嵐の滅竜魔導士   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ。


最強のチーム

突然聞こえてきた第三者の声。その声にその場にいた誰もが困惑する中、その声は蔑むように告げた。

 

『もう我慢できん。ワシが自ら喰ってやる……』

 

そう告げた瞬間、【呪歌(ララバイ)】から紫色の煙が上がっていく。その煙は空高く上っていくと、上空で魔法陣を作り上げていく。

 

「笛が喋ったー!?」

「どーなってるニャー!?」

 

先ほどの声が【呪歌(ララバイ)】からだと分かり、ハッピーとフライは驚いたように飛び上がる。

その間にも紫色の煙は【呪歌(ララバイ)】と上空の魔法陣から止めどなく溢れ、一帯を紫色の煙へと包んでいく。

 

『貴様らの、“魂”をな!!』

 

呪歌(ララバイ)】がそう宣言し煙が晴れると……そこに木で構成された、三つ目ドクロの巨体な怪物が立っていた。

 

「「でかぁああああああっ!?」」

「な、なんだよアレは……!?僕は知らないぞ……」

 

ナツとグレイは山を優に越えるその巨体さに驚愕の声を上げ、本当に知らなかったカゲヤマは唖然とした表情でその怪物を見つめる。

 

「あらら、大変」

「まずいな。ありゃあ《ゼレフ書の悪魔》だ」

 

ボブは困ったように、ゴールドマインは何かに気づいたように呟く。

「一体どうなってるの……?」

 

笛が怪物になるという事態に、戸惑いを隠せないルーシィにゴールドマインが説明する。

 

「【呪歌(ララバイ)】とはつまり、あの怪物そのもののことさ……『生きた魔法』、それが《ゼレフ書の悪魔》さ」

「ゼレフだと!?あの大昔に出てくる“黒魔導士ゼレフ”のことか!?」

 

グレイの驚愕を隠せない質問に、ゴールドマインは頷いて答える。

黒魔導士ゼレフ。その悪名は魔法界の歴史上最も凶悪な魔導士であったと伝えられている。

そのゼレフの生み出した負の遺産。その一つが【呪歌(ララバイ)】だったのだ。

 

『さぁて、どの魂からいただ……』

「【火竜の劍角(けんかく)】ッ!!」

 

そんな周りに構わず呪歌(ララバイ)は品定めするかのように見下ろしていると、ナツが全身に炎を纏わせて猛烈な勢いで飛び上がり、呪歌(ララバイ)の顎に頭突きを叩き込んでいた。

 

『ぐふぉおっ!?』

 

予想だにしなかった不意討ちをマトモに受けた呪歌(ララバイ)は、くぐもった声を洩らしながら地面へと倒れる。

 

「なんという頭突きじゃ……」

「本当に魔導士なのか?」

 

呪歌(ララバイ)が地面に倒れたことにギルドマスターが驚く中、【火竜の劍角】で不意討ちを喰らわせたナツはその場に着地し、倒れたままの呪歌(ララバイ)を睨み付ける。

 

「テメェが何だろうと関係ねぇ。じっちゃん達を傷付けようとするなら、ぶっ飛ばすだけだ」

 

ナツはそう告げると、両手に炎を宿す。今にも殴り飛ばしそうな雰囲気である。

 

「あれ、絶対にエリゴールを殴れなかったのが原因だね」

「ニャーもそう思うニャ」

「八つ当たりか!」

 

そんなナツを、相棒を努めているハッピーはエリゴールを殴れなかった腹いせだと察し、フライも呆れたように同意する。ルーシィはその事実にツッコミを入れていたが。

 

「馬鹿もの!奴を倒すより、マスター達を遠くに避難させることが―――」

「いや。あの巨体じゃ避難させるより先に潰した方が早い」

 

エルザはナツの行動を咎めるが、テンは呪歌(ララバイ)の巨体さから避難は無意味としてナツを擁護する。

 

「それにあの巨体じゃ“音”の範囲も相当だろうしな。なら、全員で戦って使わせる前に倒す方が良いだろ」

「む……それも一理あるか」

 

