ハイスクール・フリート 海賊艦隊で大ピンチ!   作:みん提督

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ようやく書けました。

いつの間にか9000字超えでびびってます(震え)



第10話 突入でピンチ!

すっかり日も暮れたフィリピン東方の海域。に、浮かぶ無人島、その地下にて。

 

「へへ、走馬灯でも見てたかぁ?」

下卑た笑みを浮かべる男の言葉に、微睡んでいた意識は覚醒する。

「……」

何も言い返さず、ただ彼を睨み付けるのは囚われの身となっているブルーマーメイドエース隊員である青木彩だ。

「死の間際がわかる気分ってどんなのだ?」

海賊タキトウは気にせず質問する。答える気分ではなかった。

「俺はよぉ、ずっと殺る側だったからよ、殺られる方の気持ちとかわかんねぇ訳よ。だから聞いておきたいって訳」

彼は間髪を入れずに拳を振りかぶる。

「おいおい、黙ってんじゃねぇよ。なんか言ってみろよ! さっきまでペラペラ喋ってたくせによぉ!」

ついに顔面に拳が飛んでくる。1発だけではない、2発、3発と拳が顔面にめり込む。

「う……が……!」

口内に血の味が広がり、視界は衝撃と涙で滲む。

「へへへ……さて、お楽しみはこれからだぜ。ブルーマーメイドとヤる(・・)のはこれが2度目だぜ」

タキトウの言葉が引っかかる。嫌な感じがする言い方だ。

「……2度目だって?」

血反吐を吐き出しながら彼に問いかける。タキトウは変わらずへらへらしながら自慢げに答える。

「あぁ、巡洋艦(・・・)を捕まえた時以来さ」

巡洋艦?

「俺たちを捕まえるつもりだったのに罠にハマったバカな艦だった。40人(・・)ぐれぇの活きの良い強気な女たちが選り取り見取りの、それは楽しいパーティーだったぜ」

40人?

「やっぱりあの艦長(・・)は良かったなぁ……そいつだけだよ、殺して後悔したのは。まぁ、死んだあとも使い込んだがな、ヘハハ!」

間違いない。タキトウが言う1度目というのは彼女のことだ。

「……その艦長の……名は……」

怒りと悲しみと、憎しみ、負の感情がない交ぜになる。

「あぁ?」

タキトウの言葉は耳に入らない。

「……山本エリカ…………僕の親友……だった子だよ」

 

 

