嵐の滅竜魔導士   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ。


評議会

テン達がギルドに帰ってからさらに数日が経った頃。

 

「ちょ、ちょっと!二人とも本気なの!?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)》のギルドの建物の前で、互いに向き合っているナツとエルザにルーシィは慌てた感じで詰め寄っていた。

そう、今日はナツとエルザが《鉄の森(アイゼンヴァルト)》の件の最中に約束した勝負の日である。

 

「あら、ルーシィ」

「本気も本気!本気でやらねば(おとこ)ではない!!」

 

そんなルーシィにミラジェーンが気付き、白髪の巨漢の男―――ミラジェーンの弟である“エルフマン”が両者本気だと語る。

 

「エルザは女の子よ?」

「女とは思えねぇ強さだけどな……」

「実力に男女は関係ないだろ」

 

ミラジェーンの注意にグレイが苦笑い気味に返し、テンは強さに性別は無関係だと告げる。

そんな呑気な周りを他所に、ルーシィは不安げに呟く。

 

「だって……最強チームの二人が激突したら……」

「最強チーム?なんだそりゃ?」

 

ルーシィの最強発言にグレイが首を傾げると、それを口にした本人であるルーシィは言葉を返していく。

 

「あんたとナツにエルザ、それとテンもいるじゃない!《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》のトップ4でしょ!」

「まあ、“チーム”としては最強かな?“個人”としてはまったく別だけど」

 

ルーシィのその言葉に、いつの間にかチームに入れられている事にはスルーしつつ、テンは納得しながらもそう返す。

確かに“チーム”として見ればナツ、エルザ、グレイ、テンの四人は確かに最強になるだろう。しかし、“個人”としてはまったくの別なのである。

 

「はっ、くだらねぇ。誰がそんなこと言ったんだよ?」

 

対してグレイは心底下らないと鼻で笑って言い捨てると、グレイの隣にいたミラジェーンが両手で顔を隠して泣き始めた。

 

「あ……ミラちゃんだったんだ……」

 

ギルドの看板娘として働いているミラジェーンが最強チームの言い出しっぺだと気付いたグレイは、一気に罪悪感が湧いた。

 

「しくしくしく……」

「ゴメンミラちゃん!俺が悪かった!」

 

しくしく泣くミラジェーンにグレイが謝る中、腕組みをしていたエルフマンが口を開く。

 

「確かにナツ達の漢気(おとこぎ)は認めるが、“最強”と言われると黙っておけねぇな。《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》にはまだまだ強者が大勢いるんだ。お―――」

「最強候補は“ラクサス”と“ミストガン”がいるが、一番強いのは“ギルダーツ”だな」

 

決め顔だったエルフマンの最後の言葉を遮るように、テンが最強候補の名を上げていく。話を遮られたエルフマンは若干肩を落とした。

 

「えっと……その人達は……?」

「ラクサスは雷系の魔法の使い手で、ミストガンは五本の杖を巧みに使うニャ。ギルダーツは魔法もバラバラにする凄い魔法を使えるニャ」

 

ルーシィの質問にフライが特徴を押さえて説明する。

ラクサスは雷の特性を活かした電撃戦、ミストガンは幻術等を駆使した搦め手、ギルダーツはもはや言わずもがなである。

 

「ちなみに、ギルダーツは超高難度クエストで三年前から帰ってきてない。ミストガンは顔を見せたくない恥ずかしがり屋。ラクサスは……色々拗らせているな」

 

テンの捕捉にルーシィは癖が強そうな人達だと察してか、少し引き攣った笑みを浮かべる。

実際、三人とも癖がかなり強い。拗らせていなければラクサスが一番マトモなのだが、数年前にマカロフと何かしらの口論をして以来、一部を除く周りとの関係が悪化しているのだから。

 

「なんにせよ、面白ぇ戦いになりそうだ」

「そうか?俺の予想じゃエルザの圧勝だが」

 

それはともかくとして、話を目の前に戻したエルフマンは拮抗すると予想し、グレイはエルザが圧勝すると予想する。

 

「こうしてお前と魔法をぶつけ合うのは何年ぶりかな」

「あの時はガキだったが、今日こそはお前に勝つ!」

 

互いに対峙しているナツとエルザも気合いは十分。どちらも負ける気はないようである。

 

「私も本気でいかせてもらうぞ」

 

