艦隊戦描写は初めてなので、良ければ感想、評価など下さい。
夜も深まりつつある午後7時過ぎ。生き物も眠りにつきはじめたフィリピン東方の静かな南海の風景は、長閑で平和そのものといえた。
ただし、実際問題として海域は平和とは言い難い状況だった。
「敵墳進魚雷迫る! 右舷2時の方向、距離8万(m)」
「
「主砲、対空自動迎撃開始しました」
「『あねじま』が邪魔だ。面舵回避、第一戦速黒20」
「主砲、対水上戦闘に切り替え。目標、敵右翼のペリー級フリゲート艦。撃ちぃ方ぁ始めー!」
「旗艦『ほたか』被雷!」
ブルーマーメイド・ホワイトドルフィン連合艦隊第1部隊は海賊『マンボウ旅団』の海賊艦隊と今まさに交戦中だった。
1時間以上前に開戦したこの戦いは、連合艦隊の防戦一方となり、戦況は混沌とし、苦戦を強いられていた。
敵艦隊に近い位置に陣取る戦闘序列第1列先頭に位置する旗艦『ほたか』艦内も、混乱の真っ只中にあった。
「被害確認!」
ブリッジで手すりにしがみつきながら、なんとか体勢を保とうとしている艦長の元にはよくない報告ばかりが飛び込んできた。
「右舷艦橋直下に被雷しました。ダメコン要員を急行させています」
「死傷者は?」
「3人が当該区画にいましたが、生死不明。ブロックを封鎖したので、何とも……」
「機関室は無事です。釜もぴんぴんしてます」
「敵弾来ます! 着弾まで10秒」
「衝撃に備え!」
またしても敵5インチ砲や76mm砲が雨あられと降ってくる。船体がその度に大きく揺れ、多量の海水をかぶる。ほぼ全艦がすでに被弾損傷し、戦況はますます不利になりつつある。
そんな中でも、艦隊司令官豊島の目から闘志が消えることはない。
「1本喰らった程度でなんだい。この艦はそんなにヤワじゃないさ、沈みはしないよ。それよりも敵ペリー級に火力を集中、ロケット艦を先にやらないと消耗戦で不利なのはこっちだよ!」
豊島の命令に、各員は復唱し、艦隊各艦に指示を飛ばす。
リアルタイム戦況モニターには、輪形陣を組む6隻の敵艦隊と、2列縦陣を保ちつつ、敵の頭を抑えようと回頭する同じく6隻の連合艦隊が映し出されていた。
数の上では互角でも、苦戦するのには理由があった。
「……防空網厚いですね、敵艦隊」
ブリッジに備え付けられた指揮官席の背もたれにしがみつきながら戦況モニターを眺めていた副官が呟く。そう、問題は敵の防空網だ。
「ペリー級が厄介だね。対水上戦闘能力は低いくせに、墳進魚雷をバカスカ撃ち落としやがって」
ペリー級とは、オリバー・ハザード・ペリー級フリゲート艦のことである。墳進魚雷はロケットで小型魚雷をより遠くへ、より速く投射することが目的の兵器だ。それを弾頭が着水する前に空中で撃破する戦法が編み出され、そのための専用艦として建造されたのがロケット防御艦だ。ペリー級はロケット防御艦の中でも小型で、対水上戦闘能力を削った代わりに、高い防空戦闘能力と量産性を持ち、一時はアメリカ支部ホワイトドルフィン主力艦艇として配備されていた艦でもある。
Mk.13ランチャーは単発式で、連射速度は劣るものの、高い汎用性により
単発とはいえ、百発百中の命中率を誇るMk.13ランチャーや、76mm砲に20mm自動機関砲、5インチ砲やシースパローなど、十重二十重の防空網が形成され、墳進魚雷は悉く撃墜され、逆に連合艦隊が被弾被雷を蓄積させていた。
「やはり、墳進魚雷の着水距離をもっと短くした方が……」
艦隊参謀の1人が具申するが、問題があった。
「いやだめだ。そうなると命中まで時間がかかるし、敵がデコイや音響ダミーを使うかもしれない」
