『――ランブルリングの中止。宇宙議会連合への今回の事件の説明もとい誤魔化し&途中で面倒になって露骨に武力をちらつかせた脅迫行為。
――同時進行での地球に隠れ潜むオックス・アース社の施設破壊。
――ペイル社で死蔵されているエラン・ケレス(真)のヘッドハンティング。どさくさに紛れて『アナハイム・エレクトロニクス』社に駆け込んだエラン5号の保護。叛意ましましなペイル社に対する平和的交渉もとい『GUND-ARM』技術に関する釘刺し。
――身柄を確保したプロスペラ・マーキュリーの再生医療&クローンなのに割りと普通の人生送れそうなスレッタ・マーキュリーの健康診断&エリクト・サマヤのサルベージ打診。
――派遣元を失い、更には乗機を『クワイエット・ゼロ』中に再起不能にしておいたノレア・デュノク&ソフィ・プロネへの我が社からの正式な入学届(首輪)。
――シャディク・ゼネリに対する性急なテロ案への徹底的なダメ出し&将来を見据えた宿題渡し。
――ベネリットグループ内のパーメット製MSを500機買い取り、月の本社で突貫工事でジェガンに換装して即納品。その後にパーメットの脆弱性を告知して非パーメット路線への移行を宇宙に発表しつつパーメットを使用した旧製品のサポート完全廃止。
――『∀』によるパーメット支配、地球の紛争に対する武力介入という何処ぞの『私設武装組織』じみた、パーメット製のMSがメインな限り行える、実質的な戦争シェアリングの破壊。
――半ば忘れていたニカ・ナナウラの後見人変更手続き&推薦企業をダミーから自社に切り替え。
……これを3日間で同時進行させるとか、頭の良い馬鹿はどう足掻いても馬鹿のままなんだね?』
幾星霜に渡って積もり積もった呪いが解消された結果、『本体』は弾けた。
『白い流星』の直系の片割れなのに『赤い彗星』の後継じみているのは、『彼』がその気になれば『世界』を変えられる『個人』だからだ。
『……仕事に真面目なのは美点だが、欠点もまた真面目過ぎて仕事をし過ぎる事だからな』
『休暇の過ごし方で一生悩むレベルの仕事中毒ですしね。『貴方』という劇薬を接種してこうなるとか、『本体』の事だけはマジ読めねぇですわ』
『神様のような存在でも見えないものがあるのか』
『『抜け殻』になるだけで神様になれるなら誰も苦労しませんよ』
はぁ、と『迷子』はわざわざ溜息する仕草を見せ――不眠不休で仕事を片付け、僅かな合間を気合で作り出してアスティカシア学園に帰還し、あの『決闘』から一度も顔を合わせていないので割と気まずそうにしながら地球寮に足を向けたが……肉体・精神・魂、全てが限界突破している挙げ句――『00世界線』で一生を共にしたELSが憑依している疑惑がある『疑似ELS』が分解・浄化作用を全力で頑張っているとは言え――未だに致死量の数千倍以上のパーメット中毒状態が重なり、とある公園区域にて電池が切れるように気絶して寝転がるという無様を晒した『本体』を見下ろす。
その『迷子』の姿は紺色の背広姿であり、窮屈そうにネクタイを締める。
『アスティカシア学園の制服ではないようだが?』
「今更学生服を着る年齢でもないでしょうに。『本体』は全く配慮してないですが、『私』にはTPOに配慮する程度の意識はありますので」
不機嫌そうな面で『迷子』はまた溜息を吐く。他人の尻拭いなど気分の良い物でもないし、それが『自分』となれば更に格別だ。何が悲しくて前後不覚に陥った『自分』の代わりに休日出勤しなければならないのか。
「……何ですか? 何か言いたい事があるのなら遠慮無くどうぞ?」
『いや、敢えて言うまでもないと思ってな』
「そうやって解った気になって致命的齟齬が生じていた事が人生で何度ありました?」
『それはシャアだけだな』
「……今でも相思相愛でお熱い事で」
