『――わぁお、マジで目視出来てる!? 『我が社』が扱う技術も大概オカルトの領域だと思ってましたが、パーメットも実はオカルトですね!?』
ラー・カイラム級機動戦艦13番艦ブリュンヒルトの発進用カタパルトが独断で展開される中、これまた独断で持ち込まれた、先程まで無人だった『とあるMS』のコクピット内に『生体反応の無い、見た事のある人物』を確認する。
アスティカシア学園のフロント外宙域にて、『社長』が駆る『∀ガンダム』が試運転の時でも試さなかった危険領域、『パーメットスコア・9』まで到達しており――現在、周辺宙域にて、既存の物理法則では説明出来ない、多種多様に渡る怪現象が勃発していた。
『……良かったのか? 『亡霊』の戯言を真に受けて、無許可かつ独断で出撃準備を行うなど始末書じゃ済まないぞ』
『HAHAHA、正真正銘の軍法会議ものですね! うちは『会社』ですけど! まぁ万が一の責任は艦長の自分が全部取るんで問題無いですし――その『MS』の『正式な乗り手』さんからの出撃要請を断る権限は、私にはありませんので!』
『社長』も『社長』なら『社員』も『社員』、この二癖も三癖もある社風は宇宙を超えて次元を超えても尚健在らしい。
『全く、酔狂な社員だな。……感謝する』
『いえいえ。此方こそ、『社長』をよろしくお願いします。『――過酷な運命の試練に立ち向かう、『ガンダム』を駆る『少年少女(主人公)』を強力に手助けすべし』。この場合は、『社長』も該当しますよね?』
――この『社訓』こそ、『彼』が死守し続けた『社訓』の、外部には決して明かされない全文であり――。
『しかし、追加武装、それで良かったのですか? 『社長』が最も苦手そうにしていた複合武装ですけど?』
『今回の場合はこれが一番だ。……使い勝手は劣悪だろうが、何とかなるさ』
その社員は微妙そうな顔で『まぁ『∀』の装甲をぶち抜くなら、それぐらいイカれた……失礼、頭の悪い……ごほん、一芸に特化した特異武装が必要ですかね?』と、自分自身を納得させるように呟く。
『――システム、オールグリーン。発艦準備完了、いつでもどうぞ!』
操作権限が『パイロット』に渡され、実体無き『彼』は、再び操縦桿を握り締める。
――操縦自体は、可能か不可能かと言われれば可能だった。この機体は『フル・サイコフレーム(理不尽とオカルトの極み)』であり、『彼』の為だけの機体だ。性能は段違いなのに、嘗ての『愛機』の如く手に馴染む。
でも、それだけでは意味が無い。ニュータイプ能力の感受性をほぼ完全に捨て去っている『彼』は、『亡霊』の『彼』を認識出来ない。――『自身』の聖域を土足で踏み荒らされたと即座に勘違いし、殺意で理性を完全に失うだろう。
――だからこそ、『新たな宇宙』で産声をあげた『新たな可能性』を、ひたすら待ち望んだ。
幾千幾万幾億の歳月を超えて、魂が摩耗して朽ち果てるその前に、満願成就の『夜明け』に到達出来た事を、唯一度限りの『奇跡』に歓喜する。
万感の想いを籠めて、今一度、嘗てのように宣言する。
『――『νガンダム』、出る……!』
――検証しきれてない新機軸の機能を、ぶっつけ本番で試すものではない。
最悪の場合、パーメットスコア・9の負荷で即死していた危険性もあったし、この技術は高域になるにつれて未知の事象がダース単位で発生する事を考慮するべきであった。
『……GN粒子による対話空間?』
追加されたルブリス量産型全機を強制的にハッキングして自爆させつつ――何故かは知らないが、この宙域に存在する全パイロットの姿を直接目視出来る。
余りにも予想外の現象に、『彼』の混乱っぷりが一周して逆に冷静に戻る始末だ。つくづく『GUND-ARM』は度し難いという感想しか出ない。
『何なんだよこれはァッ!?』
驚愕の表情に染まるグエル……他の生徒も、同じぐらいの動揺が見られるので、同じ光景を目にしている?