同時刻、アジト内の兵員区画では激しい銃撃戦が起こっていた。海賊たちは机や土嚢を積んだ即席のバリケードを作り、食堂を拠点にして防衛陣地を築いていた。

ただでさえ兵力差が大きな戦いだったのに、敵が完全に地の利を得ていることに隠密中のホワイトドルフィン特殊上陸班は危機感を抱いていた。

「班長、奴ら籠城するつもりのようです。どうします?」

小銃のマガジンを手際よく交換しながら、サザンカ3というコードネームの隊員が班長(サザンカ1)に指示を仰ぐ。

「どうしますったって……俺たちゃ隠密メインだぞ。正面切って数十人と戦うのは想定してねぇ」

ヘルメット越しに頭を抱える班長は、ここからの戦い方を決めあぐねていた。

『まごじま』に助けを呼んでも到着は今すぐというわけには行かない。ある程度は自分達でなんとかしなければならないが、それも弾薬や装備を見れば難しかった。

「なに、別行動中のサザンカ4、5に監獄区画をおさえてもらうまでの辛抱だよ」

「……それもそうか」

まだ少し納得しきれない班長だが、彼よりも経験豊富なベテランであるサザンカ2の言葉に賛同することにした。

「で、具体的にどうします? 地の利は向こうにあるし、回り込まれるのも時間の問題っすよ」

銃を素早く入れ替えて攻撃しながら、サザンカ3が問う。

班長がここからの動きを決めあぐねていると思ったようだが、どうするかは既に決めていた。

「心配ない。その内向こうが勝手に動くさ」

「はぁ……?」

班長の言葉の意味をよくわかっていないサザンカ3は首を傾げるが、班長は少し自信がついていた。

その直後、爆発音がしてアジトは大きく揺れた。

「なんだ?!」

「弾薬庫に引火したか」

「おい、上は何してる!」

バリケードの奥に隠れていた海賊たちが口々にそう言うのが聞こえてきた。海賊たちが状況を把握するより先に、特殊上陸班はその爆発音の正体に気付いた。

「なるほど! 班長たちが待ってたのはこれですか」

サザンカ3が武器を近距離用の9ミリ機関拳銃に持ちかえながらうわずった声を出す。班長とサザンカ2も同じように近距離戦武器を用意する。

「よし、海賊どもをキルゾーンに追い込むぞ。『まごじま』に続けぇ!」

角に集まって隠れていた3人が一斉に飛び出す。3人の射撃は、混乱した海賊たちの無秩序な銃撃よりも正確だった。

「敵がこっち来たぞ!」

「怯むな、撃てぇぇ!」

海賊も負けじと応戦するが、有利だった自分達が襲われている状況に素早く順応することは出来なかった。

瞬く間に食堂近辺を制圧した3人は、先行したメンバーに合流するため、地下を目指して行動を開始した。

 

 

「主砲、右40度。距離4000。第2射撃ち方始めぇ!」

ブルーマーメイド作戦艦艇『まごじま』の艦首に装備された57mm砲は、第1射で破壊した重油タンクに続き、アジトに備えられた観測塔やレーダーに砲弾を叩き込んでいた。

「事前情報によれば、南側に砲は無いはず。安心してぶちこみまくりな」

黒橋は平静を装っていたが、内心は違和感を抱いていた。多少は敵も迎撃を準備していると予想していたのに、敵艦艇の1隻も見えず、さらに海賊たちの反応も遅い。

(罠か?)

深まる疑問と違和感から、そう感じるのも無理はない。

経験則は関係なく、『まごじま』のクルーは一様にその疑惑を感じていた。

「反撃がほとんどありませんね。ロケットでも飛んでくると思ってたのに」

副長も不安がある様子だが、だからといって攻撃をやめるわけにもいかない。

「少し不安はあるけど、やるしかない。次は砲台を破壊して敵の注意を引くぞ。それと、上陸隊は突入準備」

後部格納庫で待機していた八巻ら、上陸隊は気合い充分、準備を整えていた。

「了解!」

上陸隊隊員たちの頼もしい返事を聞き、黒橋は作戦の成功を祈る。

「たのもしいね、そうでなくっちゃ」

 

『まごじま』の格納庫は、戦闘の余波で空気が震えているようだった。

その中で、隊長の八巻は落ち着いた様子で、愛銃を撫でていた。幾度となく窮地を救ってくれた相棒を、特に念入りに手入れする。

「さあ、貴様ら。間も無く出番だ、覚悟はいいか?」

八巻は格納庫を見渡し、1人残らず彼女自身の手で鍛え上げた信頼する部下たちに問いかける。全員の目に、迷いはない。八巻も無言でうなづく。

「聞くまでもないな」

上陸隊は覚悟も準備も整っていた。

作戦を進めていく突入部隊と時を同じくして、監獄区画でも動きがあった。

 

 

「ブルーマーメイドが来たみてぇだな」

「そのようだね」

地響きやら爆音が聞こえる地下の一室、1組の男女がいた。今まさに襲撃されている側と、襲撃している側なのだが、それを気にする様子は両名ともなかった。

「降伏したらどうだい? こっちにはまだ切り札だってあるんだからね」

椅子に縛られて絶賛ピンチなのに、強がる様子を見せる青木だが、はったりなのはとっくに見破られていた。

「切り札だぁ……?」

余裕綽々といった感じにとぼけるタキトウ。

「そうさ、16インチ砲の火力にかかれば、君たちの艦隊なんて敵じゃないよ」

顔をしかめるタキトウだが、すぐにあの下卑た笑顔に戻る。

「16インチ……。あぁ、ご自慢の学生艦隊か。だが、その心配はいらねぇよ」

不気味なせせら嗤いに不快感を感じる。

「なぜ、そう言い切れるのさ。フィリピンに寄港してるウチの学生艦隊がすぐにでも駆け付けられるよ?」

タキトウは誇らしげにこたえる。

「ブルーマーメイドの動きは逐一確認してるからな。内部の情報も入手できるし、お前らの動きはぜーんぶわかってるぜ?」

そして、彼はやたらと自慢気に、大袈裟に語り始める。

「学生艦隊は確かに、今フィリピンにいる。だが、今から向かったとて絶対に間に合わねぇよ。俺たちはお前らの3倍の戦力を投入したんだ。今頃なまいきなブルーマーメイド共は皆海の底さ、残念だったな」

