ハイスクール・フリート 海賊艦隊で大ピンチ!   作:みん提督

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ちょっと遅くなりましたが、4話です。




第4話 出撃準備でピンチ!

犯行声明から数時間後、硫黄島要塞の一角、高官フロアのとある執務室に、2人の隊員が出頭していた。

 

「『ちちじま』も出撃するので?」

同艦副長の神余は不思議そうに返した。相手は直属の上司である豊島司令だ。

「そうだよ。何か異論あるかい?」

忙しそうに書類やPCを確認する豊島。神余は思わず、親友兼艦長の青木と顔を見合わせる。

「豊島司令、『ちちじま』は今日から向こう1ヶ月は謹慎処分だったはずでは?」

青木も不思議そうに尋ねる。

「謹慎処分はいったん(・・・・)取り消しだよ。正式な命令はすぐに出るさ」

少しぶっきらぼうに答える。意外と言えば意外だが、当然と言えば当然か。

「一応、理由を聞いてもよろしいですか?」

「なんだい、心当たりあるじゃないか」

豊島は作業の手を止めず、つっけんどんに答える。

「艦の数が足りないからさ」

端的に理由だけ述べる豊島だが、2人はあまりに意外な決定にしばし呆然としていた。

「なんだい?話は終わったよ。アンタらもとっとと準備しな」

「司令、本当の理由は別にあるのではないでしょうか?」

青木は一歩前に出て、彼女の真意を尋ねる。

「……聞いてどうすんだい」

一瞬、作業の手をとめて、青木を睨み付ける豊島。

「確信を得たいからです。理由もわからず戦うのは、私の本分に反します」

書類をいったん机に置き、老眼鏡を外す豊島。青木を再度睨む。彼女の眼に迷いはない。

「……いいさ、隠すようなことでもないからね」

そう前置きし、豊島は続ける。

「アンタらが大河原と因縁があるからさ。あのイカれ野郎に対処できる人間を現場に派遣するのは、そんなに不自然かい?」

言い分はもっともだ。まだ何かあるようだが、珍しく食い下がる青木は、神余と共に執務室を後にした。

 

 

「何を考えてるのかな、おば様は」

おば様、というのは豊島のあだ名だ。隊員たちは敬意を込めてそう呼んでいるが、彼女はこのあだ名を使うと怒るため、あまり本人の前では言わないようにしていた。斉賀は別だが。

「それがわからない。僕らと大河原の間に何があったのか、知らないはずもないし」

大河原との因縁から、てっきり任務から外されるとふんでいた青木は、あっさり決まる出撃に拍子抜けしていた。

ダメと言われたら、許可されるまで交渉するか、あるいはもっと上に直談判する手筈だったが、不発に終わった。

「恨みから独断専行に走る可能性あり。って言われたら何も言い返せないもんね」

黙って廊下を歩く2人、もう夜の10時を過ぎるというのに、隊員たちが慌ただし動き回っている。出撃準備や、作戦案の作成、備品の積み込みや艦の準備など、仕事は山積みだ。

「今日は結局残業だね」

「そうね」

ふいに立ち止まる青木。なにかを考え込むような表情だ。どうせまたよからぬことを考えているのだろう。

「ねぇ、久美……」

青木の言葉を遮るように自然と言葉が出る。

「だめ」

ハトが豆鉄砲を喰らったような顔になる青木。神余からの反論は考えていなかったようだ。

「まだ何も言ってないじゃん」

「考え込んじゃって、らしくない。まさか、エリカの敵討ちなんて考えてないよね?」

「でも、僕は……」

青木は何か言いかけて、そのまま黙ってしまう。その目には、めずらしく自信がなかった。遠い日を見ているような、寂しい目だった。

「ふぅ、やれやれだね」

意図を察した神余は、携帯端末を取り出し、準備を続ける『ちちじま』に連絡をかける。相手は『ちちじま』航海長の斉賀だ。

「千春、そっちはどう。出航準備は進んでる? そう、焦っては元も子もないからね。焦らず急いで正確に、ね。あと、機関室には近付かないでね。月島ちゃん、仮眠中に叩き起こされてご立腹だから。あと、私もそっち行くから。うん、また後で」

