げたのがまずかった。

 

 熊は逃げる俺を弱いと判断し、追いかけてきた。ゼロワンは走れば時速80㎞は出るがそれは使いこなせばの話、初めてつかうシステムにフォームなど考えず走っていればフルスペックなんて発揮できるはずもなく、その内追いつかれた。俺は破れかぶれに、腕を振って威嚇をした。想いっきりだ。そして偶然、それは四足で追ってきた熊の顔を捉えた。

 

 いやな感触と共に、熊の頭が破裂した。ザクロのようにと文学的には表現するが、それは頷けるし、同意できなくもあった。血にまみれた手と奪ってしまった命を前にして俺は無我夢中で荷物を取って山を下りて変身を解き、家の庭で吐いた。そしてそれから、もう変身することはなかった。

 

 遊び半分で使うものじゃなかったんだ、当たり前だけど。人を救う力は一転して人を壊す力にもなる、よくわかる理屈だ。それからはもう、プログライズキーも、ベルトも全部封印した。見ないようにした、忘れようとした。捨てて誰かが拾ったらと思うと捨てられなかったけど。

 

 まあそれからは、別段面白くも何ともないし、そう過ごそうともしなかった。親が流行り病にかかって、ほどなくして俺もかかった。すんでの所で救急車が間に合ったが助かったのは俺だけ。政府からの支援金で治療費は賄えたけど俺はハイスクールへの進学を断念して、自分で稼いで自分で生活をせざるを得なくなった。

 

 まあ、それからは順風満帆とは行かずともくいっぱぐれないですんだよ。前世は結局高校生で終わったし、それ以降のキャンパスライフも未経験だけどそれよりも今日の飯と明日のパンツだ。とりあえずそれがありゃ生きていけるからな。

 

 ここは自己責任が基本のアメリカ、自分で責任を負えれば大体のことはできる。許可を得てフードトラックを経営することだって。それからは、両親が残した自宅のおかげできちんと食うに困らない程度に生きていた。

 

 「サムさ~ん、タマゴいくつ食べる?」

 

 「3つ」

 

 「はいはい」

 

 そんなことを考えながら俺はフライパンの中に卵を割り入れてスクランブルエッグを作る。あのニューヨークの決戦から1か月が過ぎようとしていた。何と俺にも政府から見舞金が降りたのでフードトラックを新調し、その納車日がつい昨日だった。ついでに紹介すると、俺の家のソファでテレビを見ているのはサム・ウィルソンさん。お隣さんで、ムキムキの退役軍人で今は軍人相手のカウンセラーだ。彼が越してきたのは俺の両親が死んだあとだったので、俺のことをよく気にかけてくれてこうやってたまに相手をしてくれる。

 

 勝手に俺がそう思ってるだけだけど兄みたいな存在だ。俺がニューヨークにいたことも知っていたけど退役軍人まで駆り出されていたのがあのニューヨークの決戦だ。だから俺が戦ってたのはバレてないし、そもそも戦えることすら知らない。騙してるようで心苦しいけど、話すわけにはいかないから。

 

 二人分のスクランブルエッグを皿に盛りつけて、ベーコンと自家製ドレッシングのサラダ、トーストされたパンとバターを出した。サムさんは大盛りだ、俺はまあ普通。サムさんは待ってましたと食前の祈りを捧げてからトーストにバターを塗って食べだした。俺もそのままトーストにケチャップとスクランブルエッグを乗せて食べる。食べながらサムさんが尋ねてきた。

 

 「ハル、お前ニューヨークがあんなことになっただろ?しばらく行くのはやめとけ。こっちで稼いだらどうだ?」

 

 「うん、そうするつもりだよ。再開今日からだし。サムさん仕事でしょ?ランチ届けようか?」

 

 「じゃあこっちに稼ぎに来いよ。買ってやるから」

 

 「ほんと?じゃあそっち行こうかな。久しぶりだな、ワシントンで開くの」

 

 「片道4時間かけてニューヨークに行ってるほうがおかしかったんだぞ?」

 

 「だってそっちの方が実入りいいんだもん。ガソリン代とか差っ引いてもおつりがくるし」

 

 サムさんが話してくれている通り、俺は今日からフードトラックでの稼ぎを再開するつもりだった。普通に生活する分には十分なお金が政府からもらえたけどソレに甘えていつまでもニートしてるわけにもいかないのだ。前のフードトラック君はいろいろガタがきはじめていたのでタイミングとしては悪くなかったし、現金は吹っ飛んだけどな!あのエイリアンどものおかげで!

