「――まぁ神様みたいな存在でも、その後どうなるかなんて、てんで解らないんだけどね!」
此処は多元宇宙の果ての果て、全にして一、一にして全、全ての可能性の始発点にして終着駅、超次元の位相空間――通常の生命種の存在を許さぬ至高の座に『迷子』は楽しげに笑う。
――ただ、今回は『迷子』だけでなく、他に『3つ』、同規模の存在がこの超空間に存在している。
『1つ』は赤髪『金』眼でポニーテールの、11歳程度の少女。極めて不機嫌そうなジト目で――目の色が変わるほどの、殺意だけで射殺せるレベルで『迷子』を睨んでいる。
『1つ』は左眼模様が上下に何個も並んだ独眼の仮面に蒼色のローブを纏った亡霊の如き異形。殺気立つ少女のすぐ側に静かに佇んでいる。
『1つ』は漆黒の浅葱模様の着物を羽織り、両眼を頑なに瞑っている紅髪の青年。普段の嘲笑は既に吹っ飛んでおり、苛立ち度MAXの形相になっていた。
「やぁやぁ『補正』ちゃん、ご協力ありがとねー! 『補正』ちゃんのお手紙のお陰で、見事! ミオリネとグエルとの信頼を勝ち取る事が出来たよ! どうしてあんな紙切れ一枚で誑かせたのか意味不明だけど。SAN値チェックに失敗したん?」
空間が実際に歪むほどの険悪な空気を読まずに、『迷子』は人間味の欠片も無い、胡散臭い笑顔で溢れんばかりの感謝の意を『補正』と呼ばれた少女に向ける。
「あ、寄らないでくれるかな? ――『頭アナハイム』が伝染る」
「『頭アナハイム』が伝染る!? 何その物凄い理不尽なパワーワード!?」
『補正』は塩対応し、『迷子』はわざとらしいほど大胆に驚く素振りを見せる。見せかけだけで、どういう感情を抱いているかは当人以外は把握出来ないだろうが――。
「……実際問題、『迷子(きみ)』由来の殺人衝動が伝播しまくってるじゃないか」
「あ、『魔法使い』パイセン、ちーっす! 先輩マジリスペクトっすよ!」
「直死(み)られたいの? ……解っているとも『亡霊』くん。こんな処で開眼する訳無いじゃないかー常識的に考えて」
衝動的に神殺しの魔眼を開眼しそうになるも、『補正』の傍らにいる『亡霊』が自身の拳を握り込む素振りを見て、『魔法使い』と呼ばれた青年は笑いながら冗談扱いとする。
「いやぁ、真面目な話、『魔法使い(あなた)』という前例は目から鱗でしたよ! 神様みたいな存在なのに現世に積極的に関わるという大人気無い真似を平然と行えるなんて、何て恥知らずな――もとい、大胆不敵で素敵ですね! ところで疑問なんですが、何で『魔術師』の方にしてやられてるの? 『魔術師』と比べて知性が著しく劣化しているのは謎なんですけど?」
「あ、喧嘩売ってる? 売ってるよね? 今なら最高額で買い取ってやるとも……!」
これが『迷子』からの正真正銘の賛辞であり、煽っているつもりが皆無という点が共感性0で清々しい。
……『魔法使い』が『魔術師』と呼称する『人間』に完全にしてやられた件は、この場にいる超存在からは過去の話だが、我々にとっては未公開情報、或いは未来の話かもしれない。
「僕の領域から帰ってくれないかな? 可能ならば二度と来ない事を強く望んでいるのだけど?」
「あ、ごめんねー『補正』ちゃん。『亡霊』さんとの愛の巣にお邪魔してさ! でも、この胸の感動は数少ない『ご同輩』じゃないと語り合えないんだ!」
存在の規模が規模だけに、有象無象の存在など蟻以下の扱いで認識している為――『本体』にとっての重要人物か、『同格』の存在でなければ『迷子』との交流は望めないだろう。
