Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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32/『魔女』と『銀河の中心で歌う宇宙一の歌馬鹿』

 

「――突撃ラブハート!」

 

 その日、地球寮にギターの音色と歌声が響き渡る。

 地球寮の面々全員と、スレッタとミオリネが清聴する中、『彼』はギター片手に熱唱する。

 

 ――それは情熱的で、陽気で、力強い、激動の歌で、普段の『彼』からは考えられないほどの『熱』があった。

 

 でも、不思議な事に、『彼』の歌はどれも世間では知られてないものばかりで、流行歌は滅多に歌わない。

 この歌がどういうモノなのかは、アスティカシア高等専門学園の七不思議の一つである。

 

「……聞き慣れない歌だけど、まさか作詞・作曲も『アンタ』なの……!?」

「まさか、そっち方面の才能は欠片も無いよ。これはね、銀河に響く歌さ――」

 

 ミオリネが訝しみながら尋ねると、『彼』はギターの弦の調子を確かめながら答えになってない事を答える。

 

「……また詩人気取り? センス無さ過ぎよ」

「今もあの『歌馬鹿』は銀河の何処かで歌っているから、そのままの意味さ」

 

 ……確か、以前にも『歌馬鹿』という単語を『彼』から聞いた事がある。何でも、有り得ない事に、『コイツ』が尊敬する人間らしい。

 その『歌馬鹿』が本当に人間なのか、まず疑わしいし、『コイツ』が尊敬する人間という存在が最早想像出来ない。

 第一、『彼』は大体の人間を見下している。ほぼほぼ眼中に入ってない。およそ人間らしい感情など持ち合わせていない。――それが胡散臭い笑顔と同じ『仮面』であり、根底は形容しがたいほど混沌としており、その人間性は恐ろしいほど劣化及び摩耗している。

 

「――『昔話』をしよう。それは俺が何度目かの絶望で心折れた時の事、自身の手の届く限りをついでに全部道連れにしようとした時の事」

「物凄く物騒な事をあっさりぶっこんできやがったよこの『社長』!?」

 

 チュアチュリーが即座に突っ込んで、マルタンは「いや、普通に『彼』の手の届く範囲って、この宇宙全部になるんじゃ……?」と青い顔で慄く。

 

 

「――『そいつ』はね、そんな時に俺の目の前に現れた。何の予兆も無く、唐突にね」

 

 

 ギターを弾き、『彼』は今の自分の心境を語るが如く、しんみりとした曲を奏でる。

 

「――そして『そいつ』がした事は、なんと、歌う事だけだった。……いや、まず最初に正気を疑ったね。普通は言葉による説得だろう? いや、その時の俺は聞く耳なんて全く無かったけど」

 

 ……どう判断したものか、眉唾ものの話になる。いきなり現れて歌い出すとか、どう考えても希少過ぎるタイプの変質者である。

 

「――最初に湧き上がったのは怒りだった。何故今更現れた。歌で一体何が出来る。この宇宙は歌のように優しくない。殺意を持って全力で撃ち落とそうとしたとも」

 

 ……そして、またもやツッコミたくなる事を言い出す。何で『彼』もMSに乗った状態なのか、指摘するべきか、しないべきか――。

 

「――次に湧いたのは困惑だった。歌い続ける『ヤツ』の『戦乙女』を、何度も何度も攻撃して、遂には撃ち落とせなかった。……限り無く全盛期に近い状態まで戻していたのに、『ヤツ』の歌を止める事は出来なかったんだ――」

 

 ……今回の話が与太話なのか、全く解らなくなった。

 以前の話の『コイツ』以上のパイロットという存在が想像出来なかったし、『コイツ』が全力で撃ち落とそうとして出来ない、尚且つ歌いながらMSを操縦している?

 いつぞやのグエルとの決闘で3時間以上も、グエルの攻撃を全回避して歌い続けたのは、その物真似なのだろうか?

 

「――いつの間にか涙を流していた。情緒がぐちゃぐちゃで、あらゆる感情が溢れて――後にも先にも、初めての経験だった。――『誰か』の歌声が、『誰か』の想いが、俺の心に響いたのは」

 

 もしも事実ならば――『コイツ』の余りにも高すぎる精神的障壁を超えて届いた『歌声』に、畏怖を禁じ得ない。

 多分、後で冗談、または与太話だったと開き直るだろうが、今の『コイツ』の表情は、そんな事を語っている表情ではなく――。

 

「――気づいたら、一緒に歌っていた。銀河の中心で、ひたすら歌い合った――」

 

 ……いや、どうしてそうなるの?とミオリネ及び地球寮の面々は内心突っ込んだのだった。

 当人からすればそうじゃないだろうが、傍目から見て、凄いシュールな光景だろう……。

 

「――最後に、『そいつ』はいつの間にか居なくなっていた。来る時も唐突なら去る時も唐突。この胸に生じた数多の感想を語らう機会さえ無かった。……全く、もう少し『その宇宙でのファン1号』との語らいの時間を大切にして欲しいものだ。『彼』らしいと言えばそうなのだが――」

 

 遥か彼方に飛び去った『鳥』に手を伸ばすかのように、『彼』は虚空に手を伸ばし、何も掴めない自身の拳を弱々しく握り締める。

 

「だから、俺の歌は『彼』への返歌だ。全部受け売りの、本物の輝きには未来永劫届かない、中に何も籠められてない、空虚なまでの贋物の歌さ――」

 

 ……何ともいたたまれない空気となり、また『彼』が空元気で誤魔化すんだろうなぁとミオリネは予想し――。

 

「贋物、なんかじゃ、ないです……!」

「スレッタさん……?」

「その、歌、に、余り詳しく、無いです、けど! その! 凄く、心がぽかぽかします!」

 

 スレッタからの余りにも率直過ぎる感想に『彼』はぽかんとなり、ミオリネはいつもの剣幕で「いや、もうちょっと、こう、無いの!?」「ごごご、ごめんなさい!?」とおどおどと謝罪する。

 

 『彼』は空っぽの右手を自身の胸に当てて――「……そうか、こんなにも簡単な事なのにね――」と、何かを噛み締めるように、淡く微笑んだ。

 

「――むむっ、なんかびびっと受信した! それじゃ新曲初披露! 題名は『祝福』だってさ!」

 

 その後、その『祝福』を聴いて、スレッタが何故か泣き止まずに、泣いている当人含めて全員が困惑する事態になったのは別の話――。

 

 

 

 

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