「――双方、魂の代償を『天秤(リーブラ)』に」
決闘委員会のラウンジにて、ベネリットグループ『総裁代理』にして監査組織カテドラル『統括代行』を兼任する事になった『アナハイム・エレクトロニクス』代表は、株式会社ガンダムCEOにしてベネリットグループ総裁の一人娘、ミオリネ・レンブランと対峙する。
今まで同じ陣営だった両者の、余りにも突然の対立に、決闘委員会の者達の動揺は激しく――その困惑は、『アナハイム・エレクトロニクス』代表も同様だった。
「決闘場所は『フロント外宙域』、決闘方式は機体数無制限の『総力戦』、先に相手大将のブレードアンテナを折った陣営の勝利とする」
決闘内容を取り仕切るグラスレー寮・寮長シャディク・ゼネリが発表する特異な条件に「わー、どっかで聞いたような決闘方式を更に自分有利にアレンジしてきやがった!」と『彼』は表面上戯けるが――ミオリネにとって最も取り込みやすいシャディクと結託済みの状況に、内心驚く。
学園に帰還しての短時間に外堀を埋め尽くすとは、余りの手際の良さに――余りにも手際が良すぎる事に深い疑念を抱く。
――ミオリネ当人にとっての最優先事項、スレッタの事を蔑ろにして無視しての行動に、一体『誰』の手引なのか、突如現れた新たな『プレイヤー』の存在を否応無しに意識せざるを得ない。
「ミオリネ・レンブラン、君はこの決闘に何を賭ける?」
本題であるそれを、今の今まで『彼』は知らない。一体何を要求するのか――大体の事は話し合いで済むと思うが――。
「――『アンタ』案の『クワイエット・ゼロ』を永久放棄する事……!」
『彼』の人間を装っている『仮面』が全て剥げ落ちる。今の『彼』がどんな表情をしているかは、『彼』自身も把握してないだろう。
「君の母、ノートレット・レンブランが創案し、ベネリットグループ総裁にして監査組織カテドラル統括代表デリング・レンブランとシン・セー開発公社CEOプロスペラ・マーキュリーが極秘裏に進めていた計画『クワイエット・ゼロ』――これの着地点が何処なのかは当人達以外解らないし、今となっては興味も無い。これの大部分を流用し、パーメットが用いられる全製品を強制介入して支配下に置き、脱パーメット路線でこの宇宙の天下を取る計画に舵取りしたのだけど――これは現ベネリットグループが進める『クワイエット・ゼロ』であって、表向きの陽動だ。本命の俺案の『クワイエット・ゼロ』ではない」
もう既に――言葉が不要である事を『彼』は直感的に理解しているが、一縷の望みに縋るように言葉を用いる。
「ミオリネ・レンブラン、君が俺案の『クワイエット・ゼロ』を理解しているかどうかの質問は1つで十分だろう。――ガンダム・エアリアルのOS、バージョン『E.S』、この『E.S』は何の略称だ?」
どうか、この質問を間違えてくれと切に願い――。
「――エリクト・サマヤ」
その願いは、やはり裏切られる。経緯は今一解らない。だが、話し合いの余地が皆無である事は確信出来た。
「……凄いな、どうやって辿り着いたんだ? 最初はプロスペラに良いように利用されていると思ったのだが、どうやら違うらしい。――うん、真っ先に『決闘』を選んだ、君の選択は正しい。結果が伴わないのはとても残念な話だけどね」
はぁ、と『彼』は深い溜息をつき――全力で気乗りはしないものの、敵対するのであれば誰が相手だろうが構わない。感情が納得しなくても、理性は淡々と処理するだろう。
「俺からはいつも通り。――やってみせろよ、ミオリネ・レンブラン。やれるものなら、ね。俺の方からは俺1機、君の方は自由にどうぞ」
「あら、良いの? 負けた時の言い訳がそれ?」
「この宇宙の全てをかき集めても俺1人に敵わない、という余りにも当たり前過ぎる大前提だけど? それで此方からのハンデはどの程度つければ良いのかな? 武装無し? 回避無し縛り?」
もう既に、選出する機体が決まっている以上、どんな条件だろうと『自身』に敗北が無い。あとは政治的交渉での譲歩、『決闘』での条件付けだが――。
「――っ、いらない! 真正面からぶっ倒してやるわ!」
少し煽れば直情的に流されてしまう欠点は、相変わらずであり――。
「『賽は投げられた(アレア・ヤクタ・エスト)』――決闘を承認する」