怪物となっても呪歌(ララバイ)の特性は同じである以上、下手に避難に人を割くより“音”を吹かせない為に全員で戦う方が最善だ。

そんなテンの意見にエルザも理解を示し―――すぐに動いた。

 

「【換装】!」

 

エルザは飛び出しながら魔法名を告げると、普段の服から二対の翼がある銀の鎧―――《天輪の鎧》へと瞬時に【換装】する。《天輪の鎧》に身を包んだエルザは両手にある二振りの剣で起き上がろうとしていた呪歌(ララバイ)の足を十字に斬り裂く。

 

【換装】は本来、《魔法空間》に収納してある武器を切り換える空間魔法なのだが、エルザの場合は武器だけでなく鎧も瞬時に切り換えられる。故にエルザの魔法は【騎士(ザ・ナイト)】と呼ばれている。

そして、エルザはその実力の高さから《妖精女王(ティターニア)》という異名で呼ばれている。実際、エルザの実力は《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》トップクラスなのだ。

 

「ナツ。グレイ。私とテンの四人でこいつを倒すぞ。絶対に奴に【呪歌(ララバイ)】を使わせるな!!」

「おう!」

「ああ!」

「了解だ!」

 

エルザの言葉にテン達は強く頷き、本格的に戦闘態勢となる。

 

『貴様らぁ……!ワシを倒せると本気で思っているのか!?身の程を弁えろ!!』

 

呪歌(ララバイ)は怒りを露にようやく立ち上がるも、そんな事は関係ないと言わんばかりにグレイが動いた。

 

「【アイスメイク・《槍騎兵(ランス)》】!!」

 

グレイは握りしめた右手を左手に当てると、そのまま無数の氷の槍を作り出して呪歌(ララバイ)を刺し貫いていく。

 

「おお!氷の造形魔導士か!?造形魔法の造形速度も早い!」

「造形魔法?」

 

ギルドマスターの言葉にルーシィが首を傾げていると、ハッピーとフライが説明していく。

 

「造形魔法は魔力に形を与える魔法だよ」

「形を与えるだけでニャく、形を奪える魔法でもあるニャ」

 

ハッピーとフライの説明の通り、造形魔法は特定の物を自由に造形することができる魔法。その物は氷だけでなく、木や水と様々である。

 

『ええい!小癪な!!』

 

氷の槍撃を受けていた呪歌(ララバイ)は鬱陶しいと言わんばかりに、口から光線を放つ。

グレイは横に飛んで避けるも、光線はそのままギルドマスター達へと向かっていく。

 

「ヒィイイイイッ!?こっちに来るぅ!」

 

ルーシィが情けない悲鳴を上げていると、その光線とギルドマスター達の間に立つようにテンが割って入る。

 

「【旋嵐防龍壁(せんらんぼうりゅうへき)】!!」

 

テンが両腕を広げ、身体の前で交差させるように振るった瞬間、風と水で構成された渦巻く分厚い壁が形成される。

その壁に光線が激突した瞬間、光線が爆ぜる。しかし、光線が爆ぜても風と水の渦巻く壁はその存在を保っていた。

 

「風と水で防いだじゃと!?」

「二つの属性の魔法を同時に扱っておるのか!?」

 

異なる属性の同時使用にギルドマスター達が驚く中、その内の一人がテンを見て気づく。

 

「待て、もしかしてあの男……《嵐龍(ハリケーン)》か!?」

 

ギルドマスターの一人のその言葉に、他のギルドマスター達は一斉にテンに目を向け、続けてその視線を呪歌(ララバイ)を炎を纏わせた拳―――【火竜の鉄拳】で殴り飛ばしたナツへと向ける。

 

「ではあちらの炎の魔導士は《火竜(サラマンダー)》なのか!?」

「つまり彼らが《双竜》……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の二人なのか!?」

「あっ、そっか」

 

ギルドマスター達が驚きの声を上げる中、ルーシィは納得したようにポンと手を叩く。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)》には《双竜》と呼ばれる二人組の魔導士がいると聞いたことがある。

