Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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20/『魔女』と『花嫁』

 ――スレッタ・マーキュリー。

 

 水星から来訪した、おそらくは自分と同じ強化人士。この宇宙で唯一、自分と同じ立場の人間であり――グエル・ジェタークとの決闘後、即座に推薦企業として名乗り上げた『アナハイム・エレクトロニクス』の動きは予定調和か、急な方針転換があったのか、情報が錯綜し過ぎていて不明だ。

 

(――決闘場にMSで乱入してまでスレッタ・マーキュリーと接触……いや、フロント管理社に拘束されては彼女との接触が遅くなると判断したのか。その未来を見通すが如き先見性と既存のルールを全部無視するが如き型破り、大胆且つ高すぎる行動力にルール破りを押し通させる政治力、企業代表としても逸脱している)

 

 何にせよ、『彼』の直接介入があったせいで、ペイル社から『ガンダム』を駆る『魔女』と思われるスレッタ・マーキュリーを探らせる指示は一旦保留となった。

 直後の、蜜月関係と噂されていたジェターク社への下剋上もあって、迂闊な接触は危険だと判断されたのだろう。……現場からのトップダウンと、本社からの四人による合議制、判断の速さが全てを決した結果であろう。

 ……建前とは言え、少し残念に思い――どうして『彼女』が『彼』に選ばれたのか、説明出来ない感情の渦が心を乱す。

 

 ――それでも、独自の判断でスレッタ・マーキュリーとの接触を図ったのは何故だろうか?

 

 自分と同じ境遇である『彼女』ならば、自分の事を真に理解してくれるという淡い期待なのだろうか? 同じく呪われた機体に乗り、同じく呪われた体に改造されているであろう『彼女』こそ――。

 

(……果たして、そうなのだろうか――)

 

 其処でまたもや頭を過るのは忌々しい『彼』の存在であり――『彼』は自分に興味を示さなかった。

 決闘を申し込み続けるグエル・ジェタークには、一定の感情を示していたと思う。いつも皮肉を言うセセリアには存外楽しそうに付き合う。シャディク・ゼネリとは生徒の身分でありながら企業の本業に関わる者同士の探り合いがあった。

 

(――『エラン・ケレス』という立場に興味を示さなかったのではなく、おそらくは……)

 

 『彼』は最初から自身が強化人士であり、姿・形・声を変えられた『名も無き人形』である事を知っていたのだろう。

 それならば辻褄が合う。勝手に壊れる消耗品に、感情を向けるという非生産的で無駄な行為を、一流の企業家で、ペイル社の四人のCEOと同じ倫理観の持ち主の『彼』がする訳がない。

 『彼』の反応は、ペイル社からの『契約』で、自身と決闘し続ける際も変わらず――。

 

(……だからこそ、『彼』がスレッタ・マーキュリーに執心する理由が解らない――)

 

 ホルダーの確保? そんなものに価値を置いてないのは全ての決闘を不成立にしている事から勝手に察せられる。ホルダーの座を手に入れるなら、誰よりも簡単に出来ただろう。

 ……他企業との裏取引で行動を束縛され、その抜け道として必要とした? その気が最初からあるのならば此処に至る前に抜け道を作り出して出し抜いているだろう。

 『強化人士』の確保? 自身の存在を黙認していた事から、それ系統の技術に興味があったとは考え辛い。ペイル社以外の、別系統の『魔女』だから興味を示したか? そもそも――『彼』自身が『魔女』を凌駕した『何か』であり、『彼』視点から見た欠陥品に何の興味を示す?

 

(……いつも通りの堂々巡り。きっと、その答えは――)

 

 ブザーが鳴り響くと同時に、意識を現実に戻し、『待ち人』のMSコンテナが輸送され――。

 

「おっ、おはよう、ございますっ!?」

「――時間通りだね。じゃあ、行こうか」

「はいっ」

 

 ――スレッタ・マーキュリー、彼女の秘密を、今日、暴く――。

 

 

 

 

「――大体アイツは御三家なのよ!? 敵よ! 一体何を考えてるのよ!?」

「まぁまぁ、落ち着いて下さいな、ミオリネ先輩」

 

 地球寮に帰還したミオリネ達は、未だに抑えきれない怒りをぶち撒け――。

 

