「――ミオリネさん!? いきなりどうしたんですか!? 『アナハイム』さんと『決闘』なんて……!」
「そうだぜぇ? 急展開過ぎて付いていけねぇ……!」
プラント・クエタのテロ事件から離れ離れになって2週間余り――やっとアスティカシア学園に帰って来たと思ったら、『アナハイム・エレクトロニクス』代表に『決闘』を申し込んだミオリネの予想外過ぎる行動に、スレッタを含む地球寮の全員が困惑の渦に叩き落されていた。
地球寮の面々に姿を現したミオリネは深刻な顔をしており――ほんの一瞬だけ、スレッタに視線をやり、申し訳無さそうに目を瞑り――再び開いた目にはある種の決意が漲っていた。
「……時間が無いから、単刀直入に言う。――皆の力を貸して欲しい。『アイツ』の、無駄に遠大な『自殺』を止める為に……!」
「――本当に『決闘』以外の方法が無かったのか? 例えば――」
『いつもの貴方のように雑に暗殺してみます? 事前察知された上で同じ方法で報復されますよ! オススメは善の感情のみで自爆テロ出来る狂信者作成RTAですけど、一回経験している殺害方法は状況の既視感及び逆算で感知されるので、成功率は低くなりますね』
自身の不手際を堂々と指摘されたヴィム・ジェタークは「うぐっ!?」と呻き、続いて紹介されるお勧めの殺害プランに全力でドン引きする。
事前に解ってはいたが、今回の『アナハイム・エレクトロニクス』社の内部協力者は『アナハイム・エレクトロニクス』代表と同じぐらいの曲者であり――音声オンリーで姿すら現さない『彼』の事をむしろ『社長本人』でないか、逐一疑っている始末である。
「……企業戦略ではもう何処も『アナハイム・エレクトロニクス』社に太刀打ち出来ない。宇宙議会連合をぶつけたとて一方的に駆逐されるだろう。――やはり『決闘』条件にもう少し譲歩を求めるべきでは無かったか?」
あらゆる勝負方法を検討した上で、グラスレー社CEO、サリウス・ゼネリは『決闘』が最適解だと結論付けた上で、使ってくるMSのランクを下げる交渉に力を入れるべきだったのでは、と疑問を呈する。
『それは良いアイディア――では無いんですよね。譲歩で使うMSを最低ランクのジェガンに固定する事は可能ですが、その場合、普段遊びで行っている事前工作が本気の『破壊工作』になるので、『決闘』が始まる前に9割以上決着がついてしまいますね』
グエル・ジェタークでの『決闘』で度々行われていた事前工作の数々が遊び心の産物であると知らされ、ヴィムとサリウスの思考が一瞬以上停止したが、この程度で動揺していては身が持たないと大胆に割り切る。
なお『戦闘に至る前に勝っている事が大前提ですからねぇ? ロンド・ベル時代からの教訓は偉大ですね!』という戯言は全力で聞き流すものとする。
「……それをやる必要すら無いと『ヤツ』に確信させるのが、今回『決闘』に使う『∀』という事ではないか!」
『全力で慢心してくれている、と言い換えれば希望が持てますね! 余裕が無いと話すら聞かずに殲滅されますからね、必要経費ですとも』
そう、今回の『決闘』はある意味、究極的に突き詰めて『イベント戦闘』なので、初期戦力の差は然程重要なファクターではない。
事前に戦力を限定したら、勝利条件の達成の為に話を一切聞かなくなるので、そっちの方が致命的だったりする。
『――個人的な話ですが、『決闘』前の口上、大好きですよ。性能のみで決まらず、技のみで決まらず、結果のみが真実ってヤツ。MSの性能も操縦者の腕も圧倒的に負けているのですから――これは、『心』を叩き折る戦いです』
――今回の決闘場である『フロント外宙域』、アスティカシア学園から続々と出撃するMSを『彼』は感慨無く眺める。
ハンマー・フィールド社のカペル・クゥにカペル・ジオ、ダイゴウ社のクリバーリにクリバーリ・ドゥン、ファリサ・ロボティクス社のアズラワン、フォブラー・モーティブ社のホズラーII、バイホー・テクニカルラボ社のハイペリス、ヴィーラン・システム社のズヴァルヴィ、リューディ・アンド・ウィストンのジネーテ、グランツ・エンタープライズ社のラコウィーなどの――御三家と比べればマイナーどころが勢揃いしており、ジオンMSが勢揃いしたかのような同窓会じみた光景に苦笑する。
マイナーな弱小企業のだけでなく、ブリオン社のデミトレーナー、ジェターク社のディランザにダリルバルデ――おっと、このダリルバルデは『アナハイム・エレクトロニクス』社製だが――ペイル社のザウォートにガンダム・ファラクト……乗っているのは後任の5号だろうか――グラスレー社のハインドリーにベギルペンデにミカエリス――どの面下げて参加しているのか、非常に気になったが――最後に、ガンダム・エアリアル改修型を確認する。
