ハイスクール・フリート 海賊艦隊で大ピンチ!   作:みん提督

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ようやく出ました9話です。




第9話 アジトでピンチ!?

フィリピン東方の南海海上。海賊『マンボウ旅団』アジトへ向け、2隻の艦が全速で航行していた。1隻は水上で波を裂き、もう1隻は水中を疾走していた。ブルーマーメイド作戦艦艇『まごじま』と、ホワイトドルフィン潜水艦『ながしお』だ。

 

「増速? もう無理ですよ。エンジンが焼けちゃいます」

機関室からの報告にため息をつくのは、『まごじま』艦長の黒橋(くろはし)だ。ブルーマーメイド一筋で20年以上現場に留まっている大ベテランの1人だ。

彼女らはブルーマーメイド・ホワイトドルフィン連合艦隊第1部隊から分離先行し、敵アジトへ偵察のために潜入し、第2部隊地上班支援のためのアジト内のマッピングや人質を確保することが任務だった(・・・)

「本隊が奇襲されているらしい。そっちに行くべきだと思うかい?」

黒橋の言葉に、副長が進言する。

「今行ったところで、何にもならないかと……。第2部隊も来れなくなった今、地上部隊は我々だけです。『ヤマタノオロチ作戦』は続行するべきかと」

黒橋は頷き、地上班隊長八巻(やまき)にも意見を仰ぐ。

「ふむ。地上班としてはどうだい?」

「副長と同意見です。しかし、本来300人規模の兵力を投入するはずだった作戦に、本艦と『ながしお』の地上班全員を合わせても40人に満たない数で挑むことになります。苦戦は免れないかと」

