「――『アナハイム・エレクトロニクス』の歴史は5年前から始まりました。それは社名変更だけでなく、そのままの意味です。現『代表』がトップに就いた瞬間から、我々は『アナハイム・エレクトロニクス』となったのです」
月の『アナハイム・エレクトロニクス』本社にて、かつてエラン・ケレスと呼ばれた少年は同社の社員から説明を受けていた。
「我々の技術の全ては、現『代表』が幼少期に書かれた最高機密文書『黒歴史論文』の後追いであり、その文書に記された技術の再現行為に他なりません。他社に渡っている技術など氷山の一角、意図的に選別している劣化品に過ぎません」
傍から説明されても、貰った資料をタブレットで眺めても、形容し難い文章の連続であり――強化人士4号だった彼の常識が、一つずつ壊されていく事に頭を抱えた。
そして何よりも、彼が眉を顰めたのは――。
「……『GUNDAM』? 『GUND-ARM』ではなく?」
「落ち着いて聞いて下さい。我々『アナハイム・エレクトロニクス』社は、宇宙で一番、パーメット関連の技術に疎い企業なのです。我が社が造る特別なMS『GUNDAM』は、欠陥技術のGUNDフォーマットを搭載した『GUND-ARM』ではありません」
――欠陥技術、と堂々と言われ、思わず顔が引き攣る。
信じ難い事実に何度も目を通しながら「まぁそれでも平均的な技術は有してますがね。他社の成果を定期的に抜き取っていますので」と、『アナハイム』社の社員は胡散臭そうに笑った。……『社長』が『社長』なら、社員も社員、なのだろうか?
「『アナハイム・エレクトロニクス』にとっての『GUNDAM』……『ガンダム』の定義とは?」
「それは現『代表』にしか解らない事ですね。複数の定義があるようですが、まぁ『特別なMS』程度の認識でよろしいかと」
ペイル社にいた頃から解っていたとは言え、実際に真実を突き付けられるとどうして良いか解らなくなる。
まさか、単なる言葉遊びだったと? そんなのを誰が信じようか。
「……『彼』がパイロットとして規格外なのか、『ガンダム』がMSとして規格外なのか?」
「おそらくは両方でしょうね。――仮に、我が社の『ガンダム』にGUNDフォーマットを搭載した場合、あれらの規格外のMSを誰にでも扱えるようになるでしょう。まぁ通常の場合は『データストーム』で即死でしょうけどね」
社員は此方の顔を見て「人体に影響の無い新型GUNDフォーマットが開発されない限りは、うちで取り扱う事は無いですね」と断言する。
更には「ま、うちが開発する事はまず無いですがね」と注釈まで加える。基礎技術が他社と比べて超越しているが故の、後から引き抜けば良いという絶対的余裕だろう。
……その為に、スレッタ・マーキュリーに真っ先に接触したのだろう。
「……『彼』は、本当に『魔女』ではないのか――」
「ええ、良く間違われますから、対外的には敢えて否定はしないようですが」
……まぁ『魔女』じゃなくても、それを超える『何か』であるのは確かだろう。
「さて、貴方に使われた技術は、未公開の、それも公開予定の無い最重要秘匿技術に分類されるもので――基本的に全部社外秘なんですが、取り扱いには注意して下さいね」
言われる前から『喋ったら消される』的な違法技術であるのは察知している。……いや、余りにも先進的過ぎて取り締まる法すら無いのかもしれない。
「――まずは『UG細胞』、『アルティメット・ガンダム細胞』――自己増殖・自己再生・自己進化能力の3大理論を兼ね備えた精神感応物質であり、機械だけでなく生物にさえ入り込み、物質構造を記憶し、破損を修復する作用を持っています。本来は『地球環境再生』を目的としたものであり、散布するだけで汚染を除去、MSのメンテナンスフリーさえ可能とする一種のナノマシンですね」
……説明が、まるで頭に入らない。そんな御伽噺のような未来技術を口頭で説明されても、その、なんだ、困る。
というか、アルティメット・ガンダム細胞……そのネーミングセンスはどうなのかと。何でガンダムの名がついているのだろうか。元々ガンダムに搭載予定の技術だったのだろうか……?
「ですが、強化人士として寿命が尽きかけていた貴方を元の健全な身体に戻せたとしても余命幾許も無く――『UG細胞』を元に再現された『地球外変異性金属体』を更に付与し、強制的に共存状態にする事により、寿命を延ばす試みが行われました」
これまた意味が解らず「……『地球外変異性金属体』?」「詳細は不明です。『代表』の言葉遊びかもしれませんし、ただの真実かもしれませんよ?」と胡散臭く笑われる。
「強化人士として改造され、身体に埋め込まれたGUNDは全除去、貴方の肉体の9割は『UG細胞』と『地球外変異性金属体』に置換されたとお考え下さい。――どれほど寿命が伸びたかは、未知数です。何せこんな秘匿度の高い技術の異種混合など、我々としても初めての経験ですので」
……なるほど、ペイル社が赤子に見えるぐらいの非人道的っぷりである。
今の自分の体に、かつてのようにパーメットの赤い光は生じない。埋め込まれたGUNDが全部摘出されたのは本当の事だろう。
それでいて、身体が軽く、調子も良い。前よりも五感が冴えているとさえ思える。
「――経過は極めて順調です。もしかしたら、貴方は皮肉な事に、GUNDフォーマットの『理想』を体現するかもしれませんね」
「……人類が宇宙に生きる為の、新たな可能性――」
綺麗なだけの御題目であり、何度呪った事か。――呪われた自分が、果たせなかった『理想』とやらを体現している皮肉がおかしかった。
「さて、我々『アナハイム・エレクトロニクス』は慈善企業ではありません。働かざる者食うべからず、とはいつの世も真実です。――貴方のパイロットとしての腕を、我々『アナハイム・エレクトロニクス』は高く買っています」
これまた『彼』のように胡散臭く笑う社員に対し、元強化人士4号、いや、名も無き彼は無表情で、ジト目で睨んだ。
「……『彼』には到底及ばなかったけど?」
「いえいえ、ご謙遜を。貴方には我が社の『テストパイロット』として働いて貰いたいのです。リハビリには丁度いいでしょう。――貴方も現在の身体に早く慣れたいのでは?」
全部お見通しか、と目を瞑り、次の項目に進み――思わず眉間を顰める。
其処に映し出されたMSの資料は、どう見ても――。
「ご紹介しましょう、型式番号『A.S-002』ガンダムファラクトMk-A.E――我々の技術で再現された、全く新しい『GUNDAM』ですとも」