エルザはその言葉と共に【換装】を発動。普段の服装から、赤と黒を基調とした、炎を模した意匠の鎧姿へと変わる。

 

「《炎帝の鎧》か……耐火能力を持つそれを使うってことは、それだけ今のナツの実力に期待してるってことか。あ、ちなみに賭けの方はエルザに一票」

「ニャら、ニャーはナツに賭けるニャ」

「ナツに賭けないんかい!」

 

お札一枚を賭け事を主催していたカナに渡すテンとフライに、ルーシィはテンにツッコミを入れる。だって話の流れからしてテンがナツに賭けそうなのに、エルザの方に賭けているんだからツッコミの一つも入れたくなるだろう。

 

「そうは言うが、実力そのものはエルザの方がまだ上だからな。結構いい勝負にはなるだろうけど」

 

《炎帝の鎧》は確かに耐熱という面で炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツに対して有利だが、そのくらいではナツが負ける理由にはならない。

 

「ナツの強さには一定の波があるし、エルザの真髄は戦況を瞬時に把握する判断能力だしな。それにエルザには《天輪》や《黒羽(くれは)》以外の鎧がまだまだあるから、別の鎧に切り換えての攻撃も十分に有り得るしな。後、どっちも気合いと根性があるし」

「最後は関係ないでしょ!」

 

テンの最後の言葉にルーシィはツッコミを入れつつ、内心でテンはナツ並みの脳筋思考ではないかと疑った。

 

「ニャーはどっちが勝ってもいいニャ。お金はテンと一緒ニャから、最低でも賭けた分は取り返せるニャ」

「結構汚いわねこの虎猫!」

「オイラはエルザに賭けていい?」

「こっちの青猫は愛がないわね!」

 

そんなルーシィは、フライの金に対する汚さとハッピーの情より現実を取った事を指摘する。

そんな周りに構うことなく、ナツとエルザは互いに笑みを浮かべて構えを取っている。切っ掛けさえあれば、いつでも戦える体勢だ。

 

「始めいっ!!」

 

マカロフの合図でナツとエルザは同時に動く。

ナツは【火竜の鉄拳】で殴りかかり、エルザはそれを顔の近くを通り過ぎるように避け、そのまま剣を振るう。

いつもならここでナツが一撃をもらって戦闘不能。エルザの勝ちとなって決着となるのだが、ナツはそれを身体をずらして避けた。

 

「お?」

「避けたな。いつもなら、あれで一撃もらって終わりだったのに」

 

坊主頭の男とリーゼントヘアの男―――“マカオ・コンボルト”と“ワカバ・ミネ”がナツの成長に関心する中、エルザの攻撃を避けたナツは炎を纏った蹴り―――【火竜の鉤爪】を放つが、エルザは身体を軽く捻ってかわす。

 

エルザはそのまま炎を滾らせた剣を横薙ぎに振るって反撃するも、ナツは身体を上下逆にして避けて距離を取る。

エルザは距離を詰めようとしてナツは【火竜の咆哮】を放つが、エルザは少し身体をずらすだけで炎のブレスを避け、そのまま肉薄していく。

 

「すごい……!」

「な?いい勝負してるだろ?」

「は?どこがだ」

 

ルーシィは二人の戦いぶりに感嘆の言葉を洩らし、エルフマンは笑みを浮かべて同意を求める。そんなエルフマンに対してグレイは否定の言葉で返した。

そんなグレイにテンが呆れ混じりで話しかけた。

 

「グレイ。いくら好敵手(ライバル)に置いていかれたくないからって、下げるのはダメだろ」

「んなわけあるか。ありゃ、エルザがナツに合わせてるだけだ。第一、ナツの実力は俺に似たり寄ったり……」

 

グレイはそこでハッとして口をつぐむが、時既に遅し。テンとエルフマンは苦笑し、ミラジェーンはニコニコの笑顔。ルーシィに至っては意外そうな表情(かお)である。

 

「ちょっと意外。あんたとナツはよく喧嘩するから、てっきり実力も認めてないと思ってたんだけど……」

「二人は普段こそよく喧嘩するが、いざという時は互いに協力するからな。東洋の言葉に『喧嘩するほど仲が良い』という言葉があるしな」

「うんうん。だからナツとグレイとエルザが一番相性がいいと思ったのよ。あ、もちろんテンもね」

 