電話を切ると、青木が首をかしげていた。

「……出航準備していろ。なんて言ってないよね?」

神余は何を今さらと言わんばかりにため息をつくと、

「艦長がやる気なのに、クルーがついてこなくてどうすんの?」

と一言。ウィンクをして艦に向かう神余。呆気にとられる青木だが、しばらくしてようやく理解する。

「いいクルー……いや、友達を持ったな」

さっきよりは整えた覚悟で、彼女にお礼を言った。

「ありがとう。久美」

振り返ると、彼女はとびきりの笑顔で返答してくれた。

「何を今さらだよ、親友兼艦長どの!」

2人はそれぞれの仕事場へ、踵を返して歩き出した。

 

 

要塞の一角にある士官専用会議室。専用の防音設備や、秘匿性の高い専用回線、高級感あるアンティーク調の内装など、静かで落ち着いた雰囲気の部屋だ。

その部屋に、作戦に参加する8人の艦長たちと作戦司令官である豊島司令官らが一堂に会していた。

「さて、まずは現状を整理しましょう」

進行役の司令官専属副官が指示棒を取り出し、ホワイトボードにまとめられた資料と大型ディスプレイを指しながら説明を始める。

「昨日の夕刻、インドネシアにある旧米軍や治安維持機関の退役艦艇を保管する第39予備役艦隊基地が襲撃されました」

ディスプレイに表示されるのは、旧くなったものの、まだ使えそうな夥しい数の中古艦艇だ。米国では艦艇を大量に配備するため、その更新の度に大量の艦艇が退役し、中古市場へ流れる。その中で、有事に米軍に編入するために、活動状態で保管される艦が一定数用意される。これがいわゆる予備役艦隊だ。世界中にこうした設備があり、日本も国内各所にこうした拠点をもっている。

「同基地を警備していた民間軍事会社(P M C)社員たちは死者こそ出ていないものの、全員が海賊に捕えられてしまっていて、彼らは人質となっている模様です」

民間軍事会社のメンバーは30人ほどで、それがそっくりそのまま人質になったとあれば大事件だ。だが、それだけではすまない。

「しかし、彼らは人質の他に艦隊まで丸ごと盗んでいきました。確認される限り、オリバー・ハザード・ペリー級フリゲート5隻、キッド級駆逐艦1隻、スプルーアンス級駆逐艦2隻の計8隻の盗難が確認されています」

会議室がざわつく。艦隊泥棒とか言われているが、そんな可愛らしい表現で済む数ではないだろうと。全艦が高い戦闘能力を持つ正規の艦艇で、しかも広域防空能力や、場合によっては長距離水上戦能力まで持っているかもしれない。非常にやっかいな相手だ。

「他にも、盗まれた艦艇があると思われますが、第39予備役艦隊基地の管理記録が破壊されており、また本土とは違う管理体制にあったため、元々どれだけの艦が保管されていたのかもわからなくなっています」

副官は一呼吸置き、今度は臨時の艦隊編成表に目を移す。

「これに対して、我が方の戦力は不足しています。この硫黄島要塞からは豊島司令座乗の『ほたか』、黒橋艦長の『まごじま』、高崎艦長の『あねじま』、高崎艦長の『いもうとじま』、青木艦長の『ちちじま』、藤崎艦長の『たきゆき』、国分艦長の『なぎさぎり』、草川艦長の『ながしお』、の8隻が第1部隊として出撃します。第2部隊は本土の各部隊から引き抜かれた艦艇で構成される混成部隊です。数の上では15隻と、第1部隊の倍近い戦力を有しますが、艦隊を集合して再編成するのにてこずると思われ、到着は遅れる見込みです」