「ふーむ……」

顎に手を置いて思案する黒橋。明らかに不利かつ、危機的な状況だが、人質のことを考えれば多少強引でも作戦は続行するのが吉だろう。

「ところで、飛行船からの連絡は?」

アジトの情報収集のために発進させてた飛行船のことを思い出した黒橋はその事を副長に問いかける。

「まだ特に連絡はありません。しかし、敵は人質奪還のことも考慮に入れているはずですし、何らかの艦艇は残されているかと」

黒橋はまた考えるポーズをとる。作戦続行はヨシとしても、果たしてどう動くべきか。考えを巡らせようにも1人では限界があった。

とそこへ、ちょうどいいタイミングで通信が入ってきた。

「艦長、『ながしお』の草川(くさがわ)艦長から通信が入ってます」

渡りに船とはこのこと。即座に電話回線を開くように指示し、艦長席に据え付けられている受話器を手に取る。

「ちょうどアンタを呼ぼうとしてたとこだよ」

「これは奇遇。俺たち気が合いますなぁ!」

電話越しに聞こえるお調子者の声。いかにもな風貌のザチャラ男、草川艦長だ。

「今は冗談言ってる場合じゃないよ。草川艦長」

またしても大きなため息を吐いて言う黒橋。この状況でやたら明るいのは逆効果だろう。

「まぁまぁ。挨拶はこれくらいにしといて、本題にはいるぜ黒橋さん」

「急に喋りすぎだよアンタ」

草川のペースにのせられそうになるが、なんとか耐え、話を続けさせる。

「俺たち『ながしお』は敵にバレないように先行チームを送るのが任務だろ」

草川は話を続ける。

「そこで、だ。チームを送ったら、その後は『まごじま』の護衛が任務だろ?」

「そうだね」

自分勝手なようで、しっかり黒橋に話を合わせている。根は真面目なのだろう。

「だが、敵のアジト近海はやたらと水深が浅い。深いところでも100mもない。近くにはフロート艦もいるし、潜水艦は超不利だ」

雑音混じりの水中電話越しに、彼は続ける。

「で、今になって第1部隊に敵が襲撃かけてる。それで思ったんだが……」

草川が何を言いたいのか、黒橋はなんとなく勘づき始めた。

「……もしやアンタ、第1部隊援護に向かおうってんじゃないよね?」

電話越しに、彼の愉快な声が聞こえてくる。

「ビンゴ! さすが黒橋さん」

「………………はぁ~~~」

ここ数十年で一番のため息を吐く黒橋。ブリッジクルーもなんとなく、彼の提案がどんなものか察していた。

「どしたんすか?」

「どしたんすか、じゃないよ。トンでもないこと言い出しおってに」

護衛役がその仕事から離れようと言う提案に、二つ返事でいいよなんて言えるはずもない。普通なら、だが。

「でも、黒橋さん。その反応からしてあんたも同じこと考えてたんじゃないの?」

黒橋は少し黙る。図星をつかれたからだ。草川はその隙をついて自身の考えを伝える。

「軽く俺の考え伝えとくっすよ。まず、『まごじま』は敵アジトのレーダー範囲外で待機する。その隙に全速で本艦が敵アジト近海に向かい、チームを発進させる。で、その後に本艦は第1部隊援護に向かう。俺たちと入れ替わりに『まごじま』が突入して敵の注意をひく。砲台の破壊と同時進行でチームが動きやすいように囮になるわけっすね。で、チームが人質を確保したら、あとは『まごじま』の地上班も乗り込んで敵アジトを制圧する……ね。簡単だし、第1部隊にも援護が出来る、良い作戦だと思うんすけどね」

簡単ではないだろう。というツッコミを入れたくなるのを我慢し、一口に説明される作戦を頭にインプットする。確かに悪くない。むしろ現状を考えれば最良と言えるだろう。しかし、問題もある。

「簡単かどうか置いといて、問題はありそうだね。もし、敵アジトにかなりの数の艦艇が残っていて、『まごじま』では倒しきれなかったらどうするんだい」

「それは無いっすよ」

あまり堂々と言い切る彼に驚く黒橋。楽観主義か、それとも偵察の結果か。

「なぜ言い切れるんだい?」

雑音が酷くなってきた水中電話越しに、彼は続ける。

「まず、第1部隊を襲撃した部隊がかなり大規模なことっすね。確認されている『マンボウ旅団』全艦艇とほぼ同数が戦線に到着したみたいっすからね」

意外としっかりしているじゃないか。黒橋は出かけた言葉を飲み込み、さらに彼の作戦を聞く。

「だが、潜水艦は? 奴ら相当な数の潜水艦も持っていたはずだが?」

それについても大丈夫っす。と、彼は前置きし。

「第2部隊を襲撃した潜水艦隊もかなりの規模っす。10隻前後の群狼戦術らしいし。レポートによると『マンボウ旅団』の潜水艦は多くて12隻。最低でも8隻くらいなんで、ほぼ全艦で間違いないっすよ」

「なるほどね」

やはりしっかりと考えられている。データも根拠もはっきりしてるし、フラフラしてるただのチャラ男と思っていたが、なかなかどうして対した男だ。若冠25歳で潜水艦艦長になった経歴は伊達ではないようだ。

しばし考え込むポーズを取る黒橋。

(人質のことを考えれば、時間は多くない。青木艦長の安否も不明だし、第1部隊もすぐさま救援に向かわなければ間に合わないかもしれない……)

1人で考えても仕方ないと、メインクルーや八巻にも意見を仰ぐ。

「副長はどう思う?」

横で話を聞いていた副長は少し唸った後、考えを述べる。

「概ね草川艦長に賛成です。でも、もし敵艦隊が現れた時を思うと……」

素直な意見だ。『まごじま』は改フリーダム級の1隻。元々艦隊決戦が得意な艦とは言えないのだ。

「地上班としてはどうかい?」

今度は艦橋に集まっていた地上班幹部に聞く。代表して八巻が答える。

「地上班としては、艦隊戦について言うことはありません。しかし、どちらにしても人質確保のための斥候は必要ですし、『まごじま』が注意をひく必要もあると思います。草川艦長の策が最善かと」

他の幹部、メインクルーも概ね賛成のようだ。少し懸念は残るが、こうなればやるしかあるまい。

黒橋は艦長帽を被り直し、草川に見解を伝える。

「草川艦長、貴官の案に賛同する。作戦準備に入ってくれ」

その言葉に、メインクルーたちはそれぞれ持ち場につき、地上班は突入に向けた準備を始める。水中電話の向こうから聞こえる草川の喜びの声を尻目に、黒橋は正式に命令を出す。

 

全艦(・・)、作戦開始せよ」

 

クルーの復唱を聞くと同時に、『ながしお』は鳴動し、全速で『まごじま』から遠ざかっていった。

 

 

 

同時刻、『マンボウ旅団』アジト地下、監獄区画にて。

時計も窓もない特別室には時間を推し測れるものはなく、どれほどの時間が経ったのか、わからなくなっていた。

時々、海賊の見張りが部屋を覗きに来るくらいで、それ以外は全く変化のない寂しい部屋で、青木は焦り始めていた。

(皆無事かな……)

