『――『アナハイム・エレクトロニクス』代表に問う。あれは『ガンダム』か?』
決闘後の恒例の『プレゼンテーション』、久々にそのお決まりの台詞で始められたデリング総裁は心なしかイキイキとしており――。
『はい、型式番号『XXXG-01D2』ガンダムデスサイズヘルカスタムです』
飛翔するザウォートを背後から頭部を斬り飛ばして決着付ける、黒い『ガンダム』の姿が動画に流れていた。
『……あーはいはい、パーメット流入値もデータストームも観測されてないですよ』
『GUND-ARM』ではなく、『ガンダム』という事を確認し、次に進む。
『本機は高い隠密性を有した単独作戦用のMSであり、専用の電子戦用装備『ハイパージャマー』で周囲に特殊粒子を散布する事で強力な電波障害を発生させ、時間制限はあるものの電子機器をほぼ完璧に無効化する事が出来る、まさに『死神』の名に相応しいMSです』
全身黒一色の機体に、悪魔の如き翼を持つという特徴的な外見をしており『ああ、確かに外見といい、鎌じみたビームサーベル?といい、死神じみた『ガンダム』だな』と見る者を納得させる。
『なお、武装は『ビームシザーズ』だけであり、持ち前のステルス性能を活かし、接近戦で仕留める事をコンセプトとした機体で――何でまともな射撃兵装が一つも無いんだよ!?』
やっぱり今回も説明の最後まで保たず、『まぁた始まった』『いや、もう近接兵装オンリーの時点で解っていた事だが』と集まった代表達も呆れ顔で流す。
『前回は無駄に多い内蔵武器で苛立ったが、足りなすぎるのも問題過ぎるだろ!? バランス考えろやバランス! 武装が『ビームシザーズ』だけならせめて多機能搭載にして射撃武器としても使える形にしろや!』
なお恒例の如く、製作者名義は『彼』自身になっており、その『本人』はというと『理想はX3の『ムラマサ・ブラスター』か? でも、近接・射撃の併用型は燃費と強度が犠牲になるからなぁ……一長一短か? いや、やっぱり新たに射撃武装持たせれば良いだけでは? 両手使えないなら『隠し腕』か、両肩部か脚部辺りに仕込むとか?』と物騒な独り言を早口に語りながら思案していた。
設計の段階から気づけよ、と誰もが口にしそうになる中――。
『……ところで、一つ聞いて良いか?』
『あーはいはい、何でしょう?』
『今回の決闘でステルス機能、使っていたのか?』
確かに、目視が難しいぐらいの超機動・超速度で、決闘場を縦横無尽に駆け巡っていたが――。
『いいえ、一回も使ってないですけど? ――使う場面、全く無かったので』
そもそも運用する『テストパイロット』の性能がバグそのものである為に、その機体の真価が全く解らなくなる不具合は、一刻も早く修正して貰いたい処である。
――なお、『A.C.(アフターコロニー)』におけるガンダムの名称の由来、『ガンダニュウム合金』の事を一切説明してないのは意図的である。
「――ッ!」
「落ち着いて。以前よりも長く戦えている。……あれが『特別』なだけで――」
感情のままにヘルメットを地面に叩きつけるエランを、ペイル社に所属する技術研究員、否、ペイル社が隠匿する『魔女』ベルメリア・ウィンストンは極力感情を押し殺した表情で窘める。
「あれが『特別』なら、僕は何だ? 一体何の為に……!」
エランは両手で自身の顔を覆い、項垂れながら叫ぶ。
この感情のままの狂乱ぶりは、『氷の君』と呼ばれる普段の無表情の様からは遠くかけ離れたものであり――。
「もう解っているだろ? ベルメリア・ウィンストン。『ヤツ』が使ってきたMSが、全部『対ファラクト』想定だと……!」
「……有り得ないわ。幾ら『アナハイム』社と言えども、ファラクトの存在は――」
禁忌の存在である『ガンダム』はペイル社によって徹底的に秘匿されており、外部に情報が漏れる事はまず有り得ない。
だが、対エラン戦で『彼』が選出するMSは、どれも尖った性能をしており――規格外の超機動による一点突破、ファラクトのスタンビットとほぼ同数の遠隔操作端末兵器持ち、そして今回の決闘内では使われなかったが、超強力な電子機器殺しというピンポイントメタ――此等が想定する仮想敵は明らかにザウォートではなく――。
「例え、ファラクトでも『ヤツ』に及ばない。……ベルメリア・ウィンストン、アンタが『魔女』なら、『ヤツ』は一体何だ……? GUNDフォーマットを搭載しないMSで『ガンダム』を悉く凌駕し、それに乗っても何も問題無い『ヤツ』は何なんだッ!」
エランの悲痛な悲鳴に、答える声は無く――。
「……僕は、何の為に呪われて――」
――何の為に無意味に死んでいくのか、というこの世全てを呪うが如く呪言に、返せる言葉などありはしなかった。
「――強化人士4号は芳しくないようね?」
「やはり生粋の『例外』相手では通用しないという事かしら?」
「このままでは耐久限界が訪れる方が先でしょうね」
「本末転倒、ならば――」
『彼』との決闘による成長は促されているが、ペイル社CEO達が期待したほどの数値では無かった。
役目を果たせない強化人士に存在価値は無い。壊れた玩具は捨てられるが運命であり――。
「せめて最低限の役割だけは果たして貰おうかしら?」
「向こう側の『魔女』――機体か、パイロットか、その何方が生命倫理問題を解決しているのか」
「彼に確かめて貰いましょうか」
「その為だけに、用意した『駒』ですから――」
――『強化人間』は救えない。
それは絶対の法則である。『強化人間』とは製造されたその瞬間から破滅が約束されている『壊れやすい消耗品』だ。勝手に崩れる硝子細工に等しい。
――『強化人間』は救われない。
『彼等』に与えられる救いなんて、苦しめずに殺してやる事ぐらいだ。
死の終焉こそ唯一の救済。生まれ堕ちた世界の残酷さに魂すら絶望させるぐらいなら、一思いに介錯してやるのが情けだろう。
――『強化人間』は必ず報われない。
最初の宇宙での、血の繋がらない『孫娘』の時もそうだった。
手を差し伸べて、地獄の釜の底から必死に救い出して――まもなく砕け散った星の断末魔を、今でも克明に覚えている。
――この宇宙はとても残酷で、悲劇と惨劇は無限に連鎖していく。
呪いのように生きて、呪いのように死ぬ。それが『強化人間』の生き様であり、死に様である。忌々しいぐらいの、手遅れの象徴なのだ。
――だから、見て見ぬ振りをするのが、一番手っ取り早い対処法だ。
最初から諦めれば良い。そういう存在だと納得すれば良い。
いつの間にか消えている路傍の石に感情移入しても仕方無いだろう?
覆せぬ運命に抗って敗れるのは、耐え難い苦痛だ。変えられない運命を認め、諦めて黙認する事で傷は浅く済むだろう。
「――この宇宙に『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』は存在せず、『万能の救い手(ご都合主義の寵児)』もまた存在せず。1つ救う事は、その他の全てを切り捨てる事に他ならない」
この宇宙の主人公は「逃げれば1つ、進めば2つ」という呪いを呟くけれども、それ以前に『二者択一』なのだと思う。基本的に何方を選んでも地獄なのは変わりないが――。
「――だから、『私』は君を見捨てるよ『誰でもない無名の少年』」