 

加入の際にその内の一人がナツであると知ったが、そのもう一人を聞こうにも途中で話の腰が折れたりして聞けず、もう一人が誰なのか疑問だった。だが、テンが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であったこと、先のギルドマスター達の言葉でようやく《双竜》の片割れがテンだと気づいたのである。

 

呪歌(ララバイ)の一撃を防いだテンはそんな一同に構わず【旋嵐防龍壁】を解き、両手を鉤の手に構えて呪歌(ララバイ)へと突撃していく。

 

「【嵐龍の爪撃】!!」

『ぐぁあああっ!!』

 

風と水を纏った両手で周囲を薙ぐように振るい、呪歌(ララバイ)の脇腹にあたる部分を切り裂く。

脇腹を切り裂かれた呪歌(ララバイ)は悲鳴を上げる中、エルザが迫って来る。

 

「【換装】!―――《黒羽(くれは)の鎧》!!」

 

《天輪の鎧》から黒い翼の生えた鎧姿へと変わったエルザはそのまま両手で握った剣を振り上げる。

 

「はぁっ!!」

『ぬあっ!?』

 

エルザはそのまま剣を振り下ろし、呪歌(ララバイ)の左手を斬り飛ばす。

《黒羽の鎧》はその鎧を着た者の攻撃力を増大させる鎧。そこにエルザの剣技と合わされば、斬り飛ばすことは雑作もないのだ。

 

「【アイスメイク・《円刃(ソーサー)》】ァ!」

『うぐぅっ!?』

 

グレイは刃が付いた氷の円刃を造形し、それを飛ばすことで呪歌(ララバイ)の脚を斬り裂く。

 

「【嵐龍の迅尾(じんお)】!!」

『ぶふぉあっ!?』

 

脚を斬り裂かれてバランスを崩した呪歌(ララバイ)に、テンが風と水を纏った蹴りを顔面に叩き込む。

 

「【火竜の煌炎(こうえん)】ッ!」

 

顔面を蹴られて地面に倒れた呪歌(ララバイ)に、空にいるナツは両手の炎を一つの火球として振り落とす。

 

『がぁああああああ!!おのれ貴様らぁ……!』

 

呪歌(ララバイ)は全身にダメージを負い、身体のあちこちを燻らせて苦悶の声を上げるも未だ健在。《ゼレフ書の悪魔》の名は伊達ではないということだろう。

そんな呪歌(ララバイ)を見下ろすナツの隣に、テンが並ぶ。

 

「最後は派手にいくか。合わせろよ、ナツ!」

「お前こそな、テン!」

 

テンのその言葉にナツは不敵な笑みで返し、自身の右手の炎をテンの左手にある嵐と融合させていく。

合体魔法(ユニゾンレイド)』。

別々の魔法を一つにして威力を高める魔法。生涯を費やしても習得に至らないほどの、高等魔法。

その高等魔法をナツとテンはあっさりとやってのけ、地面に倒れている呪歌(ララバイ)に向かって放つ。

 

「「【炎嵐竜爆波(えんらんりゅうばくは)】!!」」

 

共に拳を突き出すと同時に、炎嵐と化した渦巻く炎が真っ直ぐに放たれる。

命中すると、巨体を一瞬で呑み込む程の大爆発を起こす。

 

『ば……ばか、なぁああああああああああッ!?』

 

信じられないと言わんばかりに呪歌(ララバイ)の絶叫が響き渡る。

衝撃と光が収まると、呪歌(ララバイ)は跡形もなく消し飛んでいた。

 

「どーじゃ!ウチの魔導士たちは凄いじゃろ!」

 

呪歌(ララバイ)を倒したことを見届けたマカロフは自慢気に声を上げる。

 

「凄い……これが《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の最強チーム……!」

 

その光景にルーシィも感動したように声を出す。

出発の前日、ギルドのメンバーはナツ、グレイ、エルザの三人を最強チームと言っていたが、テンも加わった四人は間違いなく《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の最強チームなのだろう。

 

