「――双方、魂の代償を『天秤(リーブラ)』に。決闘者はいつもの二人、一対一の個人戦を採用。場所は――」
まさか、この光景を決闘委員の立場で見る事になるとは思わなかったと、複雑極まる心境でジェターク寮の新寮長、ラウダ・ニールは内心溜息を付く。
……いや、兄・グエル・ジェタークの無事な姿を見れるのは嬉しいが、相手があの『アナハイム・エレクトロニクス』代表というのがとにかく気に食わない。
敬愛する兄を無慈悲に一蹴する『規格外』さは何度見ても腸が煮え返り――。
「『フロント外宙域』!」
「……えー? どうしようかなぁ?」
珍しく『彼』からの決闘場所の場所要望があり、立会人のシャディクは意地悪そうに考えるふりをする。
決闘場所の選出は決闘委員会の専権事項であり、今回の決闘する二人は決闘委員会ではなく、お願いする立場でしかない。
「セセリア」
「なぁんですか『先輩』ぃ? 『先輩』がどうしても、ってお願いするなら――」
其処で『彼』が頼ったのは、有り得ない事に、皮肉と嫌味を言わせれば右に出る者がいない、ブリオン寮の決闘委員のセセリア・ドートであり――彼女の事を、ラウダ・ニールはこの上無く嫌っている。
性格が捻れ曲がっている彼女にお願いした所で、帰ってくるのは皮肉と嫌味だけで――。
「お願い、セセリア!」
「わっかりましたぁっ、それじゃ『フロント外宙域』で!」
……今まで見た事の無い、物凄くチョロい一面を、見て見ぬふりをする情けがラウダ・ニールにもあった。
まさか本命に対しては無条件で貢いで破滅するタイプとは、『悪い男』に現在進行形で騙されている最中なのでお労しい限りである。
「……『君』が場所を指定するなんて珍しいねぇ、しかも『フロント外宙域』とは」
「グエル先輩じゃ瞬殺されちゃうから、せめてもの情けでやめといてあげようって話じゃありませんでしたぁ?」
やっぱり性根は変わらないと、ラウダはセセリアを無言で強く睨みつけ「おぉ、怖い怖い」と煽るように嘲笑する。
「グエルも成長しているし、今の内に様々な環境を体験しておくのは良い事さ。――それじゃ、楽しい楽しいアセンブルタイムと行こうじゃないか! グエル、どうするー?」
「……推進ユニットと射撃兵装のカタログを見せろ」
「あいあいー」
物凄く気さくに近寄って自身のタブレットを手渡す『彼』と、それを受け取る兄の姿を見て、ラウダは一瞬以上、思考停止状態に陥る。
「ど、どういう事だ……!? 『アナハイム』代表!」
「どうもこうも、楽しい機体構成弄りだよ? 今の装備で『フロント外宙域』とか、残念ながら秒で決着がつくよ?」
「そうじゃなくて……!?」
今の兄、グエル・ジェタークは父から勘当され、ジェターク寮さえ追い出された身であり、とてもMSの各種パーツ・ユニットを購入出来る財力など持ち合わせていない。
あの『アナハイム・エレクトロニクス』社が慈善活動などする訳が無い。ならば――。
「勿論、お代は貰うよ? いやぁ、素晴らしき借金生活だね!」
「言ってろ――勝てば一発返済だろ?」
「だね、達成したら一生サポートしちゃうよ!」
グエルは物凄く嫌そうな顔で「いらねぇ!」と叫び、『彼』はいつも通りの胡散臭い顔で「素直じゃないなぁ!」と笑い合う。
「そ、そんな……兄さんを借金漬けにして何をする気だ!?」
「宿無しの上に借金生活とか引くわぁ~。落ちる処まで落ちたっすねぇ、グエル先輩?」
またもやいらん嫌味を言うセセリアをラウダは睨むが、グエル自身は眼中に無く、タブレットと睨めっこする。
「……オススメの推進ユニットは?」
「アームド・ベース『オーキス』とかどう? 分類的には『拠点防衛用』らしいよ!」
隣に待機する『彼』が、グエルの持つタブレットを隣から操作し――即座に、兄はげんなりとした表情になる。
「これを推進ユニットと言い張る気か?! 以前使ってアウトになった『ミーティア』と何が違うんだよ!?」
「それ聞いちゃうんだ、説明すると長くなるけど――」
「あ、やっぱいいわ、次」
……何故かは解らないが、この光景にラウダは酷く心を乱す。
