『――スレッタ、『アイツ』は絶対、100%、開幕初見殺ししてくる……!』
『……初見殺し、ですか?』
『決闘』前のブリーフィングにて、ミオリネはスレッタに開幕から最大限の警戒を促す。
いきなり初見殺しと言われても、とスレッタが困惑した処を、いつの間にか当然のようにいるグエル・ジェタークが補足する。
『どういう内容かは『当人』の気分次第で、その種類は多種多様だ。俺が食らっただけでも決闘開始地点からの超長距離狙撃に開幕地形崩しにミラージュコロイド解除からの超巨大兵器やら――思い出しただけで腹立ってきた……!』
スレッタが見た『アナハイム・エレクトロニクス』代表vsグエル・ジェタークの決闘は極一部であるが、開幕からブレードアンテナ狙いの致命打をお見舞いする確率が確かに高かった。
自分の場合は『エアリアル』もいるし、『皆』もいる。ある程度の不意打ちなら対処出来ると自負する。
……それよりも、距離感が明らかに縮まっているミオリネとグエルの事に意識を取られる。一体、この二人の間に何があったのだろう――?
『逆を言えば、開幕から必ず仕掛けてくるという事だから、上手く対応すれば逆手に取れるわ』
スレッタは、そのミオリネの助言に忠実に従い――。
『初見殺しを返り討ち、初見殺しを返り討ち、初見殺しを返り討ち初見殺しを返り討ち――』
全意識を『∀ガンダム』に集中させる。――白いおヒゲが特徴的なMS、あのおヒゲ部分がブレードアンテナ扱いになるのだろうか? 目の部分が赤く発光していて、若干怖い。
武装は――見た限りでは無手。何も持っていない。無装備同然、内蔵武器が豊富なのだろうか、あのシンプルなフォルムからは見た目以上の積載量は望めないだろう。
(……『アナハイム』さん、実は『決闘』に乗り気じゃないのかな?)
武装無しなのは、その意思表示の裏返しなのでは?と、スレッタは若干訝しむ。
……思えば、『決闘』において相手MSの情報が完全に不明なのは初めての事態であり――いつも相手MSの全情報を当然のように仕入れてきたのは、他ならぬ『アナハイム・エレクトロニクス』代表であり――どのような形であれ、『彼』と敵対する事に若干の拒否感を覚える。
それでも今は――あらゆる迷いを一時的に全部横に置き、『決闘』のみに集中する。『エアリアル』も『皆』も最大限の警戒をもって待ち構え――。
『――決心解放(フィックス・リリース)』
瞬き一つしていなかった。それなのに、遥か遠方に対峙していた『∀ガンダム』が目と鼻の先に立っており、無造作にビームサーベルを振り下ろす。
『――っっっ!?』
状況理解よりも先に、反射的に11基のガンビットが結合状態の『コンポジットガンビットシールド』で防御する。非結合状態においてもビーム兵装に対して高い防御性能を持つそれは、結合状態ならば更に強固であり――『∀ガンダム』の振るう極細のビームサーベルは、その防御フィールドを何の抵抗無く斬り裂き――スレッタは自身の判断ミスを悟る。
(高出力とかそういう次元じゃない、極限まで圧縮された異次元のビームサーベル、――っ!? 皆、逃げ……!?)
刹那にエスカッシャンが両断され、そのまま頭部のブレードアンテナを薙ぎ払われる最悪の未来図を悟り――この初見殺しを最大限に警戒していたグエル・ジェタークが駆るダリルバルデMk-A.Eが『――やらせるかよぉっ!』と最大出力の『V.S.B.R』を空間転移先の『∀ガンダム』目掛けて2発撃ち放っており、グエルなら絶対に対処してくると確信していた『彼』は『――知ってた』と事前に空間転送していた3基のシールドファンネルによって完全相殺する。
(あ――……!?)
その極細のビームサーベルは無情にも振り下ろされ――る前に、『――トランザム、フルバースト……!』と、第三者からの最大限直接火砲支援(ダイレクトサポート)が入る。
3基のシールドファンネルで守護する反対方面からのコロニーレーザー級のビーム射撃が『∀ガンダム』を強引に押し流す。
『!? 一体、何処のどいつ――ファラクト!? エラン・ケレスかッ!?』
グエルの驚愕と共に、視線を送れば、其処には赤い粒子を纏って発光するガンダム・ファラクトの姿があり――両手で構えるロングバレルビームライフルにはファラクトの24基のガンビットが全装着されており、エアリアルのガンビットの如く接続してビーム威力を押し上げている事が容易に見て取れた。
『――また困ってる?』
『エランさんっ! ありがとうございます、助かりました!』
ファラクトの発光はすぐに収まり――スレッタは『あれ?』と違和感を覚える。
エアリアル改修型のガンビットライフルとお揃いのロングバレルビームライフル――これは新武装だと納得しても、ファラクトの両肩に以前になかったエンブレムが刻まれている。
片方は『焼け焦げた黒い鳥に大きな星』という特徴的なエンブレムに、片方には『A.E』……『アナハイム・エレクトロニクス』社のロゴが刻まれていた。
これは致命的なまでにおかしい。鈍いスレッタだって流石に違和感に気づく。ファラクトはペイル社が開発した『GUND-ARM』であり――。
『――はぁ!? おまっ、マジで!?』
その驚愕の声の主は、新武装である2挺拳銃を装備した方のガンダム・ファラクトからであり――。
『……あれ? ファラクトが2機――エランさんが2人!? ミミミミミオリネさん!? どどどどういう!?』
『!? え、その、えーと、あの……い、今は『決闘』に集中しなさいっ! まだ終わってないっっ!』
『はいいいいっ!?』
勢いだけのミオリネの怒号に押し切られ、強制的に思考を切り替える。
決闘出力に調整されているとは言え、あれほどのビーム射撃の直撃は、普段ならば一撃決着間違いなし、下手すると命に支障の出るレベルであり――当然のように、あれに直撃した『∀ガンダム』は無傷で佇んでいた。
『――やれやれ、腕を上げたな『レイヴン』――』
『……お陰様で。『社長』には申し訳無いけど、一身上の都合でスレッタ・マーキュリーの手助けをする事に――』
『契約上、何も問題無いさ。むしろ『黒い鳥(レイヴン)』らしくなってきたじゃないか!』
依頼主に対する反逆行為を歓喜をもって迎えられ、『……『社長』の抱く『レイヴン』像って何?』とファラクトMk-A.Eに搭乗する方の元強化人士4号、現『レイヴン』は困惑しながら尋ね、『まさに『イレギュラー』そのものさ!』と『彼』は断言する。
『……さて、残念な事に初見殺し失敗しちゃったし――とりあえず雑魚から削るか』
『∀ガンダム』の周囲の空間が歪み、小型の遠隔操作端末が続々と出現する――それはビットだった。或いはファンネルだった。更にはドラグーンだった。またはファングだった。先に展開していた3基のシールドファンネルも加わり――全部だった。
古今東西、ありとあらゆる遠隔誘導攻撃兵器が『∀ガンダム』の背後に展開され、『∀ガンダム』は指揮棒を振るうが如く、右腕を軽やかに振るい、『ニュータイプ』の代名詞たるオールレンジ攻撃が開始されたのだった――。