ルーシィ、テン、ミラジェーンの言葉にグレイは居心地が悪そうな表情になる。

そんなギャラリーに構わずにナツとエルザは互いに攻撃を繰り出し、避けてを繰り返していく。

そして互いの攻撃をぶつけ合おうとした瞬間、両手を叩いた音によって中断させられた。

 

「そこまでだ。全員その場を動くな。私は評議員の使者である」

 

そう言って現れたのは、評議員の正装に身を包んだ二足歩行の蛙と、その蛙人間に付き従う従者達だった。

何の通達も前触れもなく現れた評議員の者達にその場にいた誰もが困惑する中、その蛙人間がエルザを見据えて告げた。

 

「先日の《鉄の森(アイゼンヴァルト)》の事件において、器物破損罪及び十一件の容疑で―――エルザ・スカーレットを逮捕する」

 

 

――――――

 

 

―――魔法評議会フィオーレ支部。その建物の入口前にて。

 

「本当にお役所は面倒くさいよな……」

 

胡座をかいてその場に座り込んでいるテンは、如何にも面倒くさそうにそう呟く。

評議員のエルザ逮捕で場が騒然となった後、テンはこっそりと場を離れて此処まで来た。

その理由は―――エルザのお迎えである。

 

「そう言うな。これも必要な事だからな」

 

そんなテンに白い服を着た青髪の青年―――“ジークレイン”が話しかける。

そんなジークレインに、テンは顔を顰めながら胡散臭げな視線を向けた。

 

「やっぱ形だけの逮捕だったのかよ。ま、不当逮捕なんてしたら、評議会の威信は地面にまっ逆さまだからな」

 

そう。今回のエルザの逮捕はいわば形式。魔法界全体の秩序を守るための面倒くさい行為だったのである。

鉄の森(アイゼンヴァルト)》の件は本来、評議会が解決すべき案件だったのを《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》が解決してしまったので、面子を守る為に今回の件の責任者だったエルザを逮捕したのである。

裁判では有罪となるが罰は受けない。つまり、世間と魔導士へのパフォーマンスである。

 

「それが分かってて、わざわざ来たのか?」

「悪いかよ?そもそも、評議員が此処で油売ってていいのか?」

「この俺は【思念体】だ。本体は議員の仕事をしているさ」

 

テンの指摘に、ジークレインは魔法による分身だと仁辺もなく返す。

ジークレインは若手ながらも評議員に抜擢され、大陸の凄腕の魔導士十人にしか与えられない称号―――《聖十大魔道(せいてんだいまどう)》を与えられている一人でもある。文字通りの期待の星の魔導士なのだ。

そんな魔導士として上位の実力者であるジークレインだからこそ、この程度の【思念体】は造作もないのである。

 

「ちなみにだが、彼女は今日中には帰れない。彼女の裁判中に()()()()()()()()()()が割って入って少々暴れたせいで、共に牢屋の中に入れられたからな」

「……は?」

 

その言葉にテンが目を丸くしていると、ジークレインは意地の悪い笑みを浮かべながらその身体を消滅させる。

裁判中に炎のドラゴンの魔導士……エルザと関わりがあるのは一人しか浮かび上がらない。

 

「ナ……ナツのアホぉおおおおおおおおおおっ!!!」

 

まさかのナツの行動に、テンは叫びながらその場で頭を抱える。

ナツは毎回何かをやらかすのは一種のお約束ではあるのだが、こんなところにまで適用されるとは。

テンは先程までとは違う意味で頭を痛めると、盛大にその場で溜め息を吐いた。

 

「……やっぱり妙に頭が痛む。エルザの時もそうだったが、本当に俺の記憶喪失と無関係なのか?」

 

テンは頭痛を堪えるように右手を当て、誰に話すわけでもなく一人そう呟く。

テンがエルザと顔を合わせた際、不自然な頭痛を感じたので、エルザにどこかで会ったことがないか聞いたことがある。それに対してエルザは顔を暗くさせながらも知らないと口にした。

 

実際何かを思い出せたわけでもなかったので、この頭痛は偶然と片付けることになった。

だが、ジークレインを見た時も同様の頭痛を覚えたのだ。なのでジークレインにもどこかで会ったことがないかと聞いたが、本人には初対面だと返された。

 

「本当にままららないな……」

 

