Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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11/偽りの『魔女』と真の『魔女』

「――未成年の少女を、無実の罪で長時間拘束するなど言語道断! 更には望む回答が出るまで質問を繰り返すなど拷問と同じですよ! 弁護士として不当な取扱いへの謝罪を求めると共に即時釈放を要求します!」

 

 ばん、とわざとらしく机を叩き、如何にも怒っています、と演技するのは高級そうなスーツの胸元に『A.E』の文字を刻んだ壮年の男性であり――同じ会社の人、という先入観が無くとも胡散臭い人物像だった。

 

「……スレッタ・マーキュリーは『ガンダム』を使用した嫌疑で身柄を拘束されています。決して不当な扱いなど――」

「私は『アナハイム・エレクトロニクス』社専属の弁護士であり、『アナハイム』代表の全権代理人です。――『彼』からは、あらゆるオプションの行使を許可されています」

 

 その言葉に、尋問官は顔色を悪くする。

 尋問室の空気が緊迫する中、何も知らされていないスレッタ・マーキュリーは「あわ、あわわわわわ!?」とパニクっていた。

 

「……脅す気か? 貴君等の対応は我等ベネリットグループの規約に反する愚行であると――」

「――」

「……っっ!?」

 

 弁護士を名乗る壮年の男性が小さく呟いた言葉は『誰かの名前』のような語感であり――それを聞いた尋問官が露骨なまでに動揺する。

 

「おや、どうしました? 顔色が随分と悪いようですが。休憩時間が必要では? お互いにね――」

「……私にも、職務を忠実に全うする義務がある事を、どうか理解して頂きたい」

「ええ、十二分に理解してますよ。お互いにとって最善の道を是非とも歩みましょう」

 

 項垂れるように退出した尋問官を後目に、弁護士を自称する胡散臭い大人の男性は、それはもう胡散臭い笑顔を浮かべる。

 

「ご安心下さい、スレッタ・マーキュリーさん。我々『アナハイム・エレクトロニクス』は、決して貴女を見捨てたりはしませんとも」

 

 自らの胸を自信満々に叩いて見せるも、その『A.E』のエンブレムはどうも信用してはならない気がしてならない。

 

「あ、あのっ、どどど、どうして、こ、こんな、親身に……?」

 

 スレッタは心底不思議そうに尋ねると、やっぱり『アナハイム・エレクトロニクス』社の社員は、あの『代表』と同じように胡散臭い笑顔で、こう答えたのだった――。

 

「それが我が社の『社訓』ですから――まさか、あの『社訓』を実行する日が来ようとは思ってもいませんでしたがね」

 

 

 

 

「これより審問会を開始する。シン・セー開発公社代表、レディ・プロスペラに問う。――お前は『魔女』か?」

「いいえ」

 

 いつもの審問席に『彼』ではなく、別の女性が立っている事に、此処に集ったベネリットグループ上位企業の代表達は凄まじい違和感に襲われていた。

 

「ヴァナディース機関との繋がりはあるのか?」

「いいえ」

 

 その最たる違和感の原因が、自分達と同じ席に座っている『アナハイム・エレクトロニクス』代表の姿であり――。

 

「『アナハイム・エレクトロニクス』との繋がりは?」

「いいえ、ありません」

 

 全員の視線が、仮面を被った不審な女ではなく、『アナハイム・エレクトロニクス』代表に向けられているのは一体何故だろうか。

 

「おやおや、まるで我々が『ガンダム』を造っているかの如き言い草、謂れなき風評被害を受けていますが?」

 

 これまた胡散臭い笑顔に「どの口が言う」「やっぱり『ヤツ』が審問席にいないのは違和感が……」などと呟く。

 今回の審問会は何と、『ヤツ』が造ったMSが対象ではないのだから、驚くのも無理はあるまい。

 

「――では、どうやって『ガンダム』を造った?」

「エアリアルは『ガンダム』ではありません。我々シン・セーが開発した新型ドローン技術です」

 

 その言い分を信じる者は皆無であり、「いや、あの『いつものフェイス』でその言い訳は無理っしょ」と全員の心を誰かが代弁する。

 

