Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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137/託したバトンの行方は――

 

 

 

 

 ――それが一度でも出来たのなら。

 

 誰も追いつけない。誰も届かない。誰もその『閃光』には至らない。

 未だに手を伸ばすしかない『自分』にすら届かないのに、どうして余人に任せられようか。

 

 ――それが一度でも叶ったのならば。

 

 この重責を、この苦悩を、この葛藤を、どうして他の誰かに押し付けられようか。

 誰も共感出来ないだろう。誰も理解出来ないだろう。『世界』を超えた想いなど、どうやって継承する――?

 

『――誰に任せられると? そんなの、思想面と性癖に問題無い『赤い彗星』ぐらいじゃないと無理ですよ! ああ、その最低最悪の欠点が解決しているならもう『赤い彗星』じゃありませんよね!』

『……シャアについてはノーコメントで!』

『それ、実際に発言するよりも如実に示していて酷いですよ!』

 

 激情のままに『∀ガンダム』は『DOCベース』による再武装、再び両手にビームライフルを握り、更には――新たにフィン・ファンネル6基を投入し、即時展開――ほぼ同時に『νガンダム』もまた背中のフィン・ファンネル6基を射出する。

 

 ――『∀ガンダム』と『νガンダム』の機体が同時に、同質の『虹色』へと強く発光し――この『世界』で初の、『ニュータイプ』同士による遠隔誘導兵器の頂上決戦が繰り広げられる。

 

 

『――え、何それ!? カタログスペックの倍以上の速度出てるんですけど!?』

『――推進装置が無くてもファンネル化出来るなら、元の機能に上乗せするぐらい出来る筈だ!』

『――そんな無茶な仕様外の使い方、開発者兼テストパイロットとしては非常に困るんですけど!? ああこれ絶対フィン・ファンネル本体の耐久性を秒単位で著しく削ってますよ!? サイコフレームの剛性云々で何とかなるかなぁ!?』

 

 

 限界域を遥かに超越したサイコフレームの共振による発光現象により、フィン・ファンネルの機動性が限界を遥かに凌駕したレベルに達し――即座に理屈抜きで原理解明した『∀ガンダム』側のフィン・ファンネルもまた追随し――フロント外宙域に虹色のビームの嵐が乱れ咲く。

 

『――やれやれ、テスト不足も甚だしいぞ『後輩』! 実際にどう運用されるかはパイロット次第、じゃなかったか!』

『――こんな想定外な使用法&必要になる戦場なんて初めから想定してませんよ『先輩』!? 従来通りで何とでもなるなら発展要素なんて思いつきませんって! ――ああもう、ミノフスキー・ドライブ搭載型のMSの機動性に追いつけない問題の解決策がこんな簡単な処にあったなんて! でもこれ間違いなく空中分解(ヅダ)るよなぁ!? ディマリウム合金とナノスキンで何とかなるか……いや、サイコフレームと併用するのはちょっと怖いなぁ!?』

 

 合計12基によるフィン・ファンネル同士のドッグファイトは、常人の視点からはもう認識不能の領域にあり――絶え間無く繰り広げられるビームの乱舞から、逆説的にファンネルの射撃をファンネルが回避しているという異次元の領域の攻防が成り立っており――本体同士もまた、先程とは違って正面激突し、超近距離から目まぐるしくビームライフルの撃ち合い、すれ違い様の一瞬にビームサーベルの斬撃を重ねていた。

 

 

 ――それは長らく続いた空白の時を埋めるかの如く、一攻防毎に際限無くギアを上げ続けて――。

 

 

『――『貴方』が示した人の心の可能性、宇宙世紀最大の『奇跡』を目の当たりにしても『世界』は何一つ変わらなかった! 『アクシズ・ショック』と銘打つだけで人々は都合良く忘れ去った! 百年後には小惑星『アクシズ』を地球に落とそうとした『赤い彗星(張本人)』が阻止した英雄と伝わっていた時は流石にブチ切れましたよ! 全部が全部、無意味で無価値で……!』

 

 互いに未来予知しているフィン・ファンネルが数十先の読み合いの末に撃ち落とされ、或いは自らの速度に耐え切れずに自壊する中、『∀ガンダム』と『νガンダム』は壮絶な武装の削り合いとなり、共に損耗し続ける。

 一瞬でも隙が生じれば、『∀ガンダム』側は『DOCベース』による再武装が可能の為、『νガンダム』はその隙さえ生じさせまいと超接近戦での削り合いを演じる。

 ……なお、『∀ガンダム』が『νガンダム』を前に空間転移を使用しないのは、使用した瞬間に転移先に置きビームライフルされ、装甲無視のダメージを受ける為、事実上使用不能に陥っているからだ。

 

『――無意味なんかじゃない。少なくとも、『お前』と出会えたオレには……!』

『――その無価値な『後輩』に何が出来たと言うのです!? 一強状態の『アナハイム・エレクトロニクス』社の影響力を以ってしても何も成し得なかった! 腐れた地球連邦を無意味に延命させた程度ですよ! 俺は、何も――!』

 

 もう既に、『彼』の本音を包み隠す『仮面』は何処にも存在しない。『嘘』は剥ぎ落とされ、過去永劫に渡って吐露出来なかった本音が宇宙に木霊する。

 

 

『――違うよ、おじいちゃん』

 

 

 その声は、『ニュータイプ』としての感覚を取り戻した『彼』に、確かに届く。

 

『――おじいちゃんは、私に手を差し伸べて、『意味』をくれた。私は最期の一時まで、幸せだったよ――』

 

 違う。違う違う違う。涙が止め処無く流れ出る。『自分』は、『孫娘』に対して何も出来ずに――!

