変なところとか、おかしな所があってもはいふり世界では当たり前のことなので無問題です。(真顔)
艦名はけっこう考えてつけてます。
カモメたちはいつも呑気だ。傍目には港に屯して当てもなく旅をする吟遊詩人のような連中で、人間の活動範囲などお構いなしに我が物顔でテリトリーを築いている。
そんな彼らは海の上でも図々しい。ちょうどいい休憩所だとでも言わんばかりに、艦のマストや甲板、手すり、アンテナ、砲身。すべての構造物を余すことなく活用する。糞を落としていくこともあるし、船乗りにとっては海の名物でもあり、悩みの種でもあった。どうしたって艦に乗ってくるのは避けられないので半ば諦めている者も多い。
しかし、彼らとて反撃を受けない訳ではない。時折人間は仕返しをすることを生き甲斐とするのだ。
少し可哀想な気もするが、自業自得なので無問題だ。
甲板にけたたましいブザー音が鳴る。すでにこの段階で幾分かは逃げ出すが、それでも一部のカモメは図々しく居座っている。そんな彼らには強烈な仕返しがお見舞いされる。
甲板にある小さな蓋が開くと、間髪をいれずに炎が噴き出る。ここでようやく危機を察した他のカモメも脱出を決意する。炎は一瞬で人の身長を優に超えるほどに急成長し、黒い塊が炎を裂いて飛翔する。
あとに残ったのは、炎の燃焼後の煙と、誰もいなくなった甲板だけだった。
飛翔した塊は空中で向きを変え、指定された座標に向けて高速で巡航を開始する。しばらく飛んだ後、塊の先端が分離する。小さなパラシュートで減速した後、着水し、探針音を発しながら目標に吸い込まれるように突っ込んでいく。
次の瞬間、目標に命中した魚雷が爆発し、大きな水柱を上げる。命中した艦は大きく傾き、一瞬で濡れ鼠となる。
「命中。……されど的針、的速変わらず」
双眼鏡を覗きながらクルーが報告する。
「浸水判定のはずなのに全く変わらんとはね」
「ダメコンは向こうの方が優秀だしね~」
「元が外洋戦闘艦だし、そりゃそっか」
艦橋クルーたちが口々に呟く。
波を切り裂く鋭角的な艦首を持ち、船体に描かれた赤いラインと、三胴型の特徴的な船体を持つその艦の名は、ブルーマーメイド硫黄島要塞直属艦隊所属の戦闘艦『ちちじま』(BPF-31)だ。
ついさっき
一方、先ほど被雷していた艦は『ちちじま』とは全く異なる姿をしていた。平均一般的な単胴型の船体を持ち、低いブリッジに見合わないほどに巨大な飛行船用格納庫とそれぞれ2本ずつのマストと煙突をもつ特徴的な艦影をもつ、赤いラインを携えた3500tクラスの本格的な外洋戦闘艦『よるぎり』(WPF-53)だ。ブルーマーメイドと志、使命を等しくするも、女性主体の組織であるブルーマーメイドとは大きく異なり、男性主体の組織体系をもつホワイトドルフィンの所属艦艇だ。
一件『ちちじま』が不利に見えるが、そこを工夫と戦術で埋めるのが今回の演習の目的だった。
「落ち着いて、皆。今のは牽制射で、いわば開戦の合図。戦いはまだこれからだよ」
クルーをなだめるその声の主は『ちちじま』副長の神余久美だ。頭脳明晰、文武両道、容姿端麗、さらに海洋研究博士号までもってるという非の打ち所がない天才だ。
ここまで完璧ならもはや彼女が艦長でないのが不思議なほどだが、その疑問をもつクルーは『ちちじま』にはいなかった。つまり、艦長はそれ以上に天才だった。ということである。
「だよね、艦長?」
「うん」
艦長席に深く腰掛け、足をだらしなくぶらつかせているのがこの『ちちじま』の主、青木彩艦長だった。見た目にはやる気を感じさせず、眠そうなタレ目からは優秀な人材であるとは思いもよらないほどだった。
「艦長、次の手は?」
「右舷短魚雷発射用意。無誘導で発射角30°ずつ、『よるぎり』の進路上にばら蒔いて。起爆タイミング任せる」
命令は直ちに
「了解。右舷短魚雷発射管開放、発射準備」
水雷長の十六夜若葉の命令で、すぐさま右舷魚雷発射管が開く。
「魚雷、準備よろし」
「攻撃始め」
艦長の号令の直後、空気圧によって発射管から解き放たれた3本の魚雷は『よるぎり』の進路を妨害するルートへおどりでた。魚雷を回避しようとこちら側に艦首を向けた時、ようやく『よるぎり』の反撃が始まる。
「『よるぎり』も魚雷を発射した模様、それと76mmが動いてます」
『よるぎり』も負けじと『ちちじま』進路上に魚雷をばら蒔く。さらに主砲76mm砲による砲撃が始まろうとしていた。
「機関、両舷最大戦速。ジグザグ航行」