「先の決闘において、あの機体は『パーメット流入値』の基準を超えてました!」

 

 「……あぁ、今回は検出されていたのか」「いつもは未検出だからな」「これは珍しい事もあったものだ」と軽く流される。

 

「これは『ガンダム』の基幹システム『GUNDフォーマット』の特徴を現しています」

「――片手落ちだなぁ。肝心の『データストーム』が検出されてないのなら『ガンダム』ではありませんよねぇ? パイロットの命すら奪う『呪われた兵器』なのに謳い文句が安心安全なら笑い草じゃありませんか」

 

 それに対して反論をしたのはシン・セー開発公社代表プロスペラではなく、観客席にいる『彼』であった。

 

「……何故、庇い立てする? 『アナハイム・エレクトロニクス』代表」

「いえいえ、『謂れなき罪』で弾劾されるなんて、『私』には我が身のように感じ取れて、心が痛くて見ていられませんとも! ――あれが『ガンダム』であるなら、パイロットは死んでなければおかしい。なら簡単な話でしょ。あれは『ガンダム』ではない事は子供でも解る話ですよね? これ以上、無駄な議論に時間を掛ける価値がありますかな?」

 

 

「――いや、あれは『ガンダム』だ。私がそう判断した。異論がある者はいるか?」

「はいはーい、此処に一名居まーす」

 

 

 ……だから、何故『お前』が一番食らいついているんだ、と全員が思う。もしやシン・セー開発公社と結託しているのかと疑いの目を向けたくなる。

 

 

「――デリング総裁の判断に異を唱えるのは基本的に時間の無駄ですので搦手で行きましょう。それではご入場、どうぞー。仲良く『親子喧嘩』して下さいな」

 

 

 審問会の扉が自ずと開き、その部外者は堂々と足を踏み入れる。

 デリングの視線が『アナハイム・エレクトロニクス』代表に一瞬だけ向けられ――非常に険しい表情で、彼は自らの娘を見下ろした。

 

「――何の用だ、ミオリネ」

「アンタに一言言いたくてやってきたの。――自分で決めたルールを後から勝手に変えるな、このダブスタクソ親父ッ!」

 

 

 

 

 ルールを強引に変えようとする総裁と、ルール通りに決闘してやると宣言する娘。

 

 この見応えある『親子喧嘩』だが、実はこれ――これ自体は『彼』のサプライズだが――単なる茶番である。というのも、事前にエアリアルを解体処分にしない事は『彼』とデリング総裁の間で決まっていた。

 

 偽物の『魔女』の『彼』とは違い、本物の『魔女』の仕向けた『ガンダム』が漸く日の目を浴びたのだ。

 

 暫く泳がせようと結論に至るのは当然だ。『魔女』の暗躍は非常に厄介であり、今の今までろくに捕捉さえ出来ていなかった。

 此処に至って、漸く現れた、余りにも露骨過ぎる釣り針。最大限に利用したいと思うのは当然だろう。

 

 ――しかし、『実の娘』をそんな釣り針にするのは如何なものか、と『彼』すら苦言を呈したくなる。

 

(いやぁ、主人公の母親が仮面枠とは思わなんだよ。絶対ロクでもねぇ『毒親』だわ)

 

 ガンダム世界名物『毒親』かぁと『彼』は落胆する。この宇宙には誰も彼も子を支配して思い通りにしたい身勝手な大人が余りにも多すぎる。

 他者の念に関しては感受性の乏しい『彼』だが、世界の憎悪が透けて見えるようだ。

 

(まぁ汚い大人の所業から少年少女の清い心を守るのも、『我々』の仕事だしね?)