「それにナツが合体魔法(ユニゾンレイド)を使えただなんて……」

「あい。ナツとテンは《双竜》だから当然だよ」

「ちニャみに、兄ちゃんの挑発で乗り気じゃニャかったナツをその気にさせたニャ」

「あはは……なんかナツらしいね……」

 

ナツが合体魔法(ユニゾンレイド)を習得出来た理由にルーシィは苦笑いする。

それを抜きにしてもナツの戦闘センスは高いので、土壇場でも使えただろうが。

 

「あの《ゼレフ書の悪魔》をこうもあっさり倒すとは……!」

「凄いぞ、《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》!!」

 

当然、他のギルドマスター達も彼らの奮闘を褒め称える。なにせ、ゼレフの負の遺産である呪歌(ララバイ)をほとんど一方的に倒したのだから。

 

「ハハ……僕達はとんでもない相手にケンカを売っていたんだな……」

 

カゲヤマもその実力の高さに今さらながら自分たちのアホさ加減に気付き、自嘲するように笑い声を溢す。

 

「見たか!これが俺達《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の力だぁ!!だーはっはっはっはっ!!!」

 

ナツも呪歌(ララバイ)を倒したことでスッキリしたのか、上機嫌で高笑いを上げている。

 

「《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》には借りができちまった……」

 

ギルドマスターの一人が沁々と呟くが、とある場所に目を向けた瞬間に無言となる。

他のギルドマスター達もどうしたのかとそちらに視線を向け、同様に無言となる。

 

「ん?どうしたん―――」

 

マカロフも同様にそちらに視線を向け……絶句したように口を大きく開けた。

なぜならギルドマスター達が視線を向ける先には定例会場があった場所。その場所には定例会場はなく、爆発によって抉られた地面の跡しかなかった。

 

「…………ぬわぁあああああっ!?定例会の会場が綺麗さっぱり消えとるぅううううっ!!?」

「「「「「え?」」」」」

 

マカロフの悲鳴に近い叫びに、テン達もその事実に気付いて固まってしまう。

 

「なあ、まさかとは思うが……」

「おそらく最後の一撃が、会場を巻き込んでしまったんだろうな……」

「「…………」」

 

グレイとエルザからの視線を、ナツとテンは視線を明後日に向けて誤魔化そうとしている。

もうお察しだろうが、定例会の会場は【炎嵐竜爆波】で呪歌(ララバイ)共々消し飛んでしまったのである。

当然会場には大事な書類など様々なものがあった。ついでに呪歌(ララバイ)が暴れたことで山も無茶苦茶になっている。

それらが消し飛んだ以上……その怒りの矛先は会場を消し飛ばした者達へと向く。

 

「「「「「捕まえろぉおおおお!!」」」」」

 

ギルドマスター達が怒りを露にそう叫んだ瞬間、《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の面々は一斉にその場から逃げるように走り出した。

 

「任しとけ!俺が捕まえてやる!」

「いや、俺らが捕まる側なんだよ!」

「アイー!!」

「ニャー!!」

「マスター、申し訳ありません……」

「いいんじゃ、もう呼ばれないだろうし……」

「大丈夫だじいちゃん。今回も気合いと根性でなんとかなる」

「関係ないでしょ!」

 

こうして《鉄の森(アイゼンヴァルト)》が巻き起こしたテロ事件は、《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の活躍で解決するのであった。

 

 

――――――

 

 

―――《鉄の森(アイゼンヴァルト)》の事件から二日後。

 

「やっと帰ってこれた……」

 

どこか窶れたような表情で、マグノリアの街に帰ってこれたと口にするルーシィ。そんな彼女の隣にいるナツは能天気な感じで笑みを浮かべていた。

 

「いやー!まさかあの後、道に迷うなんてな!」

「誰のせいだ!誰の!!」

 

そんなナツに、いつの間にか上半身が裸になっているグレイが怒りを宿した表情で突っかかる。対するナツは不機嫌そうにグレイを睨み付けた。

 

