あと今回から少し閲覧注意な描写が増えます。苦手な方はご注意くださいまし。
ちなみにマジでヤバい事態になると、「ピンチ!」ではなく、「大ピンチ!」や「ピンチ!?」になります。(もしくは両方つく)
何処までも続く水平線。見渡す限りの大洋に、晴れやかな透き通る空。波の心地よい音が響く海上を、陽光を全身に浴びながら、白波を立てて7つの巨体が滑っていく。遠くには鯨の潮吹きや、優雅に空を飛ぶ渡り鳥の群れが見える。
いたって平凡、平和な海だが、7つの巨体ことブルーマーメイド・ホワイトドルフィン連合艦隊には、それを享受する余裕はなかった。
単縦陣を組む艦隊陣形の中ほどに位置するブルーマーメイド作戦艦艇『ちちじま』の艦内はてんやわんやだった。
「
艦長代理と呼ばれるのは、本来の『ちちじま』副長
「うん……うん、いいと思うよ。補給艦隊とのランデブーもお願いね」
提出されたタブレット端末に、指紋認証で承認する。若干の遅れはあるものの、概ね航海は順調だ。航海士は了解と返し、艦橋から降りていった。
「CIC、レーダーどう?」
続けて、CICの状況を確認する。
「レーダー、特に反応無し。ソーナーにも魚しか見えません」
レーダー・ソーナー管制官兼CIC主任オペレーター、
「ありがとう。その調子でお願いね」
続けて別のマイクをとり、今度は機関室に繋げる。
「月島さん、機関室はどう?」
「今日は特に調子良いよ。ぐっすり眠ってたのに叩き起こされて、残業させられたアタシに比べればね」
相手は『ちちじま』機関長の
「月島さんも元気そうでよかった。その調子でお願いね」
月島はまだ何か言っていたが、神余は通話をぶち切って言わせなかった。『ちちじま』は少し個性的なメンバーが多いが、特に不思議ちゃんな艦長がいないと、艦は少しだけまともな優等生クラスのようになるのが不思議なところだ。
副長席に腰掛け、タブレット端末で航海計画や作戦準備案に目を通す神余。ブリッジでは、操艦以外にも艦長代理として多くの業務があり、休める暇は多くなかった。
「つかれてない? 艦長代理」
突然の声かけにすこし驚く。声の主は航海長(主操舵手)の
「んー、大丈夫。むしろこのくらいの方が気にならないよ」
それを聞くと、斉賀は少し意地悪そうな顔になる。柄になくテンションが下がってる様子なのは、最愛の彼女がいないせいだろう。こういう状態の神余をからかうのが、斉賀には楽しみな時間でもあった。
「そうかぁー、わかるよぉー、私も船乗りだもの」
先進的なスティックタイプの操縦装置を握りながら、体をくねらせて大袈裟に言う斉賀。彼女のおふざけモードから、艦橋組は瞬時に臨戦態勢に入る。
「え、なに急に」
唐突のおふざけモードに困惑する神余。いつもなら軽くあしらって不発させる所だが、今日はそんな余裕はなかったようだ。
「わかります、艦長代理。私も入港どころか、本土に行った時しか会えませんもの」
斉賀の隣に座り、同じく操縦装置を握るのは航海科の
「いや、だから何の話?」
困惑する神余を尻目に、今度は両翼見張り員も攻勢に参加する。
「艦長代理、お熱いですしね~」
右舷見張り員の
「え、え、あぁ!」
ようやく何について言われていたのか察し、手元からポロリとタブレット端末が落ちていく。落としたのも気にできないほどに、耳まで真っ赤に染まった彼女の顔は、普段のクールさからは想像できないほど可愛らしいものとなっている。本人はそれどころではないが。
「仕事中ですぜ、艦長代理。そういう想像は控えて頂かないとな」
ケラケラ笑いながらからかうのは左舷見張り員の
「だ、誰が彩とそんな……!」
墓穴を掘った。直後にそう悟るも時既に遅し。常に即決即断な彼女の性格が裏目に出た。
「おや、誰も我らが青木艦長どのとだなんて、言ってませんがね?」
黒丸は八重歯を見せながらケラケラと笑う。腹が立つが、何分完敗なので何も言えない。顔を抑えて恥ずかしがり、今にも蒸気を吹き出しそうな神余。少し可哀想にもみえる光景だった。
「みんな、その辺にしとこうよ。艦長代理がそろそろオーバーヒートしそうだし」