「……『決闘』で『アナハイム・エレクトロニクス』代表に勝つ? 不可能では?」
『その『決闘』こそ、『社長』にとって最も苦手なルールですよ! 極度の殺人衝動持ちに対戦相手を殺してはいけないという精神的デバフが永続的且つ多重に入るので』
この最大規模の陰謀劇に巻き込まれたジェターク社CEO、ヴィム・ジェタークは自称『アナハイム・エレクトロニクス』社の一枚岩じゃない反『社長』勢力の『内部工作員』の言動をこの上無く胡散臭く見ていた。
『社長』が『社長』なら、社員もまた胡散臭くなるのか――いや、『社長』と同じぐらい胡散臭い自称『反乱分子』が『彼』と重なって仕方ない。主に同規模の脅威として。
『何でもありになったら『アナハイム・エレクトロニクス』社の総力を好きなだけフル活用出来る『赤い彗星』を相手にするようなものですよ? いやぁ、ベネリットグループの皆様におかれましては『アナハイム・エレクトロニクス』社を良くもまぁ此処まで肥え太らせたものですね? 自殺したいのかな?』
……その非常に耳の痛い言葉に、ヴィムとグラスレー社CEO、サリウス・ゼネリも首を背ける。
なお、御三家の中で風見鶏のペイル社は最初から誘っておらず、強制的に不参加である。
『それでは恒例のブリーフィングを始めましょう。今回の決闘相手は『アナハイム・エレクトロニクス』代表、搭乗MSは『アナハイム』社における最後のガンダム、型式番号『System-∀99』、∀ガンダムです』
改めて見た事のあるヴィムとサリウスは表情を歪め、シン・セー開発公社CEO、プロスペラ・マーキュリーは『ガンダム』の部分に反応し、この一癖も二癖もある面々を説得して集めたミオリネ・レンブランとグエル・ジェタークは表情を凍らせる。
『以前に『社長』自ら解説していたので説明不要だとは思いますが、不参加の者も多少いますので改めて説明しますね! 本機は対太陽外勢力殲滅用の恒星間決戦兵器であり、当時のあらゆる制限・倫理観の壁を全部取っ払って製造された、MSの形をしているだけの超兵器です』
これを解説された時は、余りにも突拍子の無い説明に冗談扱いとなったが――今となって、何一つ嘘を述べてなかった事に、ヴィムとサリウスは驚愕せざるを得ない。
『動力は『DHGCP』――縮退炉2基搭載、無尽蔵のエネルギー供給率を誇ります』
「なんて?」
『駆動方式は『IFBD』――ビームを拡散させるIフィールドの理論を異次元の領域まで飛躍させたもので、機体の防御性能は核の直撃でも余裕で防げる領域です』
「おかしくね?」
『装甲材質は『ナノスキン装甲』、高度な自己修復機能を持っているナノマシンの装甲であり、多少の損傷なら即座に自己修復出来ますね。理論上はパイロットも即時修復出来ますよ』
「は?」
『本機の武装は『DOC(デバイス・オペレーション・コントロール)』ベースとの連携前提でして、状況に応じて空間転送での武装補充を可能としています。つまり『アナハイム・エレクトロニクス』本社に存在する全武装の使用が可能です』
「待って理解が追いつかない!」
『アナハイム・エレクトロニクス』代表が意図的に濁した情報全てを包み隠さずに一気に開示されてはさもありなん、今までの自分の常識を一から再構成する羽目になるだろう。
一番のSAN値チェック要素である『本機搭載の終末機構である『月光蝶』につきましては、『決闘』で使用する事はまず無いので省略しますね!』は秘匿されたので、精神的ダメージは僅かに軽減されただろう。
『現在の∀ガンダムは理論値の10~20%程度の性能しか発揮出来ませんが、最低値の時点で全てMSの性能を遥かに凌駕していますので些細な誤差ですね! 『決闘』で発揮出来るパフォーマンスは結果的に1%以下になるので頑張って下さいね!』
何をどう頑張れば勝機を見い出せるのか、欠片も解らない助言に『まぁ真の問題は、パイロットが∀の性能を常時100%以上引き出せる事なのですが、大前提なので問題提起しようがないですね! HAHAHA!』と胡散臭く笑い――情に絆されて、ミオリネとグエルの必死の懇願を聞いたのは間違いだったな、とヴィムとサリウスは清々しい顔で後悔する。
『――さて、基本的な戦略ですが、『彼』と対抗するならば、この宇宙に存在する全てを文字通りぶつけるしかありません。話はそれからです』