その浮かれきった様子に、『魔法使い』はヘドロ以下の憐憫を籠めて嘲笑する。
「――随分と自称『本体』に御執心じゃないか? 『迷子(きみ)』を『虹の彼方』に置き去りにして無限彷徨しているのにさ」
「――その事に関しては想う処が億単位でありますけど、まぁ些細な問題ですよね!」
『魔法使い』の手痛い指摘に対し、『迷子』は胡散臭い笑顔で受け答える。『本体』と同じであるならば、その胡散臭い笑顔は『本心』を隠す為の仮面だが――。
「――いつまで『自分』に『嘘』を吐き続けてるんだい? 確かに『迷子(きみ)』は人間としての感情・機微を先天的に一切持ち得ていない。至極当然の話だ。『抜け殻』か結晶化した『ユニコーンガンダム4号機』、或いはその融合体だからね『迷子(きみ)』の本当の正体は――」
先天的には一切持ち得てないが、後天的に持ち得ていると『魔法使い』は見ている。何故ならば――。
「一体『迷子(きみ)』の宇宙は何巡したのかな? 『迷子(きみ)』という閉じた特異点が生じる事が確定事項であり、無限彷徨する『魂(本体)』が朽ち果てる事で――真っ白に漂白された状態で原初の宇宙世紀に回帰する。まさしく『メビウスの輪』だ。その際に『魂(本体)』から生じた負の想念の全てが『迷子(きみ)』に堆積している筈だけど?」
如何に『空の器』だろうが、其処に際限無く負の想念を注ぎ込めばどうなるか――何処ぞの『全知存在』、『深遠なる闇』が如く宇宙を自動的に滅ぼす終末機構と化しているのは容易に推測出来る。
『本体』に伝播している殺人衝動は、『迷子』の内に生じているものの数億分の一程度の規模に過ぎない。それだけでも全人類を皆殺しにしてやりたいと思う程度の永続的発狂であり――。
「難しい話は解らないですねー、『私』、無知なもので!」
その『嘘』は、『迷子』の自分自身の存在意義を全否定し、放棄させるに至る。
宇宙を滅ぼすだけの単一機構が、自身の役割を意図的に投げ捨てるなど、余りにも重篤な例外(バグ)であり――。
「……そうか、本当に『迷子(きみ)』はつまらんな――」
「『魔法使い(あなた)』に面白いもの扱いされる方が不名誉だと思うのですが?」
煽り甲斐が皆無の『迷子』に対し、『魔法使い』は心底不機嫌そうに吐き捨てる。
「……本当に仲が良いね、『魔法使い&迷子(二人とも)』。僕の知覚外領域で黒幕ごっこの講義でもしたらどうだい? 『迷子』の爪でも煎じて飲めば脚本家失格から五流程度にはなれるんじゃないかな?」
『補正』は包み隠さず「さっさと帰れ」と言外するも、『迷子』と『魔法使い』はどこ吹く風と無視する。
「この私は完全な感覚派(フィーリング)、『迷子』は気長で理詰めの自作自演(マッチポンプ)だから合う訳無いじゃん? 原初の宇宙世紀から初代『頭アナハイム』のような解り易い特異点を仕込むような真似はとてもとても――」
オリジナルチャート発動でガバる0点以下の暗躍力と比べるには、『迷子』の『本体』由来の暗躍力は次元違いであり――。
「……あれ、唯一無二の天然物だよ?」
「は?」
「え?」
『魔法使い』が理解出来ないと言わんばかりに驚き、『補正』もまた信じられないと呟く。
「今回の周回限定のSSRだよ。宇宙世紀以外に『アナハイム・エレクトロニクス』社を持ち込むという初の暴挙達成だよ! マジで今回は初めて尽くしで飽きなかったわぁ!」
他の周回ではパイロットにのみ専念し、今回のように長続きせずに早々に魂崩壊ENDが常だった為――今回の周回は『迷子』視点から見ても唯一無二、正真正銘、二度と訪れない奇跡だったという話である。