父から勘当され、それでもまた決闘出来るようになったのは我が事のように喜ばしいが、兄が自分の手の届かぬ場所に行ってしまったような、説明出来ない寂寥感を覚える。
「この『ミノフスキー・ドライブ』とかどうかな! 宇宙の彼方まで吹っ飛べるよ!」
「……推力が測定不能となっているが、何かの間違いか?」
「超々長期間連続加速を行う事で、理論上は亜光速まで逝けるよ! ……帰って来れるかは知らんけど」
「そんな欠陥品をリストに載せるな!?」と怒り、「いやぁ、『僕』自身の手で安全確認はしているんだけど、ミオリネに『僕』以外の人で安全確認しろって言われてさぁ。流石にスレッタさんに試させる訳にはいかないしぃ?」「おまっ、スレッタ・マーキュリーを殺す気か!?」と、和気藹々と語り合う。
「惑星間推進システム『ヴォワチュール・リュミエール』」
「字面だけで腹一杯なんだが!?」
「ちなみに前回の機体はこれを採用していたよ。燃費は劣悪だけど、絶大な機動性を齎すよ! Mk-A.Eに積むとなると、ドローン兵装全部外さないと動かないね」
その『絶大な機動性』を前回の決闘で身をもって体験しているだけに、「いや、あれらを取り外すのはきついか……」「まだまだ発展途上だからね、使えば使うほど学習するよ!」と注釈を入れる。
「はい、これが一番のオススメ『ウイングバインダー』」
「天使の羽……?」
「ちなみにこれ、Mk-A.E本体より丈夫だぞ? 燃費も良い上に大推力・機動性を与えてくれるよ! 殺人的な加速と評価された『バックパックバーニア』を超える性能だよ!」
どう考えてもろくでもない代物としか思えないが、兄が数秒間、眉間を顰めて無言で考えている。まさか、それにしようと思い悩んでいる……!?
「少し嵩張るけど、専用支援MSキャリアー型戦闘機『Gファルコン』とかどうかな! ドッキング形式だから燃費の問題は無いよ。小回りが効かず、動きが大雑把にならざるを得ないのが弱点だけど」
……一体、どんなカタログを兄に読ませているのか、非常に気になるが、あくまでも部外者に過ぎず、父の駒だと認識されている自分が覗き込むのは――余りにも危険な行為である。
先日、『彼』がジェターク社に行った大胆不敵なまでの『攻撃』は、ジェターク社の株価・取引先・融資相手にすら強い影響を与えており、水面下で様々な思惑が張り巡らされている。
あの剛腕で短絡的且つ行動的な父が表立って『アナハイム・エレクトロニクス』社に反撃に出られないほど、今のジェターク社は苦境に立っているのだ。
兄にそんな意図は欠片も無いにしても、『彼』の戦術プランは無数に乱立し、同時進行で襲い掛かってくる――。
「……この『バックパックバーニア』を頼む」
「あいあい。うん、『僕』の見立てでは、多分大丈夫だと思うよ!」
「ふん、『お前』が乗れるなら俺も乗れるに決まってるだろうが!」
それでも、兄の夢であるエースパイロットになる事を、今、最も支援しているのは『アナハイム・エレクトロニクス』社であるのは疑いの余地も無く――無力な子供の身であるのが、何とも悔しかった。
「それで次は射撃兵装だけど、何か希望はあるかな?」
「普通のビームライフル2丁でいい」
「えー、つまんなーい」
口を尖らせて文句を言う『彼』に、ラウダ・ニールは、嫉妬に近い感情を抱いている。
同じ年齢でありながら御三家に匹敵する企業の代表であり、その力を思う存分振るえる『彼』を羨ましく、妬ましく思う。
「……いや、それ以外に何があるんだ? 結局出力調整されるから、どのビームライフルでも同じだろ?」
「まぁそうなんだけどねー『バスターライフル』とか出力調整されたら単なる極太の豆鉄砲だし、『ビームマグナム』はそもそも出力調整出来ないしなー」
「コロニーを一発で破壊出来る超威力、撃ってみたくない?」「とんでもねぇ事を聞いてくんなっ!」と、仲良くじゃれ合っている。
――兄さんを補佐する役目は、自分にある筈なのに――。
「それじゃ『僕』が最も安心して使えるビームライフルにしておこう。モード切り替えでマシンガンのように連射可能の仕様だ。玄人向けの仕様だが、扱えると便利だぜ?」