魚雷は、水中ではソーナーを使って敵艦の位置を特定し、主にスクリュー音やエンジン音を探知して攻撃を行う。これから逃れるためには、艦と同じ音を発するデコイを発射し、魚雷をそちらに引き付けるか、もしくは曳航式のダミーに命中させるといった対策が必要になる。
つまり、命中までに対策をとる時間が増え、結局命中しなくなってしまう。かといって無誘導ではそもそも避けられる。
「ですが、あれを沈めない限りはこっちの攻撃はほぼ無意味ですよ。どうするんですか」
参謀たちも頭を悩ますなか、豊島はマイクをとり、とある艦に通信をつなぐ。
「聞こえるかい?」
「はい、おば様。聞こえますよ」
通信機の向こうにいる相手は柔らかな声の持ち主だった。その声を聞くや否や、参謀たちは豊島が何をしようとしているのか理解した。
そして、豊島は短く一言だけ命令を伝える。
「敵陣形をぶった斬ってやれ。頼んだよ
通信の相手は戦闘序列第2列先頭に配置されているフリゲート艦『ちちじま』艦長代理の神余だ。彼女は親友兼艦長から預かった艦長帽をゆっくりと被り、力強く答える。
「了解です、おば様」
彼女の返答を待っていたかのごとく、『ちちじま』は急加速し、第1列先頭『ほたか』の前をすり抜け、敵艦隊へ向けて全速で突っ込んで行く。
「機関、最大戦速。少なくとも10分は維持して。続いて墳進魚雷、8番から12番まで順次発射用意」
神余の命令に、景気よく復唱し、各員が持ち場につく。
『ちちじま』の役割は、陣形を固持する敵艦隊へ吶喊してこれを突き崩し、ロケット艦を1隻でも多く敵艦隊から引き剥がして味方の攻撃を有利にすることだ。
「……そのためには速攻が命。止まったら死だね」
主操舵手であり、操縦用のスティックを握る斉賀の手にじんわりと手汗が滲む。単艦での突撃は慣れっこではあるが、それでも毎回死に物狂いだ。
「敵艦1隻がこちらに向かってきます、ペリー級です!」
右舷見張り員の関が報告をあげる。コンソールのレーダー画面にもはっきりと映っている。
「
左舷見張り員の黒丸にも見えていたようで、自慢の八重歯を覗かせながらニタリと笑う。
「墳進魚雷、目標諸元変更。全弾あのペリー級にぶつけて」
神余の指示に、CICから呆れともいえる反応が飛び出る。
「いいんですか、1隻に5本も使って?」
水雷長の十六夜から反論が来るが、ブリッジではどこ吹く風だ。
「いいからやって、十六夜さん。迷ってると敵弾が飛んでく…………ほらね」
言い終わらない間にペリー級が主砲を撃ち込んで来ていた。ペリー級の主砲である76mm砲は艦上構造物の中央部に配置されている。そのため、前方にいる敵艦に射撃する時には艦を斜めにするか、横向きにさせるしかない。この場合、『ちちじま』は多数の魚雷を撃ち込みやすいポジションにあるといえる。
「76mm怖! ウチの57mmとは全然違うじゃん!」
双眼鏡にしがみつきながら叫ぶ関。ウィングにいるとやはり迫力が違うのだろう。
「墳進魚雷、諸元変更完了。いつでもどうぞ」
CIC指揮官である林の小鳥のような優しい声からは想像つかないほどに物騒なワードを聞き、神余は笑みを浮かべる。
「よろしい、全弾発射!」
直後、艦橋窓は爆炎と煙に覆われ、一時的に視界はゼロになる。5発の墳進魚雷は順次発射され、夜闇に小さな太陽を作り出したかのような目映い光を放ち、ペリー級の方へ飛んで行く。
近距離での墳進魚雷一斉射に、ペリー級は露骨に慌てていた。自慢のMk.13ランチャーはすでに反応できる限界距離を超えており、こうなれば主砲を含めた兵装を対水上戦から対空戦に切り替えなければならない。
その一瞬の隙にを神余は見逃さない。
「主砲、対水上戦闘!