総力戦と称して、本当に学園に存在する(フロント管理社と『ガンダム・ルブリス・ウル及びガンダム・ルブリス・ソーン&ガンヴォルヴァ(テロリスト)』以外)全機を引っ張り出すとは、流石の一言に尽きる。
数えるのが馬鹿らしくなるほどの数量のMSが大量展開されているが、その全てが等しく敵でないので考慮に値しない。
『アナハイム・エレクトロニクス』代表の乗る――白いヒゲが特徴的なガンダムは、そのツインアイを赤く発光させる。
『――へぇ、アスティカシア学園に此処までMSあったんだ? 全員参加とは恐れ入ったね。……ミオリネ、君の人望の賜物かな?』
『――『アンタ』へのヘイトの高さでしょ』
『ああ、その線もあるか。直接向かってくる気概があったとは凄く意外だね。――数さえ揃えれば勝てるとでも勘違いしている?』
物見遊山程度の気分だったとしても、この場までこの人数を扇動出来る手腕は大したものだと称賛する。
子供は目を離しただけで、見違えるぐらい成長する。もう少しだけ、彼女達の成長を眺めていたかったが――。
『――『アナハイム』さん! その、ミオリネさんの言った事は……』
『ええ、彼女はこの宇宙で俺の事を最も理解した人間だ。……だからこそ、止められるのは心外なんだけどね』
ミオリネ側の総大将、ガンダム・エアリアル改修型を駆るスレッタ・マーキュリーからの通信に『俺なんかの事よりも、プラント・クエタでの事を話し合う方が先では?』と『彼』は返す。
『自分』なんかの事よりも、自身を救う為に自分の手を血塗れにしたスレッタとの確執は、当然の事ながら存在し――。
『――いいえ、この瞬間を逃せば、『アンタ』は誰の手も届かない場所にいなくなる』
爆発してないだけの爆弾処理を後回しにして、此方を最優先に対処してくるとは、流石の『彼』も想定外だった。色々諦めたが如く、『彼』はため息を吐く。
『まぁ確かに、ランブルリングで『野暮用』を済ませ、宇宙議会連合の戦力を叩き潰して終わりだったんだがね。――後は、俺の生体コードをパーメットに移植し、『クワイエット・ゼロ』の最大出力で外宇宙まで拡散させるという完璧なプランだったのに』
その先例はガンダム・エアリアルの中にいるエリクト・サマヤが証明しており、『彼』はスレッタの前という事もあり、意図的に説明を省く。
『この謎多き物質、パーメットは太陽系だけでなく、外宇宙にも広く分布していると予想される。太陽系に存在するパーメットを全消費すれば、遥か彼方の星の大海に存在しているであろうパーメットまで情報共有出来るって寸法さ』
敏い者ならば気づいただろう。これこそ、数多の権力者達が夢見た、真の不老不死、その具現化であり――。
『それだけ広く分布すれば、如何なる知的生命体が後に誕生しようとも、宇宙の寿命まで消費し切れないだろう。1400億年ほどかな? 流石にそれほどの歳月があれば――俺の自我と記憶は、途方も無い時間の流れに押し流され、綺麗さっぱり消滅するだろうね!』
それが『彼』の真の目的――宇宙の覇権など簡単に手に出来る者の、手の込んだ『自殺』である。
『ああ、今度こそ『次』は無く――やっと、俺は俺自身の人生に幕を下ろせる。終われるんだ、やっと――』
誰もが狂人の戯言と断ずる『彼』の疲れ切った発言に、その辛苦が痛いほど理解出来るからこそ、ミオリネは苦悶の表情を浮かべる。
『この記念すべき旅立ちを邪魔するなんて、『友』として悲しいなぁ』
『――『友』だからこそ、全力で止める。そんな余りにも救えない結末なんて、誰が認めるか……!』
無間地獄よりなお性質の悪い虚無の結末など、絶対に許してたまるか、とミオリネは吠える。
『――ミオリネ、君は正しい。言葉が不要だと理解したからこそ、俺との『決闘』を選んだ。……ただ、残念な事に結果は伴わないけどね。――勝敗はMSの性能のみで決まり、操縦者の技のみで決まる』
『決闘』の口上、されども、それは普段のものを全否定する言葉であり――『彼』にとっての純然たる真実である。
最後のガンダムである『最強のMS(∀ガンダム)』を『現宇宙で最強のパイロット(『自身』)』が駆るのだ、勝利などその時点で決定してしまっている。
『――いいえ、勝敗はMSの性能のみで決まらず、操縦者の技のみで決まらず……!』
『彼』の齎す無常な真実を否定するように、ミオリネがいつもの口上を口にする。
『『――ただ、結果のみが真実――!』』
アスティカシア学園の決闘ラウンジに残ったセセリアは震える声で『決心解放(フィックス・リリース)』と決闘開始の宣言をしたのだった。