「御三家? まさかあのグエルがスレッタさんにデートを? いやはや、青春ですねぇ」

 

 我が家の如く椅子に腰掛けながらタブレットを操作していた『彼』は、ほんわかとした顔で少ないワードから面白い事になっている状況を想像し――。

 

 

「違う! エランよエラン! あの『マネキン王子』!」

「――は? 『アレ』と? ……――」

「『アレ』? ――!」

 

 まるで『人扱い』してない反応に疑問に思い――ほんの一瞬だった。

 凍りつく表情、目が僅かに泳ぎ、『自身』の失言に眉を顰め、取り繕うように無表情になり、何かを決断するように目を細め――その『彼』の感情の変化を全部逃さず見届けたミオリネは、ジト目で『彼』の顔を覗き込む。

 

「……何でしょうか、ミオリネさん? 顔、近いですよ。『花婿』がいながらはしたないで――」

「何を、隠してるの?」

「一企業の代表ですから、隠し事は沢山ありますとも」

 

 決して目を合わさず、『彼』は胡散臭い笑顔を浮かべる。

 普段から被っている『胡散臭い笑顔の仮面』が思わず剥ぎ取れるほどの情報が、今のやり取りにあったと白状しているようなものであり――。

 

「エランについて隠している事と、即座に付けた算段の事、全部話しなさい」

「……まぁこれに関しては『私』のミスであり、ミオリネさんの洞察力の鋭さを素直に称賛するとしましょう。――その上で、素晴らしい提案があるのですが、聞かなかった事にしませんか?」

「――は?」

 

 いつもの胡散臭い笑顔で、『彼』はそんなふざけた提案をした。

 

「無知は罪、という言葉はある意味正しいですが、知らなくて良い事は基本的に知らないままでいる方が幸せですよ? 特に『彼』の事情に関しては。――今の貴女は余計な重荷を背負おうとしている」

 

 だが、今回は――その眼は、取り繕えてないのか、欠片も笑ってなかった。どんよりと濁り、底無しの闇を宿していた。

 

「……またその眼……!」

 

 何もかも諦めて、絶望に沈んだ光無き瞳――諦観の内に微睡んだ、敗北者の眼。

 どうして『彼』がそんな眼をするのか、ミオリネには理解出来ない。この学園で誰よりも自由で、誰よりも力を持つ『彼』が――『彼』が何度も折れて、一体どんな絶望を抱えているのか、ミオリネには知った事でもない。だが――。

 

「報告・連絡・相談!」

「は? 何を――」

「『アンタ』はスレッタの事を助けるって決めたんでしょ! なら、最初から諦めてないで、私にも相談するのが筋でしょ! 私は――あの子の『花嫁』よ!」

 

 最初から諦めて行動しないのは論外である。……いや、そういう後ろめたい反応こそ、納得いかずに無理矢理抑え込んだ証であり、そんなウジウジしている鬱陶しい背中など全力で蹴りつけてやるのが礼儀だろう。

 

 『彼』は驚いた表情でミオリネ・レンブランの顔をまじまじと見る。――まるで初めて見るかの如く、ズレていたピントを合わせるように。

 

「……ずるいなぁ、子供は見ない内にすぐ成長する」

「『アンタ』だって子供でしょうが!」

「……いやはや、まさか君に子供扱いされるとは、思いもしなかったよ。――ミオリネ」

 

 何処かの『赤いロリコン』なら致命傷だったと『彼』は笑う。

 単なるトロフィー、デリング・レンブラン総裁の一人娘という認識から、『彼』は初めて彼女を、ミオリネ・レンブランを『1人の人間』として認識する。

 

「それじゃ出来る限り努力して開示するとしよう。――あ、これでも外部に漏れたらペイル社に即時抹消されるレベルだから気をつけてね!」

「いやちょっと待って、そんな激重のヤバい情報を地球寮で堂々と開示しないで!?」

「うっさい! 黙って聞く!」

 

 ……なお、それに道連れになった地球寮の他の面々は泣いて良いし、訴えても良い。訴える先が暴君極まるミオリネか胡散臭い『彼』なので、笑顔で却下されるだろうが――。

 

 

 

 

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