なるほど、そう来るか。具体的なことをはぐらして、マインドをぐらつかせる作戦に出たようだ。だが、すでに壊された後だった彼女の脳内はある程度修復を済ませていた。

すっきりとした脳内で、この後のやり取りで何が最適か考え、様々に思考を巡らしていく。

そして、ふと思い付く。にわかに口角を上げ、薄い笑みを浮かべながら、静かに呟く。

「……じゃあ、君たちの作戦は破綻してるわけだね」

タキトウの肩がピクリと震えたのを見逃さなかった。

動揺した彼にすかさず2撃目を喰らわす。

本当の(・・・)作戦内容は、さすがに知らないみたいだね。内通者さんも、そこまで知ってる筈ないし」

押し黙るタキトウ。さっきまでの余裕は見えず、嘲笑のオーラは警戒のオーラへと瞬時に姿を変える。

「本当の作戦……だと?」

食い付いた。しめたとばかりに、場の主導権を初めて獲得した青木はそれまでと打って代わり、自信ありげに答える。

「あぁ、そうだよ。この事は作戦に参加してる艦長クラスしか知らないんだよ。当然、僕もその1人」

身を乗り出して話を聞こうとする。彼の目にはまだ、疑いの感情があった。

「……へっ、どうせ負け惜しみだろ。それとも同情か?」

少しだけ元の調子に戻るタキトウ。しかし、額に流れる汗までは隠せない。やはり、自分が圧倒的優位と思っている状況がひっくり返ると、人は大分混乱するようだ。

「もし……そう(・・)じゃなかったら?」

またしても、彼の肩が震える。今度は余裕のなさそうな目でこちらを見つめる。彼の中で、葛藤があるのだろう。

幾度か響いた爆発音や騒ぐ兵士の声が、かなり遠くから聞こえているようだった。

逡巡の末、彼はゆっくりと口を開く。

「……その内容ってのは……なんだ?」

信じた。あとは穏便に取引をするだけだ。

「話してもいいけど……条件があるよ」

「言ってみろ」

タキトウは早くしろと言わんばかりだった。当然だろう。自分達が負けるかもしれない情報を、目の前の女が持っていると聞かされれば、誰だって焦りの一つぐらい見せるだろう。

青木はじゃあ、と前置きしてタキトウの目をまっすぐ見て答える。

「僕を解放してくれ」

「……!?」

驚きの声を上げるも、彼に残された時間は少なかった。

鉄扉に付けられた小窓が開き、慌てた様子の見張りたちが顔を覗かせる。

「タキトウさん、ブルーマーメイドがすぐそこまで来てますよ……上がやられちまったのかもしれません!」

「そうっすよ、その女から情報抜き出すなら早めにした方がいいっすよ!」

それだけ言うと、ピシャリと小窓を閉めた。何も言う暇がなかったタキトウは、ようやく自分達が追い詰められ、負けるかもしれないという恐怖を感じ始めた。

青木からしてみれば、願ったり叶ったりのチャンスだ。彼が心変わりしない内に次の手を打つ。

「……だって。さ、早く縄を解いてよ」

澄ました顔で言う青木に、苛立つタキトウだが、このピンチに手段を選んでいられなくなった。

「てめぇ……」

そのまま腰のホルスターに手を伸ばし銃を引き抜こうとするが、寸前で思いとどまる。

「そうだよね。僕を殺せば、その情報は二度と手に入らなくなる。かといって、僕を解放するか悩んでたらブルーマーメイドに捕まる。僕を解放して味方を救うか、僕を殺して君も捕まるか。2つに1つだよ」

今までにないほどに強く殺気を感じるが、もはやこの際それは関係ない。ただ、彼の目を見る。

冷や汗が背中を伝い、下着やシャツを濡らす不快な感覚がする。

長いようで、一瞬だった沈黙を破り、彼はホルスターに伸ばした手を引っ込める。

「……わかった、縄を解いてやる」

緊張感から解き放たれ、青木は小さく息を吐く。

「ありがとう」

「ただし、妙な真似したらすぐに殺すからな」

そう言うと、ナイフを取り出し、青木の手足を縛っていた縄を器用に解く。数時間ぶりに自由を取り戻した四肢をいたわる暇もなく、タキトウは乱暴に彼女の胸ぐらをつかんで引き寄せる。