 

『――人の心の可能性など、俺にはもう信じられない。この『世界』が、その証明ですよ。……『戦争シェアリング』? 歴代最悪の利権構造ですよね? 余りにも醜悪なビジネスモデル過ぎて、俺ですら参画を拒否するほどですよ!』

 

 この『世界』の全貌を把握した時、『彼』は心底軽蔑する。

 この『宇宙』が抱えるスペーシアンとアーシアンの搾取構図は余りにも悪趣味であり、この病巣が必須構造となっている事がまず受け入れられない。

 

『……更に最悪なのは5年、前身の企業があったとは言え『アナハイム・エレクトロニクス』社を設立して、たったの5年程度で『System-∀99(終末機構)』に到達するとか、前代未聞の到達速度ですよ? この『世界』の人間は、愚かで馬鹿で愚劣な自殺願望者しかいないんですかね……!』

 

 際限無き苛立ちと鬱憤を籠めてビームサーベルを叩きつけ、『νガンダム』もまた巧みに受け流す。

 まともに受ければ、そのまま両断される極限の線の『∀ガンダム』のビームサーベルを卓越した技術のみで対処している。

 

『此処まで根幹から腐っていると、もうどうしようもないですね! 『月光蝶』での文明埋葬(リセット)が最適解だと思えるほどですよ!』

『だが、そうはしなかった……!』

『ええ、『希望』を見つけましたから! まぁ代案が『国家解体戦争』からの『いつものAC(管理AI統治のディストピア)』で皆平等に不幸になろうなんですけどね!』

 

 いつか現れるであろう『例外(イレギュラー)』による秩序の破壊まで問題の先送り。

 どうしようもない現実問題を、更なる非合理で塗り潰して別問題にするなど本末転倒極まりなく――。

 

『余りにも短絡的で性急過ぎる……!』

『仰る通りですよ! 急ぎすぎている上に人類に絶望しているとか、『赤い彗星』の二の舞いで自殺したくなりますよ!』

 

 自覚しているが故に、『彼』は『自分自身』への殺意を覆せない。こんな不出来な『悪』など許容出来ない。誰よりも殺したくて消したくて仕方ない。

 

『――俺には、後に続く人間に託す事が出来ない。誰かが後を継いでくれると信じられないし、そもそも出来るとも思えない……! 誰も、『貴方』になれない。誰も、『貴方』には届かない……!』

 

 遂には、両者の武装が同時に全損し――それで終わる筈無く、『最新鋭の叡智』と『終末機構』の死闘が最終的には原始的な殴り合いに収束する。

 嘗ての『白い流星』と『赤い彗星』の最終決戦が如く――『彼』が想定した未来は、大きく外す事となる。

 

『それでも、だからこそ――!』

『――!? 勝負を捨てましたか……!?』

 

 殴り合いではなく、『νガンダム』は意表を突いて組み付き――如何にフル・サイコフレームと言えども、縮退炉2基積みの『∀ガンダム』の方が基礎スペックは圧倒的に超過しており、致命傷を与えつつ引き剥がすのは容易く――。

 

 

『――!?』

 

 

 ――昔から、一つの事に夢中になったら他が見えなくなる癖は変わらないな、とニュータイプ的な交信を受け取り――嘗てのニュータイプ能力を取り戻したからこそ、目の前の『νガンダム』しか眼中に無かった事が、『彼』の敗因である。

 

 

『『『『『『せーの!』』』』』』

 

 

 未だに生き残っていた、ガンダム・エアリアル改修型、ダリルバルデMk-A.E、ガンダム・ファラクト、ガンダム・ファラクトMk-A.E、デミトレーナーチュチュ専用機、ミカエリスが握り込んでいたのは、大剣形態に移行した懐かしき複合兵装、ロングレンジ・フィン・ファンネルであり――よりによってあの懐かしいゲテモノ複合兵装を『先輩』が持って、密かにスレッタ達に託していたのかよ!?と驚愕すると同時に、カタログスペック上では『∀ガンダム』の装甲を抜けるだけの威力は無いと判断し――ニュータイプ的素養の持つパイロットの手に無いのに虹色に光り輝くロングレンジ・フィン・ファンネルの超肥大化した刀身を見て、「あ、無理だわこれ」と諦める。

 

 ――この場に居ない癖に『頭アナハイム』の胡散臭い笑顔が目に浮かぶ。よりによって、あのゲテモノ複合兵装でフィニッシュとか屈辱の極みである。

 

 斯くして、ロングレンジ・フィン・ファンネルの巨大ビームサーベルは、『∀ガンダム』のヒゲ部分を見事に引き裂き――この『決闘』に、決着が付く。

 託した者と託せなかった者、勝敗を分けたのはその1点のみであり――。

 

 

『……年は取りたくないなぁ。敗北が、こんなにも嬉しいなんて――』

 

 

 一体いつ以来だろうか、記憶の遥か彼方に揺蕩う『義理の息子』との決闘騒ぎが脳裏に過ぎり――憑き物が落ちた透明な表情で、『彼』は自らを超えた若者達を静かに祝福したのだった――。

 

 

 

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