テンはどこか疲れたように呟くと、取り敢えず水だけ確保する為に一端その場を離れていく。

そんなテンを、評議会の建物の中からジークレイン本人と着物のような白い服を着た女性が見つめていた。

 

「お前はいずれ、俺の手で今度こそ始末してやろう……()()()()

 

ジークレインは小声でそう呟くと、その場から立ち去る。そんなジークレインを、黒髪の女性―――“ウルティア”は妖しい笑みを浮かべて見つめるのであった。

 

 

―――――ー

 

 

翌日。

 

「シャバの空気がウメェ!やっぱ自由はサイコーだな!」

「その自由を、一日引き延ばしたお前が言うな」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)》のギルドのホールで、炎が滾っている木製ジョッキ片手に上機嫌な顔をするナツに、水が入った木製ジョッキを持っているテンが半目でお前が言うなと呆れたように告げる。

 

一応どうやって評議会まで来れたのかと聞いたら、魔法生物《バルカン》討伐の際にできたマカオへの貸しを使い、マカオが変身魔法で自身の身代わりになっている間にこっそりと抜け出した後、()()()()()でエルザに変装してから殴り込んだとのこと。

 

その完璧な変装はウィッグに適当な鎧を身に付けた、お粗末と呼べるものだったが。

ちなみに外で一晩明かしたテンの出迎えにナツとエルザは揃って驚いた後、ナツは満面の笑みで、エルザは呆れた笑みを浮かべたが。

 

「形式だけの逮捕だったのね……心配して損しちゃった……」

「そうか!蛙の使いだけにすぐ帰る!!」

 

グレイが得心がいったように呟いたその瞬間、周りの温度が下がったかのような錯覚に陥った。

 

「さ、さすが氷の魔導士……半端なく(さみ)ィ……」

 

身体を寒そうに震わせたエルフマンの言葉に、周りも寒そうに身体を擦りながらうんうんと頷く。そんな一同にギャグをかましたグレイは、落ち込んだように若干肩を落とした。

 

「それにしても意外だったわ。テンが形式だけの逮捕に気付いていたなんて」

「それはどういう意味だよ?」

 

テンのことを脳筋だと認識しているルーシィの呟きに、テンはジト目でルーシィに問いかける。対するルーシィは逃げるようにそっぽを向いて返した。

 

「ところで、エルザとの(おとこ)の勝負はどうなったんだよ、ナツ!」

 

エルフマンのその言葉にルーシィが『(おとこ)!?』とツッコミが飛んだ中、ナツは思い出したような表情となった。

 

「そういやぁそうだった!エルザ!この前の続きをするぞ!!」

「よせ……疲れてるんだ……」

 

ナツの昨日の勝負の続きを求める言葉に、エルザは気が乗らない感じで返す。

 

「行くぞーーッ!!」

「やれやれ……仕方ないか……」

 

ナツはそんなのは関係ないと言わんばかりにに突撃し、エルザは溜め息を吐きながら立ち上がる。

そしてそのまま、流れるようにエルザの拳がナツの顔面に直撃し、殴られたナツはお約束の如く仰向けに倒れた。

 

「それでは、始めようか」

「しゅーりょー」

「ぎゃはははっ!だせーぞナツ!!」

 

本日()()()の瞬殺となったナツ。その結果にハッピーが終了のゴングを告げ、グレイが盛大に笑い飛ばす。

そんな中、フライが今も酒を樽で飲んでいるカナへと近寄っていた。

 

「結果はエルザの勝利ニャ。ニャから、賭け金の金を出すニャ」

「ナンノコトカナー?」

 

テーブルの上に立ったフライの賭け金の請求に、カナはわざとらしくすっとぼける。それを皮切りに、賭けに参加していた面々はそういえばと一斉にカナに視線を向けた。

 

「あの時は騒然とニャったけど、お金の猫ババは許さないニャ。ニャから、大人しく渡すニャ」

 

フライのその言葉に、賭けをしていた一同は賭け金がそのままであった事を思い出し、一斉に圧のある視線を賭けを取り仕切っていたカナへと向ける。

 

「……あんたはナツに賭けてただろ」

「テンの金はニャーの金。ニャーの金はテンの金ニャ。ニャから、諦めて渡すニャ」

「ハイハイ。ちぇー、酒代が手に入ったと思ったのに……」

 

