「――連日の会議、大変お疲れ様です。さて『本命の本題』に入る前に、謎の偶発的事故で壊滅した『フォルドの夜明け』の拠点に対して、最も過剰な反応を示した勢力は何処でしたか?」
――『プラント・クエタ襲撃事件』から一週間、この僅かな期間で諸々の事後処理を完了させ、ベネリットグループを掌握した『総裁代理』にして『統括代行』は戯ける仕草でペイル社の共同CEOの1人、ニューゲンに話題を振る。
「――『宇宙議会連合』ですね。何故かは解りませんが、我々ベネリットグループの関与が疑われるとして、調査員の派遣を強くお求めになっているご様子で。――反スペーシアン組織が壊滅した一因に、何故か解りませんが心当たりがあるようですねぇ?」
数多のニュース・メディアを通じて、露骨な情報操作に情報誘導を精査して出てきた黒幕の存在に、大多数の者は納得したような顔を浮かべる。
長年、オックス・アースの亡霊の存在が囁かれ、今回の『襲撃事件』で明らかにスペーシアンの資本がバックにいる事が判明し――。
「いまいち存在意義が解らなかった古い権力機構ですが――嬉しいですね、我々の遊び相手になってくれるようですよ?」
企業行政法における強制執行を1人の権限で躊躇無く行える『独裁者』の眼に留まってしまったのは、同情の余地は欠片も無いが、誰もが御愁傷様と内心呟かざるを得ない。
本来の予定では、ベネリットグループの『プラント・クエタ襲撃事件』の犯人探しをアーシアンへの弾圧として報道し、非難を集中させる事で世論を操作し――その目論見を最初の一手から『異星人(ルナリアン)』の『頭アナハイム』に崩されてしまい、各部門の連携が取れずに情報工作に致命的なボロが出るというお粗末っぷりを晒す結果となる。
――この結果、潜在的な脅威の存在がアーシアンのテロ組織程度ではなく、スペーシアンの資本が入った一大組織規模となり、ベネリットグループ全体の警戒度を格段に跳ね上げさせるに至る。
そして今回の会議において、獅子身中の虫であるシャディク・ゼネリが出席しておらず、冒頭から『本命の本題』と評するあたり、この会議の重要度を全員が共通認識として自覚し――。
「今回の案件は緊急を要する最重要項目ですが――『アナハイム・エレクトロニクス』社の技術部から、パーメットを使用した全技術に関する致命的な脆弱性が報告されました」
全員の危機意識の上限を遥か彼方に吹っ飛ばす、飛び切りの爆弾発言をもって緊急会議が開幕する。
此処に集う百戦錬磨の代表達が絶句する中、即座に数多の資料が配布され――。
「――今更説明するまでもありませんが、個々の粒子間で情報共有を行うパーメットはこの宇宙の根幹たる基礎技術ですが――『出力』次第で一方的にハッキングして完全支配下における可能性が示唆されましてね。パーメット間には都合の良い情報障壁(ファイア・ウォール)が皆無ですし」
様々な観点からその危険性を指摘し――理屈抜きで掻い摘んで説明すると、ようは『GUND-ARM』が遠隔操作端末を行使する要領で自社製兵器の操作を乗っ取られる、最悪の未来図が示されており――。
「……その『出力』というのは、具体的には――」
「パーメットスコア『6』以上ですね。シン・セー開発公社が開発したエアリアルのパーメットスコアは今のところ『6』まで確認されております。ファラクトのパイロットへのデータストームの逆流、エアリアルとグラスレー寮との決闘において一部機能がオーバーライドしたのはその前兆ですね」
「はぁ!? パーメットスコア『6』!?」と困惑の怒号が上がり――当然と言えば当然だろう。『GUND-ARM』に関わる者の常識として『4』の時点で死の領域なのに、それを遥かに超える『6』の存在をいきなり示唆されても困惑しか出ないだろう。
「――『GUNDフォーマット』使用時に生じるデータストームには膨大な情報をやり取り出来る超密度情報体系としての側面がある。人体へのダメージを度外視すれば夢の広がる話ですね」
『彼』の観点から見れば、「ELSの如く、地球外元素じみた『異物(パーメット)』に技術的信頼など置く訳ねぇだろ」と良く解らない危険存在を遠ざけたのは当然の行為なのだが、それを当たり前のものとして扱ってきたこの宇宙の人間からの驚愕は大きく――。
「――『GUND-ARM』の行き着く先が、パーメットを用いた全兵器の支配だと……!?」
反『GUND-ARM』で知られるサリウスCEOが、この場にいる全員の驚愕を代弁し――。
「その可能性が示唆された以上、現実の悪夢として実現するのは時間の問題ですね。――ですので、『アナハイム・エレクトロニクス』社として、2つのプランを提案します」
続いて配布された資料の題名は――『クワイエット・ゼロ』と記されていた。
