Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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136/『白い流星』と灰被りの『魔女』

 

 

 

 

『……これは、独り言なんですけど』

『……随分と大きな独り言だな』

 

 咄嗟に言葉が出てこないのは、当然と言えば当然だ。夢の中で何度も何度も夢想し、夢の中でさえ絶無の可能性だと最初から諦めていたのだから、無限に言葉が浮かんでは結局消えて、無言に陥ってしまう。――嘗ては、言葉さえ必要無く意思疎通出来ていたというのに。

 

『……パーメットをキメすぎて『イマジナリー先輩』が見えるようになったのかな? 今回の『不定の狂気』は発狂寸前の心に優しいなぁ……』

『いや、パーメットは『脳内彼女(Cパルス変異波形)』との交信が行える『星系規模の可燃物(コーラル)』じゃないからな?』

 

 割りと最近の特異事例を出して『……同規模の厄ネタではあると個人的には思うが』と付け加える。

 ……その姿も、声も、返答も、幾星霜経て摩耗した記憶のものと相違無いと既に認めてしまっているが、敢えて断定しない。万が一の可能性が脳裏に過ぎり、『彼』を臆病にさせた。

 

『今の俺には、目の前の『先輩』が本物であるか、判断出来ません。『ニュータイプの出来損ない』は、悲しい事にそれすら判別出来ない。出来ませんので――』

『……そうやって、最終的に『力isパワー』みたいな脳筋思考に頼るから『頭の良い馬鹿』と評するしかないんだぞ、『後輩』――』

 

 呆れた顔で、されども一瞬にして眼の前の『νガンダム』は臨戦態勢となり――『∀ガンダム』は再び『DOC(デバイスオペレーションコントロール)ベース』による再武装(アセンブル)、両腕ビームライフルに――以前使ったオーバードウェポン・マルチプルパルスに類似した、何処ぞの『封鎖惑星』で見たような130門の円環状のミサイルランチャーを即時展開する。

 

 

『――撃ち落とせたら贋物、撃ち落とせなかったら『先輩』! 実に単純明快ですね!』

『そういう処だぞ『後輩』!』

 

 

 130基もの誘導ミサイルが一斉発射され――『νガンダム』は即座に『∀ガンダム』目掛けて愚直に全力飛翔、ビームライフルで正面のミサイル撃破&露払い&円環状のミサイルランチャーの破壊にかかり、撃ち終わった一発芸武装を即座に解体パージした『∀ガンダム』は2丁のビームライフルで全力で引き撃ちしながら迎撃に掛かる。

 

『なーんで、ミノフスキー粒子のせいで廃れた無人誘導兵器を初見で的確に対処出来るのかなぁ!? 実質ニュータイプの感知能力メタなのに……!』

『優秀な『後輩』という手本があったからな……!』

 

 常人ならば十中八九、咄嗟に退いたせいでそのまま数の暴力に圧殺されて爆散する羽目になる死の嵐を正面突破という唯一の活路――目標に向かって誘導する前に距離を詰めた方がむしろ回避しやすいだろうという空虚な暴論を実行され――まぁ目の前のパイロットが『本物』なら絶対やってくるだろうと予期していた『∀ガンダム』は微塵の容赦無く、両手ビームライフルで引き撃ちしているのだが――。

 

 合計130基に及ぶ誘導ミサイルの追尾を呆気無く振り切りつつ、引き撃ちする『∀ガンダム』のビームライフル連射を的確に回避しながら、『νガンダム』もまたビームライフルを連射し――『∀ガンダム』もまた全回避しながら撃ち続ける。

 

 ――その一連の動きは、互いがそう動く事を熟知した上で、淀みなく執り行われる。

 

 

『あれれー『先輩』、腕が鈍ってませんか! 新人程度なら6機撃墜するのに1分ですから、20秒程度で十分なのでは!? これはこれは、リハビリが必要ですかね!』

『言ってくれる! そういうそっちは進捗がまるで感じられないな! サボりすぎだぞ『後輩』!』

 

 

 幾星霜に及ぶ間隙を埋めるように、2機の『ガンダム』は更にギアを上げながら舞踏するように戦場に閃光の花火を撒き散らす。

 一手で機体の性能限界を確かめ、次の一手で限界性能を発揮し、更なる一手で既存の限界など超越して――共に高め合い、壁という壁を瞬時に突破していく。

 