カナは観念したように、昨日の賭け金をエルザに賭けていた面々に渡していく。

フライもテンの賭け金を受け取り、ハッピーもしっかりと賭け金を受け取った。

 

「やっぱり、エルザが本命ニャっかニャ、そんなに倍率は高くニャかったニャ」

「でも、お金は増えたよ。このお金で美味しいお魚を食べようよ。もちろんオイラの奢りだよ」

「兄ちゃん、ありがとうニャ!」

 

今回の儲けで魚を奢ると宣言するハッピーに、フライは嬉しそうにお礼を告げる。兄弟仲は良好そうである。

 

「うぬ……」

「あら?マスター、どうかしたんですか?」

 

そんな中、マカロフの様子が少しおかしい事に気付いたミラジェーンが、少し心配そうに声を掛ける。

 

「いや、眠い……奴じゃ……」

 

その瞬間、唐突な眠気に襲われ、ミラジェーンも立っていられず横になるようにその場に倒れ伏す。

それはミラジェーンだけでなく、ギルドにいたほとんどの者が眠気に抗えずに倒れ伏していく。

 

「ぬぐぐ……ミストガン、か……」

 

そんな中、目を充血させたように見開き、気合いと根性で眠気に抗っているテンはテーブルに半ば突っ伏すような形で耐えている。

 

「ニャーも負けない、ニャ…………おやすみニャ……」

 

フライも気合いと根性で耐えようとしたが、数秒しか耐えきれずに寝落ちした。

一部の者が強烈な眠気に抗う中で、入り口から悠々とこの状況を作り出した人物―――ミストガンが入ってくる。

 

ミストガンは黒いバンダナと深緑の覆面で目元以外を覆い隠しており、服装も相まって外見だけでは性別の判別がつかない。

ミストガンはそのまま依頼板(クエストボード)へと歩み寄り、そこから一枚の討伐依頼の依頼書を取る。そして、その依頼書をマカロフへと見せる。

 

「行ってくる……」

「これ、眠りの魔法を解かんか……」

 

ミストガンはそう言って立ち去ろうとすると、マカロフは魔法を解いてから行くようにと告げる。

ミストガンはそれに軽く頷くと、身体を翻してギルドの出入口へと歩いていく。

 

「相変わらず顔出しは嫌なのか……」

「ああ……」

 

眠気に抗っているテンの言葉にもミストガンは必要最低限で返し、そのまま出入口へと向かっていく。

 

伍……肆……参……弐……壱……零

 

そうしてミストガンがギルドを立ち去ってすぐ、ナツ以外は一斉に目を覚ます。

 

「この感じ……ミストガンか!?」

「あんにゃろォ……!」

「相変わらずスゲェ眠りの魔法だな……」

 

目を覚ましたギルドの面々がミストガンの魔法に感心したり呆れたり苛立ったりする中、ルーシィがおずおずといった感じで言葉を上げる。

 

「えっと……今のがミストガン……?」

「そ。ミストガンは毎回こうやって周りを眠らせてから仕事を受けているんだ。それも顔もバンダナと覆面で隠した上で」

「いくら何でも怪しすぎない!?恥ずかしがり屋の域を越えているわよ!!」

 

テンの肯定に、ルーシィは思わず正直な感想で叫ぶ。眠りの魔法だけでなく、物理的にまで顔を隠しているんだから、端から見れば不審者でしかない。

 

「だからミストガンの顔を知っているのは、じいちゃんとラクサスだけなんだよ。俺は抗うだけで精一杯だし」

「あ?じーさんだけじゃなかったのか?」

 

テンのその言葉にグレイが疑問の声をぶつける。ミストガンの素性はギルドマスターのマカロフ以外は知らないのがギルド内の共通認識だが、顔だけであればラクサスも知っているのである。

 

「その通りだ。俺もミストガンの顔は知ってるぜ」

 

テンの言葉を肯定するように、ギルドの二階から男性の声が発せられる。その声に全員が目を向けると、そこには側面に刺がついたヘッドフォンを着けた金髪の男性―――ラクサスが柵の上で一階にいるギルドの面々を見下ろしていた。

 

 

 




「そうだテン!今から俺と勝負しろ!」
「こんなところでできるか。やったらまた牢屋に……」
「行くぞぉおおおおおっ!!」
「止めんか!」
「ぐほぉっ!」
「やっぱエルザは強いなぁ」
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