「――遠隔操作端末兵器の対処の仕方ねぇ? それを使う『僕』自身に質問するんだぁ」
「……何だよ、好きなだけ笑えよ」
「いいや、その向上心の高さを笑うなんて出来ないよ。人の努力を馬鹿にするヤツは、自分で努力した事の無い人間だからね」
――少し前の事。
グエルと『彼』は共に歩きながら、そんな会話を交わした。
グエルにとっては、煮え滾る内心を必死に我慢し、プライドを捨てる覚悟で問い、『彼』はそんなグエルの反応を楽しむかの如く胡散臭く微笑む。
『ヤツ』の内心はいつも通り全く察せないが、まるで教鞭を振るう先生が如く人差し指を上げて――。
「ビームライフルで撃ち落とす」
「……あんな小さなものを、どうやってだよ?」
「機動パターンをある程度読んで先に置いておけば良いよ。射撃する時は大体止まるし。本体への牽制も忘れずにやると、どんどんボロを出してくれるよ」
言うは易し、行うは難し。「更に言うなら、その射撃する前の一瞬。撃たれる前に撃つのが最上だね」と、人間卒業検定じみた事を平然と言ってのける。
天才肌過ぎて常人には到底真似出来そうにないが、『先に置く』という概念は、目から鱗だ。可能かどうかはさておき、検討の余地があるだろう。
グエルが無言で噛み砕いているのを見届けてから、『彼』は2つ目の指を上げる。
「ビームサーベルで切り落とす」
「……いや、ビームライフル以上に無理だろ?」
「有機的じゃないドローン兵装相手なら可能じゃないかな? ビームサーベルが届く距離まで接近されているという致命的な問題があるが」
「慣れると楽しいよ?」と、無理難題極まる事を平然と言ってのける。
……『コイツ』なら普段の有機的で千変万化な軌道をするドローン兵器も切り捨てかねない。いや、普通に出来そうで困る。
うんうん唸るグエルを楽しげに見ながら、『彼』は3本目の指を上げる。
「無視して本体を叩く」
「……いや、撃ち落とされるだろ?」
「牽制に構うなんて無駄だから、ある意味では最適解になるかもだよ? 相手に余裕が無くなれば操作が疎かになるしね」
「まぁ本体操作と分かれている自立兵装タイプなら逆効果だけど」と付け加えるが、ちょっと待て。
「――牽制!? あれが!?」
「牽制だよ。一定以上の腕前を持つ相手には通じず、決定打に成り得ないからね」
真顔でそう返される。……いや、もしそれが本当なら、グエルはいつも牽制の段階で撃破されている事になるのだが――。
「まぁ結局は状況次第だから、限られた条件下で自分の取れる最適解を選べって事さ」
「……ちなみに、お前ならどうするんだよ?」
「本体にランダムで牽制入れながら全部撃ち落として丸裸にするよ。それまでに敵MSが無事だったのならば、という話だけど。――『僕』が一番上手く『ファンネル』を使えるんだから、当然だよねぇ?」
つまりは、全部やってのけるというとんでもない話であり――半分以上参考にならなかったが、グエルは目指す頂きの高さを見据え、絶対に超えてやると強く強く誓うのだった。
「兄さん!?」
決闘区域の一部が爆破されて大崩落し、それに巻き込まれるダリルバルデを見て、ジェターク寮の面々――グエル・ジェタークの弟のラウダが悲鳴をあげる。
「なっ……この手口は『アナハイム』!? 馬鹿な、我が社と本気で事を構えるつもりか――!?」
そして、学生同士の決闘でありながら直接介入しに来たジェターク社CEO、彼等の父親であるヴィム・ジェタークは忌々しげに歯軋りをあげる。
こんな大胆な破壊工作を行うのは過去にも未来にもあの『アナハイム・エレクトロニクス』だけであり、審問会でやけに庇っていたが、まさか此処まで直接介入してくるとは完全に予想外だった。
――『彼』とヴィム・ジェタークには、とある『契約』がある。
それは『息子のグエルから『彼』自身がホルダーの座を奪わない』というものであり、表向き反目しつつも裏では理想的な共栄関係が築かれていた。
これは『彼』自身がホルダー、ベネリットグループ次期総裁の座に興味が無い事もあり、今の今まで忠実なまでに実効されていた――。
「それが今になって何故……ッ!?」
「兄さん避けて!」
――『魔女』の駆る『ガンダム』が、11基の遠隔操作端末兵器による総攻撃を行い、ジェターク寮の全員が悲鳴を上げ――寸前の処で、排熱処理装置から大量の水が散布、決闘出力のビーム射撃は減衰して途中で喪失する。
「フェルシーとペトラは間に合ったか……! 兄さん、兄さん! 応答してっ!」
未だに崩落に巻き込まれたダリルバルデの現状把握が成されず――。
「意思拡張AI、停止……!?」
「――っ、グエルは何をしている!?」
ばん、とヴィムは近場のものを殴り、感情のままに怒鳴る。悪い知らせはこれだけでなく――。
「排熱処理が停止……!?」
