ハイスクール・フリート 海賊艦隊で大ピンチ!   作:みん提督

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ようやく7話、全12話くらいの構想なので、後半戦突入です。

今回初めて軽い流血描写と、リョナ的なシーン入れてみました。
苦手な方はちょっと閲覧注意です。


第7話 最悪のピンチ!?

時間を少し遡り、フィリピン東方の無人島近海、『マンボウ旅団』のアジト海域にて。

 

普段通りの喧騒と、怪しげな機械の轟音がとどろくフロート艦群の横を、小綺麗な中古艦艇が航行していく場違いな光景が広がっている海域は、いつもよりも騒がしかった。

「ペリー級各艦は準備完了まで残り2時間……いや、1時間半で終わらせる」

長距離巡航大型魚雷投射ロケット(対水上トマホーク)積込み完了」

「キッド級、まだ釜の温度が上がりきっていないぞ」

「参加各艦の船長は最終コマンド会議を開く。5分以内に旗艦『べんぼう』に集まれ」

「日用品は後回しでいい。武器弾薬搭載を優先しろ」

決戦に備えて弾薬の補給や作戦の最終確認、艦隊の再編など、普段は特段やる気を見せない海賊たちもこの日ばかりは真剣に作業に取り組み、数日前に手に入れたばかりの新しい艦を入念に磨き上げていた。

一方、港の海賊たちの忙しさとは裏腹に、アジト内は静まり返っていた。

 

虫が這う湿った地下通路は水滴が定期的にポタリと落ちる音だけが響き渡り、誰が見ても不衛生極まる最悪な環境であった。

そんな地下の一角には、人質や捕えた者を幽閉するための専用区画があり、海賊たちからは専ら"監獄"と呼ばれていた。その中でも、現在使われている部屋は2つあった。1つは、人質となっている民間軍事会社(P M C)の社員たちが捕えられている大部屋で、もう1つは特別な(・・・)器具が並べられた専用設備を持つ特別室だ。

特別室には1人の女性が捕えられていた。簡素で古びた椅子に座らされ、両手両足を縛られて身動きがとれなくなっているにも関わらず、彼女の顔に焦りは見えなかった。肝が座っているのか、それともただの見栄っ張りか。

部屋の中を見渡し、少し唸った後ようやく彼女は一言呟く。

「…………これ意外とピンチなんじゃ……」

彼女の名は青木彩(あおき あや)。ブルーマーメイドに所属する若きエース隊員で、現在は作戦のためにわざと敵アジトに捕まっているわけだが、意外と殺意が高い部屋に通され、次第に自分はとんでもないことをやらかそうとしてることに気づき始めていた。

 

そうして思考がぐるぐるしていると、3人の男が部屋に入ってきた。旧式のアサルトライフルや拳銃、コンバットナイフで武装し、赤いベレー帽を被った、統一された色彩の軍服の上からでもわかるほどに鍛えられた体躯の男たちだ。

「えーっと……サカキだっけか」

「アオキだよ。なぁ、嬢ちゃん」

「サカキってなに? どう聞いたらそうなるんだよ」

ガヤガヤしながら入ってくるその3人は、見覚えのある人物だった。青木を捕らえた海賊たちだ。

「あぁ、さっきの……へっぽこトリオだね」

余裕綽々で、少しからかってみせる青木だが、直後に顔面に強い衝撃を受け、表情を歪める。

「!?……」

あまりに突然のことに一瞬、意識が飛びそうになるがなんとか耐える。

気を取り戻した青木の視界にうつったのは、アサルトライフルの固い木製の銃床だった。どうやら海賊の1人に銃床で殴られたらしい。歯が欠けていないか、舌で確認するよりも前に舌の上に血の味が広がる。久しぶりの鉄の味がした。

「あんまりナメた事言うなよ、クソアマ。殺されてぇか?」

海賊の物騒な一言を聞き流しながら、青木は口内に滲み出る血を吐き、予想外の展開に考えを巡らす。

今ここで弱気な姿勢を見せれば海賊は調子にのってもっと攻撃するに違いない。だが、かといってあまり煽っても同じことだ。それよりは態度を変えず、さっきと同じように返すのが一番だろう。との結論に辿り着く。

「女の子を急に殴ったりしたらモテないよ?」

血が口から溢れて首筋を伝っていくくすぐったい感覚を感じる。それと同時に、海賊はとうとう堪忍袋の緒でも切れたか、血走った目でアサルトライフルのセーフティを外し、トリガーに指をかけ、そして……。

