「これがエルザの言っていた【
「たぶんそうニャ。明ニャかに呪われそうニャ見た目ニャし」
気絶したエリゴールから回収した、三つ目のドクロの造形がある木製の笛に訝しげな視線を向けるテンに、フライは見た目からその笛が【
「これ、この場でぶっ壊した方がいいんじゃないのか?聴くだけで殺せるとか、明らかに危険だし」
「ニャーもそう思うけど……一応は盗まれた物ニャから駄目ニャ。勝手に壊したニャ、おじいちゃんが頭を抱えるニャ」
「だよなぁ……」
フライの溜め息混じりの言葉に、テンも溜め息を吐きながら同意する。
《
実際テンも似たような事をやらかしている。この前のクエストも、希少生物の保護なのにも関わらずボコボコにして捕まえてしまったのだから。
本人曰く、その生物が襲いかかったから“無力化”しただけとのこと。……討伐寸前ではあったが。
そうしていると、オシバナ駅方面から操縦者の魔力で動く車―――“魔導四輪”がテンとフライに近づいて来る。
その魔導四輪の操縦席には、今にも倒れそうな顔をしたエルザがいた。
「あー……完全に無理してるな。あれ」
魔力は使いすぎると体調にも影響を及ぼす。それならグレイが運転すればいいのでは?と思うが、一応魔導四輪には法的な資格がいる。
グレイが法的に動かせるのは“魔導二輪”と呼ばれる一人か二人しか乗れない乗り物だけ。そういった方面には厳しいエルザなら、絶対に譲らないだろう。
「ヂグショ~……やっぱりテンに先を
テンの手前で停車した魔導四輪から這いずるように降りてきたのは桜色の髪の少年―――“ナツ・ドラグニル”だ。
この状態から分かるだろうが、ナツもテンと同じく乗り物に弱い。にも関わらず魔導四輪だったのは……
「兄ちゃんとナツニャら、真っ先に飛んで来そうニャのに」
「ナツが一人で行こうとしたけど、エルザに止められたんだよね」
フライの疑問に二足歩行の青い猫―――ナツの相棒である“ハッピー”が答える。
エルザの“止めた”は間違いなく強引に、だろう。口には敢えて出さないが。
「ハッピーがもう一匹!?」
「ニャ?」
魔導四輪からグレイの次に出てきた、出るところは出ている金髪の少女がフライを見て驚いている。
彼女の右手には《
「こいつは俺の相棒のフライ。で、俺はテンだ。そっちはエルザが言っていた新人のルーシィだろ?」
「あ、はい。新人のルーシィです」
フライを紹介しながらテンは彼女に挨拶し、彼女―――ルーシィも肯定しつつ軽くお辞儀をする。
「それよりテン。エリゴールの野郎はどうした?」
「あそこ」
グレイの質問をテンは親指で後ろを差して答える。
少し先には、線路の上で気絶したままのエリゴールが寝転がらされている。あのまま放置するわけにもいかなかったので、安全面からめり込ませた岩場から引き抜いて鉄橋の上に寝かせたのである。
「嘘だろ……エリゴールさんが負けた……?」
そのエリゴールを、包帯だらけの男が唖然とした表情で見つめていたが。
「そいつ、ひょっとして《
「ああ。こいつ……カゲこと“カゲヤマ”は【
エルザの説明にテンは軽く首を傾げる。
【魔風壁】はテンが食って消し去ったのだから、
その疑問を感じ取ってか、エルザはその辺りの説明もしていく。
「その指示は私とテンの会話の前だったんだ。実際、カゲに手をかけた男も【魔風壁】が既に解かれていたと知って自身の行動を激しく後悔していたしな」
「ちなみにそいつはナツの怒りを買って殴り飛ばされました」
「で、こいつの怪我が酷かったから、医者に見せる為にナツが連れて来たという訳だ」
ハッピーとグレイも加わったその説明に、テンは納得した表情となる。
確かにそういう状況なら連れていく。テンでも同じことをするだろう。
「だぁああ!クッソォオオオッ!あのそよ風野郎は俺がぶっ飛ばしたかったのにぃいい!!」
そんな周りに構わず、乗り物酔いから復活したナツは悔しそうに地団駄を踏んでいる。