副操舵手の柿沼が鎮火を図る。こうした時に火消し役を買って出るのは彼女の役目だった。ふわふわした性格からケンカを止めるのも異常に上手く、『ちちじま』ではマスコット的な立ち位置を獲得していた。
落ち着きを取り戻した神余だが、まだ真っ赤な耳からまだ少し復帰しきれていない様子だった。艦橋が笑いに包まれる中、改めて、斉賀は神余を勇気づける。
「ね、私らはこんなことやってる余裕があるんだから、きっとアイツも大丈夫だよ」
笑顔で言う斉賀に、少し驚きの表情を見せる神余。
「そうですよ。艦長は不死身ですから」
右舷見張り員の関が続ける。艦長への信頼は、『ちちじま』の全クルーが等しくすることだった。
「また、ケロッとした顔で帰ってくるさ」
今度は、左舷見張り員の黒丸が答える。八重歯とサムズアップを見せつけるのが、彼女のサインの1つだ。
「みんなに寂しい思いをさせた罰として、全員分のラーメン奢らせません?」
副操舵手の柿沼の悪魔の提案に、両舷見張り員は即座に賛成の声を入れる。青木も、自分が知らない所で、財布が狙われているとは思いもしないだろう。
明るい雰囲気の艦橋に、神余は自然と笑みがこぼれる。
「ね? 意外とみんな大丈夫だから。きっとあの子も大丈夫だよ」
「根拠ないじゃん、それ」
斉賀の言葉に、苦笑混じりに神余が返す。
「でも、その通りかもね」
誰にでもなく、ポツリと呟く。艦長代理となっても決して座らない、空席のままの艦長席を見つめる。いつものように、やる気なく足をブラつかせて、深く椅子に腰掛ける親友兼艦長の姿が見えるような気がした。ほんの一瞬だけ。
「……彩が帰ってきたら、1発ビンタでも入れてやろうかな」
またしてもそれいいなぁとか、1人1発で、とか彼女の預かり知らぬ所で、色々と盛り上がる『ちちじま』艦橋。こうした賑やかさは、時折悩みを忘れさせ、気を楽にさせてくれる。遠い海の先にいるはずの親友兼艦長の姿を想像しながら、神余は決意を呟く。
「待っててね、私の艦長」
その言葉が届くかどうかは、
連合艦隊は着実に、作戦海域へと近づきつつあった。
連合艦隊が作戦海域へ急行する中、フィリピン東方の無人島は昼間だというのに、淀んだ空と海に囲まれ、夜のような暗い風景に包まれていた。
先ほどまでの美しい海とは反対に、付近のスラム街と化したフロート艦から垂れ流されている生活排水やゴミが海面を覆い、異臭を放っている。生き物も少なく、空には瀕死のカモメが弱々しく飛んでいる。さらに、治安の悪化で、ブルーマーメイドも手が出せず、商船も航路から真っ先に外すほどの凶悪な海域と化していた。
こうした堅気が寄り付かなくなるエリアでは、古今東西、裏組織が幅を効かせるようになる。この海域も例外ではなく、大小数十隻の艦艇を保有する海賊『マンボウ旅団』がアジトである無人島を中心に、付近の海域にテリトリーを築いていた。
ブルーマーメイドも匙を投げる凶悪な海域で、彼らは思い付く限りの全ての犯罪行為を行い、フロート艦も事実上の領土としていた。
そんな太平洋の掃き溜めとも言われる海域には、複数の哨戒艇が周回していた。『マンボウ旅団』の船だ。
アジトの警戒や、みかじめ料の徴収、商船への切り込みや違法薬物の輸送など、様々な仕事をこなす『マンボウ旅団』の主力艦艇だ。
その内の1隻、赤いベレー帽を被った3人の海賊が乗り込む『哨戒艇3号』は黒く淀んだ海の上をゆっくりと進んでいた。海賊たちはつまらない任務に身が入らず、不真面目な態度で仕事に従事していた。
「あぁーあ、つまらねぇな」
肩からアサルトライフルを下げる海賊の1人が大袈裟にぼやく。こうして半日は海に出て監視するのだが、最近は特に船など見えず、代わり映えしない汚い景色の中を何度も行き来していることになるので、つまらなく感じるのも無理はない。
「あんまり大声でそういうこと言うなよ。大船長に聞かれたら殺されるぞ」
もう1人の海賊が注意するも、ぼやきは止まらない。
「かまわねぇよ。聞こえるはずもないし、第一最近の大船長は
すると、さらにもう1人、操縦桿を握る海賊が質問する。
「ところでよ、お前ら。最後に女抱いたのはいつだよ」
2人は一瞬きょとんとしてから顔を見合わせる。