敵の構成が何もわからないも同然で、こちらは数的不利がほぼ確定している。厳しい戦いになるのは目に見えている。

「実質的に俺たちだけで何とかしないといけないってことっすね」

『ながしお』艦長、草川が言う。サブマリナーのくせに、だいぶうるさい奴で、陸ではお調子者だ。

他のメンバーには、衝撃と動揺が混じった空気感が漂う。

「敵の戦力がまるでわからん」

「艦隊を盗まれるのはさておき、杜撰な管理体制の方が問題だな」

「今その段階の話をするべきではないでしょう」

「近くにブルーマーメイド基地があったはずだが、何をしてたんだ」

「通報を受けて駆け付けたときには全て終わっていたらしい。これだけスピーディーに動けるなら、敵さんもかなりの手練れだろう」

「あの『マンボウ旅団』だからな」

参加メンバーは口々に呟く。しかし、海上要塞騒動もそうだが、いくらなんでも海賊に盗られすぎではないだろうか。そうした声も聞こえる。

「我が国としても一大事であるこの事件に対し、投入できる戦力は多くありません。主犯が我が国の重要指名手配犯であるのもあって、他国の積極的な協力は望めません」

この報告に、双子の艦長、高崎姉妹が首をかしげる。

「なんで大河原が日本人なのと、他国の支援が望めないことに関係性があるのさ」

妹の直子の疑問に、すかさず姉の直葉が答える。

「ようは国のプライドとか面子さ。自国の犯罪者をてめぇで捕まえらんないでどうすんだって話さ」

口が悪い直葉の回答がどうも気に入らない様子だが、青木と違って引き際を弁えているのでそれ以上は何も言わなかった。

「一応、米国はハワイ所属の艦がいくらか出るようですが、第二ラインの警戒に専念するとのことです」

いざとなれば出てくるということか。あの自由の帝国はいつも虎視眈々とおこぼれを狙っている。自分の不始末(海上要塞騒動)は他国に押し付けるくせに、だ。

副官が続ける。

「戦力編成は、先に申し上げた我が要塞艦隊所属の8隻を基幹とした第1部隊と、本土の各部隊から引き抜かれた第2部隊で構成されます。第1部隊は主に斥候として、敵の戦力把握や、敵アジトの無力化及び人質の救出、前哨戦力の排除が主な任務となります」

「ようは第2部隊到着まで、戦線をもたせれば良い、という訳か」

「そういう訳です。藤崎艦長」

副官がディスプレイの表示を切り替えると、作戦に参加する各艦のデータが表示される。

「まぁ、それにしたって艦が足らんな。要塞艦隊をもっと出せないのか?」

そうぼやくのは『まごじま』艦長、黒橋だ。ベテランのブルーマーメイド隊員で、横須賀校の教官を務めたこともある。

「黒橋艦長、お気持ちわかりますし、出来ることなら活動可能な全艦を出したい所ですが、要塞艦隊にも持ち場があります。整備、修理中の艦や、現在任務中の艦もいますし、ここまで戦線が拡大した時の予備兵力を残す意味もありますので……」

申し訳なさそうに汗をぬぐう副官。彼女としても、やりきれないだろう。

「うん、そのことはよくわかってるさ。フィリピン支部やインドネシア支部だって余裕がないしね」

戦力の低下を嘆くメンバーの中で、1人の艦長が発言する。

「ところで、本来この場にいるべきでない隊員がいるのですが、なぜ誰も指摘しないのでしょうか」

メンバーの目線を一身に受けるのはホワイトドルフィン作戦艦艇『なぎさぎり』の若き艦長、国分隆一だ。規律を重んじ、正義感に溢れた性格で有名な艦長だ。曖昧なことや優柔不断を嫌い、これまでに多くの民間人救助に活躍したいわゆる英雄だ。その性格から、彼を慕うものも多く、事実彼の乗艦『なぎさぎり』のクルーは多くが彼の公明正大な人格に惹かれていた。だが、高すぎる正義感ゆえに他人と衝突することも多く、命令違反も多々あるため、上層部からは煙たがられている人物でもある。目をつけられたら面倒なことになると、専らの評判である。

