Q.これはガンダムか? A.ガンダムです   作:咲夜泪

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35/『天使』と『黒い鳥』

 

 

 

 ――宇宙に飛翔する『白い巨鳥』はMSを上回る巨体ながら超級の機動性を持って急速旋回し、超長距離から頭部ビーム砲を挨拶代わりに撃ち放つ。

 

「……ッ!?」

 

 信じ難いほどの高出力・高威力をほぼノーチャージで放出し、超速で駆け抜けて宇宙の暗闇を眩く照らす。

 反射的に回避するも、此方の動きを追うように追尾し――照射時間までも異常極まる長さだと即座に判断し、ファラクトの全速力をもって振り切って何とか回避する。

 

「こんなものまで『アナハイム』は造っているのか――!?」

 

 流石の彼も愚痴らずにはいられない。この馬鹿げたビームの乱射を回避しながら、ファラクトのロングバレルビームライフルを連射して応戦する。

 人外そのものの機動性で宇宙の闇を飛翔する『白い巨鳥』は、そのビームに反応すら示さず――着弾、同時にビームが四方八方に拡散し、完全に無傷の『白い巨鳥』が悠々と返礼の高出力ビーム砲を撃ち放ってくる。

 

『――ハシュマルには『ナノラミネートアーマー』が採用されている。詳しい説明は省くが、特に、ビーム兵器に対する絶対的耐性を獲得していると思ってくれ』

 

 そういう大事な情報は事前に教えて欲しかったが、文句を言う余裕も無い。

 多少の出力を上げたところで結果は同じだろう。ファラクトの全武装の9割が通用しないと考えて良い――。

 

『頭部に搭載された高出力ビーム砲は『対人兵器』だが、高威力・高射程・桁外れの照射時間を誇る、それなり以上に厄介な兵装だ。ファラクトMk-A.Eの装甲でも被弾すれば長くはもたんぞ』

「これの、何処が『対人兵器』なんだ……!?」

『――『天使』は基本的に人に対して無慈悲でね、撃たれた時点で終わりの超火力を人相手に躊躇無く放つ。つまりは、これの兵器としての使用用途はそういうものだよ』

 

 ――無人機で尚且つ大量殺戮を目的とした非人道的兵器という最高にとち狂ったコンセプトである事を教えられ、吐き気を催す。

 これを『天使』と評するなど、名付けた者のセンスが逸脱しすぎていて理解出来ない……!

 

『制御中枢ユニットは頭部だ。其処を破壊しない限り、ハシュマルは止まらないぞ。接近出来ても尻尾の超硬ワイヤーブレードがあるから注意ね!』

「簡単に、言ってくれる……!」

 

 あの高出力ビーム砲を掻い潜って頭を潰せとは無理難題を仰る。

 更には超硬ワイヤーブレード――過去に、『彼』が決闘で乗っていた『ガンダム』に搭載されていたオールレンジ攻撃可能の武装である事を思い出し『バルバトスのあれは元々コイツのを移植したモノさ』と有り難い注釈が入る。

 生身の操縦者という制限すら解き放たれた超機動で飛翔する『白い巨鳥』に接近出来たとしても、重MSのディランザを紙屑のように引き裂いたテイルブレードの猛攻が待ち受けている――決闘での最低限の決まりを守っていた『彼』とは違って、この無機質で無慈悲な『白い巨鳥』は容赦なくコクピットを抉りに来る事は容易に予想出来た。

 

(ほぼ打つ手無し。ガンビットもビームである以上、効果を見込めない。ならば――)

 

 

『――『ゼロシステム』を使う前に1つ問おう。過去も未来も奪われ、死の救済さえ剥奪された名も無き少年よ、君は何の為に生きる?』

 

 

 ――唐突に投げられた問いに、返す余裕は無い。

 

 それでも、その問いは無視出来ない。強化人士として全てを剥奪された人形の自分にも、かつて誕生日を祝福してくれた人がいた。そして無くした誕生日を新たにくれた人がいた。その満足感と共に死ねたのならば、どれほど幸福で報われた事か――。

 

『――あのまま死んでいた方が遥かに幸せだった。そんな稀有な満足出来る死に様を、『私』は自らの一存で君から奪った。……恨み言なら、好きなだけ聞くけど?』

 

 この何もかも苦しみしか存在しない宇宙で、死こそが唯一の救い――『彼』の口から、そんな言葉が出るとは思わなかった。

 もっと、こう――感性が徹底的に人間離れしていると思っていた。常に全ての人間を傲岸不遜に嘲笑っていると思っていた。

 