 

 高度の柔軟性を保ちつつ、臨機応変に対処すべし。いつも通り、行き当たりばったりで当たって砕けろ、である。

 

 さて、長々と続いた議論は『決闘のやり直し』で纏まり――本日の本番が訪れる。

 

「――それでは審問会第二部を開始する。『アナハイム・エレクトロニクス』代表、あれは『ガンダム』か?」

「いいえ。――『ガンダム』に『おヒゲ』がありますか? ありません!」

 

 この台詞が言いたかったぁと、『彼』は満足気に笑った。もう審問会、終わってよくない?とさえ思う。

 

「フロント管理社のMS7機を破壊した事について申開きはあるか?」

「決闘用に出力制限されたMS相手に撃破されるなんて、職務怠慢も良い処ですよ。この程度の戦力で学園の治安を守っているなど空虚な戯言でしょう。――そんな無能、我等ベネリットグループに必要あります?」

「貴様ァッ!」

 

 フロント管理社の代表から目線だけで人を射殺さんばかりの睨みが『彼』に向けられるが、『彼』には何処吹く風だ。というより、見返す事すらしない。

 

「フロント管理社のパイロットから、未知の新兵器の使用が確認されたと証言したが?」

「集団幻覚に陥るほどの薬物中毒者だったのですか? 寝言は寝てから言って欲しいですね――その証拠たる記録映像は? 其処まで言うのでしたら一つぐらいありますよねぇ?」

 

 勿論、無い事を確信した上での発言である。今回のMSに関するデータは全部改竄済みである。

 『未知の粒子(ミノフスキー粒子)』を少し散布しただけで通信障害が発生するし、あの場に居た全MSの映像記録は整備する名目で書き換え済みである。

 となれば、あとは不明瞭な人の記憶しかないので、どうとでも誤魔化せる。『月光蝶システム』をその概念を知らぬ者が説明する事など不可能極まる。

 

「――『アナハイム・エレクトロニクス』代表、貴様はまた『黒』を『白』と言い張るつもりか?」

「元の色が確認されていないのならば、どんな色を申告しても問題無いでしょ? グラスレー・ディフェンス・システムズCEO、サリウス・ゼネリ殿」

 

 御三家で一番厄介な老人に指摘されるも、意に介せずに開き直る。

 

「さて、茶番はこれぐらいにしておいて、それでは『今回』のプレゼンテーションを開始しましょう!」

 

 「茶番が終わって、また茶番が始まっているではないか」と野次が飛び――。

 

「型式番号『System-∀99』、∀ガンダムです」

 

 『彼』が断言した事で審問会の全員が絶句する。

 

「……『ガンダム』?」

「はい、『ガンダム』ですよ。ところで、これは改めて言うまでもないと思っていた事なのですが、欠陥システムのGUNDアーム採用機を巷では何故か『ガンダム』と『略称』するらしいのですが、我が社が造る『正式名称』が『ガンダム』であるMSとは最初から別物なんですがね?」

 

 「え?」「は?」と困惑の声があがる中、『彼』は今まで敢えて指摘してなかった勘違い要素を暴露する。

 

「協約で禁止にされているのは『GUND-ARM』であって、我々の造る特別な『MS(ガンダム)』では無いので。そもそも、うちのMSは最初からパーメット関連の技術皆無ですよ? 『GUND-ARM』≠『ガンダム』ですとも」

 

 今明かされる衝撃の真実ゥ!に全員の顔が驚愕に染まる。

 

「……『アナハイム・エレクトロニクス』代表、それは真実か? 語感が偶々同じだったと今更言い張るつもりか……!」

「最初からご理解して頂いていると思っていたんですがねぇ。当たり前の常識を態々説明し直す機会なんて無いでしょう?」

 

 本当に今更すぎて、指摘する事すら無粋かなぁと思っていた事でもある。

 

「ふ、ふざけるなァッ! 今更そんな言い訳が通るか……!」

「いえいえ、パーメット流入値が皆無で、当然『データストーム』が発生しない機体を『GUNDアーム』扱いされても正直困りますよ?」

 

 ――まぁ真面目な話、この基準、引っ掛かる方が難しいんだけどね? 今までは意図的に引っ掛かるMSを選出してきた訳だし。

 

「いやぁ、これで今まで我々の中にあった些細な違和感が綺麗さっぱり解決したのは喜ばしいですね! やっぱり人類は相互理解を深めて次の領域を目指せる種族ですとも!」

 

 これで貴方も『私』もニュータイプだ! なお、根本的な部分で理解し合えない模様。悲しいね、バナージ。

 

「ああ、ちなみに∀ガンダムは未完成ですが、本来は対太陽外勢力殲滅用の恒星間決戦兵器でして――」

 

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