「どうなって――クソッ! 意図的に見逃して――謀ったな、あの『魔女』めぇ! 全部『貴様』の掌だと言うのか!?」
此処に至って、あの『魔女』が契約を忠実に遵守しながら――『彼』の嘲笑う声が聞こえる。『契約内容』の不備がこの土壇場で発覚する。
結んだ『契約』はグエルと『彼』個人での事であり、『アナハイム・エレクトロニクス』社としての行動を束縛するものではなく。
決闘の代理人を立てれば幾らでも反故出来る『紙切れ』だったのだ――。
「――いやはや、やる事が派手だねぇ」
この大胆極まる破壊工作が『誰』の仕業なのかは一目瞭然であり、シャディク・ゼネリは興奮した目で見届けている。
「……どうして、『先輩』――」
「どういう訳か、今回は本気のようだ。敢えて排熱処理の細工を見逃して直後に潰している辺り、この決闘を不成立にさせる気は無い、か――」
今までは『自身』の失点10割を演出して意図的に決闘を不成立にさせていたが、今回は相手側の妨害工作を敢えて見逃す事で同じ土俵に立たせた。――事前に潰す事の方が容易かったのに関わらず。
その意図は余りにも明確だ――今回の決闘を不成立にさせる気が無いのだ。
――今まで意図的に企業間の勢力争いに手を付けてなかった『アナハイム・エレクトロニクス』が突如参入した事を意味し、ベネリットグループ内の勢力図が劇的に変わるとシャディクは確信する。
あの『アナハイム・エレクトロニクス』が本気を出すからには、御三家とて安楽椅子ではいられないだろう。面白くなってきたとシャディクは笑う。
「あの『彼』が、こんなにも水星ちゃんに入れ込むなんて予想外だねぇ! ……おや、セセリア。どうしたんだい?」
「……何が、です?」
「顔。凄い事になってるよ? 『彼』にはちょーっと見せられないかな?」
――『アイツ』以外の相手に決闘で敗れ、ホルダーの座を失った事で父・ヴィム・ジェタークに殴られ。
それ以上に痛かったのは、その自身の敗北を、父の権力で取り消された事であり、情けなくて情けなくて、でも、誰にも吐露出来ず――。
――与えられた新型MSダリルバルデには、自身のパイロットとしての腕を蔑ろにするような自律行動をするAIが組み込まれており。
そんなモノを組み込まれなければ、勝てないと思われている事が彼のプライドを著しく傷つけて。
迎えた決闘、ダリルバルデに仕込まれた意思拡張AIは全自律戦闘モードとなっており。
「……俺の意思は、いらないっていうのか……!」
自身の操縦を一切受け付けず、完全に座っているだけの状態であるグエルは、絶望の怨嗟をあげる。
余りにも惨たらしい仕打ちで、酷すぎて涙すら引っ込む。
こんな形で勝利して、一体何の意味がある? 結局、自分は父にとって単なる飾りであり、それが一生変わらない事が決定付けられる。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。こんな酷い茶番を、間近で眺める事しか出来ず――。
「……? 誘導されている? おい、馬鹿ッ! 何素直に付いてってんだッ!」
必死に操縦桿を動かすも、此方の操縦を一切受け付けず、この意思拡張AIは愚直なまでに敵MSを追跡し――。
……いや、別にどうでも良いのではないだろうか?
あの水星女とて『アイツ』には及ばない。パイロットとしても、戦略家としても――誘導された先に罠が待ち受けていたとしても、『アイツ』の悪辣な罠以下の存在でしかなく――。
――前の決闘で、水星女の下に駆け付けた『アイツ』の姿が再び目に浮かぶ。
本来の『アイツ』ならば、絶対にしないような行動、どうしてなのか、未だに解らず、考える余裕すら無く――。
「――いや、どう考えてもやべぇっ!? いい加減にしろこのクソAIッ!」
この忌々しい意思拡張AIがインストールされた、自身の端末を直接打撃を以って全力で粉砕し――。
同時に起爆する爆発音、連鎖的に崩れ落ちる地面。だが、それは――。
「――それはァッ、一度体験してるんだよォッ!」
操縦権を自らの手で取り戻し、崩れ落ちる足場を次々と踏み越えて、ダリルバルデは『彼』お得意の足場崩しを無傷で乗り越える。
「チッ――どういう訳か解らねぇが、水星女のバックには『テメェ』がいるって事か……!」
相変わらず容赦無い。きっと此方の状況を――意思拡張AIのせいで動かせない事を最初の牽制で看破し、それでこの仕掛けで戦力を削りに来たのだろう。
基本的に『アイツ』は愉快犯だが、無駄な行動は好まない。全体的に見れば遊んでいるように見えて、その実は遊びの無い性格だ。仕留められる時に必ず仕留めに来るタイプだ。
「そんな『テメェ』が開幕に最大の仕掛けを使うって事はよォ――」
この決闘場で、自分の事を『脅威』と認識し、水星女に最大限のバックアップを行っている。敵である『アイツ』だけが、自分を見ている――!