 

『――当然でしょ。『貴方』とシャアがいなくなったら自動的に俺が一番なんですから! 笑っちゃいますよ、全盛期と比べてニュータイプ能力の一部が永遠に損なわれたままなのに!』

 

 

 『彼』のニュータイプ能力は感受性の一部を失った事で、見失った『誰か』を探すように無尽蔵の広範囲感知に変異していた。

 そのせいで、より多くの人の悪意を無作意に感知する事となり、心をすり減らして壊す要因となっていたが――幾星霜を経て見つけた結果、無意識の内に閉ざされていた感覚が開いていく。

 

 ――本来の『彼』は真逆の性質だった。唯一つの事に集中し、一つの対象に執着して完全感知する一対一の極限、憧れの『先輩』に追いつかんとする執念の塊。憎き『怨敵』を踏み越えようとする無限の挑戦者――。

 

『……ずっと一緒に、居てくれたんですね。それなのに俺は、今まで気づけなくて――』

 

 閉ざされた感覚が開かれ、膨大な思念が流れ込んでくる。――言葉無く、理解する。『自分』は果報者だったと歓喜し、同時に深く絶望する。託された使命を果たせず、想いを裏切り続けた『自分』を殺したくて仕方ない。涙が止め処無く零れ落ちる。

 

 

『……何で今更現れたのです? もうとっくに手遅れですよ。此処にあるのは自身の殺人衝動の赴くままに殺し尽くす『とち狂った独裁者』で、史上最も多くの人命を奪った『人類種の天敵』――何回文明を埋葬したか、傍らから見ていた『貴方』には説明するまでもありませんよね?』

 

 

 弁明など何一つ出ない。今の『自分』は紛れもない『悪』だ。存在するだけで他を害する『絶対悪』だ。こんな吐き気を催す『邪悪』など存在する事自体が許されない。

 

 

『――それとも、直接引導を渡しに来てくれたんですか? 『赤い彗星(シャア・アズナブル)』のように』

 

 

 ああ、もしそうならば――『先輩』の手で、直接否定されて、引導を渡されたのならば、今度こそ、迷わず逝けるだろう。

 他の誰でもない、『先輩』の手で終わらせてくれるなら――『∀ガンダム』の動きを止め、自らの意思で『IFBD(Iフィールドビームドライブ)』を完全解除する。今ならば、剥き出しのコクピットに何か撃ち込むだけで、簡単に撃破出来るだろう。

 

 ――救いを求めるように、『∀ガンダム』は両手のビームライフルを投げ捨てて、無防備に両手を広げて――。

 

 

『――違うさ。『お前』は立派にやり遂げた。最果ての地で警鐘を鳴らす――ロンド・ベル隊の責務を全うし続けた。最後の一人になっても、誰も知る者が居なくなっても、終わりが無いと絶望しても――』

 

 

 ――違う。『自分』は、やり遂げる事が出来なかった。無限に積み重なる時間に押し潰され、役目を放棄した回もあった。邪悪の限りを尽くした回もあった。最高のハッピーエンドを自らの手で潰していた回もあった。

 『貴方』に託されたのに、果たせなかった回だって、幾らでもある……!

 

 

『……昔から『お前』は、『それ』だけはどうしようもないほど下手だったな。機会にも恵まれず、『運命』に奪われ続けた。終わりが無いから、それが『選択肢』にある事さえ気づけなかった――』

 

 

 『彼』は常に『託された者』だった。『先輩』からバトンを渡され、受け取って無我夢中で走り抜けて――その道中にも様々な想いを託され続けて、血反吐を撒き散らしても進み続けて――『孫娘』が逝き、義理の息子も先に逝って――その想いを、誰にも託せずに逝った。

 

 ――『彼』の『アナハイム・エレクトロニクス』社の最大の欠点は、『彼』という頂点が消失した瞬間に瓦解する事であり、『彼』そのものの欠陥を如実に示していた。

 

 『彼』に託し、『彼』が永遠に『迷子』になる『呪い』を遺した張本人だからこそ、『彼』の呪縛を解かなければならない。

 

 

『――託して良いんだよ、『お前』も。人の心の可能性を信じてみろ……!』

 

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