「なんだよ急に」
「いや、なに気になってな。ちなみに俺は3ヶ月抱いてないんだがな」
操縦桿を握る海賊は、聞いてもないのに答える。彼は大の女好きだ。そのことをよく知る2人は、彼の質問の意図を察する。
「お前、今回の作戦でもまたやる気か」
「あれ、うるさいからやめてもらいたいな……臭いも酷いし」
あれ、というのは彼の苛虐志向のことだ。実を言えば、彼は敵船に乗っている好みの女を三日三晩陵辱した後に殺害するという、常軌を逸した趣味をもっていた。海賊に限らず、こうした裏稼業を営む者の中にはこうした歪んだ性癖をもつ者も多い。しかし、元が艦隊傭兵や公人であったメンバーが多い『マンボウ旅団』では、こうしたあからさまな志向をもつ者はわりかし珍しかった。
「んなこと言ってるわりには、おれが盛ってると毎回ハエみてぇにたかってくるじゃねぇか。特にあの時の
男はすかさず反撃する。
「まぁ、確かに全く興味ねぇ訳じゃねぇが。とは言ってもなぁ、おれは死体じゃ勃たねぇんだよ」
「おれは生きてる女一択だな」
倫理観の薄い会話が続く。裏稼業をやっていると、どうやらその気が全く無くても、死生観が狂ってしまうようだ。
「つれねぇなぁ。だがまぁ、いいさ。その分俺の取り分が多くなるからな」
グヘヘと下卑た笑みを浮かべる男に、2人は呆れるより他無かった。
頭のおかしい他人を見ると、どうやら気持ちが締まるようだ。2人は身震いした後に元の仕事に戻り、双眼鏡であたりの汚れた海の監視を再開した。
その直後だ。
「ん? あれ船じゃないか?」
進行方向右側に、たしかに白い船首波が見えた。小型のスキッパーのようで、どんどん近付いているようにも見えた。
「なに本当か?」
操縦桿を握る男も、その方向を見る。やはりスキッパーが見える。
「大船長はたしか、近付く船は沈めて良いって言ってたよな……」
彼の声に、男は無言で機関銃をかまえる。
「おいおい、待てよ。もしかしたら女が乗ってるかも知れねぇだろ。もしそうだったら勿体無いぞ」
操縦桿を握る男はそう言うが、あまり説得力はない。
「お前は死体でもいいんだろ? 沈めたって構わねぇじゃねぇか」
「わかってねぇなぁ、これだからセカンド童貞は」
「なんだと?!」
今にもケンカが始まりそうな険悪な空気。嫌な空間から目をそらすように、もう1人の海賊はスキッパーの方を監視する。ようやく彼は異変に気付いた。
「あれ、あのスキッパー白旗あげてるぞ」
「なに?」
仲良くケンカしてた2人が同時にこちらを向く。白旗とはどういうことか。3人の頭上にはクエスチョンマークが踊った。
「白旗ということは、降伏か」
「なんで急に白旗あげて近付くんだ?」
仲良くケンカしてた2人だが、いつの間にかライフルを構えて臨戦態勢を整えている。仲が良いのか、悪いのかやら。
「罠かも」
1人がそう呟いた瞬間に、艇内の空気はさらに緊張で重くなる。犯罪者を取り締まるためなら卑劣な罠も使うブルーマーメイドのことだ。罠である可能性も十分にある。
爆発物を満載した無人機かもしれない。
3人は顔を見合わせて頷き、スキッパーに照準を合わせる。ギリギリま引き付け、確実に沈めるつもりだ。
スキッパー特有の甲高いエンジン音と、水飛沫をあげる音がどんどん大きくなってくる。距離500mより近付いた時、引き金に指をかけたその刹那、銃弾が発射され……
なかった。
「撃たないでほしい。僕は降伏するよ」
両手をあげて、スキッパーの乗員が立ち上がる。けたたましいエンジンを切り、完全に止まったスキッパーの乗員を見たとき、3人は驚きと同時に新たな不信感を得ていた。なぜ
「僕は、日本支部ブルーマーメイド所属、『ちちじま』艦長の青木彩だ。君たちのボスと会わせてほしい」
彼女もとい、青木は海賊たちにそう告げる。決死の行動が果たしてどういう結果をもたらすか。彼女含め、誰にもわからなかった。
前半と後半の温度差で風邪引きそうになるお話でした。
こういう、容赦ない描写書くの楽しいです(鬼)
次回以降はいよいよ艦隊戦が始まります。なるべくわかりやすいように書きます。
また少し、お待ちください。