CICから聞こえるやる気のない返事に頷き、墳進魚雷の航跡を確認する。既に低高度巡航に入っているが砲撃で1本が撃墜されていた。だが、それも作戦の内だ。
改インディペンデンス級の主砲であるボフォース57mm砲Mk.4はペリー級のオート・メラーラ76mm砲に比べれば威力も低く、正規外洋艦相手では性能不足であることは否めない。しかし、それをあり余った速射性能がある。しかも、当たらないとあれば油断も生じる。
敵は迫り来る墳進魚雷と当たりそうで当たらない砲撃の両方の攻撃により、プレッシャーを与えられ続けるのだ。
「墳進魚雷第一波、命中まで10秒……」
CICからの報告に、艦橋で緊張が走る。そして、その直後、4つの水柱がペリー級を包み、その3000トンクラスの船体は瞬く間に炎上し、致命的な打撃を被った。
『ちちじま』の艦橋、CICには歓喜の声が溢れる。
「やった、やった! 撃沈です、ペリー級1隻撃沈!」
関が双眼鏡を覗きながら嬉しさのあまり小さく跳び跳ねながら報告する。
「艦長どの無しでも案外イけるな、アタシら」
黒丸もニヤリと笑みを浮かべながら言う。確かに、青木なしでの作戦は初めてだ。興奮するのも無理はない。
「……ふぅ」
まずは1隻の敵艦を撃沈し、安堵する神余。だが、同時に自分の技量が親友兼艦長に全く届かないことを強く自覚していた。
「彩のようには行かないな……って顔してるでしょ?」
斉賀の言葉に息を呑む。また見透かされていたようで、少し悔しい。
「まぁね。きっと彩なら2隻同時にやってただろうし」
「言えてますね」
柿沼は笑いながら答える。神余は確かに優秀だが、柔軟で大胆な思考回路を持つ青木には敵わない。彼女がうまく戦えるのは、青木の指揮を間近で常に見てきたからだ。真似事は出来ても、本人にはなれない。
「そこが悔しいところなんだよね。あの子の隣にも立てない」
(それが寂しい……だなんてはさすがに言えないか)
神余の独白は誰にも伝えたことのない本音だった。少なくとも、まだ数時間は伝えられないままの。
「艦長代理! 敵艦撃沈の高揚感に浸るのもいいですが、まだ敵いますからね!?」
関の言葉に、ようやく艦橋は戦闘態勢に戻る。そうだった、まだ戦いは続いているんだ。全員が現実に引き戻った頃、今度は敵陣形中央に居座っていたスプルーアンス級が動き出す。
「来ました、ボスキャラです。スプルーアンス級、ペリー級各1隻ずつ、本艦に接近します」
CICから届く報告に、ブリッジメンバーは再び気を引き締める。
しかし、神余が指示を飛ばすより先に、スプルーアンス級とペリー級の横腹に水柱が上がる。
「んん? 急に敵艦がやられましたよ?」
双眼鏡を覗いていた関が不思議そうに言う。誰が答えるでもなく、答えはすぐにわかった。
「あの連携技……高崎姉妹ね」
『ちちじま』後方から急速に近付く2隻の艦影、ブルーマーメイド随一の戦果を誇る双子の姉妹がそれぞれ艦長を務める『あねじま』と『いもうとじま』だ。
『あねじま』艦長は姉の
「お姉ちゃん遅い。もっと早く」
妹の直子はふてぶてしく言う。容姿は全く見分けがつかないほどに似ている2人だが、性格は真逆だ。
「うるせぇなぁ、間に合ったんだからいいだろうが」
粗暴な言葉遣いなのは姉の直葉だ。一見して凸凹、仲の悪そうな2人だが、実戦では幾度となく仲間の窮地を救い、多くの人命を守ってきた生粋のブルーマーメイド隊員だ。今この瞬間にも『ちちじま』の救援に駆け付けたことからも、勇敢な性格がうかがえる。
「お姉ちゃんは右、私は左やるね」
一方的に姉に伝えると、文句を言いたげな相手を無視し、直子は通信を切った。『いもうとじま』はさらに増速し、敵艦隊の右側へ艦首を向ける。
「仁科さん。多少『あねじま』に当たってもいいから砲撃始めて」
砲術長に命令を入れると、乱暴な操艦で左に回り込もうとする『あねじま』が見えた。文句を言わせると面倒なので、いつも押し付ける時はガチャぎりで用件を伝える。面倒くさがりだが、同時に負けず嫌いなので、意外と素直に言うことを聞いてくれるのだ。