「おい、よせタキトウ。何してるんだよ。大船長が来る前に殺しちまう気か?」

「そうだよ、タキトウさん。あんまりボコすと後が怖いって……」

もはやボコすという優しい表現ですむ話ではない気がするが、今度こそ黙ることを決める青木。どうやら本当に頭のネジが消し飛んでる男らしい。ここに来てようやく命の危機を感じ始めたからには、おとなしくする他あるまい。

タキトウと呼ばれるこの男を特に注意せねばならないと確信した時、特別室にノックの音が響く。

その音を聞いた途端、タキトウは不服そうに舌打ちしながら呟く。

「チッ、命拾いしたな」

アサルトライフルを肩に掛け直すと、他の2人と共に部屋の脇に控えるように立つ。3人にバレないように小さく一息つくが、その暇もない内に今度は扉が開く。まず入ってきたのは中肉中背の男で、さっきの3人と同じ軍服と赤いベレー帽を身に付けていた。飾緒が肩にかかっているのを見るに、参謀か何かであるように見える。

そして、問題は2人目の男だった。

「あ……」

思わず声が出る。こうして面と向き合って再会するのは実に2年ぶりだ。前回出会った場所が強烈すぎたのもあったが、それでも記憶に強く残り、今でもあの冷徹で憎らしい顔は鮮明にうかぶ。しかし、男はあの時ほど筋骨隆々というわけでもなく、頬は痩せこけ、軍服の上からでもわかるほどに四肢は細く、パッと見の印象は薬物か何かの依存症患者のようだ。しかし、その目に宿す眼力は健在だ。この男の眼は獰猛な猛禽類のそれと同じだ。

睨まれたら最後、彼に捕食される他に道はない。

それだけの恐ろしい男を前にしても、青木は怯えない。正確にはそれを悟られないように必死で耐えていた。あの男の眼力に呑まれれば最期、いっかんの終わりだ。

そうしている内に、男は青木のすぐ目の前に立っていた。男はようやく、ゆっくりと口を開いた。

「久しぶりだな。青木二等保安監督()

男改め、海賊『マンボウ旅団』の大頭にして残虐非道な国際指名手配犯、大河原彦次郎(おおがわら ひこじろう)は彼女を見下ろし、冷たくいい放つ。お互いわかりきった顔だ。今さら確認の必要もなかろう。彼女は質問には答えず、代わりに間違いを指摘する。

「今は二等保安監督()だよ。お陰さまで昇進してね」

またしても生意気な発言に怒ったか、それとも大河原をなめているとでも思ったのか、タキトウがアサルトライフルを構えようとするも、大河原に制止される。正直、話のわかる大河原よりも厄介な男だ。

「その様子を見るに、我がクルーが粗相を働いたようだな」

口から垂れる血を見ながら誰にでもなく呟く大河原。少しタキトウが反応したが、気にする素振りは見せていない。

「痛いのは慣れてるから問題ないさ。問題なのは君らの歓迎の仕方だね。一応、降伏して僕は捕虜扱いのはずなんだけだなぁ」

最初の態度を全く崩さない青木に、全く表情を変えない不気味な面のような顔で大河原は逆に、不満を漏らす。

「捕虜をとるのは軍事組織の話だろう。我々は海賊、お前たちのような国際的なルールやマナーもないのでな」

「そうかい。じゃあ、コーヒーを貰えないかな。無ければ水でもいいけど」

こうした意味の無いように見える応酬も、実際には重要な作戦の1つだった。

「口数の減らない女だな……。だが、俺の質問に答えれば、コーヒーぐらいなら出してやろう」

大河原の提案に、青木は目を輝かせながら快諾する。

「へぇ、気が利くじゃないか。で、その質問ってのは?」

彼の顔に苛立ちのようなものが見えた気がした。わずかに口角がピクリと動いたが、青木は特に気にしていない。

「何が目的だ?」

恐ろしく簡素な彼の質問。青木は素直な感想として、意外というよりはしまったと思っていた。彼の苛立ちは真意の見えない青木へのものだったのだ。

「これは、失礼したよ。じゃ、結論から言おう。君を止めに来たんだ」

なるべく彼をここに引き留め、無意味とわかっていても交渉を続けようとした青木だが、それさえ看過されていたとは思いもしていなかった。

「それはわかってる。そうではなく、一体何のために時間稼ぎをしているのか……を聞いているんだ」

血の気が引いていく感覚がした。髪の毛の先まで凍りつくような緊張感が青木の全身を急襲する。

(やっぱり手強いな……)

