「――あら『先輩』、最近は随分と精力的に動いてお忙しいようで。『花嫁』と『花婿』を同時に侍らせるなんて、良い身分ですねぇ。流石は次期ベネリットグループ総裁は伊達じゃないって事ですかぁ?」
「睡眠時間の確保も出来てないから解決すべき問題だよ、セセリア。流石の『僕』も完徹状態では思考が鈍ってしまうしね」
ふぁ、と大きな欠伸をしながら眠そうに語る『先輩』に対し、「――、ぇ?」と、特大の皮肉で揶揄った筈のセセリアの思考が完全停止する。
勿論、これは経営戦略の一新を強いられ、関係各所への報告・連絡・通達で徹底的に忙殺された事を示しており、決して今、セセリアの思考を埋め尽くしている下世話な事では一切無いのだが――。
「……そ、それで、決闘委員会に何の用で? 『花婿』に告白したグエル先輩でしたら、お父様から直々に決闘禁止令出されて拗ねてますよ?」
「今日、用があるのはグエルじゃないんだよなぁ」
「あら、それじゃもしかして――私に会いに来てくれたんですか、『せ・ん・ぱ・い』?」
どういう訳か、新たな情報を得る毎に一喜一憂し、珍しく非常に大胆なアピールを実行したセセリアの様子に……当然の事ながら『彼』は一切気づいていない。
何処ぞの天才に「ニュータイプの出来損ないが!」と罵られて当然なほどの鈍感と言えばそれまでだが、流石の『彼』も完徹状態は相当堪えているらしく――。
「――やぁ、待たせちゃったかな?」
「いや、時間ぴったりだよ」
「シャディク先輩に――エラン先輩?」
どういう訳か、決闘委員会のラウンジにグループ御三家の二人が現れ、思考が色惚け一色状態だったセセリアも一瞬で察する。
「――魂の代償を天秤(リーブラ)に」
今回の決闘の立会人はシャディク・ゼネリが務め――。
「エラン・ケレス、君はこの決闘に何を賭ける?」
「……『真実』を1つ、語って貰う」
「へぇ、随分と抽象的だねぇ」
まさかまさかの対決カードに、セセリアは驚愕を隠し切れず――。
「『僕』の方はいつも通り。――やってみせろよ、エラン・ケレス」
「これまたいつも通りだねぇ、まぁ本人が良ければ良いけど――」
その文言はグエル先輩との決闘への要求と同じ――実質、何も要求してない――であり、ジェターク社と決裂し、新たな『契約』をペイル社と結んだ――?
「『賽は投げられた(アレア・ヤクタ・エスト)』――決闘を承認する」
「『アナハイム』さんとエランさんが決闘!? どどどどどうして……!?」
「……へぇ、『アイツ』、グエル以外と決闘するんだ――?」
地球寮、リフォームされて一新された最新家電及び家具(揺り籠から戦艦まで、の悪名高き『アナハイム』製)で充実した居間に、慌てふためくスレッタと、何故か居座っている事が突っ込まれないミオリネは物見遊山気分で決闘実況を眺めていた。
「エラン頑張れエラン頑張れエラン頑張れ!」
「え? まさかそっち賭けたの?」
「『アイツ』に賭けても払い戻し確定じゃん――エランが勝つ方に2万! 倍率100倍の超大穴っ、行けー!」
地球寮に所属するメカニック科2年、ニカ・ナナウラは、相変わらず賭け狂いで大穴狙いという破滅的嗜好のオジェロに溜息を吐く。
グエルと『彼』の決闘は結果的に不成立になるが、決闘の賭博は決着時点の勝敗を参考にするので、一応賭けは成立する。
……グエルと『彼』の場合は応援票以外は『彼』の1,0倍払い戻しとなるのである意味成立しないが――。
「エランの方はいつも通りザウォート――で、『アイツ』の方は、珍しい、自社製の量産MS、って……」
「ミミミミオリネさんっ! 背中の『アレ』、何ですか!?」
「……私が聞きたいぐらいよ、やっぱりいつも通りの『アナハイム』だったわ……」
緑色の量産型MSの背部ユニットには、変態的なまでに超巨大な追加ブースターが装備されており――決闘開始と同時に『彼』のMSは緑色の『流星』となった。
『それでは今回の『プレゼンテーション』を開始しましょう! 今回の機体は我が社が誇る傑作量産MS、型式番号『RGM-89』ジェガンで――』
『いや、それの紹介は別にいいから』
『さっさと次に進めて貰えないかしら?』
