『――『アナハイム・エレクトロニクス』社がパーメット技術において宇宙一遅れているだなんて、どの口で言っていたの!?』
『そりゃ『クワイエット・ゼロ』乗っ取りを画策したんだから、核となる『GUND-ARM』を用意しているのは当然の話だろう?』
余りの瞬殺劇に思考停止状態に陥るも、即座に復帰したミオリネの怒号に対し、『彼』は平然とのたまう。その程度の事ぐらい想定しろよ、と皮肉げに。
『――ちなみに、『アナハイム・エレクトロニクス』社においても『GUND-ARM』の呪いは解決されていない。データストームに対する絶対耐性持ちなんて希少存在、まず見つからないしね』
ガンダム・エアリアル改修型の方を見つつも――当人達は無数のファンネルへの対処でそれどころじゃないだろうが――ガンダム・エアリアルにおける『GUND-ARM』の呪いに対する解答は再現不可能の無意味と断ずる。
『機体の操縦性や遠隔操作端末に関しては『先天的資質専用』ならばノーリスクの『いつもの(サイコ・コミュニケーションシステム)』があるし、『ニュータイプ』で無くとも『四肢切断(リユース・サイコ・デバイス)』か『脊髄の専用端末埋め込み(阿頼耶識システム)』で生命の危険無く代用出来るので――正直、GUNDフォーマットなど評価に値しない欠陥システムなのは変わりない』
『アナハイム・エレクトロニクス』社が『GUND-ARM』を評価せず、無意味と断じていたのは過去の技術で代償無く代用出来る為である。ただし、事情が変わったのは――。
『――パーメットスコアの高出力帯において超密度情報体系を発現する、これのみを評価している。よって、必然的にパーメットスコア6~8以上の運用が前提となる』
基礎技術はガンダム・エアリアルとガンダム・ファラクトでの技術盗用で既に済ませている。
価値を見い出せずとも、貪欲に学習するのは『彼』の性のようなものであり――。
『馬鹿言え! そんな高スコア浴びたら即死だよ即死っ!』
『実感の籠もった感想をありがとう。――強化人士5号くんの言う通り、通常ならば即死級の反動を受ける事となる。まぁ、コストを度外視するならば解決方法は幾らでもあるんだけどね?』
エラン5号からの叫びに対し、更なるファンネルの追撃で返答し――見かねた元強化人士4号の手で救助され、色々と和気藹々叫びながら背中合わせでファンネルを撃ち落として行っている。
……あの5号、スコアを上げてないのに地味にファンネルに対応している? 地味に称賛する。
『――『アナハイム・エレクトロニクス』社の技術でアップデートされ続けた『量子型演算処理システム・ヴェーダ』を『∀ガンダム』に搭載し、データストームの情報逆流を処理――当時の性能でも『地球外変異性金属体(ELS)』の数億年単位の歴史を仕分け出来る程度には優秀だったからね』
とは言え、ヴェーダを欠陥兵器の是正に使うなど勿体無いにも程があり『こんなものを持ち出さないと対処出来ないとか、本末転倒この上無い。人外前提の規格とか馬鹿なの?』と流石の『彼』も苦言を呈する。
『致命的な侵害的情報逆流現象は大体解決出来たが、これでも人体に流入させるパーメットの悪影響が発生するので――劇物には劇物を、手っ取り早く『補助脳(UG細胞産の疑似ELS)の常設』で無理矢理解決したよ!』
久々の『同居人』の脳量子波を意図的に元強化人士4号・現『レイヴン』に発し、酷く困惑した反応を感知する。
00劇場版世界線以来の珍事に『ELSとの融合まで必要とか、外宇宙に行く為の技術に何で外宇宙に行く為の技術が必要なんかね?』と呆れ顔となる。
『――さて、最後の解説タイムは終わり。さくさく消化試合を終わらせて行こうか?』
『――さて、最後の解説タイムは終わり。さくさく消化試合を終わらせて行こうか?』
まずい、非常にまずい。ミオリネの焦燥は頂点に達しようとしていた。
ミオリネとて、宇宙議会連合の艦隊&MSを全機ぶつけたところで、『∀ガンダム』を駆る『彼』に敵うとは最初から思っていない。
それでも時間稼ぎには使えると計算していた。その間に学生達の状況を立て直し――最大の『隠し玉(パーメットスコア・8による強制介入)』で一瞬にして御破算となったが。
『――良いですか? この宇宙の全てをぶつけた処で、『彼』に勝利する事は不可能です。少しでも時間を稼ぎ、精神的疲労・動揺を誘い、其処を突いて突いて突きまくるのです!』
それは平常時の精神状況において、『彼』は打倒不可能の存在であるという事の証明であり――。
『――『決闘』中に申し訳ありません! ……『先輩』、どういう事、ですか? 『自殺』なんて、『先輩』がそんな事する訳無いじゃないですか……!』
決闘委員会としての特権を乱用し、ブリオン寮の決闘委員、セセリア・ドートの声が決闘場に響き渡る。
普段の――皮肉しか言わない彼女とは思えないぐらいの必死さに誰もが首を傾げる中。
『――『先輩』先輩『先輩』先輩『先輩』か……』
『……『先輩』?』