 

 けどまあ、あの襲撃があったから……人を助ける力としてゼロワンを使えた。その覚悟が決まった……まだ、俺の周りではそういった事件は起こってないけどニューヨークではもうしっちゃかめっちゃかとのことだ。手の届く範囲、それ以上は正直抱えられないから。俺の周りで仮にそんなことが起きれば変身することにもう迷いはない。

 

 食べ終わったサムさんが俺がやると洗い物を買って出てくれたので有難くおねがいすることにし、俺は自宅のガレージの方へやってきた。ピッカピカのフードトラック、漢字の「秘伝」がでかでかとプリントされたそれに俺はうっきうきである。しかも前のトラックよりでかい!ひろい!燃費も悪い!それだけは何とかならんかったのかな……まあアメリカはガソリン安いしいいんだけど。

 

 前のトラックと違うのはフライヤーが付いたことである。この世界、前の世界より技術レベルが上がってるのでなんか超性能な車が多数あるのだ。このフライヤー付きトラックみたいな!まあ動かすときは油抜く必要があるけど!何でもかんでも揚げる文化のあるアメリカらしいトラックだと言えよう。食材オッケー確認よし!と俺は最終確認を済ませてリビングに戻った。するとサムさんが洗い物を終えてテレビを見ていた。

 

 『アベンジャーズの活躍にてニューヨークでの事件はひとまず解決しました。また新しく確認されたヒーロー「ゼロワン」については目下調査中とのことで……』

 

 「またこれかあ」

 

 「ここ一か月毎日それだからな。しかしゼロワンってのも不思議だな。あれから音沙汰なしときた。アイアンマンを見ろ、またチャリティーやってるぞ」

 

 「恥ずかしがり屋なんだよ、きっと、うん」

 

 「ヒーローがねえ」

 

 あーーーやめて欲しい!テレビのニュースに流れるのは誰が撮ったのか変身した後の俺、ようはライジングホッパーのゼロワンがアベンジャーズ達と一緒になって大立ち回りを繰り広げている動画だ。画角的に多分俺が助けた人が撮ったんだと思うんだけど、ひやりとするから怖い。

 

 あの俺の素顔を知っているであろうバスの運転手と子供たちはまだ出てない、まああんな非常事態で俺が変身したことはともかくザ・日系人という風体の俺を覚えてられるかどうか……希望的観測が過ぎるかなあ……。テレビの中で見覚えのある子ども、エイリアンから俺が飛び蹴りで救った子がゼロワンがいかにすごかったか語ってるのを見て、俺は尻が痒くなるような感覚を覚えるのだった。

 

 

 自分の車で職場に行ってしまったサムさんを見送った俺はそのままピッカピカのフードトラックのエンジンをかける。新車らしく景気のいいどでかい音を立ててエンジンがかかったフードトラックはそのまま滑り出すようにワシントンの街の中に進んでいくのだった。

 

 フードトラックというやつは町中のどこにでもあって、手軽に食べられるのが売りなわけだが俺のように日本食をメインにしてるのは相当に珍しい。みんなサンドイッチとか、ピザとかパンとかそういうあまり手がかからないものを好むからだ。まあお手軽飯に死ぬほど手間かける奴なんて馬鹿だよね。まあ俺はその馬鹿なんだけど。

 

 公園に面した道路に止めた俺はまず昨日のうちに仕込んでおいた唐揚げを揚げる。ニンニクと生姜のきいたいい匂いがワシントンの排気ガスの匂いを塗りつぶしていく勢いで外に香ってるだろう。炊飯窯で焚いたご飯、漬物、味噌汁、仕込んでおいた順に用意を進めてキッチンカーを開けると既に何人か待っていた。

 

 「お待たせしました~。ご注文は決まってますか?」

 

 「今揚げてるいい匂いのやつくれ!3つ!」

 

 「唐揚げですね?3つで9ドルになります」

 

 俺のから揚げはとにかくでかい、揚げたてのザクザクの衣に肉厚の肉、そしてガツンと来るニンニクが売りだ。3つ個別に紙に包んでお客さんに渡すと歩きながらはふはふと食べつつ去っていった。これが俺の日常、美味しいご飯を美味しく食べてもらう。やっぱりそれが一番だな。

 

 

 

 「なんだよ、繁盛してるなハル」

 

 「あ、サムさん本当に来てくれたんだ」

 

 「おいおい、俺を何だと思ってるんだよ。何人か引っ張ってきてやったぜ」

 

 「まいどー。サムさん何にする?他の人も!」

 

 「唐揚げと……そうだな、唐揚げ丼にしてもらえるか?」

 

 「もー、またメニューにないやつ~。いいよ、じゃあ12ドルね」

 

 結構な繁盛で俺がしめしめと思いつつお昼時に差し掛かると午前中の仕事が終わったらしいサムさんが、カウンセリング相手らしい軍人さんを何人かつれてやってきてくれた。注文を聞くとメニューにないものを言われたが対応できる範囲なので対応することにして、俺は紙の器にご飯を敷き詰め、レタスを敷き、甘辛のタレにくぐらせた唐揚げを乗っけてマヨネーズをトッピングした即席丼をサムさんに渡すのだった。

 

 この後同じものの注文が相次ぎ、ちょっと後悔したのは別の話。

 




 主人公がなぜゼロワンの力を封印していたか、というお話でした。あとお隣さんちのファルコンさん。ザイアスラッシュドライバーとバーニングファルコンプログライズキー渡してみたい。やらないけど。

 感想評価めっちゃ嬉しいです。エネルギーなので沢山ください。すると作者が調子に乗って筆が加速します
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