『何これ? え? えー?』
『――スレッタ、今は戦闘に集中して!』
『わ、解ったエアリアル……エア、リアル? え? みん、な……?』
『スレッタ? ……え"?』
スレッタの方も驚愕に染まっており――気の所為か、彼女を二回りぐらい小さくしたスレッタ(小)が推定12人ほど目視出来る。……エアリアルの中にいると思われるエリクト・サマヤに、ガンビットに埋め込まれた人格達だろうか?
『――パイロットだけじゃない?』
フロント外宙域の真っ只中だというのに、MSに乗っていない人間もちらほら存在し――何の冗談か、パイロットスーツを着用していない者も見受けられる。どれもこれも
見覚えの無い人間が多かったが――見覚えのある顔が一つあった。
『――カルド・ナボ? 何故此処に――』
『え? それってGUNDの基礎を作った人……って、え?』
つい最近、知った人物の名が『彼』から呟かれ、反応してその姿を確認してしまったスレッタは――かのGUNDフォーマット理論の第一人者が20年以上前に死去している人物である事に気が付き、著しく混乱する。
『――ばぁば……?』
彼女を目視したエアリアル、いや、エリクト・サマヤは驚愕した表情で、かつての愛称を呟いた。
カルド・ナボと、彼女に付き添っていた者達――おそらくは、ヴァナディース機関所属の故人だろうか――は、エアリアルを一瞥した後、この宙域から立ち去る。……その方角は、推定、宇宙要塞クワイエット・ゼロが配置されているであろう方角だった。
『――パーメットは異なるパーメット同士で情報の共有、保存が出来る。この死者はパーメットに焼き付いていた残滓か?』
どういう理屈でその残滓が視覚化されているのかは今一不明だが、納得出来る筋書きではある――次に見覚えのある人物を発見するまでは。
『――は? 何で……!?』
年老いて白髪になっているが、相変わらず似合わないサングラスを掛けた『友』は、柔らかな笑顔である方角を指差す。
指差した方角を見れば、嘗ての姿のままの――仮面を被って不敵な笑みを浮かべる『悪友』がまた別の方角を指差し――理屈が合わない。彼等は別の宇宙の住民であり、『彼』の記憶の中にのみ存在する思い出に過ぎない。……パーメットに焼き付いた残滓では説明付かない。
『――何だこれは? 幻覚作用でも……? いや、それにしては――!?』
続いて独特の構えで演舞を披露した『宇宙で愛を叫んだ拳の王』が別方向を指差し――数多の宇宙で繰り広げられた絆のバトンリレーの果てに、最後に登場した幼い少女が屈託無く微笑んで彼方に指差し――宇宙に駆け巡る一筋の『白い流星』を目にする。
『――あ……』
何故、あの『機体』が此処に――見ただけで解る、あれは姿形を真似た贋物なんかじゃない。月の『アナハイム本社』に安置した、あの『機体』だった。他ならぬ、『彼』が見間違える筈が無い。
『――誰だ……! 誰が乗っている……! その『機体』に乗って良いのは――!』
物理的に影響が出かねないほどの超越的な殺意と憎悪が理性を焦がして焼き尽くし――それを上回る衝撃が全てを掻き消した。
――その『ガンダム』は、いつの宇宙も『彼』がテストパイロットを務めた。
『亡き戦友』の為に調整し、大抵は日の目を浴びる事無く死蔵される事となる。
当然と言えば当然だ。『乗り手』が故人である以上、その『機体』が用いられる機会は極めて少なく――。
『――……『先輩』……――?』
型式番号『RX-0[ν-Re]』ユニコーンガンダム4号機、νリヴァイン――『νガンダム』は、本来の『乗り手』を初めて迎えて――パーメットスコア・9状態の『彼』は、記憶の中にしか存在しない、嘗ての『先輩』と遭遇したのだった。