『GUND-ARM』≠『ガンダム』が実証されてしまい、『審問会』の表の名目が失われた前回、されども裏の名目である『技術発表会』の機会は貴重なので、上位企業の代表達がリモートで画面のみの参加という簡略化が行われる事で続行という形に落ち着く。
……いちいち『本社』に直接赴くのは、流石に全代表一致で億劫だったようだ。
『な、何故です!? 我が社のジェガンは超優秀ですよ!? 30年はこれで頑張れる汎用性高い量産型MSだと自負しておりますよ!』
『単純に一機当たりの単価が高すぎる』
『これを必要とする状況がもう、ねぇ?』
『アナハイム』製の量産MS、ジェガンの性能は他社の量産MSと比べて確かに頭一つ、いや二つ程度抜けているが、量産型MSと銘打って置きながら生産コストはずば抜けて劣悪――これが必要となる局面は即ち、相手も超高性能・超高コストの量産機を採用した際の地獄めいた潰し合いが予想され、何方か、または両陣営が破滅するまでのチキンランが予想され、心底げんなりとするのは仕方ない事だろう。
『えぇー? 生産ラインをこれ一本に絞れば解決出来る問題ですよー!』
『解ってて言ってるわよね?』
『結局、それが狙いじゃないか!? 他社の量産型MSシェアの全部を纏めて奪い取るつもりか!?』
幾ら性能面で卓越しているとは言え、それだけは許すまい、と他社企業から大反発を受けるのは必定であり――。
『ぶーぶー、まさかジェガンが政治に負けるとは……!』
『完全に自業自得じゃない?』
『それよりさっさと先に進めて』
解っていてやっている辺り、完全に確信犯なのでスルーされる。ベネリットグループの上位企業の代表達、実に『アナハイム』に慣れたものである。
今回の目玉は、その量産型MSジェガンの背部ユニットとして装着された、巨大な追加ブースターであり――MSコンテナに入り切らない為、直接決闘場まで移動していた。
今回の決闘においては、決闘場内を所狭しと、縦横無尽に超高速戦を繰り広げ――。
『はい、今回ジェガンの背部に装着されていたのは強襲用外付けブースター、Vanguard Overd Boost、略称『V.O.B.』でございます。かなり前に紹介したMS埋め込み式戦術強襲機『M.E.T.E.O.R.』から攻撃機能を全部撤廃し、機動性のみに全振りしたものですね!』
かなり前に紹介された『M.E.T.E.O.R.』もゲテモノだったが、今回のは更に機能特化したゲテモノである。
頭のネジが2、3本取れてないとやろうとすら思わない、まさに狂気の沙汰だった。
『本来想定されたコンセプトは、『超長距離絶対防衛網』を規格外の機動力で突破し、無防備な懐に送り込むというものです。一度限りの使い捨てですが、まぁ許容出来る程度のコストに収まっております』
その想定される『超長距離絶対防衛網』の要塞が何処にも見当たらず、一体何の『隠喩』なのか、代表達の頭を悩ませる。
だが、それ抜きで考えてみると、これは作戦プランの選択肢の1つとしては、割りと破格の選択肢なのでは。何人かの代表が、その有用性を高く評価する。
『……つまり、これでのMS戦は想定外の行動って訳ね』
『当たり前じゃないですか、自殺したいんですか?』
『本人』からのお墨付きの発言に全員が頭を抱える。……そう、問題なのは――。
『……明らかに操縦する人間の肉体的限界を遥かに超えた負荷が生じていたと思うけど、何か特別な耐G対策は……?』
『ありませんよ? それに対する新技術があるなら、我が社としても是非とも欲しいですね!』
あんな馬鹿げた超加速での機動戦を行い、相手のビーム射撃を見てから回避余裕でしたという頭おかしい連続短距離ブーストを吹かして五体満足でいる――明らかに『人間』とは思えない『人間』に対して、何を言えば良いのやら――。
『――決まりだ。搭乗者への深刻な生命倫理問題が解決されない限り、製造を禁止する』
『えー? 『GUND-ARM』じゃないのに禁止指定とか、相変わらず横暴だー!』
デリング総裁の鶴の一声で、無事、この技術も表向きは禁止指定扱いとなったのだった。