脳裏に過るのは仲間たちの顔だった。弱気になってはならないと自分に喝を入れようにも、四肢を縛られ、体の自由が効かない現状では限界があった。長く同じ姿勢なのもあって血流も悪くなり、思考も纏まらない。頭が常にぼやけるような感覚だ。一度寝てすっきりしようにも、海賊が常に見張っている状況ではリラックスも出来ず、そもそも奴らは寝るのを許さないだろう。

(聞いてみるか……)

まともな答えが返ってくるはずも無いが、物は試しだ。

「ねぇ、見張りさん。今何時かな?」

少し間を空けて、鋼鉄製の扉に備え付けられた小窓が開き、海賊が顔を覗かせる。

「知るかよ。話しかけんな殺すぞ」

乱暴な言葉を投げて、小窓はピシャリと閉められた。やはりだめか。と、肩を落とすがショックを受けてばかりではいられなかった。

(予定通りなら、特殊部隊が潜入を始めるはず。騒ぎになる前に、なんとか脱出の手がかりを見つけないと)

だが、武器はもちろん、ヘアピンなどの金属製品も没収され、手足を縛る縄を破る方法はない。腕力だけでは到底外せないし、そもそも力が入らない。隙を見計らって海賊の装備を奪うのが一番だが、多数が相手では不利になる。1人から武器を奪って脱出しようとしている隙に他の海賊に撃ち殺されるのが目に見える。

纏まらない脳内であれこれ考えていると、見張り達に動きがあった。どうやら誰か来たようだ。

「いいんですか? 大船長に断りなく」

「殺しちゃったら大船長に殺されますよ。タキトウ(・・・・)さん」

聞き覚えのある名前に、脳は一気に冴え渡る。大河原の次に注意すべき人物の名だ。

「いいんだよ。ちょっっとお話するだけだからよぉ」

声を聞くだけでもわかるほどに酔っているらしい。尊大な言い方は、酒を呑んで気が大きくなったからか、それとも元々幹部クラスなのか。

「……わかりましたよ。ただし、半殺しに留めてくださいよ。俺たちまで大船長に殺されちまう」

「わーかった、わーかったから」

直後、仰々しい音を立てて鋼鉄製の扉がゆっくりと開く。アサルトライフルやらで武装した不安げな表情の2人の見張りと、鼻が曲がりそうなほどの酒と何か別の臭いを放つ男、タキトウが立っていた。どうやら居残り組だったらしい。仲間と酒盛りでもしてたのだろうか。

「じゃ、くれぐれも頼みますよ」

「へいへい」

タキトウは筋骨隆々な体躯をフラフラさせていた。大分酔いが回っているらしい。

「……ずいぶん呑んでいたみたいだね」

少し言葉を選んでから発言する。この男を少しでも怒らせたら何をされるかわからないからだ。

「んん、まぁな。前夜祭ってとこかな」

意外と普通に返答することに青木は少し面食らう。素面の時よりも幾分か言動が丸くなるのだろうか。

「なるほどね。……前夜祭のわりにハメを外しすぎじゃないかな?」

タキトウが何をしたいのかまだわからないが、素直に会話が成立することに違和感を感じるのはすぐだった。

「あぁ、俺たちがブルーマーメイドの阿婆擦れ共(・・・・・・・・・・・・・・)に勝利する記念日の前祝いだからなぁ、嬉しくもなるさ」

「え……」

タキトウの言葉に、思わず声が漏れる。背中に嫌な汗が吹き出し、脳内は不穏な思考に戦慄し、しばし硬直する。単なる威勢だけの戯れ言などではない、本気の言葉だ。アルコールが気を大きくしているわけでない限り、その言葉は真実だろう。

嫌な思考が瞬間的に脳内を巡ったのを察知したのか、タキトウはニヤつきながら青木の顔を覗き込む。

「そう、その表情が見たかったんだ。勝ち気で一歩も引かねぇ強ぇ女が恐怖で顔を歪めるやつ……たまらねぇな……」

薄暗い照明に照らされる彼の不気味な笑顔に対抗し、反射的に彼を睨み返すが、恐怖に堕ちた女の顔をしたあとでは効果はない。

「……どうして、ブルーマーメイドが負けると断言できるんだい? ウチの艦隊はそっちの倍以上の戦力がある。そっちに勝機があるようには思えないけどね」

ハッタリをかましたものの、タキトウはきょとんとして青木を見つめるだけだった。少し後に静かに笑い始める。不気味な笑い声だ、今更ながら悪趣味な男であることを確信する。