航海長が復唱し、艦は一気に増速する。最大速度44ノットを発揮する『ちちじま』こと改インディペンデンス級は並みの艦艇なら追い付くことは困難で、高度な戦闘システムと先進的な管制装置により、少ない武装搭載量を補って有り余るほどの優秀な艦だ。そこになら、勝機がある。と、多くの船乗りなら確信できるだろう。
しかし、青木の勝機は別のところにあった。
「『よるぎり』発砲!」
「衝撃に備え」
発砲炎が見えた数秒後、艦の前方に水柱が上がる。76mm砲は、小型とはいえ改インディペンデンス級のような艦艇には十分脅威となる砲だ。被弾すればその度に戦闘機能を喪失していくだろう。
「当ててきませんね、艦長」
神余は不思議そうに呟く。
「たぶん、砲撃は囮だよ。さっきの魚雷と併せて注意をそちらに引かせたいんだ。本多さんらしいね」
青木は『よるぎり』側の意図を即座に読み取ると、次の1手を打つ。
「煙幕弾、全部焚いて」
「えぇ?」
マイク越しに聞こえる青木の指示に、CICからは驚きの声が上がる。
「はやく、艦長の命令よ!」
時間との勝負だ。少しでも遅れたら負ける。その直感から神余が追撃する。
「り、了解」
艦橋両舷に装備される小型煙幕弾が軽い音を立ててすべて発射されると、『ちちじま』を覆い隠すように厚い煙幕のカーテンが出来上がる。
『よるぎり』もカーテンの向こうに隠れ、レーダーのみにその姿が映し出される。
「さて、あとは……!?」
耳をつんざく轟音に、咄嗟に耳を抑える。艦橋の前を高速で横切る物体が一瞬だけ視認できた。音の正体は。
「マジかよ……
シースパローは、『よるぎり』艦尾に搭載されている8連装箱形ランチャーに収められた小型の対空兵器だ。元は高速飛行船用の制空兵器だったものを、艦載用に転用したもので、弾頭に装備されたレーダー範囲に目標を捕捉すると起爆し、敵の墳進魚雷や飛行船を撃墜するための兵器だ。それを艦に直射してきたとなれば、話は別だが。
「あのタヌキ親父、定石破りにもほどがあるだろ!」
「こっちの位置を炙り出したいんだ。これだけの煙幕だとレーダーじゃ完璧に捉えられないから」
慌てるクルーの様子を尻目に、神余は冷静そうだ。
「どうします?艦長」
青木が少し考えている間に2本目がきた。今度は艦尾格納庫の横をすり抜けていく。
3本目は当たるだろう。
「後進一杯、取り舵、90度」
「オッケー」
神余はニヤリと笑うと機関室に命令を伝達する。ディーゼルとガスタービンのけたたましい音が響いていた『ちちじま』は一瞬の静寂の後再び鳴動する。今度はバックしつつ、円を描き始める。
そして、ちょうど後進に入ったタイミングで、3本目が見当違いの方向へ飛んでいく。やはり、まさかこの煙幕の中で後進に入っているとは思いもよらなかったようだ。
『よるぎり』は完全に、『ちちじま』を見失った。だが、それは『ちちじま』も同じで、煙幕から出ないことには敵を捕捉することすらままならない。
しかし、青木の考えは違った。
「またお話してたの?」
悪戯っ子のような優しい目で問いかける神余に小さくうんとだけ返す。
「機関前進一杯、面舵。たぶん、その先にいる」
青木の言葉に、呆れたようなクルーの声が返ってくる。
「また艦長の直感ですか?」
「まぁ、艦長が言うなら……」
「ホントにいたら酒おごります」
「言ったな?」
自由すぎない?とツッコミでも入れたくなるが、我慢する。
航海長が命令通り舵を切り、煙幕を抜けると……
「い、いた。ホントにいた!」
そこには無防備に側面を晒している『よるぎり』の姿があった。
あまりの近さに艦橋内で驚くクルーの慌てぶりさえも鮮明に見える。
「左舷短魚雷、全弾発射!主砲、敵水線上に撃ち込みまくれ!」
青木も珍しく気合いをいれて命令を飛ばす。
『よるぎり』との距離はわずか100m。反航戦の形になって『よるぎり』の側面を掠める『ちちじま』は持てる近接火力のほぼすべてを『よるぎり』にぶつける。
『よるぎり』は魚雷3本と57mm砲16発を水線付近に被弾した。特に機関部に集中して命中した2本の魚雷が決定打となり、『よるぎり』は戦闘不能と判定された。
………正確には判定ではなく、リアルガチに艦が壊れたとは、まだ『ちちじま』クルーは知らなかった。
故に、これから大量の始末書や叱責が待ち構えているとは全く予想だにしておらず、勝利の美酒に酔いしれていた。
2話もなるべくはやく出したいです。
続きが読みたいって方は評価、感想などお願いします。
作者が泣いて喜びます。