「――2機の『GUND-ARM』の出処、本当に知らぬのだな?」
「義父さんに嘘は吐きませんよ」
義理の息子から出る白々しい言葉に、ベネリットグループ御三家の一角、グラスレー社のCEO、サリウス・ゼネリは冷めた目で見据える。
……能力が優秀な孤児だったが、その出自は『スペーシアン』と『アーシアン』の『ハーフ』であり、思想面に問題があった事を今更ながら再認識する。
「極論を言えば、事の真相などこの際どうでもいい。――デリングを上回る『独裁者』が誕生してしまった以上、罪を裁くのに罪状も証拠も必要あるまい。……シャディク、現在の自分の立ち位置がどの程度危ういかは把握しているな?」
監査組織カテドラルすら有名無実化し、ベネリットグループの『総裁代理』にして監査組織カテドラルの『統括代行』を兼任した『魔女』の横暴を抑止出来る者は最早存在しない。
その『彼』から『黒』だと塗られては、例え白だろうが『黒』だと全員が判断するだろう。今回の場合は確定『黒』を黒塗りしただけだが。
「……完全な『生贄の羊(スケープ・ゴート)』ですね? グループ内のヘイトを一身に集中させ、何か起こった際に首を斬る事で全員の不満を解消する――意外でしたね、自分程度の存在が『彼』から排除すべき敵として評価されているとは」
……捕捉したテロリストを独断で即排除した『彼』から敢えて見逃され――『敵』とすら認識されていない現状を指摘するべきか、サリウスは呆れながら黙る。
此処に至って、サリウス・ゼネリは現状に至ってしまった最大の問題点を把握する。――認識の違いである。
間近で『魔女』の振る舞い・暗躍を見せられ続け、本性と実力の一端を見せつけた『グラスレー本社襲撃事件』を経て、サリウス・ゼネリは『魔女』に対する正しき認識を得られたが――。
「――義父さん、何故、『アナハイム・エレクトロニクス』代表を担ぎ上げたのです? 幾ら最近勢いのある企業とは言え、御三家には及ばない。それなのに――」
欺瞞情報と遊びで彩られた学園での『魔女』を見続けたシャディクは、『あれ』の危険性・影響規模を致命的なまでに見誤っており――。
「――シャディク、お前は『ヤツ』がミオリネ様と一緒にプラント・クエタに出立した事を知りながら計画を実行したな? 何故その時点で中止の判断を下せなかった? 『ヤツ』が偶然陰謀の舞台に立ち寄ったからと、其処でついでに始末出来ると驕ったか? あの恐るべき『魔女』を些か以上に侮ったな――」
決闘後の審問会での情報共有、箝口令を敷いた『グラスレー本社襲撃事件』の詳細を共有すべきだった事を、サリウスは後悔する。
「……事が収まるまで学園から出るな。決闘及び社内事業の参加も禁ずる」
これは事実上の『座して死ね』という死刑宣告であり、完全に切り捨てられた事を悟ったシャディクの顔は絶望に染まり――それでも、義理とは言え、親子の情を持ち合わせているサリウス・ゼネリは最後の機会を与える。
「――最後に聞くが、2機の『GUND-ARM』の出処、本当に知らぬのだな?」
言外に『仲間』を売り払え、と――唯一の活路である、残酷な選択肢を提示するのだった。
――ベネリットグループ本社のフロント外宙域、2機のMSが模擬戦を行っていた。
1機は青色のMS、ジェターク社の最新型に似ているが、肩に『A.E』のロゴが刻まれたダリルバルデMk-A.Eであり、もう1機は『緑の流星』となって戦場を駆け巡る大災厄だった。
『――何なんだよ、そのジェガンの皮を被った『何か』はァ!?』
『何って、正真正銘、ジェガンだよ! 完成形のミノフスキー・ドライブ搭載でちょっとニュータイプ専用仕様に改修しただけの最後の量産機だよ!』
異次元の機動でロックオンすら出来ない『緑の流星』に混乱の極致に至っているグエル・ジェタークは『こんな馬鹿げた性能の量産機があってたまるかよォ!?』と感情のままビームライフルを乱射し――当然ながら当たらない。
何が理不尽って、『ヤツ』はこの異次元の機動を完全に制御しており、小回りも効くという点だ。偶然にも直撃弾が出ても突然の直角機動で的確に回避する。……なんでコクピットの『ヤツ』が慣性でミンチになっていないのか、不思議で仕方ない。
『初陣を経験した際のPTSDは特に問題無いようだね! ……難易度調整、ミスったかな? あの3機のMS型ビット、撃墜する必要無かったなぁ』
『あの時を上回る『脅威』が目の前にいるからだよ!? んなもん気にしてる余裕なんてねぇよ!?』
ダリルバルデMk-A.Eの方も限界速度で飛翔して追い縋っているが、全性能において劣っていると認めざるを得ず――あのジェガンの形を小さくした『何か』は、今まで決闘で出してきたどのMSよりも馬鹿げた性能を有していると判断する……!
『――『ALICE』! 射撃補正だ! まともにやってたら永遠に当てられねぇ!』
自力での直撃弾は偶然に頼らなければ不可能と判断したグエルは『ALICEシステム』を活用し――人機一体での共同作業による射撃は幾つもの空振りを経て、遂に『緑の流星』を捉え――刹那、左腕部から展開したビーム・シールドに薙ぎ払われ、ジェガンへの直撃弾が霧散する。
『――ビーム・シールド!?』
『――『V.S.B.R(ヴェスバー)』なら抜けるよ。それはその為の特殊兵装だからね! 試してないけど、エアリアルのガンビットの防御を上から貫けるよ!』
実体盾を持ってないと思ったら、技術的に持つ必要が無い段階まで来ている事を思い知らされ――。
『――っ、そっちの兵装がビーム兵器一色なのは……!』
『並の対ビーム兵装なんて意味無いし、極限まで軽量化した結果だね! ――『先輩』と違って、俺は突出した機動力でぶん回すのが大好きだからね!』
……現段階でダリルバルデMk-A.Eが仕留められていないのは、『彼』のジェガンが全く攻勢に出てないからであり――相手のビームライフルに被弾した瞬間に『V.S.B.R』を叩き込まれてシールドビットを全損、6基のフィンファンネルで四肢損失する未来が否応無しに見えて――此処で、ベルが鳴り響く。それは事前に決めた、模擬戦終了を知らせる音であり――。
『――はい、終了。お疲れ様。やっぱり気晴らしにMSは最高だね!』
『そんなの『テメェ』だけだよ!? ……いきなり『総裁代理』になっても、全然変わらねぇな……』
今回の『プラント・クエタ襲撃事件』でベネリットグループ総裁のデリング・レンブランがテロに倒れ、重傷――トップ不在となったベネリットグループに即座に君臨したのが目の前の『彼』であり、鮮やか過ぎる振る舞いに遥か彼方の人間になってしまったと思ったが、「時間制限付きだけど、やりそこねた決闘やろうぜ!」と普段通りに誘われては毒気が抜かれるというものだ。
『そりゃ俺にとっても不本意な状況だしね。面倒極まりない。……あ、グエル。総裁選に立候補しない? 今なら『アナハイム・エレクトロニクス』社が後ろ盾になって全力でサポートするよ!』
『お・こ・と・わ・り・だッ!』
厄介事の全てを押し付けようとした『彼』の素晴らしい提案を全力で拒否し――頂点の機体性能と頂点のパイロット技量で猛威を振るった『彼』とジェガンじゃない『何か』の機動を、グエルはその目に焼き付けたのだった――。