「……なぁ、実質『アイツ』が2人いる状態とか、反則だろ? インチキだインチキ!」
「……突っ込みたいけど、言いたい事は解る。解る、けど!」
武力担当の『頭アナハイム』になる前の『彼』に、知略担当の『頭アナハイム(初代)』の珍道中は、色んな意味で酷かった。
最も効果的な戦線にベストタイミングで投入され、暴れるだけ暴れて無傷で去っていく。この第三陣営の介入は他の陣営にとって不可避の災厄に等しく――対処しようとした時点でマンパワー浪費で敗北確定の罠であると、その正視し難い真実に辿り着いた他の陣営は、もう盛大にブチ切れて良いだろう。
「……実際、ライバル会社すら存在しない『アナハイム』社の一強状態。此方の宇宙で例えるなら、ベネリットグループ含む全企業グループの複合集合体で、最大勢力どころかその敵対勢力、両陣営の軍事産業を一手に担っている。唯一の欠点は巨大過ぎる故に横の繋がりが希薄で内ゲバ必至な事――だけど」
「自陣営のトップの意向をガン無視した上で単騎最強の戦力を好き勝手扱えるとか、そんな馬鹿げた胆力と確かな能力がある時点で最終的な勝者になるのは当然だな」
ただでさえ武力担当が手が付けられないぐらい暴れているのに、その影に隠れて知略担当も大胆に暗躍しているという無理ゲーっぷりには匙を投げるしかないだろう。
『ラプラス事変』における最終決戦に至る前に――直接接触した際にロンド・ベルに情報を横流しして――邪魔な政敵を蹴り落とす段取りが完全に済んでおり、『ラプラスの箱』がどの陣営に渡っても勝利確定していたりする。酷い。
「それにしても今回ので、見慣れた『虹色』に輝いたが――やっぱりあのユニコーンガンダム、超級なまでにヤバい機体だったか。……俺との決闘の時は、その性能をろくに発揮してないって事か」
圧倒的な性能差で押し切られた決闘をグエルは苦々しく思い起こし「……いや、今考えたらあのシールドビット、推進力無しで宙浮いてなかったか?」とヤバい一端を見逃していた事に今更気づく。
「……フル・サイコフレームって時点で割りと狂気の沙汰だと思うけど? νガンダムの時点で小惑星アクシズを押し返しているし」
「『作中』で言う『アクシズ・ショック』、『ヤツ』の『先輩』が起こした『奇跡』ってヤツか……その『奇跡』を人為的に再現する為のユニコーンタイプ、か――」
最早此処まで来ると、人の手では手に負えないレベルのオカルト、最大規模の厄ネタとしか思えないが――。
「……どういう気持ちで、νリヴァインに乗ってるんだろうな……?」
パイロットとして縦横無尽に大活躍している様には感動と憧憬すら覚えるが、あんな無愛想な顔で乗っている『彼』は、見ていて痛ましい限りだった。
むしろ清々しい顔でνリヴァインに乗っていた『機動武闘伝Gガンダム』の時こそレアケースであり――。
「……『アイツ』にとって、νガンダムは間違いなく特別な機体で――今の『アイツ』の見えない地雷原を全回避して、決定的な仲違いせずに結託出来てる状況こそ奇跡よ」
今の『彼』と『頭アナハイム(初代)』とのやりとりは、一見、常に衝突して険悪そうに見えるが――今の精神状態の『彼』と決裂していない時点で異常極まりない偉業なのだ。
『劇中』で3年の月日が経過し――未だに『彼』の心は、3年前の時点で止まったままだった。
何一つ割り切れずに、意図的に『自身』を忙殺する形で現実逃避している。
……外部からはアムロ・シャアの領域に足を踏み入れたと、解った風に誤解されるだろうが――今もその2人の存在が目に焼き付いて離れないが正解だろう。
「……それにしてもあの『頭アナハイム』……ああもう紛らわしい! 『初代』でいいや! 『初代』の『頭アナハイム』、間違いなく『ラプラスの箱』の中身、最初から知っている上で欲していない?」
「『箱』の正体は未だに解らないが、開いたら宇宙世紀の歴史を変えるとか最初から眉唾物じゃないか? ……いや、最初から眉唾な存在が『鍵』になっているが」
最初から『頭アナハイム(初代)』だけは『箱』に価値を見出さず、むしろ『鍵』のユニコーンタイプの方こそ価値を置いているように見える。
その先見性の高さは『ニュータイプ』よりも異常じみており――これで自称『オールドタイプ』を名乗るのだから、最早意味不明の存在である。
「……『アイツ』の出番、流石に此処で終わりか。引っ掻き回すだけ引っ掻き回して凱旋とは――」
苦労して宇宙に帰還したユニコーンガンダムを待ち伏せしていたと思われる、唐突に出てきた地球軌道艦隊旗艦(笑)は見事なまでのかませ犬となり――。
「本当に最終決戦に参加しないで直帰とか、此処まで興味が湧かない『箱』って一体――不慮の遭遇戦?」
最強無敵のまま舞台から降りようとしたνリヴァインの前に、『袖付き』とは違う一派のネオ・ジオンのMSとの不慮な遭遇戦となり、ミオリネは冷めた目で「はいはい、どうせ瞬殺でしょ?」「色が違うが、シナンジュっぽくないか?」と、グエルはドゴス・ギア級2番艦『ゼネラル・レビル』との戦闘での消耗に若干の懸念を抱く。
そして、蓋を開けてみれば――。
『――未だに『赤い彗星』を恐れてブルっちまってんのかァ!? 『アンタ』にとっての戦場での唯一の恐怖、絶対に敵わぬ存在の象徴! 大事な大事な『先輩』を道連れにしておっ死んだ『赤い彗星』を今でも恐怖しているとは最高に笑えるなァッ!』
『――ッッ!』
『――そして最高に笑えないのが、『アンタ』が『白い流星』の後継だって? ふざけんなよ、本当に気付いてないのか? 『アンタ』は誰よりも――『テメェ』自身が何よりも忌み嫌う『赤い彗星』に近しい、馬鹿げた存在なんだぜ? それを目指して脳を弄くり回されて切り刻まれた俺達を差し退いてなァッ!』
『――は? 何言ってんの死ねぶっ殺す――』
白いシナンジュを除く、全てのギラ・ドーガを無慈悲に鏖殺したが、その殺意の全てが注がれた『本命』だけは取り逃がしてしまい、怒り狂って言葉にならぬ怒号をあげる『彼』の姿が映し出され――。
「……え? 『アイツ』をレスバで一方的に煽り散らしてブチ切れさせた挙げ句、部隊全滅で返り討ちに遭ったけど最終的に生き残った!?」
「……まさかこれ、ブチ切れ過ぎて機体の出力制限外す事すら思考から消え去るほどブチ切れてたのか!?」
この『ラプラス事変』において唯一、『彼』が不覚を取った一戦であり、その相手が『赤い彗星』の『失敗作』とは実に皮肉が利いている。