「で、その作戦ってのはなんなんだ? 答えろ!」

シャツを引っ張られて少し苦しいが、そんなこと関係ないと言わんばかりの凄まじい剣幕だ。しかしやはり、青木に恐怖は無い。

「それはね……」

勿体振るように言う青木に、苛立ちが増していく。

「なんだ、さっさと言え!」

しかし、次の瞬間。青木はタキトウに抱き付いた。突然のことに、彼は著しく困惑する。

「こういうことだよ」

青木は徐にタキトウの耳に噛みつく。最初はその意味がわからなかったらしいが、直後にその意図に気付く。

「え……いやまさか、おいヤメロ…………!」

人間の噛む力は、体重とほぼ同じ。条件が揃えば指も骨ごと食い千切ることができる。その力で柔らかい耳に噛みつけば、どうなるかは言わずもがなだ。

全身に残った力を込めて、強く噛みつく。痛みと突然の出来事で混乱しているタキトウのことなど意に介さず、思いっきり、全体重をかけて彼の耳を……食い千切る。

「が……あ、あ、あ、あぁァァァァァァァァァァ!?」

耳からは決壊したダムのように血が吹き出す。赤黒い血は、彼の制服だけでなく、無機質なコンクリートの床にも大きな染みを作っていく。痛みに悶え、倒れ込んで暴れまわるタキトウを見下ろしながら、青木は口内に残る耳の欠片を吐き出す。噛み千切った耳から溢れる血で、青木の顔面と胸元はベットリと汚れていた。それを拭うサマなど、相手からしたら吸血鬼か何かに見えただろう。

当然、タキトウは怒り狂う。

「騙したな……また(・・)騙したな……貴様ぁぁァァァ!!」

だが、怒りに任せて冷静さを失った者が、 勝てる道理は無い。

冷静に彼の顔面にひざ蹴りを喰らわす。今度は鼻が潰れ、またしても血が吹き出す。歯も何本か欠けたらしく、呂律が回らなくなる。

「……許さん……よくも……殺してやるぅぅうぇげべが!?」

銃を抜くより先に、彼の右腕の関節を踏み砕く。利き腕が使えなければ、銃も握れないだろう。

「……いくら悪人とは言え、確かに騙すのは気が引けるよ……けどね」

さっきまで自分が縛られていた椅子を徐に持ち上げ、タキトウに叩きつける。

「げはぁ!?」

そして、大量に出血したショックと、止めの椅子打撃で、そのまま失神してしまった。

彼のホルスターから拳銃を抜き取りながら、すでに動けなくなった敵に最後の言葉をかける。

「こっちだって自分の命かかってるんだよ。手加減なんか出来ないさ」

こうして、単騎での制圧に成功した青木だが、敵はまだ残されていた。外の2人の見張りだ。

2人ともアサルトライフルを装備し、現状の唯一の武器である拳銃1丁では心許ない。しかも、大きな音を立ててしまったため、敵が入ってくるのも時間の問題だった。

(室内にあるもので、急いで迎撃の準備を……)

そう思った次の瞬間、鉄扉が解錠される音が聞こえた。

「え……?」

あわてて振り返り、銃を構える。敵が出てきたその一瞬で勝負を決めなければやられる。その緊張感で手にじんわりと冷や汗が出る。

ゆっくりと開かれる鉄扉の先に全神経を集中する。そして、引き金に指をかけ、そのまま引こうとしたその時。

「撃つな、敵ではない。我々はホワイトドルフィンだ」

鉄扉の向こうから現れたのは古くさい軍服とベレー帽の海賊ではなく、黒い戦闘服とタクティカルベストに身を包んだホワイトドルフィンの特殊部隊隊員だった。

「あ……味方か。ごめん、撃っちゃうトコだったよ」

銃を下げながら、ようやく会えた味方に安堵する。特殊部隊隊員も同じく安堵している様子だった。

「青木艦長、ご無事で何よりです。─サザンカ5よりサザンカ1へ、青木艦長の無事を確認。同時に、人質になっていたPMC社員も全員の無事を確認」

労いの言葉をかけると、すぐさまリーダーに報告を入れる。その様子を見て、青木は安心して少し体の力が抜けてしまった。へたりとその場に座り込むのを見て隊員が急いで駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか、青木艦長! これは……酷い出血ですね。すぐに手当てを」

