「――ミッションを説明しましょう。依頼主は『アナハイム・エレクトロニクス』社、目標は同社のMSの撃破――つまりは、そろそろ決闘しようぜ?」
「……いや、何で此処に居るんだよ……?」
此処は学園の敷地内、テントを張られた1人キャンプ地にて――。
自前の椅子まで用意して現れた『彼』は「はい、差し入れのコーヒー」と呆れるグエルに魔法瓶に入った熱々のコーヒーを淹れて渡し、自身もまた優雅に堪能するのであった。
「まさか『お前』から決闘を申し込まれるとはな――だが、決闘するも何も、今の俺にはMSすら無いぞ?」
「うん、知ってる。ヴィムCEOは何を考えているのやら。――という訳で、我が社のMSを一機融通してあげるよ。勿論、ただじゃないけどね!」
いつも通りの胡散臭い笑顔を浮かべて、『彼』は前とは違う書面をグエルに手渡す。
「初期費用はグエル持ち、利息は無し、修理費は『僕』との決闘に限っては無し。――『僕』との決闘一回につき初期費用の十分の一支給、万が一『僕』に勝利すれば一発返済でどうだい? ああ、借金中の決闘相手については口出しさせて貰うけど」
……書類の不備は一見して見当たらない。『彼』以外との決闘での修理費が自前負担、決闘相手の口出し――恐らくは、スレッタ・マーキュリーとの決闘に対しては制限が掛かるぐらいだろう。
(……おかしいな、いつもなら事前に気づかなければならない『契約』の不備が絶対ある筈だが――?)
いつも意図的に盛り込んでくる契約の不備は、この書類を何度も読み返す限りは見当たらない。それが逆に不信感を募らせる。
「……おい、これ、余りにも俺に有利過ぎるだろ?」
「君との決闘は『僕』にとっても有益なんだよ。折角の決闘制度、もっと『悪用』しないと勿体無いだろ!」
そこは活用じゃねぇのかよ、とグエルは内心ツッコミ、――まぁ、受けてやるか、と渋々承諾してしまう。
借金とは言え、MSの提供は渡りに船であるし、珍しく――いや、初めて向こう側から決闘を申し込まれた事に多少ながら舞い上がってしまっていたのだろう。
今まで何度も苦汁を舐めさせられた『アナハイム・エレクトロニクス』製のMSに、乗ってみたいと思った事は、不覚ながら何度もあるし――契約自体には不備は無かったのだ。
――提供されたMSに問題が集約されていただけで……!
「――はぁ? 『アレ』とグエルの決闘? そう言えば久しぶりね……」
地球寮にて、いつもの如く居座っているミオリネは、久しく途絶えていた恒例行事に目をやる。
「グエルって、ジェターク寮追い出されたって話じゃなかったか?」
「良くMS用意出来たなぁ――って、ああ、そういう事か……」
ヌーノとオジェロは地球寮に配置された『アナハイム』製の巨大ディスプレイに目をやり、即座にどういう経緯でグエルがハメられたか、超速理解する。
なお、決闘賭博常習犯の彼等2人も、『彼』とグエルの決闘に関しては賭けない。1,0倍の払い戻し確定なので賭けにならないからだ。
「あのMS……? 前と違って青くて、でもあの『エンブレム』……?」
「……うわ、やっぱ性格悪いわ『アイツ』」
スレッタもまた興味津々と決闘の映像を覗き込み、ミオリネは『彼』にハメられたグエルに僅かながら同情したのだった。
「……おい『テメェ』、マジふざけんなぁっ!」
『何の事かなぁ? 自画自賛だけど素敵なMSだと思うよ! その『機体コンセプト』は手放しに拍手出来るとも!』
グエルは怒りと共に通信するが、柳に風、ハメた張本人は喜々と胡散臭い笑顔を浮かべていた。
『君の門出を祝うにはベストなMSだと思うんだけどなぁ! ほら、もう家の下らない柵とか無い訳だしぃ?』
「勘当されたとしても問題ある機体を何故選出しやがった!? つーか、どうしたんだよコレ!?」
そう、『彼』から提供されたMSはカラーだけを除けば、余りに見慣れた機体であり――。
『そのMSの機体名は『ダリルバルデMk-A.E』だよ! 中身は我が社が適当に取り繕った全くの別物だけどね! さぁ言葉は不要だ! 決闘開始の宣言をしろシャディク!』
『――『貴様』ァッ! 『アナハイム』! あれは一体何の真似だァッ!』
『はい、『アナハイム・エレクトロニクス』はジェターク社のMSコンセプトを高く評価しております。現在のホルダーのスレッタ・マーキュリーとの決闘結果は非常に残念でしたがね!』
開幕、ジェターク社CEOからの怒号を、『彼』はこの上無く胡散臭い笑顔で嘲笑する。
他の上位企業の代表達は『まじえげつねぇ……』『やられたらたまったもんじゃないがな』と戦々恐々とする。
『――型式番号『A.S-001』ダリルバルデMk-A.Eはジェターク社の『MD-0064』ダリルバルデを参考に造ったMSです。中身は完全に我が社の独自規格ですけどね! 設計図抜いて完全模造するよりも好き勝手造った方が楽だしぃ』
決闘で――『いつものフェイス』及び馬鹿げた砲門のフルバーストを平然と回避・分離した2機の肩部シールドで防御して突破する青いダリルバルデ――異常なほど激しくやり合う姿がお披露目され、明らかに『オリジナル』と比べて性能が段違いなのは、誰の目から見ても明らかであり――それを指摘する事すら忍びない状況であった。
『主武装は分離出来るビームジャベリン、背部サブアームは4機に増設、その内の2機は従来のビームサーベル内蔵型で、もう2機は可変速ビームライフル『Variable Speed Beam Rifle』、通称『V.S.B.R』を採用しております』
……元のダリルバルデになかった射撃兵装をドローン兵装でも扱えるようにしており――機体に接続した状態なら、手動でも射撃出来る仕様となっている。
なお、決闘出力で本領発揮されてないが、この『V.S.B.R』は高度に発達したビームシールドの上から貫通させる高速・高収束の貫通力の高いビームを放つ事も可能となっている。
更には低速・低収束で破壊面積が大きいビームも撃ち分ける事も可能なので、ビット及びファンネル対策としても優秀だった。実際、決闘では『彼』の操るドラグーンが3基も撃ち落とされている。
『ダリルバルデMk-A.Eに採用されているのは第五世代の意思拡張AIではなく、Advenced Logistic & Inconsequence Cognizing Equipment、発展型論理・非論理認識装置、『ALICEシステム』が搭載されています。まぁこれは実験段階の、AI搭載の教育型コンピュータですね。決闘の回数をこなせばもう少しマシな性能になるでしょう』
既に現時点で、ダリルバルデに搭載されていたお粗末な意思拡張AIを超える精度を見せており、ヴィムCEOは奥歯を砕かんばかりに歯を食い縛り、射殺さんばかりの視線を『彼』に浴びせていた。
『ええ、ご安心下さい。決してジェターク社から技術盗用した訳ではございませんので。我々の独自規格で造った方が遥かに高性能になりますし!』
……これを、勘当した息子に渡し、決闘で性能の違いを見せつけるのはジェターク社の面子を完全に丸潰しにする以外の何物でもなく――純度100%の嫌がらせに、目に見えてブチ切れながらも、何も言い返せないヴィムCEOがただ哀れだった。
『……ちなみに、カラーを変えた理由は?』
『元の赤色を見ていると『誰か』を思い出して非常に苛立つので』
『そ、そうか……』