「1つはデリング総裁が予てより進めてきた極秘計画『クワイエット・ゼロ』、GUNDフォーマットを用いてこの宇宙の『殆ど』の兵器を掌握する王道プランですよ! 1番最初に辿り着いた者がパーメットを支配する。非常に解り易い技術競争ですね」
「あの『ダブスタクソ親父』、やりやがったなァ!?」とグエルパパ、もといヴィムCEOが叫ぶのも無理もない。
21年前に『ヴァナディース事変』を実行しながら、『魔女』と裏で手を組んで宇宙の勢力図を根本から激変させる『クワイエット・ゼロ』を企てていたなど、余りにも強かすぎて称賛したくなるダブルスタンダードっぷりである。
――尤も、この『クワイエット・ゼロ』は宇宙の平和を切実なまでに願ったデリング・レンブランのプランから離れた、『アナハイム・エレクトロニクス』代表主導によって歪みに歪んだ『クワイエット・ゼロ』である事を、全員が認識していない。
「もう1つのプランを発表する前に、我々ベネリットグループの仮想敵になるであろう、量産型『GUND-ARM』――『XGF-01』ガンダム・ルブリス量産試作モデルの性能についておさらいしますね?」
GUNDの医療技術を軍事転用して生まれたGUNDフォーマット――オックス・アース・コーポレーションの量産型MSの情報に、見覚えのある代表達の顔は歪みに歪む。
「21年前に苦渋を舐めた皆様方には馬の耳に念仏でしょうが、現在の御三家の量産型MSと比較しても尚上回る性能を保持しているようで――何で21年前の骨董品如きの性能を凌駕出来ないのか、『私』には理解出来ませんね!」
非人道的な兵器と非難して禁忌扱いにしようが、未だに過去の遺物を超えられずに技術的停滞を余儀なくされた全社にとって、その量産型『GUND-ARM』は脅威そのモノであり――これが再び仮想敵となるのは悪夢でしかない。
「『GUNDフォーマット』による副作用を度外視した上で、総合的な性能で対抗出来るのは我が社の傑作量産機であるジェガンぐらいですね!」
「はんっ、コストを度外視すれば、という『もしも(if)』の話ではないか」
確かに従来の操作性はおいといて、性能面では圧倒的に凌駕しているが、高価格ゆえに量産出来ない量産型など産業廃棄物に等しく、余りにも現実の見えてない夢想話にヴィムCEOは鼻で笑うが――サリウスCEOだけは、別種の驚愕で顔を歪ませており――。
「――我が社の『廉価版』のジェガンを事前に購入頂いた顧客様におきましては、購入数の3倍の数の『オリジナル仕様』のジェガンを無料配布させて貰いますね!」
以前にジェガン購入に踏み切った代表は「へ? 我が社の事?」「『廉価版』? 『オリジナル仕様』?」と全員と同様に首を傾げて――唯一人、先んじて真実に辿り着いたが故に思考停止に陥っているサリウスCEOに、『総裁代理』にして『統括代行』は悪魔めいた笑顔を浮かべる。
「――サリウスCEO、貴方の口から、我が社の『オリジナル仕様』のジェガンについて説明願いますかな?」
全員の視線がサリウスCEOに集中する。数秒の沈黙の後、意を決したようにサリウスCEOは渋々口にする。
「――『ミノフスキー粒子』の基礎学を前提とした『ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉』搭載の、パーメット関連の技術が一切使われていない、既存の技術系統とは完全に逸脱した――最大の懸念点であるコスト問題を既に解決している正真正銘の傑作機かと」
――即座に、偽装工作を行っていない『オリジナル仕様』のジェガンの詳細情報が開示され――。
「は? 何を言って――」「『ミノフスキー粒子』? は? あの紹介動画に出ていた架空の粒子!?」「話が違う、だってあれは、ただの――」「どういう、事だ!?」「ちょっと待ってくれ、全ての前提が――」と、此処にいる代表達全員が阿鼻叫喚の大混乱劇に陥り――。
その『元凶』である『彼』が無言で手を掲げ、一瞬にして静寂になる。満足気な表情で『彼』は口を開く。
「2つ目のプランとして、パーメット関連の技術が一切使われていない『ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉』搭載のジェガンのライセンス生産を提案しますね!」
最早提案などではなく、これより先を生き抜く為のただの必須条件であり「既存の生産ラインを全部ジェガンにする目標、無事達成ですね!」と『彼』は無邪気に笑う。
「我々ベネリットグループの今後の方針は、パーメット関連の技術を外部に高く売りつけ、『クワイエット・ゼロ』成立前に脱・パーメット技術を確立させる事です。――さぁて、皆様、宇宙の覇権というヤツを握っちゃいましょうか」