この決闘において、初めて、グエル・ジェタークは無意識の内に笑ったのだった。
「――このグエル・ジェタークがァッ! いつまでも『お前』に負けてられるっかよォ!」
――猛攻。桁外れの推進力から繰り出される、ビームジャベリンを分離してからの二刀流の連撃を、エアリアルは盾とビームサーベルで切り結ぶも、明らかに力負けする。
(やっぱりこの人、凄く強い……!?)
ビームサーベルの斬撃をシールドで弾き返せば、その強烈な反動を逆に利用して機体全体を捻って回転斬りに変化し、再び盾で受け止めても大きく弾き飛ばされ、体勢を崩され、更なる連撃が繰り出される。
「エアリアル……! ッ!?」
分離しておいたガンビットでの背後からの牽制射撃は、後ろに目が付いていたかの如くバックステップ一つで難無く回避され――。
「嘘ぉっ!?」
――2閃、2基のガンビットがダリルバルデのビームサーベルに斬り捨てられ、再び突進してくる――!
『――自律ドローン兵装は全て使用不能になっているのに、グエル・ジェタークめ、此処までやれるようになったか……!』
敵への称賛の声は同時に焦りでもあり――。
『スレッタ! 守るな手数で攻めろ! 出し惜しむな持てる選択肢を全て使えッ!』
「――っ、はいっ!」
シールドを全分離、9基のガンビットとして周囲に飛翔させ、背中のビームライフルを即座に取り出し、ほぼ同時に全射撃。苛烈極まるオールレンジ攻撃がエアリアルから繰り出される――!
『その手の攻撃には慣れてるんだよォ――! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッッ!』
小刻みに小ジャンプしながら回避・回避・回避、このオールレンジ攻撃を潜り抜けてエアリアルまで突進し――ダリルバルデの右肩部・左足脚部に被弾するも、最小限の被害に留め、回避よりも自身の攻撃に全てを集中させて――。
(完全に回避する事をやめた!? 我が身を削ってまで、来る……!?)
正面から撃ち放とうとしたビームライフルが斬り捨てられ、もう片方のビームサーベルをビームサーベルで切り結ぶもパワー負け――意図的に押し負けて咄嗟に巴投げで距離を強制的に離す。これで残りのガンビットで――。
「!?」
『ぬうぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおぉっ!』
投げ飛ばされた直後に、ダリルバルデの両脚部からワイヤーが射出、地面に寝そべった状態のエアリアルの両腕をがっしり掴み取り――全推力をもって猛烈に振り回し、強烈な遠心力を以って岩壁に叩きつけようとし――ガンビットでの精密射撃を以ってワイヤーの片方を焼き切り、寸前の処で距離が外れて何とか岩壁に叩きつけられずに済み――。
「強い……! でも、私とエアリアルは負けません! だって、だって――!」
『このグエル・ジェタークが負けてたまるかよォッ!』
「やりたい事リスト、全然ッ、埋まって、ないッ!」
――エアリアルが全推力を以って一直線に飛翔突撃を仕掛ける。勝負そのものを賭けに来たとグエルは確信する……!
ビームサーベルを片手に振り上げ――ると見せかけて手首を反転させて突きに変化。
振り下ろされる斬撃を切り払おうとしたダリルバルデの反応が一瞬遅れるも、左腕部を犠牲に受け止め――。
突き刺さった左腕部ごと振り上げてエアリアルのビームサーベルを突き刺さったまま奪い去り――。
ダリルバルデの右腕部側のビームサーベルで迎撃しようとし――。
ビームサーベルを奪い取られて無手になったエアリアルの手がダリルバルデの右腕部をそっと上から抑え――。
激突、エアリアルの胴体部分とダリルバルデの頭部が激しく衝突し――。
ダリルバルデのブレードアンテナが、圧し折られたのだった――。
『――全て計算済みでやったのか? あの一瞬で――』
その一瞬、されども常人の理解が及ばぬ激しすぎる攻防の全てを見届けた『彼』すらも、それ以上の言葉が出なかった。
二機とも組んず解れつに地面に倒れ込み――決闘の決着の表示が大々的に表示される。
勝者はスレッタ・マーキュリー、機体名はエアリアルと――。