「あとでお姉ちゃんにうどん奢らないとなぁ」
敵艦隊への突入を前に、なぜか呑気な彼女を尻目に、戦況は刻一刻と有利な状況に変化しつつあった。
「『ちちじま』、一旦後退します。あと高崎姉妹への援護お願いします」
神余の意見に、通話越しに豊島が了解する。
「わかってるよ。それについてはもうやってる」
ちょうどその時、第1列各艦が墳進魚雷を発射しているのが見えた。今度は
「キメに行ってますね、司令」
「案外呆気なかったな」
「所詮は海賊ってことかな~?」
艦橋メンバーも口々に呟く。確かに、連合艦隊は優勢だ。だが、果たしてそれが勝利に繋がるだろうか。
「さて、どうかな」
神余はポツリと呟く。説明できない胸の中の違和感を拭いきれなかった彼女は、いたずらに増幅するそれに不安を抱いていた。
「久美、嫌な予感がするんでしょ?」
千春の言葉に頷き、続ける。
「うん。どうも変な感じがする。大河原にしては消極的すぎるし、なにより数が足りない」
「ペリー級3隻しかいないしね。情報なら5隻以上だったのに……」
悩む2人だが、すでに勝利ムードな他メンバーはどこ吹く風だ。
「情報が間違ってるんじゃないですかね。正式な数はけっきょくわかんなかったですし」
関の言葉に、他の2人も続く。
「もしかしたらそもそも大河原も来てないんじゃないか? すでに体はヤクと怪我でボロボロらしいしな」
「確かにそれも一理あるね、黒丸さん。でもね……」
考え込む神余だが、答えは出ない。そもそも敵アジトがどうなってるかもわからない。敵は本当にこれで終わりなのか、何故今このタイミングで蜂起するのか。敵の本当の狙いはなにか。
「……彩だったらどうするかな」
滅多には見られない、神余の自信のない表情に、艦橋メンバーは言葉を詰まらせる。
こうなればただならないことが起きるのが確定だからだ。
「……ていうか、我らが艦長どのは無事なんだろうな……」
黒丸が言い終わらない内に、嫌な予感は最悪な現実となって実現する。
「CICより艦橋へ。至急、至急の電文です!」
「何?」
マイクをとった神余の表情がみるみる凍り付く。
「わかった。うん、了解」
艦長帽を脱ぎ、髪の毛をかきむしる神余。戦慄する艦橋メンバーに、ようやく最悪な知らせが届けられる。
「悪いニュースが2つある。悪い方とより悪い方、どっちから聞きたい?」
「……悪い方から」
神余はゆっくりと返答する。
「悪い方のニュースは、第2部隊が来れなくなったこと」
「……は!?」
困惑するメンバーを尻目に補足説明を始める。
「第2部隊が敵潜水艦艦隊の奇襲を受けたらしい。現在それと交戦中。足の遅い輸送艦もいるから苦戦しているみたい」
彼女の言葉に、艦橋メンバーは落胆の声をあげる。
「そんな……この『ヤマタノオロチ作戦』自体、第2部隊あっての作戦ですよね? それが来れないなんて……」
「……より悪い方は?」
ここからが本題と言わんばかりに、神余は怒りさえも携えながら口を開く。
「敵の増援艦隊が2個も来ている。しかも、未確認のイージス艦らしき艦影を認める艦隊だ」
「………イージス……艦……」
静寂が制圧する艦橋に、副長席の肘掛けを強く強く叩き付ける音だけが響く。
「騙されたんだ……最初っからずっと……敵の作戦にのせられてたんだ!」
有利な戦況は一転し、今や三方から包囲される危機に直面した連合艦隊。
悪化する戦場に、焦りを感じつつ、神余の脳裏には親友兼艦長の姿が浮かび上がっていた。
「彩……私たちの身に何かあったとしても、貴女だけでも無事でいて……!」
フィリピン東方の海域は、闇と重油と、下衆な思惑で塗りつぶされようとしていた。
不穏な描写いいですよね(ゲス顔)
一応、こんな感じでバトルしつつも、駆け引きやアクションいれていきたいですね。
9話はなる早であげたいです()