例によってはいふり感のない世界観ですが、ご容赦を()
海に生き、海を守り、海を往く。それが、ブルーマーメイド。
このスローガンは世界中に点在する海洋安全整備機構"ブルーマーメイド"の共通の標語にして、最も気高き誓いの言葉でもある。
彼女たちは日夜、愛すべき人々や故郷、誇りを胸に厳しい訓練を重ねながら、海洋の安全を守りつづけている。
しかし、彼女らとて無敵万能ではない。地球表面の7割を占めるといわれる海を前にしては、世界的大組織でもカバーしきれるはずもなく、彼女らの感知し得ない所で重大な事件が起こりつつあるとは未だ誰も想像だにしていなかった。
2016年11月某日。太平洋のとある島でのことである。
その日も退屈な仕事だった。いつもと同じルートを船でぐるぐると回るだけ。襲撃者どころか、船影すら見当たらない、寂しい海。自分等も含めて10隻もいる武装監視船、高度な監視通報装置、何かあってもすぐに駆け付けてくれる隣の島に駐留するブルーマーメイド。何をとってもどう解釈しても、安全そのもの。というより過剰なまででだ。
「船長、一体なぜこんなにたくさんの見張りが必要なんすか?」
「しまってあるものがとても重要だからさ」
船長はぶっきらぼうに答える。
「そんなアバウトな話じゃなくて、どう考えたって過剰っすよこんな戦力。近くにブルーマーメイドもいるし、俺らまで駆り出されるワケがわからんって話っすよ」
口を尖らせる青年に、武装監視船の操縦桿を握ったまま、船長が答える。
「それでも依頼があるから、こうして俺たちが出てるんだよ。飯のあてなんだから黙って従うんだな」
観念しろ。とでも言いたげな船長の言葉にさしもの青年もそれ以上の反攻を断念することにした。言われてみれば、こうして港の回りをぐるぐるするだけで金が貰えるなら結果オーライ、むしろラッキーだ。
「それもそうっすね。楽して金が貰えるんなら万々歳…」
そこまで言った所で、青年は船長の顔色が変わったのを感じ取った。正確には背中越しなので、顔色というよりは気配、空気感のようなものだが。しかし、確かに変わる空気に青年は反射的に銃座に据え付けられた機関銃に手を伸ばす。なれた手付きで弾を込めると船長がじっと見ている方へ照準を合わせる。だが、そこには何もいなかった。いつも通りの寂しい海だ。拍子抜けした青年は機関銃から手を離すと船長を睨み付ける。文句でも垂らしてやろうと思った次の瞬間。
「静かに、しゃべるな」
船長のドスの聞いたダミ声で制止される。間違いなく戦闘状態の船長。
だが、どこに敵がいるのか不思議に思っていると、直後に正解がわかった。
ピンという甲高い音があたりの寂しい海に響き、武装監視船に当たった瞬間、ガンという鈍い音に変わった。間違いない、何度も聞いたあの音だ。
「ピンガーだ!」
船長はそう言うと船のスロットルを全開まで上げ、音のした方に船首を向けた。青年は危うく振り落とされそうになるが、なんとか耐える。他の船も気付いたらしく、一斉に同じ方向へ走り始める。腐っても歴戦の
「坊主、爆雷準備だ!」
船長の命令に青年が復唱し、船尾のレールに固定してある爆雷の投下準備に入る。小型の爆雷では潜水艦を撃沈することは不可能だが、損傷を与えて潜航不可能にさせることができる。そうなればあとは浮上した敵艦を艦内から攻略することが可能になる。
「いたぞ、あそこだ!」
仲間が叫ぶ。水面下に黒い船体がうっすらと浮かんでいる。間違いなく、潜水艦だ。こんな近くでピンガーを打つだなんて、相手のサブマリナーは素人なのか、それとも…
「爆雷セット完了!」
「全艦、爆雷投下せよ!」
船長の号令で一気に武装監視船の船尾から爆雷がボロボロとこぼれ落ちる。一瞬の静寂の後、水柱が数えきれないほど上がる。小型爆雷とはいえ、これだけの数の攻撃を受ければさしもの潜水艦も只ではすまないはず。
船団は爆発を確認すると、ゆっくりと転進し、敵が浮上するであろうポイントに機関銃を向ける。
しかし、
「……浮上してこないな」
「沈んだのか?」
「いや、いくら旧式でもあれくらいで沈むはずが…」
クルーたちは口々に不安を呟く。確かに爆発による水しぶきが収まったあとには破片や重油とみられる黒い液体、漏れ出た空気のようなものが確認できたが、肝心の船体は見えない。はたして本当に沈んだのか。
「……俺がみてくる」
船長がいの一番に確認に乗り出した。他のクルーたちはそれを固唾を飲んで見守る。
「船長、ここでもし敵が浮上してきたら……」
青年が不安そうに言う。もし、敵のクルーが機関銃やロケット砲でも持ってたら……蜂の巣にされる。
その恐怖から、青年が機関銃を握る手が震える。さすがの船長も脂汗がドッと噴き出る。そして、船はとうとう潜水艦の真上に来た。意を決して2人が水面を覗き込んだ瞬間、船長は叫んだ。
「
潜水艦はハリボテのニセモノだった。ベニヤ板とコンクリートで作られた漁礁のような物体。そもそもここの海域は潜水艦が入れるほど深くもない。完全に騙された。
船長が急いで反転しようとしたその時、船の側面で閃光が走った。船は真っ二つに裂け、破片が空高く舞う、青年も海に投げ飛ばされ、緊急用のエアバッグが作動する。
「魚……雷………!!」
ショックで薄れゆく意識のなか、彼は自分の船が"本物"からの攻撃を受けたことを察した。しかし、彼の意識は微睡み、最後に見たのは膨らむエアバッグの動作だけだった。
「ホセがやられた!」
「敵はどこにいる!?」
「ブルーマーメイドに報告は」
「してるが、間に合わない」
「またくるぞぉ!」
「ソーナーどうだ!?」
「爆音のせいでわからん」
「回避ィ、回避ィ!」
その後はほぼ蹂躙だった。艦隊傭兵たちはとうとう自分達を襲撃したのが何者なのか、それすらわからないまま、全員が失神してしまっていた。
あとに残ったのは残骸とエアバッグのみ。
そして、その様子を潜水艦のセイルから満足そうに眺める赤いベレー帽を被った男だけだった。
長い事件の幕開けだった。
1話から主人公登場です
なるべくはやく上げます