しかし、青木は他のチームに連絡しようとする彼を制止する。

「怪我なら大丈夫。これ、僕の血じゃないから……」

横に倒れているタキトウの方を指差す。大方の状況を理解した隊員は頭を抱えているように見えた。

「いやいや……。あんた、なんて無茶を……」

「あはは……」

苦笑してごまかすのが精一杯だった。

「それと……この事は『ちちじま』のクルーには黙っててほしいな……」

『ちちじま』のクルーに聞かれれば、からかわれるのは必然だからだ。

そんなことを考えたとき、彼女の脳内に『ちちじま』クルーたちの姿が浮かび上がる。

次の瞬間には、隊員にしがみついていた。

「そうだ、艦隊は……『ちちじま』はどうなったの?!」

隊員はバツが悪そうに少し目を背ける。最悪な想像をしてしまう。

「……艦隊は……第2部隊が足止めを食らって、第1部隊も攻撃を受けているとのことですが……詳しい状況は……その……」

しどろもどろな隊員の言いぶりに、思っていた以上に酷い状況であることを察する。もはや、考えてなどいられなかった。

「……『まごじま』……いや、黒橋さんはいる?」

その問いなら、と隊員は答える。

「敵の桟橋を確保したと連絡が来ました。そのままなら、おそらく桟橋に艦が付いているはずです」

「なら……」

まだ完全に回復していない身体に鞭を打ち、立ち上がる。隊員は心配している面持ちだが、青木は構わない。

「今すぐ、僕を連れていって」

 

 

「……アジト内のほぼ全てのエリアを制圧。拘束者は100人超えです」

「本艦のダメージは最小限で済みましたが、突入隊に負傷者多数。重傷者も出ています」

「人質は全員の無事を確認。順次手当てを受けています」

「本隊とは未だに連絡が取れず、状況は不明」

「重傷者を優先的に飛行船へ」

アジト北側にある桟橋に接舷しているのは、ブルーマーメイド作戦艦艇『まごじま』だった。少数の突入部隊はなんとかアジトの制圧に成功し、桟橋を橋頭堡にして状況を整理していた。

「あの若造の言う通りになるとはね……なんだか癪だよ」

『まごじま』艦橋でそうぼやくのは同艦艦長の黒橋だ。アジトを制圧し、襲来した敵小型艇を撃退したのは良いが、この後はどうするか、決めかねていた。

「とにかく、負傷者と拘束者を収容しなきゃね。……一番近くの艦は?」

副長がタブレットで確認する。

「えぇと……あ、ちょうど佐世保校の病院船が近くにいます」

タブレットには3隻の艦船が映る海図が表示される。病院船『氷川丸』(S2502)と、護衛の航洋艦だ。

「学生艦か……やむを得まい、すぐに負傷者収容が可能か確認してくれ」

「了解」

副長が準備に出たのを見て、他のクルーを呼び寄せる。

「それと、後の事を引き継げる作戦艦艇はいるか? さすがに学生艦に拘束者を乗せるわけにはいかないからね」

「はい。近くにアメリカ支部作戦艦艇『モリソン』と、フィリピン支部作戦艦艇『スリガオ』がいます」

その報告を聞き、タブレットを一通り目を通す。

「わかった。両艦に拘束者の収容と、後始末を頼んでくれ。『氷川丸』には軽傷者を乗せるように」

敬礼し、仕事に取りかかるクルーを尻目に、黒橋は艦橋で悩んでいた。

「我々だけで本隊の救援に向かうか……それとも、学生艦隊に支援を求めるべきか」

迷うのは物理的な距離からだった。学生艦隊はすぐ近くのフィリピンに寄港してはいるが、本隊がいる海域とは200km以上も離れているし、 なにより向こうはこのドンパチに気付いていない。今から行って、間に合うものか……。そうして考えていると、艦橋に見知った声が聞こえる。

