ベネリットグループ『総裁代理』にして監査組織カテドラル『統括代行』の趣味優先で弄っているデリング総裁の懐刀であるドミニコス隊だが、これを叩く理由は割りと切実なまでにある。
デリング・レンブランの力の象徴であり、旧権力の象徴である、という事は1mmも関与しておらず――『プラント・クエタ襲撃事件』においてジェターク社の護衛艦隊が軌道上から外れた位置にあった事を観測しているからである。
艦長であり、ドミニコス隊司令ケナンジ・アベリーは「何でこんな場所に?」と疑問に思い、すぐさまプラント・クエタに隊を直行させたが――その疑問を追及されるのはジェターク社の恣意的な反逆行為の発覚に直結するので非常にまずい。……いざとなれば、トカゲの尻尾の如く切り捨てる用意があったりする。
とりあえず、それを気づかせないぐらいの衝撃でぶん殴って、別の事柄で忙殺しようという思惑で弄んでいる最中なのである。
潜在的に確定している敵対勢力の戦力査定という実用的な一面も、無きにしてあらずだが――。
「……随分と不甲斐無い結果ですね。20点」
この程度の難易度はクリア出来るだろう、という最低基準を下回った時の落胆は、別の意味で格別な味わいである。
模擬戦の結果はトーラス5機撃破、ビルゴⅡを撃破出来ずに時間切れ。ドミニコス隊の損害は大破判定4機、中破判定3機というお粗末なものだった。
「これは手厳しい。彼等とて、精鋭部隊としての矜持は示したではありませんか?」
「精鋭を名乗るなら5分で全部片付けて欲しいものですね。調整版の的だというのに」
今回のAIは意図的に性能を落としたものであり、ビルゴⅡに至ってはガンダニュウム合金をケチって採用しなかった手抜きバージョンである。
機体情報も包み隠さずに事前開示しておいたが――無駄に終わったようである。
「本当にアンチドートが通用せぬ、か……」
「技術系統が違いますからね。――ちなみに『ゼロシステム』を使ってMDを戦術的に指揮するという正しく狂った使い方もありますよ。これで貴方も諸葛孔明ですね!」
デリング総裁から凍結された技術に凍結された技術を更に加えるという愚行の極みに「あらやだ、データストームのないMS型ガンビットの理想運用では?」「使用者が発狂しなければ、ですがね?」「ままならないものねぇ」と、ペイル社だけがいつものノリで語ってたりする。
「――このAI技術に更なる発展を重ねれば、これより先の未来は生身のパイロットなど必要無くなるのでは?」
そのヴィム・ジェタークの指摘は、ある意味正解であり、経営者としての眼は称賛に値する。正しい方向に進むのも、間違った方向に進むのも、いつも猪突猛進だが――。
「いえいえ、それは早計ですよ、ヴィムCEO。所詮は機械風情ですからねぇ。――それじゃ次のメインディッシュ(模擬戦)――型式番号『WF-03MD』ビルゴⅡ6機vs我が社のジェガン6機です。なお今回は両陣営とも実戦出力でお届けします」
前座が終わったので、この本命をお出しする辺り、この『頭アナハイム』は間違いなく性格が悪い。
「あら、大丈夫なのかしら?」
「此処で『恥をかく』者なんて我が社には最初から必要ありませんし――手前味噌ですが、彼等は『私』が直々に教導した、優秀な手駒達ですよ?」
宇宙世紀を駆け抜けた『彼』基準での精鋭部隊を招集しているので、『彼』的には結果など見るまでもない。
「――まぁ結局は鍛えた人間が1番って訳ですよ。85点」
結果は5分でビルゴⅡ全機撃墜、ジェガン側の損傷も小破1機で済んでいるので及第点だろう。
勿論、ビルゴⅡ(ホワイトファング所属機仕様)の8基に増設されたプラネイトディフェンサーは鉄壁の守備を誇るが、接近+シールドクラッシュで強引にこじ開けて料理すれば良いだけの話――AI特有の戦闘機動・射撃動作は熟練者には至極読み易いので、MDに関しては「やっぱり的にしかならないな」という評価でしかない。
「――『アナハイム・エレクトロニクス』社から提供するサービスは、トーラス5機ビルゴⅡ1機からなるMD部隊のレンタルサービスです。防衛戦力は幾らあっても足りませんしね」
今回の本題はドミニコス隊が抜けた戦力を早急に穴埋めする、本当に悪辣な商売方法である。
他ならぬ、ドミニコス隊の手によって商品価値が証明されている事が拍車をかけており――尚且つ、『彼』の技術的侵略を止められる者は重傷で眠っている。
「燃料費・弾薬費は契約者持ち、修理費は全額『アナハイム・エレクトロニクス』社持ちです。いざという時の肉盾に便利ですよ、中身無いですけど」
一見して破格の条件ではあるが――此処に揃ったベネリットグループの上位企業の代表達は、このサービスの裏の意図がある種の『踏み絵』である事を全員が理解している。
このサービスを購入する事で目に見える形で新たな『独裁者』に忠誠を示せるし、気軽に使い潰せる防衛戦力もついでに手に入る。一石二鳥である。
尤も、この防衛戦力は即座に粛清戦力に早変わりする可能性も多々あるが、叛意を抱いてなければ些細な問題だろう――。
「あと態々言うまでもないですけど、敵対条件に引っ掛かって殲滅された際の保障は一切ありませんので。そんな馬鹿馬鹿しい反逆行為を犯す愚者なんていませんよね? 明記してない条件もありますから、命懸けで宜しければ探してみて下さいな!」
書かれてないが、機密保持の為の自爆ぐらいは平然とするだろうし、「恒常的な戦力向上を目指すのであれば、パイロット人材の育成は必須ですがね」と『当人』の口から語られる当たり、本軸に置かずにサブ程度の利用を推奨している。
「……気安く安売りする割には、取り扱いは随分と厳重なのだな?」
「MDの基礎技術自体は拡散したくありませんからね」
ヴィム・ジェタークの言葉に心底嫌そうな顔で、『彼』はそう締め括った。
――他社に流失したAI技術が、不用意に弄ったせいで自我に目覚め、『機械知性(AI)』に反逆されて『数百年級の文明損失(厄祭戦)』を引き起こし、その尻拭いに翻弄されるなど二度と御免である。
「――仮に、全ての制限を取っ払った超高性能AIに、超高性能のワンオフ機を組み合わせたら、どうなる?」
意思拡張AIなどの技術発展に努めてきたヴィム・ジェタークの質問に対し、『彼』はいつもの如く胡散臭い笑顔で、されどもとても楽しげに答える。
「面白い状況設定ですね。その場合――間違いなく『人類の敵』もしくは『管理者』となり、最終的に人から生まれた『例外』に敗れるだけですよ」