「フロント外宙域……」
スレッタとエランの決闘において、決闘委員会に指定された試験区域がそれであり――地球寮の面々は「マジで予想通りかぁ」「パネェなぁ……」と畏怖を籠めた表情で『彼』を眺めるのだった。
「お前、推進ユニット持ってんの?」
「持って、ないです……」
メカニック科2年のヌーノ・カルガンが尋ね、スレッタはしょんぼりとした表情で答える。
この受け答えもまた予想通りであり――。
「おや、おやおやおや! お困りのようですね、スレッタ・マーキュリーさん!」
「ひゃあ!? あああ、『アナハイム』さん!?」
「ええ、こういう時こそお金持ちキャラの本領を発揮する時ですとも!」
まるで水を得た魚のように、とても胡散臭い表情で『彼』は張り切る。それをジト目で眺めるチュアチュリーは「自分で言う?」と突っ込み、ニカ・ナナウラは笑いながら「まぁまぁ」と一応フォローする。フォローし切れないけど。
「ペイル社のMSは機動力が売り、とは巷で呟かれてますが――そんなのは現実の見えてない老害の痛々しい妄想話で、まぁ我が社を除けばという枕詞が真っ先に付きますね!」
平然と他社をディスるが――その『アナハイム・エレクトロニクス』は狂気の代名詞なので、売りとかそれ以前の問題である。
「『アナハイム・エレクトロニクス』としては『V.O.B.』の使用を提案しま――」
「却下」
「早すぎない? せめて性能面の説明だけでも!」
即座にミオリネによって却下されるも、『彼』は手持ちのタブレットで『V.O.B.』の設計図をスレッタに見せて――この『不明なユニット』が、いつぞやの量産型MSに付けられていた『とてつもなくヤバいヤツ』である事に即座に気づく。
「エ、エ、エアリアルに『あんなもの』、付けちゃ駄目ですっ!」
「えー? え~~?」
「しつこい!」
『あんなもの』呼ばわりされ、不本意極まると未練がましく食い下がって意思表示する『彼』を、ミオリネが一喝して即座に切り落とし――。
「それではこの『バックパックバーニア』はどうでしょう? 『殺人的な加速』が癖になりますよ!」
次に表示されたのは比較的巨大な背部ユニットであり、カタログスペックの数字が明らかにおかしい。
何せこの背部ユニット、大きさに見合わず異常なほど軽く――。
「……テストしたの?」
「しましたよ」
「誰が?」
「俺」
「却下」
「えー?」
ミオリネの『誰か』を思わせる即断即決の却下に、『彼』は不満たらたらに有言の抗議をする。
ちなみにこの『殺人的な加速』は比喩表現ではなく、大多数の者にとっては『ただの事実』となる。
「この二対の背部ユニットとかどうです? かなーり重いですけど、コストを度外視してそれぞれにジェネレーター搭載してますから、派手にぶっ飛びますよ! ついでに垂直ミサイルもしこまた搭載してま――」
「レギュレーション違反の物理兵器を最初から勧めるなっ!」
実弾系兵器は決闘での非殺傷性に欠けるので、軒並み禁止入りしているのだが「えー?」と『彼』はぶーぶーと文句を言う。
「ならばこの可変戦闘機『オーライザー』はどうです? いざという時は分離して敵MSにぶつける事も出来ますよ!」
「だ・か・ら、決闘のレギュレーション守れっ! 直撃したら普通に死ねるわよ!」
そもそも推進ユニットを質量兵器にするな、と一々言わねば理解が得られないのか、ミオリネはジト目で『彼』を睨む。
「この『四枚羽』とかどうです? 見た目全振りですよ! 時々羽撃く鳥から抜け落ちる翼の羽根みたいに粒子が剥離するのが見所ですよ!」
「……で、性能は?」
「さっき紹介した『バックパックバーニア』を超える破格の運動性と機動性を与えてくれますよ!」
これまたさっきの『バックパックバーニア』と同じく、異常に軽く「ガンダニュウム合金で造ってるから、実は本体より丈夫なのは秘密だ!」と『彼』は胡散臭い笑顔で語る。
此処にいる全員に信じられてないが、性質の悪い事に『本当に真実』だったりする。
「ふふふ、遂にこの本命を出す時が来ようとは、スレッタさんも商売上手ですね!」
「……いや、単純に今までの案が全部却下されてるだけでしょ?」
ミオリネの呆れ顔をスルーし――。
「次はこれだー!」
『彼』が自信満々で表示したものは、今までの背部ユニットとは比較にならないぐらい、超巨大だった。……そもそも明らかに背部ユニットじゃなかった。
「……何、この、何……?」
「はい、全長100mに及ぶ巨大外殻『ハルユニット』です。MSをコアとしてドッキングする事により――」
「いや、もういいわ……」
あのミオリネさえ頭を抱えて「『コイツ』、全然懲りてない……」と、グエルとの決闘で不成立になった巨大ユニットを思い出したのだった。
「『アンタ』以外がテストして、安全性が確保出来た推進ユニットを提示しなさい!」
「……え?」
「『え?』じゃない! ……いやまさか『アンタ』しかテストしてないの!? 馬鹿じゃないの? 人間が乗れるモノを造りなさいよ!?」
信じられないものを見る目でミオリネが驚き、『彼』は目を泳がせながら口笛を吹いて誤魔化す。
「スレッタ・マーキュリーさん、どうです? 我が社の開発した素敵な推進ユニットのテストパイロットをするのは! 手前味噌ですが、とても素晴らしい提案だと思うのですが!」
「ごごご、ごめんなさいっ!?」
スレッタに間髪入れず断られ、『彼』は「えー?」と物凄く残念そうになった。
「――じゃ、造ろっか」
この『茶番』を全て見届けてから、ニカ・ナナウラは予め決めていた予定通りの提案をする。
――そう、この中で、スレッタだけは知らないが、今回の決闘において、『アナハイム・エレクトロニクス』社はスレッタ・マーキュリーへの援助を一切禁止されている。
更には『ペイル社』がホルダーの座を獲得した場合、『彼』が――直接的でも間接的でも――決闘を挑まない事を事前に明記しており、数多の制約と共に『ペイル社』との『契約』が秘密裏に結ばれているのだった。