「クックック……『ヤマタノオロチ作戦』……だろ?」

「!?……」

思わず息を呑む。まさか作戦がバレているのか? いや、自分を揺すろうとしているだけかもしれない。もしくはすでに潜入していた味方を捕まえて吐かせたのか……。思考をさまざま巡らせるが、動揺を感じ取ったタキトウが歪んだ笑みを浮かべる。

「ぜーんぶ知ってるぜ俺らは。2個にわけた艦隊で時間差攻撃するんだろ? その隙にアジトに乗り込んで制圧するのも、お前が俺たちの気を引くためにわざと捕まることも……な」

最悪、その一言に尽きる。なぜ作戦が短時間の内にバレたのか。疑問に対する答えがあっても、それを鵜呑みにすることはできなかった。考えたくもないからだ。

「……なぜ作戦がそうだと言い切れるんだい。 君らの勘違いかもしれないよ?」

「さぁな。俺は下っ端なんでその辺については知らねぇよ。ま、お前らん中に内通者(・・・)でも紛れてんじゃねーのか?」

白々しい物言いは完全に黒だ。信じたくない説が真実であることを知り、青木はより思考速度を加速させる。

(スパイがいるのはどうやら確実。いや今はその事よりも敵に作戦がバレてることを味方に伝えなきゃ……でもどうすれば……)

タキトウの持ち物を確認しても、通信装置の類いは見つからない。もしあったとしても遠く離れた艦隊には出力不足で届かないだろう。では、ここで拘束を解いて敵の通信室を使って……これもダメだ。通信室が何処にあるかわからないし、そもそも敵は3人。拘束を解いても射殺されるだろう。

打開案は見当たらない。タキトウはそうして焦る青木を見て興奮しているようにも見えた。どうやら異常性癖の持ち主でもあるようだ。

「ああ、あとついでに言っておくがな。お前らの艦隊は既にウチの艦隊が奇襲かけてるぜ。今頃全滅してるだろうな、ハハッ!」

「な…………」

身体の芯から凍り付く感覚がした。良くない想像と、予想が脳内を巡るが、それに集中することは許されなかった。

タキトウが拳銃を抜いたからだ。

「っつー訳でよ。大船長が帰ってきたらお前も(バラ)されるのさ。余興として、他に捕まえた女どもの目の前で首を落とすってのもありだな」

おおよそ常人のそれではない残虐極まる言動に、青木は恐怖する。仲間がやられ、泣きじゃくって命乞いをしながら無様に果てる自身の未来さえ想像してしまう。

根元的な恐怖は、目の前に映る現実(リアル)でしかない。止まらない手足の震えをごまかそうと強気に振る舞うのも限界があった。

「さて、どうかな?」

なんとか絞り出した言葉でさえ、もはや届かない。へらへら不気味に笑うタキトウは、無敵状態。一瞬でも会話が成立すると思った自分を嘆くしかなかった。

「へへっ、そうやって強気でいられるのも今のうちだぜ」

そう言いながら、彼は拳銃を青木の足に押しつける。反射的にビクリと反応するのを楽しむように、銃口を足から腹、胸まで這わせる。

「……っ」

思わずあげそうになる悲鳴を圧し殺す。耐える。しかし、それも彼にとっては欲求を満たすスパイスだった。

「へへひひ……さぁて、本題はここからだ。すぐにぶっ壊れんなよ」

眉間に銃口を押しつけられる。冷たい金属の感触が、青木の身体の芯の芯まで冷やしていた。

もはや自分の運命など考えるまでもなかった。

迫る死の予感に、彼女の本能は死んだ親友のことを欲していた。

 

「エリカ……………」

 

彼女の意識は微睡み、ただ刹那の内に、彼女の中にある記憶を呼び覚まそうとしていた。




ここまで青木さん痛め付けられてばっかりですね(他人事)

次回は過去編になる予定です。9.5話ということで、短めにさっぱりした内容にしたいと思います。

本編の方はいい感じに全12話にまとまりそうです。
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