詮無き会話はさておき、折角此処まで丁寧に尻拭いしてやるのだから――この程度の悪戯は許されるだろう。携帯端末を取り出し、勝手に拝借した番号を入力する。
強制的に交信して全情報を一瞬に渡せる『迷子』がわざわざ行う、人間的で不自由な行為を、隣の『白い流星』は楽しげに笑うのだった。
「もしもし、ミオリネ? オレ、オレー。……声帯は同じ筈なのに、どうして電話越しで『本体』と区別付くの?」
「……無防備に昼寝なんて、用心深い『アンタ』らしくないとは思っていたけど――まさか『あの時』も気絶していたとか、馬鹿じゃないの?」
こんこんと寝続ける『彼』の頭を膝枕しながら――ミオリネはジト目で見下ろす。
スレッタと出会う前、公園区域に存在する木陰で寝転がっている『彼』を目撃し、非常にレアな光景だと当時は疑問すら抱かなかったが……実に笑えない真実である。
「……1人で何でも出来る小憎たらしい『ヤツ』だけど、欠点もまた1人しかいない事とか――」
普段はあの『胡散臭い笑顔の仮面』に全て隠されているが、その内情はお労しいなんて言葉じゃ尽くせない程度には悍ましい。
あの時の自分は『彼』に対して『何に対しても本気になれない、何かに絶望し、最初から諦めている人物』だと評した。
その答え合わせが『全てに絶望し、届かぬ光に手を伸ばして焼き尽くされ、指一本動かす気力さえ無くなっている』など誰が思おうか。
人を『運命の奴隷』呼ばわりした『ヤツ』が誰よりも弄ばれ続けた『運命の奴隷』だったとは皮肉も皮肉だ――。
「……ホント、この『馬鹿2号』は――」
だから、『彼』の中の出力は0or100しか無いのだろう。全力を超過しないと指一本すら動かせないぐらい精神的疲弊している癖に、その人並み外れた責任感から『自身』の退路を最初から断っている。
――永遠に積み重ねられる自責の念で押し潰されるのは、当然の結末だろう。
他の誰かに助けを求める、という当たり前の選択肢すら『彼』の中には最初から無かったに違いない。
「……全部片付けた後に自殺とか、望む訳無いでしょ――」
その事に関しては、謝らない。100回やって100回、同じ選択をするだろう。
それで恨まれても――物凄く嫌だけど、仕方ない。必要経費だ。そんな後味の悪い結末なんて、何度でも覆してやる。
「――責任は、取ってあげる」
……必要だったとは言え、宇宙議会連合の大艦隊+1500機以上のMSを使い潰したのは、流石にやりすぎたと自覚している。
これの後処理に10年以上掛かるレベルであり、一生掛かっても払い切れない負債である事も自覚している。下手すれば各勢力の戦力バランスが崩壊して、一気に戦争になりかねない事も――。
――とりあえず、飽きるまで『彼』の寝顔を眺め続ける。
『胡散臭い笑顔の仮面』が剥がれている『彼』の寝顔は、普段見慣れないほど年相応で――自然と笑みが溢れる。何故だか知らないが、見ていて飽きなかった。
『――今日こそ後進に道を譲って貰うぜッ!』
『――やってみせろよ、グエル・ジェターク! 宇宙で2番目に強いパイロットの座はまだまだ渡さないぜ!』
アスティカシア学園のフロント外宙域にて、今日もまたダリルバルデMk-A.Eとジェガン後期最終型が真正面から激突する。
何処ぞの『赤い彗星』もそうだったが、万能に等しい『彼』でも適正と好みは別の話。いつの時代もパイロットを好き好むのは当然の成り行きであり、最高の気晴らしとなっていた。
――この『宇宙』の行く末がどう転ぶかは、神ならぬ人間の身では見通せない。
されども、これだけは言える。灰被りの『魔女』は、見失っていた『希望』を見つけて、託すに足る若者達を強力に見届け続けるだろう――。
機動戦士ガンダム 水星の魔女『Q.これはガンダムか? A.ガンダムです』――完。
書ける描写は沢山ありましたが、敢えて必要最小限に。
残りは恒例の『超越者達の舞台裏』と、制作秘話を予定。