一呼吸置き、冷や汗が垂れるのがバレないかヒヤリとしつつも、尚態度を崩さず言い返す。

「時間稼ぎだなんて、人聞きの悪い。僕は平和的(・・・)に戦争を回避しようとしているだけだよ」

平和的に。という言葉に何か思うことでもあるのか、青木は、一瞬歪めた彼の表情を見逃さなかった。

「平和的に……だと?」

彼の背後に控えるへっぽこトリオと副官が息を飲む。見るからに怒気を含んだ拳を震わせる彼に、恐怖を感じているようだ。

どうやら地雷を踏んだらしい。と、冷静に分析しても『反省しても後悔はしない』という彼女の心情が直後に事態を悪化させることになる。

青木がとあることに気付いたからだ。

「あ……その右腕……!!」

次の瞬間、彼女の首に重たい衝撃がかかる。一瞬息が止まり、間髪をいれずに金属製の冷たい機械仕掛けの義手がギリギリと細い首を絞め上げていた。

「……俺の右腕が、何だってんだ!?」

視界が白黒に点滅し、世界がぼやける。狭くなった気道が、酸素を取り入れようとするが、物理的に気道が塞がれているため意味はない。

「あ……が…………」

「お前にやられた傷さ。ハハッ、お前は都合がいいから忘れてるだろうがな。だが、俺は死ぬまでお前の所業を忘れはしないぞ。地獄に堕ちたって、忘れるものか!」

大河原の声はほぼ青木には届いていない。すでに義手のフルパワーで首を絞められ、数秒の内に気道や血管が塞がったせいで脳へ血液や酸素が届かなくなり、視界は点滅を通り越し、暗くなり始めていた。

「うぇ……げ……え」

(ヤバい……マジで落ちる……!)

口からは血が混じった唾液や泡が止めどなく溢れ、椅子に縛られて身動きが取れない体も小刻みに震える。瞳孔は開ききり、目玉が飛び出しそうになる。とうとう三途の川岸が見え始めていた。

「大船長! やりすぎだって、マジで死ぬって!」

「殺しちゃ意味ねぇって言ってたのアンタだろうが!」

タキトウをのぞく2人の男が、大河原を無理やり引き剥がしたため、なんとか拘束から逃れられた。

「ゲホッ……ゲホ……オェ……」

(訂正しよう。タキトウとか言うのよりもコッチの方が100倍ヤバい)

青木はなんとか息を吸おうとするが、まだ元の太さに戻りきっていない気道が痙攣し、血やら泡やら唾液やらが喉につまり、大きくむせ返る。酸素が全く入らないよりはマシだが。

「離せ、お前たち! コイツは訳が違うんだ、コイツだけは殺してやる!」

「おい、大船長暴れんなよ! 落ち着けって!」

「タキトウ、鎮静剤打ってくれ!」

海賊たちはかなり慌てた様子だ。慣れた手付きで大河原の首もとに鎮静剤を注射すると、しばらくもがいていた彼は次第に抵抗をやめ、呼吸も安定していった。

一方の青木は、突然のことに混乱しつつも、徐々に復活しつつあった。自分の何にでも興味をもって迂闊に首を突っ込む癖は直さなければならない。と、強い教訓と反省を得た彼女だが、同時に情緒不安定にも見える大河原の態度に疑問を抱き始めていた。

(おかしい。僕に恨みがあるのはわかるが、だからといってあんなに急に爆発するものかな……体格も性格も、あの時とは全く違う)

大河原に抱いていた違和感を考察しながら、彼を改めて観察する。無気力な顔と、痩せ細った体。うつらな目の下にある大きなくまに、不安定な精神。さらに鎮静剤を常用的に打ってること。

ここまで来れば、彼がどうしてああなってるのか、嫌でもわかるものだろう。

「まさか、君って……」

そこまで言って、言葉を飲み込む。さすがにさっきの首絞めで懲りた。余計な一言なら言わないが吉だろう。

「……殺してやるぞ、お前の仲間をそうしてからな」

大河原は副官に肩を借され、うわ言のようにぶつぶつとなにかを呟きながら部屋を出ていった。3人の部屋番も、気まずくなったのか、順々に同じく部屋を出ていった。

1人になった部屋で、ようやく大きなため息をつけた。緊張から一時的だが解放され、椅子に全体重を委ねる。ギシリと古い椅子が軋んだ。

 

 

「とんでもないこと、具申しちゃったなぁ……この後どうしよう」

 

軽く言い放つが、内心は作戦が破綻するかもしれない恐怖心と焦りから、穏やかではいられなかった。

結局、彼女が拷問された時間だけ、なんとか稼げただけだった。

海賊たちが全艦を上げて出撃したのはこの30分後のことである。




クールな主人公がボコされるシーンってやたら記憶に残りますよね(笑顔)

相変わらずはいふりっぽさがない話が続きますが、ご容赦ください……。
あと、ようやく次回から艦隊戦が始まります。お楽しみに。
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