「あ?俺のせいだって言いたいのか?」

「どう考えてもお前のせいだろ?お前が近道とかほざいて勝手に進んだんだからな」

「そういうお前も、脱ぎ捨てた服を探して道を外れただろうが」

「あ?やんのか?」

「お前こそやんのか?」

 

まさに一触即発。今にもお互いに殴り合いそうなナツとグレイだが、喧嘩に発展することはない。何故なら―――

 

「止さんか、お前たち」

「「ぐほっ!?」」

 

エルザが許さないからである。

エルザから首を九十度曲げる掌底を顔に受けたナツとグレイは、そのまま崩れるように撃沈する。

 

「うわぁ……二人が一瞬で……」

「これがナツとグレイのお約束なのです」

 

ナツとグレイは毎回ソリが合わないかの如く喧嘩し、それをエルザに物理的に止められるのがワンセット。

ハッピーはもう慣れているが、ルーシィが慣れるのはまだ先のようである。

 

「まったく……こんなつまらないことで喧嘩するな」

 

エルザは心底呆れた表情をしているが、テンは微妙な表情をしている。

そんなテンの態度が気になったルーシィは、そのままテンに話しかける。

 

「ねえ、テン。何で微妙な表情をしてるの?」

「ん?ああ。エルザもつまらないことで喧嘩したことがあるだろと思ってつい」

 

テンのその言葉にルーシィは首を傾げる。そんなルーシィの疑問を感じ取ってか、フライが理由を話していく。

 

「エルザは昔、ミラとよく喧嘩してたニャ。その内容(ニャいよう)も『ヘソ出し女』や『カチカチ女』とナツとグレイと大差なかったニャ」

「エルザがミラさんと喧嘩!?」

 

フライがもたらした事実にルーシィはビックリ仰天する。

ルーシィが知るミラジェーンは、如何にも優しいお姉さんといった感じの理想像を体現したような女性なのだ。その人がナツとグレイと同レベルの喧嘩をエルザと繰り広げていた等、到底信じられなかった。

 

「ちなみに『ヘソ出し女』の意味は当時のミラの服装がヤンキーファッションからで、『カチカチ女』のほうは今もだけど常に上に鎧を着ていたからだな」

「ミラさんがヤンキーファッション!?」

 

テンがもたらした事実にルーシィはさらに驚愕する。あの優しい感じのふわりとした服を着ていたミラジェーンが、ヘソ出しスタイルのヤンキーファッションの服を着ていた等、本当に想像できない。

本当に何がどうなったら、あのおっとりとした優しいお姉さんになるのだとルーシィは本気で疑問に感じた。

 

「何でそんな人が今はあんな感じに……?」

「……それはミラ本人から直接聞いてくれ。あんまりいい話じゃないしな」

 

どこか暗いテンのその言葉に、ハッピーとフライが気落ちしたような表情になる。

そんな猫二匹の態度と、テンの口振りから何か辛い出来事があったのだと察したルーシィはそれ以上の詮索を止めたのだった。

そんなこんなで、ギルドに帰ると……

 

「「「「「ただいまー」」」」」

「お帰りなさい、みんな」

 

帰ってきたテン達を白銀の髪の女性―――ミラジェーンが迎え入れるが、テンの視線はギルドのホールに釘つけだった。

 

「なあ、ミラ。あれって……」

 

そう言ってテンが指差す先には飲み食いしているギルドメンバーの面々。それ自体は問題ないのだが、その飲み食いしているものが、テンがオシバナ駅で置いてきぼりとなった土産の数々だったからだ。

 

「実は昨日、駅員の人がわざわざ届けてくれたのよ。ギルドのマークがあったからウチに運んだそうだけど……」

 

少し困ったような笑みを受けべるミラジェーンのその言葉に、テンの顔が引き顰く。

ギルドのみんなに買ってきた土産だから、飲み食いするのは別に構わないのだが……本人不在で物色するのはさすがにどうなのかと思う。

いや、この好き勝手さが《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》たる由縁ではあるのだが。

 

「おいテン!酒が全然足りねぇぞ!今度から瓶じゃなくて樽で買ってこい!」

「タダなのに文句言ってるよこの人!」

 