「――やっぱり僕は、『君』の事が大嫌いだよ……! 何もかも解った風に語って、そして最終的に的外れな処が……!」

 

 だから、らしくない事を言い出した『彼』に向かって言ってやる事は一つ。あの『彼』が何に絶望しているのかは知らない。だが、これだけは言っておこう。

 

「一度しか言わない。感謝している。どんな理由だったとしても――スレッタ・マーキュリーにもう一度、出会えるかもしれない機会を与えてくれた事を……!」

 

 『白い巨鳥』の高出力ビーム砲を幾度無く掻い潜り――。

 

「――『ゼロ』よ、僕を導け……!」

 

 かつてのファラクトに搭載されていた『悪魔』のシステム――『ゼロシステム』を起動させる。

 

 ――『ゼロ』が最初に見せたのは、この戦闘の予測結果ではなく、スレッタ・マーキュリーに再び出会えるか、否かの可能性だった。

 

 そもそも、彼女は強化人士4号がペイル社の御曹司であるエラン・ケレスの影武者である事を知らない。だから、彼女が別のエラン・ケレスに出会っても、自分じゃない事に気づかないだろうし――今まで見た事の無い笑顔を、自分以外のエラン・ケレスに見せている。

 正直、これだけで心が折れそうになった。自分でないと気づいて欲しいけれど、顔も声も全て変えられているなんて、普通、想定すらしないだろう。

 

「――そうじゃないだろ、『ゼロ』」

 

 本当に、この『システム』は性格が悪い。一番見たくないものを真っ先に見せつける。

 だからこそ、この『システム』を使う者は『システム』に支配されずに、逆に使ってやる必要がある。

 『ゼロ』が無作為に見せる未来を選別し、自らの意思で未来を切り開く必要が――!

 

 数多の未来、『白い巨鳥』に撃ち落とされる敗北の未来を観覧し続けて――。

 

「――『トランザム』」

 

 このファラクトに搭載されたもう1つのシステム、機体に貯蔵されたGN粒子を全開放して機体性能を限界以上に発揮する『TRANS-AM SYSTEM』を発動させる。

 

 

 ――瞬間、黒色の機体が、真っ赤に発光する。

 

 

 従来のファラクトよりも更に高機動を実現させたファラクトMk-A.Eの機動力が、3倍以上に向上し――ハシュマルが高出力ビーム砲を乱射するも、ファラクトMk-A.Eはジグザグに直角移動を繰り返し、全く捕捉出来ずに全て空振りに終わる。

 

 ――機械には有り得ない困惑が、一切命中しない高出力ビーム砲から発せられる。

 

 何故、当たらない。当たりさえすれば一撃で葬れるのに、かすりもせず、ロックオンから即座に外れる。機械特有の超高速演算処理をもってしてもファラクトの機動に追いつかない。

 ハシュマルのAIは困惑する。困惑するが――敵MSは自身に対して決定打を持ち得ない。ビーム射撃はナノラミネートアーマーによって全部弾かれるので、自身の装甲を引き裂く手段が無い。

 

「――GNファング、『連結』」

 

 ファラクトMk-A.Eの肩部からGNファングが12基射出され、ロングバレルビームライフルを持つ右腕部ではなく、無手の左腕部に集結し、連結――エアリアルのガンビットであるエスカッシャンを参考にした、戦闘状況に合わせて武装機種を変更する連結機能――『多機能且つ長大な複合実体剣』となり、紅い流星が宙を駆ける。

 

『――!』

 

 あれが、自身を殺し得る凶器である事を、即座に看破し――怒り狂うように、恐れ慄くように頭部の高出力ビーム砲を長時間照射し――残像さえ起こす超機動でファラクトが迫り続ける。

 

 荒れ狂うハシュマルの超機動さえ超えて接敵――遂に懐に入る。迎え撃つは、変幻自在に舞う超硬ワイヤーブレード。

 無機質の機械に似合わぬ悲鳴じみた挙動で完全な死角から繰り出された致死の一撃を、ファラクトMk-A.Eは振り向きもせず、まるで未来を見ていたが如く、用済みの長物たるロングバレルビームライフルで切り払い――超硬ワイヤーブレードの制御を失った一瞬で、十分だった。

 

 『多機能且つ長大な複合実体剣』が全速力を維持したままハシュマルの頭部を容易く穿ち貫き、制御中枢ユニットを正確無比に破壊された『天使』は即座に沈黙する。

 

 

『答えは見せて貰った――そして、認めよう、君の力を。今この瞬間から、君はこの宇宙で最初の『黒い鳥(レイヴン)』だ――』

 

 

 

 

 

 

 

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