――照明が消された暗室、部屋の前面に配置された巨大なディスプレイが先の決闘で撃破されたペイル社のMSファラクトの姿が映り、解析結果が表示される。
「――ええ、認めます。ファラクトは『GUND-ARM』です」
一切悪びれもせず、ペイル社のニューゲンCEOは堂々と白状する。
「卑しいな、協定の裏でのうのうと」
「汚い真似はそちらもお得意でしょうに」
ジェターク社のヴィムCEOが非難し、ペイル社のカルCEOが言い返す。
「それで、そちらのご提案とは?」
それは対面にいるヴィムCEOに向けた言葉ではなく――。
「――ペイル社にも、我々の計画に協力して貰いたい」
ジェターク社・ペイル社、そして最後の御三家、グラスレー・ディフェンス・システムズのCEO、サリウス・ゼネリは提案する。
「これは、またとない好機なのだ。奴の――デリングの手を読む為の」
画面に映るファラクトの設計図を睨みながら、サリウス・ゼネリは宣言する。
21年前に『GUND-ARM』を否定しながら、エアリアルを容認したデリングの真意を確かめる為に――。
「ええ、話は解りました。――それで、『1番の問題』についてはどう対処するのです?」
「ああ、この計画を実行する上で『1番の問題』についての言及が無いな?」
ニューゲンCEOは即座に了承するも、1つだけ、最大の問題点をあげる。
ヴィムCEOも、苦汁を舐めたが如く苦々しい顔をしながら、最大の懸念点をあげる。
「――『アナハイム』社がどう動くか、か?」
当然、それはサリウスCEOも考慮しており、この計画を実行する上での最大の問題点が『彼』の存在である。
現ホルダーを擁護する、御三家に唯一匹敵する新興企業。百枚舌の『彼』が率いる変態企業を月の採掘屋風情と嘲笑う者など絶えて久しい。
「間違いなく動くでしょうね、『彼』は『水星の魔女』さんにぞっこんのようですし」
「『あれ』に邪魔されては、いとも容易く――我々の予想を遥かに超える方法で盤面を引っ繰り返されるぞ?」
ただし、完全には『彼』の行動理念を把握出来ていないのが実情だ。ベネリットグループ総裁の座に興味無いかと思えば現ホルダーを青田買いし、したと思ったらホルダーを手放す事を良しとする取引にも応じる。
計画に対する最大の不確定要素に対して「実に説得力ありますねぇ、いいようにあしらわれた人の言う事は」「ふん、貴様等こそ無様なまでの一人勝ちを許したではないか」と、ペイル社とジェターク社はバチバチに視線の火花を散らせて言い合う。
「――『アナハイム・エレクトロニクス』に堂々と動かれてはデリングの動きが見えなくなる。盤上に立たせた時点で此方の思惑が破綻するのならば、最初から盤上に立たせなければ良い」
サリウスCEOの言う事はもっともだが、それが言葉通りに簡単に出来れば苦労などしない。
「……後腐れなく暗殺でもするのか?」
「無理でしょうね、後日同じ方法で報復されてみます? ――それに、あの不世出の頭脳を失うのは、我等ベネリットグループの、ひいては宇宙にとっての大損失なのでは?」
呆れた口調でヴィムCEOが尋ね、ネボラCEOが率直な感想を述べる。
「ふん、言うに事欠いて浅ましいな。――裏でどれほど繋がっているのやら」
「あら、それは我が社以外も、同じ事を言えるのでは?」
表向き反目しながらも裏で手を繋いでいるのは日常茶飯事であり――『アナハイム』社はベネリットグループの殆どの企業と裏で技術提携しているので、除去するという選択肢が不可能の域に達している事に気づいている者は一体何人いるのやら。
「『彼』と直接交渉して『契約』するのが一番確実なのでは?」
「面白い提案だな。いいように賭け金だけ上乗せされ、結局総取りされた間抜けな企業の言う事は格別だな」
「あら、貴方も穴だらけの『契約』を随分と大切にしてましたよねぇ? あんな紙切れ以下の塵屑をさも大事そうに――」
ヴィムCEOが激怒の表情で机を叩き、ペイル社の4人のCEOが一斉に嘲笑う。
そんな仲の悪い御三家同士のやりとりを眺めながら、グラスレー社のCEOサリウスは溜息を吐いた。
「――とれる手段を全て使う。それで『奴』は全て察するだろうが、あの『アナハイム・エレクトロニクス』社とて、我等御三家を同時に敵に回す愚は犯すまい」
――御三家のCEO全員が一斉に集って仲良く密談する。
当然、そんな目立つ行動をすれば『彼』の眼に否応無しで入るし、密談場所に盗聴器を1つや2つ、3・4・――10以上仕込んで会議を盗み聞きする事ぐらい、当然の嗜みだろう。
「――ええ、御三家の方々が敢えて動いてくれるので利用しましょう。ペイル社とシン・セー開発公社のMS開発部門の解体は、我々『アナハイム・エレクトロニクス』に任せて貰えれば、と――」
陰謀の全貌を見抜いているのならば、あとは最小限の労力で最大限の成果をもぎ取るのみである。
デリング総裁への根回しが終わり――自己嫌悪に陥る。今回の陰謀渦巻く魔女裁判で、『彼』はスレッタ・マーキュリーを敢えて擁護しない選択肢を選んだ。
御三家の頑張りで会場まで間に合わない、という事になるだろう。馳せ参じられない理由ぐらい、ちゃんと用意してくれるだろう。……流石に、その程度の妨害工作は出来るだろう。
「許しは請わないよ、スレッタ・マーキュリー。――代わりのMSは、『我が社』が責任を持って用意しますとも」
――スレッタ・マーキュリーの事を真に思えば、歴代宇宙を見返しても最も悍ましい呪われたMSである『エアリアル』を廃棄処分出来る好機は、みすみす見逃せないだろう。
あれがどのような方法で『GUND-ARM』の生命倫理問題をクリアしているのか、現段階では仮説に過ぎないが、エアリアルとファラクトの決闘で『彼』が感じ取った思念は『最低12人』という悍ましい感触である。
……とは言え、この青写真通りに状況が進むとは欠片も思っていない。『指し手(プレイヤー)』は自分達だけでは無いのだから――。
「これで『魔女』の一手を確実に見れるし、万が一、この程度の策謀に対処出来ないなら――」
相手の手札を見る為の一手なのは『彼』にとっても同じ事であり――きっと、あの『魔女』は『彼』すら思い付かない方法で切り抜けてくれる事だろう!
「お手並拝見と洒落込みましょうか、水星の『魔女』さん?」
それすら出来ないなら、当初のプラン通り、『GUND-ARM』の技術体系を再起不能なまでに徹底的に且つ物理的に解体し尽くし、秘密裏に闇に葬る気満々である――。
――この宇宙で最も『GUND-ARM』を必要とせず、『GUND-ARM』に一切の価値を見出していないのは、『アナハイム・エレクトロニクス』社に他ならない。