「誰かねそれは」

ベテランの落ち着いた声で問う藤崎に、国分は純然たる怒りを携えた瞳で答える。

「『ちちじま』艦長、青木彩2等保安監督官です」

「え?」

思ってもいない所からの攻撃に、思わずコーヒーをこぼしそうになる青木。しばしフリーズするほどに、唐突だった。会議中ずっと黙ってコーヒーを啜っていたから余計に面食らっていた。

「なぜ、青木艦長が?」

「青木艦長は、本日の演習で本多司令官座乗の『よるぎり』を必要以上に破壊し、その罰として向こう1ヶ月の謹慎処分を受けていたはずです。それがなぜ、さも当然のように作戦に参加しようとしているのか、青木艦長の素行に問題があると見られて然るべきではないでしょうか」

この訴えに、豊島は頭を抱える。彼の評判はホワイトドルフィンどころか、ブルーマーメイドでも広く知れ渡っていた。豊島も、何度か行われた協同作戦でそのことは骨身に染みていた。

「国分艦長、いきなり無礼だよアンタ」

豊島はあきれたような声で制止を試みるが、火に油だった。

「なぜです司令官。この場で間違いなく、規律違反を犯しているのは青木艦長ですよ」

もはやあきれて、ものも言えないような雰囲気になる会議場。

「伝達不足だったなら、こちらの不手際だが、彼女の謹慎処分はついさっき解かれたよ」

タブレットに表示された命令書を国分に見せる。少し納得したのか、それとも反撃されて狼狽したのか、まだ豊島に噛み付こうとしてくる。

「我々はまだ聞いていませんでした。こちらにも不手際があったかもしれないので、それに関しては謝意を表明します。しかし、それはそれとしてなぜ、わざわざ謹慎処分を解いてまで『ちちじま』を出すので? 理由をお聞かせ願いたい」

「艦の数が足らんからさ。別に壊れてる訳でもないんだし、動かせるなら動かした方がいいだろうよ。もちろん、この作戦が終わったら改めて謹慎を命じるさ」

豊島の言葉に、また青木は驚く。

「初耳ですが?」

大きくため息をついて、豊島は説教モードで言う。

いったん(・・・・)取り消しだと言っただろう。聞いてなかったのかい?」

肩を落とす青木だが、次の一言でさらに落胆させられることになる。

「ただし、今回の作戦次第では謹慎期間が延びると覚悟しておきな」

まるで思考を先読みされたみたいだ。暗に無茶なことはするなということだろうか。

(土台、無理な注文だよ、おば様)

すでに、青木の中で人生最大の無茶を決め込むことにしていたので、今さらだった。もっと早くにそう言っていれば、また変わったかもしれないが。

「そういうことでしたら、私はもう何も言いません。青木艦長、ご無礼お許しください」

丁寧に堅苦しい謝罪をする国分だが、実質的に討論してたのは豊島司令なので、そっちに謝るべきだろうが。

「いえ、別になんとも思っていませんので、お気になさらず」

少し不満げな顔で席に戻る国分。横で聞いていた藤崎はため息をつき、草川は茶化すように笑っていた。

「……えー、では作戦案を詰めていきましょうか。皆さんの積極的な議論を期待するところです」

副官が脱線した会議を軌道に戻すと同時に、青木はとある作戦案を提案する。

「よろしいですか、司令」

珍しく挙手する青木に、豊島は少し驚いていた。

「まともな案なんだろうね?」

その問いに、青木はさぁとだけ返し、自身の作戦案を説明した。

 

一同に衝撃が走る。目を見開き、ただ驚く者がほとんどだった。しかし、青木の目は本気だった。

しばらくの沈黙の後、豊島はゆっくりと口を開いた。

「…………もう一回だけ、結論を述べてくれないかい……?」

青木はもう一度、迷いなく、自分の意思を伝える。

 

 

「私を生贄にする。という作戦です」




次の5話から、少しハードになり始めます。

あと、国分艦長のモデルはフジリュー版のホーランド提督です。
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