『他意は無いよ、随分と懐かしい響きだなぁって――』
ファンネルの操作は止めないが、『彼』は決闘中に関わらず、珍しく優先的に反応する。
『……私情を優先させるとか、セセリアらしくないね? でもその判断は正しいよ。この『決闘』中でなければ、次の会話の機会は永遠に訪れないしね』
『――そん、な……!? どうして、何故です!?』
『彼』とセセリアの関係性は解らないが、とりあえず助かった。彼女の発言が無ければ、消化試合に飽きた『彼』が『∀ガンダム』本体を使って残存する生徒達の全力駆除に乗り出していただろう。
『何故って、そんなに不思議かな? ただ単純に終わらせたいだけだよ。『無限転生地獄(終わらない物語)』なんて悍ましいの一言に尽きる』
それは他人への理解を完全に諦めた言葉であり――事情を知るミオリネとグエルに突き刺さる吐露だった。
『――俺に『咎』があるとすれば、それはもう『この世に産まれた事』だね。最初の発端にして最大の間違いだ。――セセリア、俺が宇宙で1番殺したい『ヤツ』はね、他ならぬ俺自身なんだ。こんな『唾棄すべき汚物』が1秒でも存在している事に我慢ならない』
――考えるに、『自分』は産まれさえしなければ幸せだった。
そんな、考える限り、一番救いのない結論を、『彼』は自嘲しながら吐露する。『彼』が『自分』に対する自己評価なんて、考えるまでもなく――。
『――どう、して、そんなに、『御自身』の事を……?』
その根源にある感情は、遥か昔から――原初の頃から変わらず。
『――とうの昔に、俺は、『先輩』に誇れる『後輩』じゃないからさ。一体何処で間違えたのだろう? 選択の誤りか、状況に流されただけか。……一緒に『虹の彼方』に逝けたら、こんな無様な生き恥を晒さずに済んだのにね……! 我ながら女々しいなぁ!』
『彼』の哄笑が、宇宙に鳴り響く。狂ったように、壊れたかのように――。
……だって、こればかりは、どうしようもない。悪貨が良貨を駆逐するように、『彼』の人生は世界に裏切られて終わる。
正しく生きようと思っても、世界がそれを許さない。正しく終われたとしても、無限の次の人生が幾らでも覆しに来る。
擦り切れて、摩耗していくのは当然だ。抗う毎に削られ、幾度もうちのめされ、無限に望まぬ次を用意される。……そんなもの、人の生ではない。壊れるのは至極当たり前の話であり――。
『――『アンタ』はッ! 今も守っている!』
『ミオリネ? ……一体何を?』
『――今でも『先輩』との『約束』をっ!』
故に、それは、『彼』が今も『原初の誓い』を守り続けて来たからに他ならない。
放棄すれば良かったのだ。刹那的な享楽を優先して『悪』に堕ちていれば、此処まで摩耗して擦り切れる事は無かった――。
『……『先輩』の『遺言』を、今でも思い出せないのに?』
『――そう、それが『アンタ』が『自分自身』についた、唯一にして最大の『嘘』――』
無限の転生を繰り返す『彼』を現世に留める唯一の楔、それはスレッタ・マーキュリーに対する異常な執着心であり――。
『――いい加減、気づけってんの! あの『社訓』、『過酷な運命の試練に立ち向かう『少年少女』を強力に手助けすべし』! あれは『アンタ』のいないアナハイム・エレクトロニクス社には無かった! 『アンタ』の『アナハイム・エレクトロニクス』社にしか存在しない『社訓(約束)』よ!』
この戦場に存在する全てのファンネルの動きが停止する。
――ミオリネがこの事実に気づいたのは、宇宙世紀時代の『彼』と『赤い彗星の再来』との一戦での掛け合い。
『知らなかったのかい? アナハイム・エレクトロニクス社の業務には、過酷な運命に立ち向かう『少年少女』を全力で手助けする事も含まれているんだぜ!』
『――初耳の上に詭弁だな! 最早万事に対して干渉する熱量すら持たぬ身で……!』
これが無ければ気づかなかった事実であり――これこそが末代まで支払いが済まされている誓約である。
『――『アンタ』は今も! 『先輩』に託された『遺言』を! 覚えてなくても、意図的に忘れていてもっ! 馬鹿みたいに正直に守っている……!』
――脳裏に過るは、あのアクシズでの最終局面。
虹色の光の本流に飲み込まれて押し流され、消え果てるνガンダムを見る事しか出来ず――最後まで付き添おうとした『後輩』に、今後迷わないように、『先輩』は一つの祈りを遺した。
今までありがとう、本当に助かった――俺のような境遇の『少年少女』に出遭ったら、手助けしてやってくれないか?
それが『嘘』に『嘘』を重ねて、忘れたふりをしていた『先輩』との『誓約』。
『先輩』の死を受け入れず、『自身』のニュータイプ的感覚の一部すら投げ捨てた『彼』が、それでも無意識の内に死守し続けた『誓約』。
『自身』と同等の『唾棄すべき汚物』と認定した結果、『月光蝶』で文明を葬る時も、再起の可能性を遺したのはその為だ。
『――――――――』
この時、『彼』は生まれて初めて――遠隔操作端末兵器の操縦を、完全に手放した。