ナツは負けず嫌いな性格だから、エリゴールを自分の手で殴り飛ばせなかったことで不満が募っている。
その矛先は当然、エリゴールをぶっ飛ばした張本人へと向く。
「テン!ギルドに帰ったら俺と勝負しろ!!俺でもあの野郎に勝てたと証明してやる!!」
「勝負って……この前やったばかりだろ」
ビシ!と指を差したナツの勝負の申し出に、テンは呆れたように返す。
ナツとはクエストに行く前日で勝負したばかりだ。結果は当然、テンの勝ちだったが。
「いいや!今の俺はこの前より強いぞ!あの時の俺と思ったらお間違いだ!」
「それ、前も言ってたよな?」
最早お馴染みとなっているナツのセリフにテンは呆れるしかない。
「ねえ、ハッピー。テン……さんってナツより強いの?」
「あい。テンも
「マジで!?」
ハッピーがもたらした事実にルーシィは驚きの声を上げる。
「もしかしてテンさんも口から火を吐くの!?」
「違うニャ。テンは“嵐”の
「風と水!?あ、いや、だから相性が良いって言ってたのね」
フライの訂正にルーシィは驚きながらも納得の意を示す。
道中でグレイが『テンなら余裕でエリゴールに勝てるさ。何たって相性が良いからな』と言っていた。確かに風と水を吐くなら、逆に風と水を食べることもできるのだろう。
確かに風属性の魔法の使い手には、この上なく相性が悪い相手と言えよう。
「普通“嵐”って聞くと風だけだと思うんですけど」
「天候としての“嵐”は突風と雨水の二つだろ?」
二つの異なる属性の魔法を一つの魔法として使えるのも珍しいのだが、滅竜魔法自体がそもそも珍しい魔法なのだ。
なのでルーシィはそういうものかと一先ずは納得した。
「テンさんもナツと同じようにドラゴンに教わったの?」
「変に畏まらなくてもいいし呼び捨てでもいいぞ。後、一応は
テンのその返答にルーシィは首を傾げる。
「それよりテン。【
「フライが持ってる」
「はいニャ」
本題へと戻すエルザの問いかけにテンはそう答え、フライも見せるように回収した【
その瞬間、影のような黒い手がフライの持っていた【
「ハハハハッ!油断したな
いつの間にか魔導四輪の操縦席に座っていたカゲヤマはそう言い残すと、そのまま線路沿いに魔導四輪を走らせてその場から去っていった。
「「「「「「「…………」」」」」」」
まさかの展開にテンも含めて全員絶句。そして―――
「あんにゃろぉおおおおっ!?」
「ウソでしょぉおおおおっ!?」
「どんだけ諦めが悪いんだよ!?」
「ニャッバァーー!?ゴメンニャー!!」
「フライは悪くないよ!悪いのはアイツだよ!」
「その気合いと根性、別のところで使えよ!?」
「くっ!なんたる不覚!私がいながら目の前で……!」
一気に阿鼻叫喚となった。これで事態は解決したと思っていただけに、この展開は予想外だったのである。
「とにかく急いでアイツを追いかけるぞ!このままじゃ、じーさん達が危ない!」
グレイの言葉に全員が頷き、一斉に走って(ハッピーとフライは飛んで)カゲヤマの後を追い始める。
そんな中で、ルーシィがおずおずといった様子でテンに尋ねる。
「あの~……さっきの話なんだけど、ナツとは違うってどういう意味なの?」
「ん?ああ。ナツはドラゴンから教わったが、俺はそうじゃないんだよ」
「え?じゃあ、どうやって滅竜魔法を?」
ルーシィの当然の疑問に、テンは自身の胸をトントンと指を当てて答えを告げる。
「俺の身体には
「滅竜魔法が使えるようになる
テンの言葉にルーシィは驚愕した声を上げる。
「ちなみにいつ埋め込まれたのかは分からない。八年前以前の記憶が一切ないからな」
そう。テンは八年前から以前の記憶を失っている。それも自分の名前すら覚えていない程の。
当然、
ついでに今の名前を与えたのもマカロフである。
「さらっと重いこと言わないで!」
しれっと重い過去の一端を聞かされたルーシィはその事でツッコミを入れる。
その瞬間、エルザの表情が暗くなったが、一瞬だった為誰も気付くことはなかった。
