「……すっげぇ怖ぇ光景……」
「人が寝ているだけなのに、ホラーかよ……」
匠な仕事で見事、新品建築と見間違うほどリフォームされた地球寮にて、『彼』は椅子に腰掛けて、器用に居眠りしていた。
「寝顔に落書きしてみる?」「それ、自分の推薦企業の命運賭けてする事?」と地球寮の面々は戦々恐々しながら遠目から眺めており――。
「それで、スレッタ先輩と『先輩』の馴れ初めって何だったんですか!」
地球寮に所属する経営戦略科1年、リリッケ・カドカ・リパティは朗らかな笑顔でスレッタに尋ね、スレッタは顔を赤らめて手と首を振って否定する。
「ななな馴れ初め!? そそそそんなんじゃ!?」
「……勝手に推薦企業になって、勝手に後方保護者面してる『不審者』よ」
いつの間にか平然と地球寮に居座っているミオリネが勝手に代弁し「……お前、本当に性格悪いな?」「何よ?」と、呆れるチュアチュリーといつものやり取りを交わす。
「とても、良く、してくれてる事は、解ってます、けど……どうして、そうして、くれるのかは、全然、解らなくて――」
――スレッタ・マーキュリーにとって、『彼』は、正しく未知の存在である。
関わり合う頻度で言えばミオリネに匹敵するのに、未だに何も解らない。そんな何処までいっても胡散臭い存在である。
「『コイツ』、とにかく胡散臭いしなぁ?」
「もうチュチュったら、そんな事言わない。……胡散臭いのは、その、同意だけど」
「ニカ姉も人の事、言えないじゃん……」
地球寮の良心であるニカにもそう言われるぐらい、『彼』の人となりは胡散臭いの一言に尽きる。
「――やっぱりこれは、愛ですよ! 一目惚れに違いないですよスレッタ先輩!」
「ひひひ一目惚れ!?」
「――抱き締めたいな『ガンダム』ッ! くぅ……」
何かに反応して『彼』が凄く大きい寝言を吐き「……コイツ、本当に寝てるん?」「さぁ?」「寝言だとしてもMSの方かよ……」と地球寮の面々に突っ込まれる。
「普通に考えたら大胆不敵なまでの青田買い、でも、『コイツ』は普通じゃない」
「経営戦略科なのに、ホルダーの座が欲しければ自分の実力のみで奪えた人だからねぇ……それが狙いじゃないとしたら、もう何が何やら?」
ミオリネの分析に、地球寮の寮長、『彼』と同じ経営戦略科3年のマルタン・アップモントは「やっぱり僕達とは最初から『視点』が違うんじゃないかなー?」と、『彼』の企業代表としての立場に着眼を置く。
「エランさんとの、決闘が、初の決闘じゃ……?」
「……ああ、コイツ、アンタが此処に来る前からグエルとばちばちに決闘してたの。その全部で圧勝して、全部不成立にしたから0戦0勝0敗」
エランとの決闘も後々勝敗が取り消されて、未だに0戦0勝0敗のままであるが、ミオリネはジト目で「実質、この学園における真のホルダーは『コイツ』よ」とスレッタに説明する。
「……ますます、訳、解んない、です」
「――ぼんばー! おっと、夢か……」
渦中の『人物』が漸く目覚め、大きな欠伸をした。
「お、おおは、おはようございますっ!? 『アナハイム』さん!?」
「おはようございます、スレッタ・マーキュリーさん。修理したビット2基及びエスカッシャンの調子は如何ですか?」
「ははははいっ、『みんな』とても調子良いです!?」
グエルの決闘で、2基、切り裂かれて使用不能となったが、機能が集中している『ブラックボックス』の中枢部は幸いな事に無事であり――。
「それは良かった。一応、我が社もそれなりのノウハウはありますが、別系統のビットは実に新鮮でしたとも。――ええ、本当に興味深い機体ですよ、エアリアルは――」
推進装置部分を修理するだけで済んだ為、他の無事なガンビットを分析した『アナハイム』の技術部門によって短期間で修理完了となる。
――これにより、完全には解析出来てないが、『彼』からのエアリアルの認識が、歴代でも最もヤバい『呪われた代物』扱いとなり――。
「……逃げたら1つ、進めば2つ……! あのっ、『アナハイム』さんは、どうして私を、サポートして、くれるんですか?」
思い切って直接聞く事にしたスレッタに、『彼』は眼を真ん丸にして驚き――少し悩んだ後、いつもの胡散臭い笑顔を捨てて、穏やかに笑った。
「――昔話をしましょう。『奇跡』を起こして『神話』となり、帰らなかった『人』の話です」
それは意図的に言葉を選んで隠匿された、随分と抽象的な話であり――。
「『彼』の事に関して、語れる事は残念ながら少ないです。ですので、可能な限り端的に――『彼』は、俺を凌駕する唯一のパイロットであり、俺が尊敬する唯一人の戦友だった、と――」
そう語る『彼』には普段の胡散臭さが成りを潜め、何処か懐かしむように「まぁもう1人、尊敬する『歌馬鹿』がいますが、それは別の話で――」その奇妙な雰囲気に、全員が飲まれてしまう。
「そんな『彼』から、『遺言』を受け取った筈なんです。言葉に言語化出来ず、想いという抽象的な物を最期に受け取った――それがどういう内容だったか、未だに掴めてないのですがね、俺は友人失格だよ……」
何処か、此処ではない、虚空を眺めるが如く眼差しは、『彼』が見せる、初めての生の感情の吐露であり、底知れぬ絶望があり――。
「ですので、此処から先は単なる自己満足の代替行為です。――『彼』と同じような運命に立ち向かう『少年少女』がいたのならば、無理矢理にでも強引に手助けしてハッピーエンドにしてやろうと。このお節介焼きは強制的なので――諦めて下さいね、スレッタさん?」
「ひゃいっ!?」
物凄く、重い話を聞かされて――どう返したものか、スレッタとミオリネ及び地球寮の面々が思い悩み――。
「どうです? 即興の作り話にしては良く出来ていると思いませんか?」
「え? ……え? 嘘、だったんです?」
「残念ながら『私』には軍役を経験した事はありませんので! 生徒の身でありながら企業の代表で軍役経験者とか、属性盛りすぎでしょ?」
いつもの胡散臭い笑顔に戻った『彼』は「盛れば良いってもんじゃありませんよ!」とHAHAHAと豪快に笑う。
「ひ、酷いです『アナハイム』さん!?」
「――だって、『私』は『アナハイム』さんですし?」
「自分で自称するの!?」
ミオリネが即座にツッコミ、『彼』は冗談だったと茶化す事で話は終わったが――ミオリネだけは、それが『彼』が抱える絶望の一端であり、どういう訳か、スレッタに希望を抱いているという事実を、自分の胸の中だけに仕舞っておく事にしたのだった。