テンに気づいた上半身がブラジャーで下がズボンの焦げ茶の髪の女性―――“カナ・アルベローナ”の失礼極まりない発言に、ルーシィはツッコミを入れる。

カナが今持っている瓶のラベルを見る限り、高級なワインの可能性が高い。それをタダで飲んでおきながら、量が少ないから樽で買えと言うのだから、本当に失礼極まりない。

 

「へへ!お前の土産は今回も美味しく頂いてるよ!!」

「この肉、クセは強いがジューシーで歯応えがあるからな!」

「この肉焼く時、一緒にあった木炭で焼いたから本当に美味いのなんの!」

 

ギルドの面々は美味しく焼かれたグロックベアーの肉を見せびらかす中、テンは頭を抱えたい気分で告げた。

 

「その木炭、ナツへの土産だったんだが……」

 

その瞬間、空気が死んだ。

 

「……おい。その木炭は今どこにある?」

 

ナツの底冷えする声。そんなナツの質問にグロックベアーの肉を食べていた一同は何も答えない。むしろそれが答えだった。

 

「……お前ら全員そこに直れぇ!!」

 

ナツは怒髪天をつく勢いでグロックベアーの肉を食べていた一同に殴りかかる。

ナツは炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)にとって炎は食い物。そしてテンが買ってくる土産の燃やせるものは、かなりのご馳走でナツの楽しみの一つ。

つまり……食い物の恨みは恐ろしいのである!!

 

「ちょっ!?悪かったよナツ!代わりに肉をやるから落ち着け!」

「言いたいことはそれだけかぁ!?」

 

もはや取りつく島もない。完全に怒り心頭である。

そんなナツを止められるのは……エルザだけである。

 

「止せ、ナツ。食べ物くらいで……」

「テーン!お土産のチョコレートケーキ、すごく美味しかったよ!もうみんなで食べちゃったけどね」

 

エルザがナツを止めようとした瞬間に、水色の髪の少女―――“レビィ・マクガーデン”が土産のお礼を言ってきた。

―――最悪のタイミングで。

 

「……レビィ。今、ケーキと言ったか?」

「え?うん。あ、もちろんエルザの分は残してあるよ。あそこに―――」

 

レビィがそう言って指を差した先には―――グレイがそのチョコレートケーキを食べているところだった。

 

「「―――」」

「まったく……こんなところにケーキなんか置くなよ。すげぇ美味いけど」

 

その光景にレビィとエルザは絶句。何も知らないグレイはモグモグとそのチョコレートケーキを食べていく。

そんなグレイに、剣を取り出したエルザがガリガリと剣を引き摺って近寄っていく。

 

「……グレイ。それは私のチョコレートケーキだぞ」

「え?…………!?待てエルザ!俺は知らな―――」

「問答無用!!」

 

グレイは一瞬で顔を青ざめさせて弁明を図るも、スイーツ大好きのエルザにはもはや通用しない。

食い物の恨みは、本当に恐ろしいのである!!

 

「エルザも喧嘩に参加しちゃったよ……」

「やっぱこれが《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》だな。うん」

 

ナツとエルザが大暴れする光景にルーシィは疲れたように呟き、テンはいつもの光景と頷くのだった。

 

「これ美味しいね」

「ニャ」

 

ちなみに猫二匹は、見た目のインパクトから残っていたお魚パンを美味しそうに食べていたのだった。

 

 

 




「ねえ、テンってお土産をよく買ってくるの?」
「うん。大抵は買って帰ってくるよ。それもみんなに好評なものばかりを」
「この魚が丸々一匹入ったパンも?」
「テンの土産にはたまに外れが入っているからな。それも一部には好評だけど」
「……普通のお土産は?」
「……もう売り切れちゃいました。残ってるのはさっきのパンと『羽魚の燻製』だけです」
「そんなぁ!?」

レビィの無慈悲(?)な言葉にショックを受けるルーシィの図。
※羽魚の燻製はマカロフがお酒と共に美味しくいただきました。
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