「ちなみにルーシィはどんな魔法を使うんだ?一応は把握しておきたい」
「調子狂うなぁ……私は星霊魔導士だから、星霊を呼び出して戦うの」
テンの流しっぷりにルーシィは何とも言えない表情となりつつも、一本の“金色の鍵”を見せながら答える。
星霊魔導士は《星霊界》に住む“星霊”と呼ばれる存在を【星霊の鍵】という対応する星霊を召喚できる鍵を介して《人間界》へと召喚する魔導士のことを言う。
特に“金色の鍵”は強力な星霊である【黄道十二門】を召喚することができる、かなり強力な鍵である。
「その形状は確か……」
「【宝瓶宮】の鍵。他にも【金牛宮】と【巨蟹宮】の鍵があるわよ」
「【黄道十二門】の鍵を三本も持っているのか。期待の新人ということか」
「いや~、それほどでも~」
テンの言葉にルーシィは言葉こそ謙虚だが、表情はだらしないほどにやけている。
「あー!思い出したー!!」
突然ハッピーがそう叫ぶと、背中の風呂敷に手を回す。そこから取り出したのは一本の“金色の鍵”だった。
「そ、それ!?確かエバルーが持ってた鍵じゃない!?」
「あい。エバルーが捕まって契約が切れたから、ルーシィと契約したいから鍵を渡してほしいと本人に頼まれたんだ」
「そ、そうなんだ……」
ハッピーのその説明に、ルーシィは何故か苦笑いとなった表情でその金色の鍵―――【処女宮】の鍵を受け取る。
【黄道十二門】にも関わらず微妙な反応をするルーシィにテンとグレイが疑問に思っていると、その答えはナツがもたらした。
「おお!あのゴリラメイドの鍵か!良かったな、ルーシィ!」
「「ゴリラメイド!?」」
テンとグレイは揃ってすっ頓狂な声を上げる。
ナツは良くも悪くも単純だから、ゴリラメイドとはその名の通りにメイド服を着たゴリラなのだろう。確かにそんな星霊なら、微妙な反応になるのも納得だった。
――――――
日も暮れて夜となった頃。
「もうすぐマスター達がいる定例会場だ!」
「急げ!奴が【
ようやく各ギルドのマスター達が集っている定例会場に到着したテン達は急いでカゲヤマの姿を探す。
「!みんな、あそこを見て!」
そう叫ぶルーシィが指差す方向に全員が目を向けると、そこには今にも【
「いけない!」
その光景を見たエルザは焦った表情でマカロフとカゲヤマの下へ向かおうとする。
当然テン達もそれに続こうとするも、そんな一同にとある人物が待ったを掛けた。
「しっー!今いいところなんだから、黙って見てなさい」
その人物は口紅を塗り、肥満体型でありながら何故か包容力がある男性―――ギルド《
「あなたは、《
「ええ!?この人が!?」
エルザの言葉にボブのインパクトに後退りしていたルーシィは驚いた声でボブを見つめる。
そのボブは身体をくねらせながら、テンにすり寄っていた。
「テンちゃんも久しぶりねぇ。少し見ない内にますますイイ男になったわねぇ?」
「ど、どうも……」
ボブの社交辞令に、テンは少し顔を引き攣らせながら言葉を返す。
「そ、それよりいいところとは一体?今はじいちゃんの前にいる……」
「黙って見てろって。すぐに分かるさ」
そう告げて現れたのは、ギルド《
その言葉にテンはもちろん、他のみんなも意味が分からずに困惑する。だが、ボブとゴールドマインだけでなく、他のギルドマスター達も同様にマカロフとカゲヤマを見守っていることから、取り敢えず素直に見守ることにする。
「ほれ、どうした?早くせんか」
マカロフは自ら【
そんなカゲヤマに、マカロフは穏やかな表情のまま告げた。
「何も変わらんよ」
「え?」
その言葉にカゲヤマは疑問の声を洩らす。そんなカゲヤマに対し、マカロフは真っ直ぐにカゲヤマを見つめて話していく。
「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし弱さのすべてが悪ではない。元々人間なんて弱い生き物じゃ」
マカロフのその言葉をカゲヤマだけでなく、テン達も聞き入るように耳を傾けていく。そんな外野に気付くことなく、マカロフは言葉を続けていく。
