「――双方、魂の代償を『天秤(リーブラ)』に。決闘者はグエル・ジェタークとエラン・ケレス。場所は戦術試験区域11番、個人戦を採用、異論は無いか?」
決闘委員会のラウンジにて、御三家の1人であるシャディク・ゼネリが神妙に問う。
いつもの軽薄さが消え、真剣な表情となっており――。
「――ああ」
「異論は無い」
『互い』に殺気立ち、怒気を隠せない様子で対峙する2人の雰囲気を察したからでもある。
「久しぶりっすねぇ、御三家同士の決闘なんて!」
セセリアも興奮隠せずにはしゃぐ。いつもの――『先輩』の決闘は何よりも刺激的で面白いのだが、結果的にノーゲーム扱いになるので若干物足りない一面もある。
だが、今回はベネリットグループに君臨する御三家同士の決闘、確実に後の勢力図が変わる大一番故に、どう転んでも面白い結果となるとセセリアはほくそ笑む。
「グエル・ジェターク、君はこの決闘に何を賭ける?」
「――コイツがスレッタ・マーキュリーに近づかない事だ」
「へぇ?」
女を賭けるのはシャディクぐらいだと言った癖に、速攻で女絡みで賭けるなんて、セセリアは内心笑いを堪えるので必死だった。
――流石のセセリアも、今の状態のグエル相手に煽る事はしない。噴火前の火山をつついて大火傷するなんて馬鹿の所業だろう。
「そ、そんなの、余計な、お世話、です……!」
「……お前解ってるのか? コイツは敵だ! 御三家なんだぞ!」
変われば変わるものだなぁと、グエルのらしくないツンデレムーブをセセリアは冷めた眼で見る。
「……貴方も、そうじゃないですか……」
「っ、俺は! ……ちぃっ」
いや、セセリアが冷めた眼で見ているのはグエルではなく――水星から来た少女、スレッタ・マーキュリーに対して、である。
煽りの一つでも飛ばそうとして――自身の内に燃え滾る『何か』で、全ての言葉が掻き消される。
……自分でも気づかぬ内に、セセリアは自身の下唇を噛んでいた。
「水星ちゃん、これはグエルとエランの決闘だからね。君が口を挟む事は出来ないよ」
「……です、けど――」
「結果が気に入らなければ、次は君が決闘をすればいい。この学園はそういうルールで動いている――若干『一名』、当て嵌まらない人物もいるようだけどね?」
……そう、気になるのは、その『一名』が今回の決闘に介入してない事。
影で既に動いた結果なのか、それとも偶発的事象なのか――興味が無いのか、いや、そんな筈はあるまい。
「エラン・ケレス、君は何を賭ける?」
「僕は――スレッタ・マーキュリー、僕が勝ったら、君と決闘する」
またしても、騒動の中心にいるのはスレッタ・マーキュリーであり――。
「……解りました」
御三家同士の決闘、更にはホルダーの座を賭けた決闘にさえ発展する事態、これ以上無いほど面白い流れの筈なのに――セセリアの心中は、乱れに乱れていた。
「『賽は投げられた(アレア・ヤクタ・エスト)』――決闘を承認する」
『――兄さん、決闘は駄目だ! こんな事、父さんに知られたら……!』
「勝ちさえすれば、父さんだって文句は無い筈だ……!」
弟のラウダの言葉を振り切り、グエル・ジェタークは試験区域11番に直接赴く。
幸いな事に、自身専用のディランザは水星女との決闘でブレードアンテナを消し飛ばされただけ――その日の連戦でガタついた足回りの整備は、今回は万全だ。
――決闘は父によって堅く禁止されている。だが、そんなのはどうでも良い。惚れた女の涙の原因に、全力で拳を振るわない男など男失格だろう……!
「――KP001、グエル・ジェターク、ディランザ、出る……!」
程無くして、MSの輸送コンテナが決闘場に到着し――コンテナが開かれ、現れたMSは、ペイル社の量産型ではなく。
「――ザウォートじゃない? いや、あれは……ちっ、ペイル社もかよ!?」
『KP002、エラン・ケレス、ファラクト、出る――』
その黒い機体は、『アイツ』との決闘で死ぬほど見慣れた『いつものフェイス』であり、この時点で相手のMSがワンオフの超高性能機であると悟る。
(……外側だけか、或いはスレッタ・マーキュリーの機体と同じような独自規格か――大穴で『アナハイム』社の技術提供。いや、最後の可能性は極めて低いか)
……自身の親の、ジェターク社がそうだったように――相手が御三家の一角、ペイル社である事から自社以外の、そう、『アナハイム』社由来の技術は入ってないと思いたいが――。
『――両者、向顔』
ともあれ、やる事は変わらない。
「――勝敗はMSの性能のみで決まらず」
『操縦者の技のみで決まらず――』
MSの性能が劣っているなど、いつも通りだ。量産型を多少カスタムした程度で、一点物の高性能機に届くなら苦労はしない。
『「――ただ、結果のみが真実!」』
周囲の環境が変化し、低重力下の月面を再現する。
『決心解放(フィックス・リリース)』
決闘開始――と同時に、超遠距離からのビームライフルによる狙撃が行われ――この距離からは流石に当たらない。単なる牽制だとグエルは判断する。
「見た感じはペイル社お得意の高機動・飛行型の狙撃重視……だけじゃないよな。武装がロングバレルビームライフル一つだけとは考え辛い……!」
極限まで機動性重視というコンセプトならまだしも、見えている武装が少なすぎる。
何処かの頭おかしい『アイツ』みたいに重量過多寸前まで武装をぱんぱんに積むのは、それはそれで問題があるが、やはり『隠し玉』を持っていると考えるべきだろう。
「はん、構うかよォッ!」
低重力下ならディランザでもある程度の空中戦はこなせる。出力任せに地を蹴り上げ、飛翔するファラクトを胸部ビームバルカンで牽制――途中の切り立った岩壁に射線が遮られ、大きな地煙が視界を塞ぐ。
――即座に武装をビームライフルからビームパルチザンに切り替え――。
グエルは半分以上勘頼みで地煙の中に突っ込み――ビームパルチザンを全力で振り下ろす、が、寸前の処でファラクトに急加速、緊急離脱され、大きく空振る。
「チィ――っ!?」
その刹那、グエルは見た。置き土産として、ファラクトの肩部から切り離される幾つもの小型端末兵器の数々を――。
「やっぱりかよ――だがなぁっ!」
即座に胸部ビームバルカンで牽制しながら肩部装備のスパイクシールドの裏側からビームライフルを取り出し、2連射撃――吸い込まれるようにファラクトのビット2基を撃ち落とす。
「『アイツ』のと比べて挙動が素直過ぎるんだよォ! ――丁度良い、練習がてら、全部叩き落としてやんよォ!」