「黒橋艦長」

その声のする方を見ると、捕まっていた後輩、青木彩艦長が立っていた。敬礼する彼女に答礼すると、黒橋はその無事を喜んだ。

「青木艦長、無事だったようだな。ところで、その血痕は……」

と、ここで青木の胸元にべっとりと染み付いている赤黒い汚れに気付く。青木は困ったように頭を掻く。

「自分のではないので、ご安心を」

その一言でなんとなく察した黒橋は、それ以上血痕について言及しなかった。

「それよりも、本隊への救援に向かうべきでしょう。状況は理解しています」

青木の言葉に、黒橋も背筋が伸びる。

「そうだな。ここは他の艦に任せて本艦は直ちに救援に向かおう。だが……」

顎に手を当てて考えるポーズを取る黒橋。問題は、救援に動けるのが『まごじま』たった1隻なことだ。

「この艦だけでは、確かに心許ないです。なので……」

「なので?」

黒橋以下の『まごじま』艦橋クルーは固唾を飲んで、彼女の発案に耳を傾ける。

「後輩たちに……頼ろうと考えています」

艦橋クルーは各々驚きの声を上げる。

「つまり、学生艦隊を動員する気か?」

「はい」

簡潔で、力強い返事をするが、黒橋は反論する。

「しかし、学生艦隊は今フィリピンのラモン湾にいる。全速で向かったとしても、ここから2時間……さらに本隊のいる海域まで行くのなら最低でも5時間はかかる。到底間に合わない」

艦橋に落胆の空気が漂う。確かに土台無理な話だ。しかし、かといって単艦で向かうのは自殺行為だ。

「大丈夫ですよ」

しかし、そんなのお構い無しといった感じで、青木はにこやかに答える。

艦橋クルーからも口々に無理だ無理だと言われるも、彼女はめげない。

「大丈夫ってお前……根拠はあるのかい?」

あっさり答える青木に、黒橋は疑うような口振りだ。だが。

「僕の航海術なら可能です」

自信たっぷりにそう言いきる彼女に、黒橋は考えを改めざるを得なかった。

「……いいだろう。青木艦長、貴官の提案を受け入れよう」

黒橋の言葉に、艦橋クルーは口々に文句を言い始める。

「艦長、ムリムリムリですって! 今から学生艦隊を集めるなんて」

「望み薄ですよ、これ絶対!」

「そうですよ。第一、青木艦長はウチのクルーじゃないし……」

そこまで言うがしかし、黒橋の一喝で、クルーは鎮まる。

「じゃかあしい! 他の艦だからなんだい、同じブルーマーメイドだぞこちとらぁ!」

「ひぇ」

黒橋の言葉に、艦橋クルーは固まる。

「少しでも希望が見えるならやってやるのがぁ、海の女で即ち、ブルーマーメイドだ! 覚悟決めんかい!」

さすがの青木もたじろぐその気迫に、否定的だった『まごじま』クルーは一気に結束する。

「「り、了解!」」

「すみませんでした! 青木艦長」

一同は敬礼し、各自の持ち場へ走った。

「学生艦隊へオープン回線。参加の是非を学校へ確認します」

「八巻隊長以下の地上部隊は残留。以降の指揮は八巻隊長へ引き継ぎます」

「出航用意、錨を上げぇ!」

テキパキと準備を進め、艦は滑るように桟橋から離れる。

その様子を眺めながら、青木は黒橋に礼を言う。

「ありがとうございます。僕の意見を聞いてくれて」

よせやい、と照れ隠しする黒橋。青木に秘策があるというのは、黒橋もよくわかっていた。

「じゃあ、航海指揮を頼めるかな」

その"お願い"に青木は快く応じる。

「お任せを」

青木の航海術を間近で見れると、黒橋はどうやら浮かれているようにも見えた。

「見せてもらうよ、お前の"対話する航海術"を」

ここまで期待されると少し恥ずかしい。苦笑してそれをごまかすと、ブリッジから海の向こうを見つめる。

 

 

「待っててね、久美。すぐに……すぐに行くよ」

 

 

今の彼女には、水平線の向こうにいるはずの、親友兼副長の無事を願うことしか出来なかった。

時刻は夜の10時過ぎ。まだ彼女らに安眠できる余裕はなかった。




書きたかったことはしっかり書けたんでまんぞくです。
こんな感じであと2、3話で終わらせたい。

年内に最終話まで行きたいなぁ……
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