「一人じゃ不安だからギルドがある、仲間がいる。強く生きる為に寄り添いあって歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶち当たるし、遠回りするやもしれん。しかし、明日を信じて踏み出せばおのずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける。―――そんな笛に頼らずともな」
そんな諭すような言葉と穏やかな笑みを浮かべるマカロフの前に、カゲヤマは膝から崩れ落ちた。
マカロフには全部お見通しだった。その上で、マカロフはカゲヤマの心の内を見抜いて強くあるための生き方を説いたのだ。
「……凄いな、じいちゃんは」
そんなマカロフの姿を、テンは昔を懐かしむように見つめる。そんなテンの脳裏にある記憶が過っていた。
『どうした?そんなところで泣いて』
『……じいちゃん。俺、恐いんだ。何も思い出せないことが……何かを思い出すことが』
『…………』
それはマカロフと会って間もない頃の記憶。記憶のない恐怖から、人知れず泣いていた頃の記憶。
『何か酷いことをしたかもしれない。何か辛いことがあったかもしれない。そう思うと……』
『大丈夫じゃよ』
そんなテンをマカロフは優しい笑みと共に頭を優しく撫でる。まるで赤子をあやすように。
『確かに記憶がないことで不安を覚えるじゃろう。だが、今のお前には“家族”がおる。共に笑い、寄り添い、支え合える家族が』
『か、ぞ……く……?』
『そうじゃ。時には喧嘩しぶつかり合いながらも、いざという時には自分の事のように助けてくれる。いれば共に乗り越えてくれる。それが家族。それがギルドじゃ』
どこまでも優しく、背中を押す言葉。そんなマカロフの言葉をテンは思い出している中、ナツにグレイ、エルザの三人がマカロフの下へと駆け寄っていた。
「マスター!」
「じっちゃん!」
「じーさん!」
「ぬおぉおっ!?なぜ三人がここに!?」
エルザ、ナツ、グレイの登場にマカロフはすっ頓狂な声を上げる。
実はギルドの受付をしている女性―――“ミラジェーン”からの手紙で三人が一緒に行動している事を知らされていたのだ。
無論、安心より町を潰していないかの不安からだが。
「流石です!今のお言葉、目頭が熱くなりました!!」
「硬ッ!痛ァ!?」
エルザはマカロフの言葉に感動を覚えて抱きしめているが、堅牢な鎧を着ているのでマカロフはかなり痛がっている。
「じっちゃんスゲェな!」
「そう思うならペシペシせんで……」
感心しながら頭を叩くナツにマカロフは呆れた表情となりかけたが、テンの姿を捉えた瞬間に目を見開いて表情を引き攣らせた。
「ぬお!?テン、お前もおったのか!?町は大丈夫なんじゃろうな!?」
「酷いなじいちゃん。後、町は壊れてないぞ。町は」
「町以外は壊れとるんか!?」
少しムッとしたテンの報告に、マカロフは一気に冷や汗を流していく。
列車の運用停止に多数の魔導四輪の大破。テンが知っているだけでも今回の騒動でこれだけの被害が出ている。
テンはそれらをざっくりと伝え……
「ま、悪いのは【
「そ、それなら大丈夫……なわけあるかぁ!!」
テンの責任転嫁とも取れる慰めにマカロフは一瞬希望を見出だしたが、すぐにツッコミを入れた。
それで大丈夫なら、過去に評議員からお叱りを受けるわけがない。絶対に今回の件もお叱りと嫌味を言われるとマカロフは確信した。
「ま、何にせよこれで一件落着だな」
グレイの安堵したその言葉に、その場にいた誰もが内心で頷いただろう。
『……カカカ。どいつもこいつも、根性のねェ魔導士共だ』
だがそれは、ドクロの三つ目を妖しく光らせた【
「そういえば、フライはハッピーのことを“兄ちゃん”って……」
「アイ。フライはオイラの弟なのです」
「理由は、卵から孵った順番ニャ」
「猫なのに卵から産まれたの!?」